オオスは天狗を介して妖怪の山の頂上付近にある守矢神社へやって来ていた。
神奈子へ色々文句を言った結果、夕暮れ時になってしまっていた。
神奈子としては何かあっては不味い。無理やりにでも返ろうとするオオスを引き止めた。
オオスは神である神奈子の伝手を使った公的な手続きで来ている。
まず、人間の里で知られたら不味い。オオスは良くも悪くも有名人みたいな存在である。
それが何かあったら守矢神社は妖怪神社とでも言われるかも知れない。
オオスが神奈子の思考を知ったら大爆笑する。
それを言ったら博麗神社なんてオオス以外が何をしても既に妖怪神社である。
守矢神社は妖怪の山の頂上付近にあるが、神奈子が計画し、早苗が実行しているイメージ戦略により妖怪とは別として有り難い神社であるというのが人里の総意である。
博麗神社に分社があるが、博麗神社本社よりも神徳がわかりやすい為に参拝客が多い。
オオスは軒を貸して母屋を取られると思っているが、霊夢にそれを言うつもりはない。
霊夢の性格と性質を理解したオオスとしてはマシになっているので問題ないと思っている。
華扇は色々霊夢に吹き込んでいるのでオオスが変に言うこともない。
神奈子視点では『癲狂櫟林』の存在もある、天狗を疑うわけではないが。
なお、オオスは神奈子の懸念に対してアレコレ主張しているが、神奈子は無視した。
「糞、何故ここまで強情なんだ」
オオスは思わず吐き捨てた。何故か神奈子は引き留めようとしている。
神奈子の態度に違和感を覚えた。自分には足りない何かが推理を阻害しているように感じた。
つまりは自分が空気を読めていない可能性もあるとオオスは認識した。
「建前も本当でしょうが、根本的に違いますよね、何を気にしているので?」
オオスは理屈を並び立ててくるが本当は何なのか神奈子は尋ねた。
ちなみにこのやり取り、早苗には聞こえないように離れていた。
また喧嘩かと思われるのも変だが、帰りたいという姿勢もオオスは早苗には見せていない。
万が一もあるのでお前ん家に居たくない程嫌いとか流石のオオスも気が引けた。
ちなみにこれが霊夢ならばオオスは素でいう。そして、霊夢にぶん殴られるだろう。
諏訪子はこれが喧嘩でもないと察したので仲裁しない。早苗を適当に引き離している。
神奈子の誘導にオオスは乗った。早苗に揉めるところを見せたくないのは理解していた。
早苗が居なければ、不都合がなければお前ん処に居たくないと神奈子にオオスは言っていた。
人里への影響度が高いのと守矢神社がやらかさないか不安で大っぴらに言わないだけである。
「……」
神奈子は沈黙した。ここまでのやり取りで推理できないのはらしくない。
神奈子は眼の前の男には一部心の欠落があると察した。喜怒哀楽ではなくもっと深い物だ。
欠落を補って余りある程の知識もあるだろう。神奈子もオオスと直接の関わりこそが少ない。
だが、他者への情を抱き、その為ならば命をかけられるような人間だと知っている。
でなければ、初対面時に神奈子へ喧嘩を吹っかけはしない。あれはわかりやすい怒りである。
「お前に言わないが。確かに貴方の言う通り他に理由はある」
神奈子は認めた。神奈子はオオスには絶対に言わないことがあった。
つい出ただろう『お前』という言葉に神奈子の私的な感情をオオスは汲み取った。
…このまま帰すと早苗がアレなのだ。早苗は文句を言わないだろうし、よくわかっていない。
神奈子は経験的に察していた。認めたくないので神奈子は知らないふりをしている。
神奈子としてもオオスの能力その他は認めてもその姿勢が気に食わない。常に喧嘩腰である。
神奈子は諏訪子が何か言い出したら止めに入るつもりでいた。
ちなみにオオスは守矢神社へのヘイトは物凄く高い。神奈子の心配は杞憂である。
それはそれで早苗が魅力的ではないというのか殺るぞテメエという感情になる。多分だが一番の原因はお前だとオオスは言う。
「良く聞け。一度しか言わないぞ」
神奈子は偏屈な子どもに対して年月を重ねた者として振る舞うことにした。
「貴方は…」
神奈子はオオスに直接的な言い方はしない。
しかし、第三者が初めてオオスに『それ』を指摘した。
オオスは結局、守矢神社に宿泊させて貰うことにした。
客人としてなので自由にして良いという言葉に甘えて散策していた。
考え事と鍛錬を兼ねているので早苗はついてきてはいない。
そろそろ夕食の準備をしているだろうが、今回は客である。
余り無粋な事をしたくはないのもあるし、多少考え事をしていた。
「……」
オオスは夕暮れの山から見下ろせるようなところに座っていた。
気を込めているとはいえ素手で岩を成形して整えていた。
鍛錬の一環として行ったが、まだ気の練りが甘いとオオスは感じた。
それ以外にも内心の動揺を感じ取っていた。これが実践ならばあってはならない。
紅魔館の美鈴に手合わせをして貰うときもあるが、オオスはまだ一本も取れていない。
オオスが手合わせを願うことがあるので美鈴も鍛錬することが増えていた。
これで美鈴が仕事中寝るのがなければ咲夜は大いに感心していただろう。
「夢か現か」
オオスはあまり時間を取らないように気をつけていた。精神統一のブレを感じていた。
普段ならば天上に近い妖怪の山の山頂で感じ取れる匂いをオオスは感じ取れていた。
…良くも悪くも先程の神奈子の発言はオオスに影響を与えていた。
天界にいる天人はバレずに済んで安堵していた。
守矢神社まで来るとは想定外であり、探知されかねなかった。
他の天人は外界に興味がないので気づくとしたら今神社にいる男くらいである。
これからすることに関して邪魔なので一時的に監禁でもしようかと考えた。
その瞬間、凄まじい殺気が天人を襲い、本人は絶対に認めないが本能で怯んでしまっていた。
オオスは全自動で悪意のある対象に無意識で常に電波を発している。
そのため、勝手にビビっているような天人を把握していない。
オオスに対して悪意を抱く輩は多い。大抵は自主的な磔で晒される。
この程度でビビるようならば問題ないというオオスの経験則もあった。
そして、これから起こりうる天災を無邪気に行動に移すような奴には対処に遅れた。
天人の目的と行動はオオスの探知をギリギリ避けていた。なお、バレていたら即天界へ攻め込まれていた。
天人の運が外界の者達と圧倒的な差があるために今回は成功したが、本当に綱渡りであった。
そんなオオスは気の乱れからこちらを見張る者全てを把握できていないとため息を吐いた。
妖怪の山にいる以上は様々な妖怪等がオオスの行動を見ていると察していた。天人までは知らない。
「心の乱れは良くはないが、そのままなのも勿体ない」
オオスは自身の気の乱れを理解した上で座禅石から飛び降りた。
降りる際に岩の呼吸ともいうべき乱れに合わせるように気を発した。
座禅石は二つに割れた。生半可な妖怪ではとても割れないくらいには硬い。
オオスは自身の気質の乱れを利用した。5メートル以上はある岩が割れた。
オオスは何の変哲もない岩に謝罪した。こういう行為はオオスは余り好まない。
一先ず落ち着いたオオスは早苗達の元へ戻ることにした。
オオスは破壊のコツを掴んだが、これでは実践では使えない。
神奈子の言葉を考えるのもこれと同じであると悟り、一度深く考える時間を作ろうと思った。
見張っていた妖怪達はオオスの毒電波で大概ジャミングされて見られなかった。
勿論、一部の大妖怪は別である。オオスの攻撃とも言える技の本質を見抜けたのは一人しかいなかった。
オオスは自分の宿泊に何故かやたら喜んでいた早苗と会話した。
神奈子がひょっとして早苗が取られるとか考えているのではないかと思った。
親馬鹿にも程があるとオオスは思った。早苗とはおおよそ友達の範囲内である。
そういう色恋に結びつけるのは東西の違いはあれども神話の神らしい。
諏訪子は神奈子が珍しく仕事をしたと思いながらその光景を見つめていた。
とはいえ、諏訪子も察して触れないでいる程度には根深い問題である。
疎い神奈子がこの状態を壊滅させるようなことを別件で仕出かさないか心配でもあった。