異変の翌日。オオスが起床して自宅の玄関を開けると射命丸文がいた。
そして文と目があった。
「あっ…」
文が何かを言う前にオオスは即座に玄関ドアを閉めた。
そして、鍵を掛けようとした。
「酷くないですか!?普通そこは感動の再開で抱きしめ合うとかそんな感じでは!?」
文がオオスに戯言をほざく。
起きてすぐ、帰って来てすぐに文にエンカウント。
それはオオスの中では、RPGをしていたら最初の町の中でラスボスに会うような感覚だ。
だが、オオスは流石にいきなりドア閉めたのは失礼過ぎたなと思い直して玄関を開いた。
「お久しぶりです。射命丸さん。すみません。つい反射的に…」
オオスは素直に文に謝った。条件反射で閉めそうになっただけで悪意はなかったと謝る。
「条件反射で閉められるとかショックなんですけど!」
文は普通にショックなようだ。
射命丸文は可憐と自称するだけあり見た目は美少女だ。
誰も知らない第三者からみるとオオスが悪者だが、こればかりは文の普段の行いが悪い。
「…いや、待って。そもそも何でいるんですか。
帰って来てすぐいたとかストーカーを疑ってしまいましたよ」
改めて考えてみるとしばらくぶりに家に帰って来たら未遂犯が家の前にいたのだ。
オオスは真面目に考えると何それ怖いと思った。
「いや、ネタ巫女が罪のない妖怪を退治してまわって空高く飛んで行ったので。
そろそろ帰って来るころかなぁって…」
文はどうやら霊夢のストーカーだったようだ。ならば良しとオオスは思った。
「記者として鋭い感覚をお持ちのようで。しかし、私との繋がりが皆無では?」
どこまで異変に気が付いているのかによって対応は変わる。
さほどバレていないなら関係者には何も被害なかったのだからセーフと押し切るつもりだ。
全部バレていたらとあの時助けろやと押し切るつもりである。
オオスにかかれば白でも黒でもどちらであろうが同じ結果になる。
「巫女がいなくなる前からいなかったのでひょっとして同じところにいるのかと」
どうやら文は霊夢へのストーキングがバレる前に撤退したようだ。
「…なるほど一理ある」
オオスはそうして言葉を述べた。
「ちょっと待って、余計わかんなくなったんですけど!」
文は混乱している。そんな感じである。
オオスは異変首謀者にあったがテロリストとして盛大に歓迎された。
そして、ネタ巫女に巻き込まれて退治される前に帰って来たと説明した。
真実の中に嘘を入れるのがポイントである。どうだ、訳が分からないだろう。
オオスはこれで文から真実が漏れることはなくなったと確信した。
「これ以上は答える気がないです。回答を拒否します」
十分インタビューに答えたオオスは述べた。
だが、実際はオオスがいない間のことを文から一方的に聞き出していた感じになっていた。
情報屋から情報だけ抜き取る手口は情報消費社会の権化たるゆとり世代の特技である。
少なくともオオスはそう思っている。
「…もうわかりました!明日からまた新聞届けますから全部読んでくださいね!!」
オオスから情報を引き出すことを諦めた文はそう言って飛び去って行った。
今日の新聞をオオスに投げつけて。…嫌に素直であるとオオスは思った。
普段なら天狗の力のゴリ押しでオオスのプライバシーや尊厳を無視するような取材を続行するのだが。
「…言われなくても読むのに」
何だか悪いことをした気持ちにオオスは思った。何も悪いことをしていないはずなのだが。
文々。新聞に目を通すと案の定、春乞いの儀式と称して冬妖怪を執拗に虐めている霊夢の姿が収められた写真があった。
オオスは勿論、即座に保管した。やはり神に仕える巫女というのは野蛮だと確信した。
なお、冬妖怪はレティ・ホワイトロックというらしい。多分、雪女か何かだ。
来年の冬の際には労わってあげるべきかとオオスは思った。
今年の冬は諦めて貰いたい。
オオスは人里へ挨拶に行こうとしていた。
死亡したと思われてもおかしくないくらいの期間家を空けていたからだ。
慧音には取り敢えず異変の首謀者にテロ行為をしてくると伝えていた。
だが、5月5日に霊夢達が来なかった場合に備えていた方のテロ行為は不発に終わった。
『春季光星爆弾』とオオスが名付けたそれは“春”という事象に対して連鎖的に爆発するという代物だった。
オオスは知らないが、妖夢の冥界を守る宣言は実のところ割りと真面目に正しいものだったりする。オオスは約束を守る男なのだ。
その春季光星爆弾の春を昨日風呂で使った菖蒲に全部注いだので今オオスが持っているそれは『春ソード』と化していた。
オオスは春ソードをうろ覚えの剣舞をしながら振り回して人里へ続く道へ春を返していた。
「フハハハハ!見よ!万が一の鬼対策の菖蒲の春ソード!道端の草花があっという間に春となっていくわ!!」
オオスは調子に乗って春ソードを振り回す。
食わず女房という昔話で菖蒲が鬼にとっては毒という昔話を思い出しつつ。
なお、風呂で使う分の菖蒲に春季光星爆弾の春を注いだのでいつまで経っても減る気配がなかった。このままだとオオス家から人里だけ異常に早い春を迎えることになってしまう。
オオスは異変のこともあり大分テンションがおかしくなっていた。
故に、
「ほう、まだ鬼のことを覚えていくれてる奴がいたのかい!嬉しいねぇ!!」
オオスは本物の“鬼”を呼び寄せてしまったことにまだ気が付かなかった。