今更なことだが、オオスは幻想郷に住む善良なる里人と自称する何かである。
これまで天候どころか季節すら変えているようなのが善良なる里人と名乗っている。
更に、霊夢から何かあれば真っ先に疑われるような奴であるのに大概喧嘩を売っている。
季節は梅雨の季節の6月、旧暦では5月の五月雨となっていた。
オオスは梅雨の季節、その雨で見えないようにそのままにしていた。
気候が気質によって左右され始めていると異変の前兆を認識していた。
「十の語九中るも、未だ必ずしも奇と称せず」
オオスは雨の中でふと呟いた。9割の回答が真実であっても人は褒め称えはしない。
オオスは自分の推理が完全な真実ではないと認識している。
それ故に、事件そのものを起こさず悟らせないのがオオスの基本的なやり方である。
オオスは今回、手遅れと認識した。犯人の意図がどうであれ推理を語る時点で面倒なのが確定していた。
まだ始まってすらいない異変の元凶、比那名居天子。
彼女は天運と策略でオオスの眼を掻い潜ってきたが限界であった。
オオスは梅雨という気象によって何が起きているのかを朧げだが理解できていた。
天子にとって最悪なことにオオスは天候を操れる魔法が使用可能であった。
天子にとって幸運なことにオオスは異変の前兆を止めれば大惨事になるとも確信していた。
オオスは地震を意図的に引き起こせること、気候を弄っていることまでは推理できた。
しかし、肝心などこの誰かまではオオスにはわからない。勘で天界が怪しいと推測している。
雲の上に住む天人ならばそれ相応の権能を有するだろう。
この推測はほぼ当たっているが、オオス視点では有り得ない可能性を削いだ結果でしかない。
オオスの知らない未知の攻撃の可能性も捨てきれないし、本気で自然現象かも知れない。
「一語中らざれば、則ち愆尤駢び集まる」
オオスは先程の言葉に続けた。
鈴瑚が何かあったかと気にして尋ねてきた。オオスは考え事をしているだけだと言った。
地上に住む者が動揺しても仕方がない事柄であるので広めない方が良いと判断した。
「愆尤駢び集まる…非難があるかも知れないということでしょうか?」
鈴瑚がオオスの独り言を分析し、尋ねてきた。愆尤とは非難等を意味する言葉である。
オオスは鈴瑚の推測が当たっているので窓の外、五月雨を見て言葉を返すことにした。
「さみだれや大河を前に家二軒」
五月雨が大河となり、家二軒だけ不安だなぁという意味である。
鈴瑚の問に対して当たっていると返答しつつ、他には言えないとも返答していた。
「……わかりました」
鈴瑚はオオスの真意はわからないが、頭の片隅に置くのみにした。
同時に鈴瑚はオオスが無意識に独り言を溢す程度には頼るようになっていると認識した。
良い傾向なので鈴瑚は指摘しない。オオスは人に仕事を丸投げしたりもする。
勿論、その分の責任は自分が取る。そして、その為に肝心な事を秘匿していた。
オオスは精神鍛錬の結果、人に頼れる時は頼るべきという結論に至った。
1カ月以上の鍛錬の末の結論としては当たり前でしかない。前々からそれくらい理解していた。
だが、神奈子とのやり取りは本質的な意味でオオスの性質を改善させていた。
そんなオオスすら話せない理由が理解不能な異変の元凶にあった。どうしても、第三の存在を捨てきれない。
はっきり言ってオオスは自分の推理が外れている方が理解できた。
直接本人と会話すればわかるだろうが、意味不明であった。
オオスの推理が正しい場合、天人がわざわざ幻想郷に介入してきた意図も理由も不明だった。
推理しているオオスですら意味不明だと思っている。
仮に当たっていた場合、馬鹿みたいな動機しか思いつかない。
そして、そんな馬鹿が天人やれるのかというのがオオス以外からも正常な認識だった。
しかし、オオスの考えうる可能性で最後まで残った中で最有力だった。
オオスは匙を投げることはできない。オオスは9割以上の確率で間違いないと推理してしまっていた。
その推理の結果が馬鹿過ぎてオオスは一周して自分自身を疑っている。
ちなみに二番目が萃香が犯人という可能性である。こっちの方が理解できるがそれはないとオオスは判断していた。
気象に関しては萃香の能力で説明できるが、訪れるであろう地震が説明できないので除外している。
そもそも異変が気象だけならオオスは放置する。
部下達の報告や文献からこれからほぼ確実に起き得る地震が最悪だった。
オオスは正解を推理できていたが、それを誤りと疑うのは常識であった。
華扇辺りがオオスの推理を聞けば罰当たりな上に酷い妄想と一蹴される程度には酷い。
幻想郷に異変を引き起こす天人がいるとオオスが言ったところで信じてくれる者はいない。
例えば月の都の神々をオオスは語ったが、関わりの深い稗田阿求すら半信半疑である。
推理が当たっていたとしても天界の天人の仕業だとは誰も信じてくれない。
余計な混乱しか生まないとオオスは断言できた。
感覚の鋭い幽々子と密と疎を操る程度の能力の萃香が動けばオオスは自分の推理を間違いないと判断する。だが、動く気配はない。
というか二人ともまだ気がついていない。何か変くらいには思っている。
流す程度の変化を真面目に推理しているオオスが異質だった。
気がついてももう少し変化があってから動く。具体的には一ヶ月程度先くらい。
ちなみに比那名居天子はオオスが気がついたら邪魔をすると思っている。
そのため、オオスの拉致監禁を企んだ。だが、天子はそれを取り止めた。
天子は気が変わったとしているが、やったら本気でヤバいと直感したからである。
極端な話ではあるが、今回の異変で天子のしたことは何時か来るはずの地震を前倒にしたに過ぎない。
これがオオスの判断を悩ませていた。下手に騒げば混乱を呼ぶ。
客観的に推理しても手口が極めて悪質だった。
今回の事件の犯人からどうも悪意を感じられないオオスは真意を汲み取りかねた。
どうしても推理の前提が前提なだけに騒ぎたいだけの馬鹿と判断できなかった。
神の視点からしてもこれほどまで仕出かしておいて悪意ないのも酷い。気まぐれである。
オオスには不明だが、もしも深い理由があってやっているのならばとも考えてしまう。
「ちょっと散歩してきます」
オオスは鈴瑚に声をかけた。雨が酷いが、オオスは気にしない。
鈴瑚は雨を気にしたが、オオスが止まるわけないのでそのまま見送ることにした。
行き先は冥界の白玉楼らしいが、ふらっととんでもない所へ行くのはいつものことであった。
オオスは白玉楼で妖夢への絵本と幽々子への手土産を持ち、五月雨を気にせずに向かっていた。
とりあえず、オオスは自分の推理を正しいと仮定した。
その場合に備えて軟着陸する方法、はた迷惑な誰かを躾ける方向を考えることにした。
仮に深い理由があっても幻想郷に住むほぼ全ての者にとって迷惑そのものでしかない。
天人だろうが、神だろうがオオスの許容範囲を余裕で越えている時点で糞野郎である。
生きているオオスならばともかく亡霊の幽々子ならば流すだろうと思った。
オオスは少し頭を冷やしたかった。妖夢への用事のついでに適当に愚痴るつもりでいた。
オオスは紫にも相談したいが、もう少し情報の精度を高めてから報告すべきだと判断した。
誰かに聞かれてもアウトである。今の段階では少し博麗神社側に梅雨が弱い程度でしかない。
幻想郷の賢者である八雲紫に相談するには情報が足りなすぎるとオオスは認識しているが、紫はオオスの現段階の推理だけでも幻想郷の危機として受け止める。
オオスからすれば外の世界で情報を扱う者としては推測や仮定が多すぎた。
馬鹿馬鹿しい馬鹿がいるという仮定での相談はオオスとしては冷静になってからしたかった。