オオスは妖夢との死合後、生きていたという理由でボコられて生死を彷徨っていた。
生死の境であるが、生きている。オオスは夢の世界にいた。
「ちょっと!貴方、消えかけてませんか!?」
ドレミー・スイートは夢の世界に来たオオスが死にかけているのに動揺していた。
一体、現で何があったのか。ドレミーの夢手帳もそれは教えてくれなかった。
走馬灯になるレベルならば大体すぐにあの世へ行かこの世に留まるのでドレミーの手帳でも少ししか見られない。
「…」
なお、オオスはドレミーどころではないので一旦、無視している。自身に襲いかかる死の感覚を押さえつけていた。
その原因は痴情のもつれではないが、オオスが妖夢に顔を近づけ過ぎたことである。
妖夢に咄嗟に殴られたからだ。死んだかと思ったオオスが目と鼻の先にいれば誰だって動揺した。
だが、冥界で庭師やっている半身半霊の身である妖夢がそうなるとオオスは予想していなかったので本気で死にかけている。
三途の川が見えたら幽々子がおまけ感覚でオオスを冥界に連れて行くかも知れない。
尸解仙の備えは出来ているが、死者蘇生は摂理に反するので嫌いである。
オオスは何としてでも蘇生を急いでいた。まだ死ねない。もし、死ねばバ解仙扱い不可避である。
同時にオオスは先程の思考を纏めていた。ただの現実逃避である。走馬灯でもあるような気がする。
冥界で妖夢と殺し合いをした。オオスは異変の前兆として有り得る可能性を一つ消去した。
妖夢が霊魂を成仏させてしまう刀、白楼剣を乱用又は紛失した可能性である。
0.2%くらいはあり得るので念の為に確認したが、普通に死合で持ち出していた。
妖夢は二刀流の剣士であるが、オオスとの剣戟では二振り目の白楼剣を使用していない。
妖夢も手を抜いているわけではない。白楼剣を用いない一刀が最適解と判断したからだ。
妖夢は楼観剣を用いて生死流転、薙ぎ払い、斬り上げ、切り下げの三連撃を使用した。
妖夢はオオスは薙ぎ払いに耐えきれないはずと看破していた。
刀が吹き飛べば終いである。それが耐えても斬り上げで飛ばせた。
要はこの技、剣士からすると二撃必殺であった。三連撃に昇華されているのは凄まじい。
全力で斬り上げたその残心から発せられる三撃目の切り下げは最早オーバーキルだ。
妖夢は剣士として間違いなく天才と断言できた。
師である祖父妖忌すら剣士としてならば贔屓目なしに合格点を出す逸材である。
なお、妖夢はそれ以外に関しては怪しい。
妖夢に西行妖を咲かせるなと妖忌は言っていたのだが、孫にきちんと伝わっていない。
薙ぎ払いの初速だけならば幻想郷一早いと自称する射命丸文を超える速度である。
霊夢ですら妖夢の間合いは避ける。オオスは前進して対処したが、正気の沙汰ではない。
妖夢は死狂いとも言うべき前提を覆してくる相手への対応を否が応でも学んでいた。
三連撃の最後、しかも斬り上げを回避した事による本来以上の斬り下ろし。
まともに喰らえば大妖怪だろうが問答無用で真っ二つになる。
それをまともにやり合ったので妖夢は本気でオオスが死んだと思っていた。
生きていたのでホッとする反面、複雑でもあった。
…妖夢の天賦の才という白紙に僅かだが色をつけていた。
他方、オオスは妖夢の即死の一撃を前に自力以上の力を発揮できたと無邪気に喜んでいる。
欲望と資質が人間を進化させるというのがオオスの人間観である。
そして、死を乗り越える度、その才能の限界である壁を越えられるとオオスは考えていた。
その考えで瀕死の幼児から今まで育ってきたオオスは延ばせる才能は鍛え上げていた。
今回、妖夢との死合で壁を一つ破壊できたので良しとしている。
本来は萃香と殺し合った場合を想定していたが、異変でそれどころでない。
良い想定外だとオオスは喜んでいた。
妖夢は斬って知ると言っていたが興味深いとオオスは思った。
幽々子は見ていて面白いのでオオスの明後日の方向の努力に関して特に何も言っていない。
なお、妖夢の師であり祖父の妖忌はオオスの考えているような気狂いではない。
風評被害甚だしい。というか、オオスみたいな気狂いはとうの昔に滅んだと思っていた。
オオスが冥界でしたことは妖夢の白楼剣の有無と冥界の霊魂数の状態だった。
何度か訪れているオオスは平均値がわからないが何時もより少ないかもしれないと感じた。
異変の犯人への漏洩の為に口には出さない。状況証拠として八雲紫に話せる材料の一つにはなった。
「あ、ヤバい死ぬかも。これ」
オオスは夢の世界で半分くらい自分が消えかけているのに気がついた。
走馬灯だったようだとオオスは気がついた。変なところで冷静だった。
「ち、ちょっと貴方、夢の支配者なんですよね?…私と同じ」
ドレミーはガチで生を諦めつつあるオオスに対してツッコんだ。
夢の支配者の権能を使えば仮死状態くらいは出来るのではという純粋な疑問である。
…ドレミーは盛大に動揺していた。夢の管理者としてドレミーの助言はギリギリであった。
「あ、OKですか?ありがとうございます」
オオスはドレミーの助言を緊急避難として認めていたと解釈した。
ドレミーの世界に従う為に縛りをかけていた枷を一時外せば問題ない。
後にドレミーは悪しき前例を作ったと悩むことになる。
とはいえ、オオスが死んだら死んだで何だか嫌なので複雑な感情を抱くことに成る羽目になった。
オオスは夢の権能と同時に『魂の束縛』という魔法を使った。
死に向かおうとする魂を束縛し、生に留めおき蘇生までの時間を稼ぐことに成功した。
本気で死ぬかと思ったオオスは反省した。いつものように斜め上か下かワープしている。
ドレミーに認可されたと解釈したオオスはこれ以降は自動でこの魔法を発動できるようにした。
ついでに魔法を改良して他の人妖に使用できるようにすることにした。永遠亭は遠いので急患が間に合わないことを減らせるだろう。
オオスは死者蘇生こそ摂理に反すると考えているが、死ぬギリギリまでならセーフという倫理観の持ち主だった。
オオスは寛大なドレミーに感謝した。ドレミーは死神等に怒られないかしばらく不安になった。