人里の寺子屋の昼食休みに来たオオスは慧音と久しぶりの再会をした。
「心配したんだぞ!オオス無事で何よりだ!」
そういう慧音は本当に心配したように言う。
…オオスが頭を押さえて蹲っていなければ感動的なものの構図だっただろう。
「本気で痛い!マジで痛い。鉄板でも入っているのか!」
珍しく悪態をついて蹲って転がりまわるオオス。
こっそり二人の逢瀬を覗いていたマセガキ…おませさんは自らの経験を思い出した。
そして、慧音に見つかったらヤバいと散って行った。
「それくらい受け入れろ!全くもう…」
慧音は子どものことに気が付いていないようだ。
オオスは人払いも済んだことだし、本題に入ろうとスクリという勢いで立ち上がる。
「心配かけて本当にすまなかった」
慧音に心から詫びる。オオスの真摯な謝罪を見て慧音は何故か目を逸らした。
「それと異変首謀者へのテロ行為は失敗してしまった…宣言して行ったのに情けない」
オオスはガチでテロを計画していた。霊夢が五月まで来なかったので実現一歩手前だった。
オオスは妖夢に敢えてテロ行為の痕跡を見せていた。それも妖夢の仕事の合間に丁寧である。テロそのものは約束通り5月5日までは絶対しなかった。
この行為は異変は見逃しているので全く問題はない。悪質である。
オオスに春集めの邪魔されまくった妖夢では絶対に春を集めきれずオオスのテロは見事に成就していたことだろう。そういう意味でも霊夢達は冥界を救った英雄である。
「あれは本気で言っていたのか…全く」
オオスのテロ行為のガチさを知らない慧音は呆れたように言う。
内容を知っていたらまた頭突きをしたに違いない。
そして、オオスは教育的指導待ったなしだ。
「だが、引っ掻き回して春を奪い返すことには成功した」
オオスは余計なことを言った。
「え…」
慧音は危ない行為をした愚か者に唖然とした。そして、その後はわかりきっていた。
「痛い。慧音め。まさか二度までも頭突きをするとは…」
オオスは人里に春をばら撒いた。全ては紙芝居のためだ。
人里の皆には霊夢達が異変解決やっている間に侵入した成果とのみ伝えてある。
「紙芝居を春にやれる…当初の目的は果たしたな」
オオスは当初の目論見とは違うが春に紙芝居をやる宣言を守れたことにホッとした。
オオスにとって仕事は遵守しなければならないことの一つだ。
例え相手がレミリアだろうが仕事ならば下僕のように仕えるだろう。
「約束は守らなければならない。嘘を本当はつきたくないのだが…どうもいけない」
オオスは思わずポツリと呟いた。
…それを聞いた何かはどう思ったことだろうか。
オオスは次の目的地に向かっていた。
「子ども向けに元ネタは十五少年漂流記辺りにするか」
目的地まで歩きつつ紙芝居ネタを考える。
白玉楼滞在時は幽々子にバレずに西行妖について調べたり、裏付けとったり実は結構大変だった。オオスは紙芝居のことを考えている時間はあまりなかった。
冬の間に一応考えていたが、時間が経ち過ぎたので別のネタを急遽作りたくなった。
オオスの紙芝居は気まぐれで内容が変わるので予想ができないと評判だ。
それを興行として成り立たせているのはオオスの弁舌の才能によるところが大きい。
人形使いの魔法使いの人形劇と並ぶ人里の大きな娯楽の一つである。
「問題はウォールストン一味の扱いだ。黒人奴隷売買とか伝わらないだろうし。
…人さらいの一味で良いか?」
敢えて口に出して内容を纏める。教訓の一つを入れるのがオオスの方針だ。
その上、子どもも大人も楽しめるとしている。
だから、なるべくわかりやすいように気を付けていた。
そうこうしている内に目的地に着いた。
「さて、ここに来たか…」
オオスは紅魔館前についた。
なお、ここに来る前にチルノ達にも挨拶してきた。
オオスの春ソードを見たチルノが春ソードに対抗して凍らせようとしたので勘弁してくれと頼みこむのが大変だった。
「こんばんは。美鈴さん」
オオスはオオスが来る前まで本名ではなく中国呼びされていた紅魔館の門番に声をかけた。
「ああ、オオスさんお久しぶりです!」
彼女の名前は紅美鈴。
華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色を主体とした衣装だ。
髪は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアー。側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。
オオスが本名で呼び続けたので周りも本名で呼ぶようになったという経緯があるからかオオスに好意的に接してくれる妖怪の一人でもある。
…主であるレミリア以外の周りを固められつつある。レミリアの未来が心配である。
「咲夜さん帰っていますか?」
オオスは美鈴に尋ねる。正直逃げるように帰ったから心配なところがあった。
「ああ、咲夜さんなら先ほどお帰りになりましたよ。あなたをさ…」
美鈴は喋っていたら突然ナイフで刺されて倒れた。
「こんばんは。昨日ぶりね」
咲夜はオオスに夜の挨拶をする。倒れた美鈴は無視だ。
「こんばんは。あの咲夜さん?美鈴さんにナイフ刺さっていませんか」
オオスは挨拶を返しつつも余りの光景に思わず言葉を漏らす。
「大丈夫よ。問題ないわ」
しれっと流す咲夜。
このメイドには一度常識を説いた方が良いかと非常識の塊であるオオスは思った。
「そんなことより貴方が勝手に帰ったからあの後大変だったんだけど」
咲夜はオオスが帰った後のことを話す。そんなこと扱いの美鈴を不憫だとオオスは思った。
「面倒だから帰ったんですけど問題ありましたか?」
取り敢えず美鈴の安否を確認したオオスは咲夜の話を聞くことにした。
雪の下、地べたは可哀想なので立てかけておく。
「問題あるけど、博麗神社には行った方が良いかもしれないわ」
咲夜はオオスにそう言う。気のせいか何となく不機嫌に見える。
「やっぱりそうですか。明日行ってみます」
オオスもどのみち博麗神社には行くべきだと思っていた。
冥界もその内お邪魔するつもりだ。
…妖夢の悪夢はまだ続きそうである。
「あの後大丈夫だったの?」
咲夜はオオスの昨日の蒼白な顔を思い出して言った。
暗に無理して今日来てないか尋ねる。
「ああ、問題ありません。それよりも面白いものを持ってきたんですよ。
レミリアさん達に見せたいものがありまして。…ちょっと必要なものがありますが。
…咲夜さんは花咲かじいさんという話を知っていますか?」
オオスは幻想郷に来てから毎日を楽しんでいた。
紅魔館のバルコニーにレミリア達が集められていた。
これからオオスがショーをするとのことだった。
「私を呼んでおいてつまらないものだったらどうなるかわかっているのかしら?」
レミリアは余程のものでなければオオスを嘲笑する気満々なようだ。
意地の悪い子どものような表情でオオスを見た。
「私が近日中に不審な形で死んだらとある人物がレミリアさんの例のアレをばら撒きます」
オオスはレミリアにそう笑顔で言った。事実である。何がとは言わない。
「例のアレって何!怖いんだけど!」
レミリアは先ほどの傲慢な吸血鬼然とした態度からオオスの発言に恐怖を覚えて叫ぶ。
「レミィ。毎回懲りずに彼を脅すから多分どんどん酷いことになっているわよ」
パチュリーはいい加減懲りない友人のレミリアに辞めるように窘める。
多分、無駄だと思いつつ。
「流石パチュリー。私のことをよくわかっていますね。
レミリアさんの例のアレをばら撒くことに関しては八雲紫さんだろうと私がその気になれば止めることは不可能です」
オオスはそう宣言する。なお、事実である。
「あら、やっぱり知り合いなのね」
オオスが幻想郷の賢者と知り合いとは知らなかったが会っていても不思議ではないとパチュリーは思っていた。なので、驚きは少なかった。
「いやあ、ちょっと脅されましたが好きにして大丈夫とのことなので良かったです」
オオスは紫の幻想郷へようこそという言葉を自己解釈してそう言った。
「ね、ねぇ、パチェ。何で私はこんな危険人物を招いてしまったのかしら?」
レミリアは最初の威勢を忘れてパチュリーに縋るように言う。
「…取り敢えず隙あらば復讐しようとするのを辞めれば彼も辞めてくれるわよ」
パチュリーは同じ答えを返す。どうせ同じ答えが返って来ると思いつつ。
「誇り高き貴族の吸血鬼たる私がたかが人間如きに屈するわけないでしょう!」
レミリアは激昂した。
プライドの塊である彼女にオオスとかいうわけわからない者に譲歩する選択肢はなかった。
「素晴らしい。流石レミリアさんです!それでこそより頑張る意欲が湧くというものです!」
オオスもレミリアの姿勢を尊重してガンガン追い詰めていくことを宣言した。
なお、パチュリーの言うように隙あらば復讐しようとするのを辞めればオオスも辞める。
「…咲夜。人間のことは人間に任せられないかしら。私が出るのは大人気ないというものよね」
レミリアは不遜な態度を崩さず従者に振る。実に苦しい言い訳だった。
「…お嬢様」
咲夜は思わずどうフォローしたら良いかと考えてしまう。
「まぁ、そんなどうでも良いことは置いてちょっと面白いことが出来るようになったんですよ」
オオスは面倒くさいので話を進めることにした。
「どうでも良いですって!」
レミリアがオオスの軽い煽りに反応した。
「レミィ。煽り耐性が無さ過ぎるわ」
パチュリーはレミリアに落ち着くように言う。
「まぁ、見ていてください。これをこうして…」
そう言って先に咲夜にお願いしてパチュリーに貰った銀の鞘に菖蒲を入れた。
鞘には水銀を並々と注ぎ、真鍮でできた蓋と柄で蓋をする。
自身の血でヴールの印と呼ばれるものを銀の鞘に指で描く。
血は吸い込まれてオオスが唱えた何かに反応し、『春の剣』が完成した。
「今から見世物を始めますが、レミリアさんはちょっと危ないので少し離れてください」
オオスはレミリアに言った。
レミリアに菖蒲が効くとは思えないが、吸血“鬼”なので効く可能性があった。
「あんたが危ないって言うと怖いのよ!」
レミリアはオオスが危険物を作ったのかと思わず叫んだ。
「レミィ。大丈夫なように色々工夫していたし、大丈夫よ」
パチュリーはレミリアにそう言って宥めた。
オオスは絶対にレミリアに対し『春の剣』を使わないと魔法の契約書まで書いた。
その際、魔法の契約書では本名を書くべきだとしてパチュリーに自分の本名を明かした。
最も、オオスは知らないがそこまでしなくてもパチュリーは信頼していただろう。
「そうですお嬢様。ここは寛大な姿勢を見せることが大切だと思いますわ」
咲夜もパチュリーとオオスが何かしらの魔法でレミリアを攻撃できないようにしていたのを知っていたのでそう促した。…同時にオオスが何か隠していることも悟ったが。
「…そうね。さあ、やりなさいオオス!」
レミリアは高貴な吸血鬼らしくそれに応じ、傲慢にそして美しく命じた。
オオスはそれに答えるように礼を観客の前でしてから口上を述べ始めた。
「さあさあ、ここに見えますのは季節外れの銀世界。
その季節は異変によって起こされたもの。
今宵その異変は解決され、元に戻るはまさに別世界。
『春季光星』!さあ咲き誇れ!!」
そう言ってオオスは春の剣『春季光星』を天に翳した。
その瞬間、光が紅魔館全体を覆い尽くした。そして、季節が変わり始めた。
冬から春へ。新芽が出て成長して花々を咲かせる。桃色のサクラソウや白、黄、オレンジと並ぶように咲く水仙の花々等々。
オオスが事前に紅魔館に遊びに来るたびにこっそり仕込んでいた春の花々だった。
色が虹のように広がりを見せ、闇夜が照らされて幻想的な風景が出来上がっていく。
「まぁ…」「あら…」
咲夜とパチュリーは思わず声を出す。
時を高速で進めたかのように冬から春へと季節が移り行く。
死と再生。時の移ろいを極短時間で感じさせる生命の神秘、奇跡であった。
「ふふふ…良くやったわオオス!褒めてあげましょう!!」
この幻想的な風景を見たレミリアは満足気にオオスを褒めたたえた。
レミリアは太陽がなくとも夜を昼に変えたこの風景は、吸血鬼が太陽を克服したような気分にさせてくれる。
そして、それこそがオオスの真の意図でもあった。
「お褒めにあずかり恐悦至極。お楽しみ頂けて芸を営む者としてはこれ以上ない喜びです」
オオスはそう言って真摯に首を垂れた。
それはまるで従者が主人を前にするようであり、この光景に匹敵する吸血鬼すら魅了する程の美しい礼であった。