嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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私と同じくらい善良な方

 

オオスは会話において古典文学を引用する事が多いが、別に文系というわけではない。

 

相手によって変えているだけであり、また幻想郷は古風な文化と言霊の力の比重が大きい。

 

 

外の世界では科学の発展により従来の不可思議な現象を説明できるようになってしまった。

 

それにより現象を司る妖怪の力が弱体化した。最悪存在すら消えてしまう。

 

元々妖怪達の多かった幻想郷という秘境に博麗大結界を張り巡らせる事で幻想を守っている。

 

畏れや信仰により存在を維持している妖怪や神は外の世界では著しく減退している。

 

だが、だからとって科学や論理的な思考が正しいわけではないとオオスは理解している。

 

ただ辻褄合わせの稚拙な論理、思い込みの力が世界を席巻しただけである。

 

畏れや信仰といったものは依然として存在しているし、別の形に置換されているだけだ。

 

それ故に、幻想郷という異界であろうとも消えゆく存在は一定数いる。

 

例えば山彦は自然現象として認知されつつあり、いずれは消滅してしまうかもしれない。

 

 

妖魔本に記されている妖怪達、鈴奈庵で小鈴が復活させかけた煙々羅もそうである。

 

妖魔本には現在の幻想郷にいない妖怪が書かれていることが多い。

 

消滅寸前の妖怪達の足跡であり、最後の希望みたいなのが妖魔本である。

 

妖魔本に記載があれば『いた』として一先ずは存在は保たれる。

 

復活の機会があれば何が何でも必死になる。だからこそオオスは小鈴にキレた。

 

煙々羅からすれば奇跡が起こったのだ。幻想郷で畏れを確保するために必死になる。

 

何もさせないで封じたのは正直なんだかすまない気持ちがオオスにはあった。

 

もっとも、煙々羅は大火事をやらかす可能性が高いのでまた出くわしても即封印する。

 

 

現在、オオスは紅魔館の大図書館で適当にお茶をしていた。

 

だが、パチュリーはオオスの相手よりも何かを調べている。オオスはなんとなく察した。

 

大魔法使いと称賛すべきと思うが、多分微妙に推理を違えている。

 

それほど濃い霧にもなっていない。パチュリーが行動するにしてもまだ先と計算した。

 

 

「貴方は感覚派なのかしら?」

パチュリーがオオスに尋ねていた。オオスの能力を推測するに既に答えにたどり着いていそうである。

 

 

「魔法を使う者は気質の変化に敏感なの。貴方は正確には魔法使いではないかもしれないけれど」

パチュリーはオオスにそう言って揺さぶりをかけた。

 

オオスは既に異変の気配は悟っているとしてどこまで知っているのかという感じだ。

 

パチュリー的には危ない事はしないで欲しいのだが、オオスに言っても無駄だと知っていた。

 

 

「感覚派というには理屈を考えています。基本的には」

オオスはパチュリーの問にそう返した。下手にもうやっちゃいましたとも言えない。

 

危険というわけではないのでセーフとオオスはしらばっくれることにした。なお、アウトである。

 

 

「気質が人よりわかりにくいわね。……本来のとはだいぶ違いそうだわ」

パチュリーはオオスのわざとらしい言葉にそう返した。

 

 

パチュリーはガチガチの理論派であり、知識による仮定に基づいてから行動する。

 

故に魔理沙のように無策で行くようなことはしない。

 

オオスは中間であるのは納得できるが、滅茶苦茶であり過程や結論をすっ飛ばしているとパチュリーは時折思う。

 

パチュリーは動かない大図書館という異名が伊達ではないくらいには動かない。

 

 

「名は体を現すと言いますが、生まれ持った気質は一つであり不変です」

オオスはパチュリーが知っているだろう理を説いた。

 

例外として気質を変化できるのは神霊の類がある。神話を創造して変化する。

 

だが、神霊でなくとも出来なくはない。例えば幽々子である。

 

自身の気質を操り季節外れの雪にしていた。異変がある程度収まるまでやっていそうである。

 

 

「こういうと失礼ですが、私と同じ事は本の知識だけでは無理だと思います」

オオスは神霊ではないのでパチュリーに正直に話した。神霊になれれば気質が変わるとパチュリーは知っていそうなのでそうではないと説明している。

 

 

「……魔法の力はいわば科学そのものであるし、それ以上とも言えるのだけど」

パチュリーはオオスの意見にムッとした。パチュリーの大図書館は外の科学論文の類すら収容されていくようになっている。

 

とはいえ、幻想郷に来るくらいには古い書籍である。その為、月面戦争前には香霖堂等で宇宙に関する書籍を咲夜に探させた。

 

香霖堂は無縁塚から転がってくる幻想入りしていない最新の書籍が紛れていることもある。

 

あそこの時間軸は滅茶苦茶なので未来の物品も有り得るとパチュリーは推測している。

 

 

「その通りだと思いますが、前に小鬼が現れた時にはこの図書館にも書籍の類はなかったでしょう?」

オオスはパチュリーの意見に同意した。魔法とは過去の技術であると同時に最先端でもある。

 

現代科学では不可能な事も出来る。ただ少しばかり方向性の違うだけである。

 

そうした性質の大図書館は伊吹萃香が現れる前には鬼に関する文献がなかった。

 

伊吹萃香が地上に鬼として再び現れてから多少なりとも文献が出現していた。

 

オオスにはとてもじゃないが真似できない。紅魔館のパチュリーが管理する図書館は正しい意味で魔法図書館である。

 

 

「貴方はここにいるのにね」

パチュリーはオオスは幻想郷にいるのに図書館に一切出てこない事を思い出して呟いた。

 

幻想郷に来ている以上は文章の一つくらいありそうものだが見当たらない。

 

そういうケースがないわけではないが不可解でもあった。

 

 

「私ってどうなっているんでしょうね、外で」

オオスはパチュリーに言われて気になった。ちょっと話してみることにした。

 

 

「いや、何か都市伝説になっているようですけど現役みたいなんですよね」

オオスは自分が幻想郷にいるのに早苗に言われたことを思い出しながら言った。

 

何がどうなったらそうなるのか、アーティファクトやミームの類は押し付けてきたはずだが。

 

 

「…外で、いや、これ言って怒らないでくれる?」

パチュリーはオオスの不思議そうな様子に一瞬で察した。

 

この男、外の世界で勿体ない精神で自分の道具を善意でバラ撒いたのだと確信した。

 

現役で使われているならばそれは来ないはずである。パチュリーは納得した。

 

 

「怒らないでいます。でも、言いたくないなら結構ですよ」

オオスは怒らないと約束した。だが、なんだか言いにくそうなので言わなくても良い。

 

オオスも隠し事をしている身の上である。あまり自分だけ求めるのもおかしいと思った。

 

 

「……辞めておくわ。小悪魔紅茶のおかわりを頂戴」

パチュリーは余計なことを言わない選択をした。

 

オオスが外で自分の所有物として取り上げるのが目に浮かんだ。

 

都市伝説になるくらいには乱用されていると知ったらオオスは間違いなく怒る。

 

そうしたらどうなるかパチュリーにはわからない。

 

外の世界に混乱を撒き散らしたくないとオオスは思っているだろう。

 

下手に指摘するよりは黙っていた方が良いと結論づけた。

 

どういう経緯であれそのうち気がつく。その時、パチュリーが黙っている事を思い出して軽率な行動は控えるだろう。

 

 

そうすれば、オオスの気が付かないうちにこの図書館に少しずつ情報が入ってくるだろう。

 

パチュリーはオオスの足りない客観視と幻想郷住民という意識の高さの隙をついた。

 

パチュリーは本で笑みを隠しつつ、平然を装っていた。

 

 

「…わかりました」

オオスは一瞬寒気がしたが、パチュリーは大半が善意で言っているのだと悟ったので引き下がった。

 

なお、パチュリーの考えているようにオオスは外に出て所有物を回収したりはしない。

 

自分から渡した道具なので引き下がる。ただ、乱用して都市伝説にしているんじゃないと怒りはする。

 

都市伝説自体は早苗の反応的にわざと広げている節もある。外は外で大変なのだろうと思っている。

 

幻想郷にいるオオスからしたら大した問題でもない。勝手に肖像権を使われてキレている。

 

 

「そのうち誰かしら外来人が来たら少し聞いてみようかと思います」

オオスはパチュリーのティーカップに小悪魔が紅茶を注いでいるのを見ながら言った。

 

小悪魔は前に渡したドロマイトがオオスにギリギリ見えるように所持していた。

 

オオスは小悪魔が未だに所持していたことは兎も角、パチュリーに気が付かれていないことに少し驚いた。

 

 

「まぁ、大体見つける前に亡くなってしまうか外に帰還するので望み薄ですが」

オオスは小悪魔のサインに無言で返事をしつつ、パチュリーへそう言った。

 

言っては悪いが外来人の大半は碌でもない。オオスはあまり同情しない程度には。

 

博麗神社からの帰還が主であり幻想郷に残る者は少ない。どうも現代日本人には辛いらしい。

 

 

改心し幻想郷に定住を決め、サッカー等を子ども達に教える者もいる。悪い人間だけでもない。

 

だが、余計な思想を吹き込まないかオオスが見張っているのは外来人又はその子孫だったりする。

 

オオスが来る前までは害悪として他の妖怪勢力や八雲紫が始末していたとオオスは推測している。

 

人間の畏れは貴重な資源みたいな物ではあるが余りにも酷い場合である。

 

オオスがそれを畏れに変換しているので幻想郷全体の利益になっていた。

 

オオスが好き勝手やっても大抵見逃されるのはそういうところも大きかった。

 

本来仕方がなく排除する者を利益に還元しているのだから放置するに限る。

 

なお当然だが、その外来人達が一番畏れているのはオオスである。

 

 

「そうね。……貴方、自分と同じような人間が来るとか思ってないわよね?」

パチュリーはオオスが自分のことを本気で善良なる里人と認識しているので思わずツッコんだ。

 

外でもあまり人間に興味関心を抱かなかったパチュリーですらオオスのような人間が他にいてたまるかと思っている。

 

 

レミリアは稀に想像して恐怖する異常事態である。パチュリーは有り得ないから落ち着くように言っていた。

 

 

だが、

「この間、私のことは知りませんでしたが、私と同じくらい善良な方が来ましたよ」

オオスは岡崎夢美を思い出して言った。オオスから見て多少マッドなだけで善良な外来人である。

 

平行世界の人間なので微妙に違うかもしれないが、オオス的には良き友人として歓迎している。

 

 

「……咲夜!」

パチュリーはオオスの言葉に一瞬思考が空白になる。何とか耐えて咲夜を呼んだ。

 

なお、幻想郷一般では岡崎夢美は外来人というよりも変わった魔法使いとして認知されている。情報に微妙に齟齬が発生していた。

 

 

故に、一応は会ったことのある咲夜もそのような外来人は知らないと答えることになる。オオスは個人情報なので喋らない。

 

…紅魔館の当主は事の詳細が判明するまでガチで恐怖し、寝不足になった。

 

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