慧音に言われて紙芝居を臨時休業したオオスは天界にやってきていた。
天界、有頂天では伊吹萃香が酒盛りをしていた。
聞けば天界の土地を天子から強奪したらしい。
それは小気味よいとオオスは萃香の行為を称賛した。
とはいえ、オオスがやりたいことを先にやられた形でもある。
「私、休暇なので一緒に飲みませんか?酒の肴はありますよ」
オオスは天界を散策した折に見つけた桃を食しながら言った。
美味だが、甘ったるくてあまり酒に合わないだろう。天界の仙桃と月の都では地味に違う。
天界は桃しかないのかという程に食事の種類がないが、月の都ではそれなりに料理があった。
焙煎した麦芽が原料であるスタウトを持ってきていたオオスは飲みながら桃を食していた。
「……良いなそれ、私にも寄越せ」
萃香は肴も気になりはするが、桃ばかりで口が甘かった。酒に興味がわいた。
オオスからを酒瓶を奪い取り、そのまま残りを飲んだ。苦味の結構濃い酒だが、口直しには良い酒だった。
「言わんでも渡したというのに野蛮な…」
オオスは萃香の蛮行に苦言を呈した。新しい酒瓶を出して空になった自分のカップに注いだ。
オオスは体の強化の為に月の都から仙桃を賭け事で巻き上げていた。
半年以上毎日食べ続けているが飽きる。その為、試行錯誤で調理して食べていた。
また桃となると面倒だが、天界の桃はまた違う。飽きるまではスタウトと合わせて飲むことにした。
「ああ後、肴があるんならおくれよ。桃ばかりで飽きるんだよここ」
萃香はオオスが持ってきた黒い酒で飲むと悟り、酒の肴を要求した。
甘ったるい桃に合う酒の存在を知り、機嫌が良い。
だが、別な肴があるならそれはそれで欲しかった。
「良いですけど、この土地しばらく私も借りれません?アレから巻き上げるのは面倒だし」
オオスはパチュリーと戦闘している天子のいる方角を指し示して言った。
パチュリーが押しているように見えるが天子が手を抜いているように感じた。
オオスは関わりたくないタイプである。比那名居天子はマゾヒストなのだろう。
「私が戦ってもアレから得られるものはありません。子どもの遊びに付き合っても、クソガキに構う予定はない」
オオスは天子の戦いを見ながらそう評した。強いが傲慢不遜であり、純心である。
それでいて迷惑ばかりかけまくるのでオオスには理解不能な存在である。
オオス的には殺し合いを楽しむ方がまだわかる。殺し合いに際しての痛みは代償みたいなものだ。負けるのも戦略としてならば理解できる。
パチュリーは天子を犯人とは考えていないようであり、路傍の石みたいに扱っている。
パチュリーは意図していないが、ああいう感じで相手にするのが一番正しい。
オオスは色々知ってしまったので出来ない戦い方だ。
「ゆるぐともよもやぬけじのかなめいし、かしまの神のあらんかぎりは」
オオスは比那名居天子の要石を使う術を見て思わず口ずさむ。
地震を止める本物の要石は外でも形は違えども見たことがあった。
だからこそわかるが、要石を自らの手足のように使う天子は間違いなく比類なき天才である。
「……それより酒の肴は?」
萃香はオオスが色々考えているのは察していたが、酒の肴を早く寄越せとせっついた。
「はいはい」
オオスは柄にもないことを考え、言ってしまったので萃香の言葉に従うことにした。
約束はしていないとかぬかすだろうが、それはその時考える。
塩茹でした枝豆や干した貝柱やスルメ等の定番の物を出した。
「夏といえばこれだが、もっとこうないのか」
萃香は塩茹でした枝豆を見て、何か他にないのかと言った。
それはそれとして茹でたての枝豆は普段とは違うご馳走に見えた。
「下手な物よりもそういうものの方が美味しく感じるものですよ」
オオスは天界で桃ばかり食していた萃香に対してそう言い切った。
酒に合わないという理由があっても美味な桃である。
天人でもない地上の者からすれば平凡な物が恋しくなるものだ。
オオスはしばらく天界に滞在していたであろう萃香に合わせた物を出していた。
スタウトは想定外に持っていかれたので別枠である。
「まぁ、それもそうか」
萃香はオオスの言葉に納得した。一理あるし、嘘はついていない。
そして、しばらくぶりに口にした桃以外のもの。季節の枝豆は弾力があり、熱さも気にならない程美味かった。
酒の肴としてパチュリーと天子の戦いを見ながらツマミで酒を飲んでいた。
オオスは無駄に耐久力が高いと天子を評価し、萃香は無駄に硬いと実際戦った感想を述べた。
萃香はついでに別なことも考えていた。目の前のツマミは大体乾物だ。
ある意味いつでも手に入る。オオスの持ってきた物は質は良いし文句はない。
実際、萃香も天界に何もないので乾物でも持ってくれば良かったと思っていた。
だが、一つだけ別に用意されたものが気になった。茹でたての枝豆だ。
オオスは茹でている暇等なかったはずである。
萃香はオオスが個人的な空間を持っていると把握していた。…中に誰がいるのか気になった。
「それに…」
オオスは萃香との雑談で言葉を続けようとした。
だが、パチュリーが天子に勝った。そして段々こちらに向かってきているとオオスは察した。
「ちょっと失礼します。今、顔を合わせると面倒になりそうだ」
オオスは萃香に軽く謝罪し、一時別の所に行くと言った。
顔を合わせるのは面倒になりかねない。オオスは天子はどうでも良い。
しかし、推理を微妙に間違えているであろうパチュリーに恥をかかせたくなかった。
パチュリーならば後で気づく、うまいこと霊夢を焚き付けるように動くはずだとオオスは確信していた。
オオスはパチュリーが帰るまでの間、適当に時間を潰すことにした。
富士山より高い本来の八ヶ岳、妖怪の山が下にあるのでブラブラするのも良いかもしれない。
「……酒の肴に舞でも見せれば良いものを」
萃香はオオスの忙しない様子にそう言った。見てくれだけは良いのだから舞の一つでもしろと鬼が言う。
そして、いつものように酒を飲んだ。残りの枝豆を食して、酒で流し込んだ。
「っぱぁ…やっぱりこれだわ」
萃香は天界に来て、地上の味を思い出したところで新しい客人を迎えることにした。
鬼にとって酒と喧嘩は華である。今の萃香はそれが思い違いでも暴れられるのは大歓迎だった。
相手は萃香を想定して準備してきている。結果がどうあれ血肉沸き立つ喧嘩になる。
前回とは違い鬼の対策も考えてきているだろう。
萃香は引きこもりの魔法使いを堂々たる振る舞いでもって待っていた。