迷いの竹林の奥にある永遠亭は最近になり姿を見せた幻想郷勢力の一角である。
夜が明けない異変、永夜異変以後は竹林に迷い込んだ里人や妖怪の一部が来る事もある。
迷いの竹林は天然の迷宮に等しく一般に開かれた場所でもないので極めて稀であった。
それまでの過去、1300年という隠された歴史の中で訪れた人数と比べれば多いのかもしれない。
そして、本来は無くても有っても同じなはず一滴。
……よく考えれば輝夜が異性を連れて来た事を警戒すべきだった。
八意××は賢者失格の気づきを今更得ていた。……その一滴が海を汚染するような劇物過ぎた。
八意永琳は現在、永遠亭の診察室にて自宅のペットたる鈴仙を診察していた。
ついうっかり殺っちまったとかぬかされた時は本気でキレそうになった。
オオスは永琳へ感情を動かした方が健康に良いという戯言を言ってきた。
永琳はオオスの脳天に拳を振り下ろした。いい加減流石に一発お見舞いしてやりたかった。
「はぁ……全く、首輪でもつけた方が良いんじゃないかしら?」
永琳は仕出かした野郎、オオスが永琳の感情の置き場を誘導している事に気が付いていた。
誘導されていると気が付いても落としどころとして最適なので乗っていた。
永琳はオオスが変な勢力を作った可能性が高いと知っていた。
そして『何処か』のオオスが『永遠亭』の鈴仙へ不埒な行為を働いた。
オオスの所属する勢力と永遠亭の事情を考え、諍いを最小限にする為に個人的なやらかしに落ち着かせたと看破した。何をしたのかまでは流石にわからなかった。
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「軟口蓋が強張っているわね。玉兎がこうなるのって中々ないのだけど」
永琳は一応オオスが気にしているであろう鈴仙の状態を説明した。パニック発作で倒れたのが一番近い。
鈴仙が自傷行為で目でも抉られていれば流石に大事だが。……オオスならやれそうだと永琳は一瞬浮かんだがすぐに消した。
永琳からすればそれほどの事をしたのかと思えばやはりそうでもなかった。
回復待ちではあるが永琳視点で見ればオオスが鈴仙を強く脅した程度に見えなくもない。
「……いや、ちょっと昔の癖でつい」
オオスはほっとしたのと同時に説明になっていない説明をした。
オオスは目を抉れば落ち着く人もいるし永遠亭に行けば治るからやってみたらと暗に鈴仙に提案していた。
親切心である。今思うと少しばかり常識的ではない事を言ったなと反省していた。ぶん殴って矯正すべきである。
「慌てていた割にうちの姫様に気取られないように入り込む。……警備体制を再検討する必要があるわ」
永琳はオオスがまるで自宅かのように輝夜の現在地から逆算して忍び込んだと気が付いていた。
当たり前のようにてゐがいないが永琳の推測ではオオスの件とは関係ない。
ただ単に面倒だから抜け出しただけであろう。怪しいので聞き取りしなければならないが。
「それがよろしいかと。永遠亭は中立。幻想郷の異変も地上の民がどうにかすべきというスタンスでしょう」
オオスは勢力としてではなく個人的な事件であると強調した。癲狂櫟林のこそ出さないし、永琳がそこまで嗅ぎつけたかはオオス視点では推理しようがなかった。
「そうね。ウドンゲは誰かさんのお陰で境界があいまいになっているのだけれども」
永琳は自身の推理が正しいと認識し、それとは関係なくオオスを煽った。
鈴仙は地上に馴染み過ぎた。おそらく月のウサギではなくなるだろう。
そうなると永遠亭のスタンスと鈴仙はどう向き合うのか。永琳は永遠亭のペットを気にかけていた。
つまるところ暗に色恋しているのかと下世話な事を聞いていたのだが、永琳も流石に言うべきでなかったと後悔していた。
だが、
「責めないであげてくださいね?今回の件で警備の隙は一つ無くなったわけですし」
オオスは永琳の含みのある政治的な言葉通りに解釈していた。
永琳の下世話な勘ぐりに何も気が付いていなかった。極めて純真過ぎた。
「……貴方、そういう機微に敏そうで疎いのどうにかした方が良いわ」
永琳は自分で言っておいてこれは酷いと思わず指摘した。
いつか誰かに嵌められそうである。永琳が知らない所であればオオスのそれも教育だと輝夜に体験させただろう。
だが永琳は気が付いてしまった。……これで誰かに篭絡されても申し訳なさが勝つ。
「……学ぶべきだと思います?」
オオスは自身の落ち度を察して聞き返した。自身が何等かを欠落しているという自覚はあった。
恋愛方面だろうかと悩んだが、鈴仙は自分の事嫌いだし無いんじゃないのと楽観視していた。
厄介な事にこの男、他人の色恋を察する能力はある程度あった。
つまるところ、根本的に客観視に欠けていた。ある意味で一番碌でもないタイプの人間だった。
「……今のは聞かなかった事にして頂戴な。これでチャラよ」
永琳はオオスの情操教育に関して匙を投げた。輝夜は自分で頑張れ押せばいける。
未来の自分の悲鳴を無視した永琳は目の前の鈴仙の回復を急がせる事にした。
「後遺症が残らないか検証したかったのよね」
永琳はいつものノリでマッドの片鱗を見せていた。
オオスは分野は違くとも研究者とはかくあるべきだと感動していた。
「ダイ〇ョーブ博士みたいな事言い出しましたね」
オオスは永遠亭の文化を尊重する姿勢を見せていた。
多文化主義者とはかくあるべきと自認していた。そんな多文化は今すぐにでも捨てちまえ。
こうして鈴仙はちょっと痛い注射を打たれて目覚める事になる。
鈴仙はオオスへの恐怖と変な感情が激痛と師の理不尽により中和された。
鈴仙の状態から最適な未知の手段を実行するのはまさに名医だとオオスは感心した。
オオス視点だと優れた医者の判断だが意図してない気まぐれの偶々であった。