天高くある有頂天、天界における最上位に近い階層。
天界、そこに立ち入れるのは気高き天人か高潔な魂、仕える天女のみ。
その原則から外れるようにここ数日は往来があった。
鬼が巣食い騒ぎ立て宴会を催した。それのみならず天界に無い酒や肴を餌に天人たちを堕落に誘う喪服の悪魔がいた。
近隣の天界を管理していた比那名居家当主が呼び出されることになるがそれはまだ先の話だ。
今日もまた稀人が天界にやってきた。紅白の巫女は最上位階の有頂天まで登っていく。
幻想郷の異変の犯人を追って天高く真っすぐに。
「それにしても高いわ。もう少し低くても良いのにね」
有頂天に到着した巫女博麗霊夢は埃を払う仕草をしつつ、愚痴を吐く。
天界は天人の住処など人の往来がなければ塵一つない空間である。
俗人である身の上故の錯覚かと異変の首謀者は苦笑した。
「天にして大地を制し、地にして要を除き」
天子は霊夢の前に現れる。比那名居家とは要石を操り地鎮により取り上げられた一族だ。
その口上としてふさわしき振る舞いを心掛けていた。
「人の緋色の心を映し出せ」
天子はそう締めくくる。緋想の剣で斬ることで人の気質を天気として映し出す。
天界の秘宝は天人にしか所有を許されないし、使う事もできない。天子は端的にトリックを説明していた。
伝わらなくとも自分の誇りを相手に示す上位者の振る舞いは透き通った美しさまで感じられた。
……なんと傲慢なのだろう。とある男はそう感じた。
「さてと、こいつね。地震の責任者は。あと、天気の」
霊夢はさっさと終わらせようと天子を確認して言った。
博麗神社の倒壊は腹が立つがここまで来るのに少し疲れていた。霊夢はさっさと済ませてしまいたかった。
「貴方が異変解決の専門家ね。……博麗の巫女、待っていたわ」
天子は長い工作の達成に感慨深げに頷いていた。故に霊夢の冷たい反応に気が付いていない。
「なにが待っていたよ。迷惑な奴ね」
霊夢は天子の満足そうな態度にイラっと来て言った。
「博麗神社の巫女は異変解決ごっこの主役なのでしょう?」
天子は霊夢へ『ごっこ』遊びでピリピリするなと宥めすかす。
霊夢はあの男が苛つくのも今なら少し分かると思った。天子の物言いは悪意がなく純粋無垢の上位者の傲慢さがあった。
「私は天界に住む比那名居の人間。毎日、歌、歌、酒、踊り、歌の繰り返しよ。
貴方達と違って天界の生活はほんとうにのんびりしているの」
天子は霊夢の反応を気にせずに自らを語る。本当に同じような生活を繰り返していた。
……あれは生きているというのだろうか天子は常々感じていた。
「……羨ましいわ。それは自慢かしら?」
霊夢は日向ぼっこしていれば良い生活を聞いて羨ましく思った。
そんな毎日ならば糞面倒な奴もその辺で大人しくしてくれるのではなかろうか。
……いや無理かと霊夢は思った。異変解決まで考えない様にしていたが、異変のせいか霊夢の脳内にあの男がいた。
「自慢ではないわ。……私は退屈なのよ、貴方が妖怪相手にあちこちで遊んでいるのを見ていたわ」
天子は霊夢がどうもやる気のないように見て取った。
何故かと考えるが自分が異変を起こした動機まで説明しようと最後まで言い切ることにした。
「遊んでない!……はぁ、もう全く」
霊夢はごっこ遊びだのなんだの好き勝手言う天子に苛立ち思わず叫んだ。……呆れてため息が出た。
「……それを見て思ったのよ。私も異変解決ごっこをしたいなぁって。だから起こしちゃったのよ、異変そのものを」
天子は霊夢のため息の理由が気にはなった。天子は霊夢の態度へ追及するのを何故か躊躇われた。
「そのおかげでうちの神社は倒壊したのだけど?」
霊夢は苛立ちを隠さず、だが声を荒げずに天子に指摘した。
「落ち着いているわね。怒鳴り散らすのかと思っていたのだけど」
天子は予感を感じたが聞かないのも気になり、聞いてしまった。
「……アンタ、アイツの二番煎じなのよ」
霊夢は天子へ投げやりに応えた。霊夢からすればこれでしかない。
「……はぁ?」
比那名居天子は思わず声に出していた。今、なんと言ったのだろうか。
天子は幻想郷を事実上人質にとっていた。
……それなのに二番煎じ?天気も地震も天子の思うままだった。
「だってそうでしょう?……ああ、そっか知らないのか。貴方は私をいつも見ているらしいけど見たのはほんの最近なのね」
霊夢は自分を空から見ていたのなら二番煎じの意味もわかると思っていた。
しかしよく考えるとオオスが行った所業は月である。だからかもしれないと思ったが訂正するのも面倒だった。
「……なるほど、天気の事を言うのね。良いかしら?私のこの緋想の剣は人の気質を丸裸にする剣なの」
天子は霊夢が博麗神社の倒壊からここまで比較的まっすぐ天子の下まで来ていたのを見ていた。
天子は、霊夢が途中までオオスを異変の首謀者と勘違いしていたのかと認識した。
訂正の為に、そもそも異変前の霊夢が勘違いしないか不安だったのもあり、天子は霊夢へ異変の仕組みを説明することにした。
「これで、緋色の霧を集め、集まった天の気が大地を揺るがすの。……私の足下にある要石を動かし、幻想郷全域の大地を揺るがすでしょう」
天子は改めて異変の概要の説明を終えた。幻想郷を人質にとれるのだと暗に伝えていた。
博麗の巫女ならば恐れつつも異変解決ごっこを完遂するだろうと見込んでいた。
だが、
「やっぱり二番煎じじゃない。アイツは月の都で地震を起こして恐怖の大王みたいに高笑いしてたわ」
霊夢はオオスのやらかしを語った。……依姫のイメージが霊夢の脳内を汚染していたがいつ思い出しても本当に酷かった。
相手は月の都、その神々である。はっきりいって幻想郷すら簡単に消し飛ばせる相手にこれである。
何喰って生きてきたらオオスはこのような蛮行ができるのか霊夢は理解に苦しんだ。
「……はぁ!?」
天子は声に出すとか考えるとか以前に耳を疑った。なにそれ知らない。天子の脳内は驚愕で満ちていた。
「アイツが同じ事をするならもっと面倒なの。天人だろうがどうでも良いわ。
ご苦労様とでも言うべきかしら?……巫山戯てないでさっさとコイツを討伐して神社の修理をさせなきゃね」
霊夢は思わぬ形で皮肉が出てしまい、オオス菌が感染したのかと身震いした。
霊夢は異変の首謀者天子を討伐したら風呂に入ろうと決めた。
こんな二番煎じの奴でも幻想郷を人質にとるような事をしている。
オオスには警戒しておく必要があると博麗の巫女として冷徹な思考が向いていた。
……霊夢は天子と対峙していながら目の前の彼女を見ていなかった。
「……わたしが、二番煎じ?」
天子はある程度は予想していた。しかし、比那名居家の専売特許は誰も模倣できないと高を括っていた。
「……巫山戯るな。私が比那名居家の…!…いや、そうか。だからか」
天子は霊夢の言葉を理解するのに重たい石を丸呑みするような気分を味わっていた。
異変を起こす前の天子は、天気に関してはオオスの、地上の民が真似事ができるのかと悔しかった。
だからこそ、地上のオオスは見ていた。しかし、地底は?月は?見知らぬ何処かへは?
天子はここに至って己の常識の範疇でしか物事を見ていなかったと悟った。
負けた。……いや、勝負にすらなっていない。だから来ない。なるほどそうかと天子は納得した。
天子は意地で内心の敗北を決して口には出さなかった。
それは比那名居家の天人だからではない。自分のプライドだった。
「何なのかしら戦うの、戦わないの?」
霊夢は天子の沈黙に嫌な予感を感じていた。変化する前ならばたいしたことはなかったはずだ。だが、霊夢の勘が早く倒せと告げていた。
「……そうかそうか。二番煎じで結構!」
天子は敗北を口に出さない。驕る上位者の振る舞いで怒りを変え、天真爛漫に振舞った。
……異変解決にはルールがあるという。天子は異変解決ごっこと思う事を辞めていた。
「博麗の巫女を退治した異変首謀者になれば問題無いわ!」
天子は開き直るようにこの異変の首謀者として博麗霊夢を見て取った。
比那名居天子は遊びではなく誇りを騙る。
「問題大ありよ!ああ、もう面倒臭いわね!?」
霊夢は目の前の天子が化けたと勘づいた。
霊夢が余計な事を言ってしまったのが原因だろうが、仕方がないじゃないかと内心溢す。
……つまり、全部オオスが悪い。霊夢は比那名居天子を放置して自分に任せたのだろうオオスを締め上げることを決めた。
「この空も!大地も、人の気質も私が操っている!……認めましょう。二番煎じだと!」
天子は要石を浮かび上がらせる。天気を変えて魅せる。
天変地異が弾幕ごっこという美しさを奏でる。
それは決して二番煎じではなかった。比那名居天子という存在すべてが周囲を圧倒していた。
「だけど、私は比那名居天子!この異変、すべてが私の掌の上」
天子は見ているかもわからない男にまで伝わるように全てへ宣言した。
「博麗霊夢!数多の妖怪を退治してきた貴方の天気!見せて貰うわよ!」
比那名居天子は異変の首謀者として弾幕ごっこを宣言した。その目はもはや博麗霊夢しか見ていなかった。
「……ああ、そう。じゃあ始めましょうか。貴方の異変、その解決を!」
博麗霊夢もまた比那名居天子へ宣言した。この戦いは二人だけのものである。
異変解決の専門家、博麗霊夢は首謀者討伐のための弾幕ごっこを開始した。
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遠く離れた、天界にて伊吹萃香は酒をあおり、目の前の男に問いかけた。
「気づかせて二番煎じと凹ませる気だったんだろう?」
萃香は意地が悪いと自らの酒器、伊吹瓢で頬をつついた。
比那名居天子は伊吹萃香の思っていたよりもずっと賢かったようだ。
……幾分か自分の煽りが天子を冷静にさせる遠因になっている気がした。これを言うと面倒になりそうなので萃香は黙ることにした。
「……さてね」
目の前の男、オオスは二人の決着を黙って見つめていた。
……自分の嘘つき要素、騙る専売特許まで天子パクられたと思ったが口に出すのは蛇足として辞めた。
オオスがもしも誰にも見られない状況だったらパクリじゃーパクリじゃーと地団駄を踏んでいた。
もし誰かに目撃されていたら天子がオオスへ与えた精神的ダメージで一番大きかったのは間違いない。
天界の天人が全てを見通す賢人ではない証拠でもあった。