「というわけで、私はちょっと天界で天人を革命に勧誘してきます」
オオスは癲狂櫟林の部下へ事前に連絡を入れた。
オオスはレミリアの何かするなら誰かには言いなさいという言葉を守ろうとしていた。
……レミリア本人は戦車の突撃にオブラートが耐えられるかと思っていたのだが、知らない所で多少の抑制として機能していた。
どうでも良いがレミリアの言う戦車とはチャリオット、戦闘用馬車である。現代の鉄の塊を見たら外の人間は皆オオスみたいなのかと誤認する事は間違いない。
「ぷろれたりあ革命?…を目論む天女からの情報により天界の諜報機関から閣下が目をつけられた事が判明した。陽動として閣下が閣下を守る為に注目されに行く……でよろしいでしょうか?」
美濃吾妻は声のやり取りが出来る機械式の携帯端末で確認し返した。
オオスが携帯端末で連絡してくるというのは現状盗聴される危険性は薄いという事だろう。
ならば、天界は吾妻達を脅威であると見なしていないもしくは過小評価している。
オオスはその認識の偏りを利用し、天界を誤認させるつもりなのだと吾妻は結論付けた。
「……歯痒い」
吾妻は思わず言葉が漏れた。これが電話で良かったと吾妻は更に分析した。
オオスの行動と情報を分析した吾妻は永遠亭の鈴仙等に最悪聞かれても問題ない、つまりオオスは内密に永遠亭の有力者の誰かと手打ちにしたと解釈した。
狂気を操るというが電波まで操れる情報戦において厄介な玉兎、鈴仙・優曇華院・イナバは情報管理を徹底する癲狂櫟林では要注意人物だった。
「私は幻想郷でも屈指の善良な里人です。しかし、天界が相手となると痛くない腹を探られるやもしれません」
オオスは吾妻が気にし過ぎ、責任感有り過ぎだと和ませるように言った。
飽くまでオオスにとっての事実でしかないがツッコめる第三者がいない。
「痛くない腹ですね。はい」
吾妻はオオスから貰った福寿草の押し花を見て心を落ち着かせた。
オオスは以前、部下達の情報を整理したいと吾妻へ提案した事があった。
……提出された履歴書にはスリーサイズまで書いてあったのでオオスはキレた。
だがその履歴書には吾妻の好きな花も書いてあった。
ひょっとしてあれ読まれたのか。そう思ったがオオスならまぁいいかと吾妻は気にしていなかった。
「天界には私の家を半壊させた伊吹萃香が居てですね。ちょうど喧嘩をしていたのです」
オオスは明かして良い情報も含ませた。自分と萃香は喧嘩している関係なのは吾妻達も知っていた。
……ここまでやって鈴仙が情報を盗聴できる確率は1%以下である。四六時中盗聴しているほど鈴仙も暇ではない。
オオスはその1%の危険を部下の情報管理能力のテストとして使っていた。
「ご無事でしたか!?」
吾妻は思わず素で叫んだ。相手は鬼の四天王である。大分ぐだぐだな関係に見えるが吾妻からすれば脆いオオスが不安で仕方がなかった。
美濃吾妻は本来、頽馬の次期当主と目されていた実力者である。
先代のごたごたと吾妻の野心の薄さのどちらかさえなければ今頃オオスの下にはいなかった。
なので吾妻からすればオオスは色々やらかすが儚く脆く美しく尊い存在だった。……この認識を聞けば射命丸文ですら笑う。
「無事だから話しています。だからその延長上で対応します。私的に不合格な相手には危険だけどあからさまな勧誘をして天界の警邏でしょっ引いて貰います」
オオスは今無事なんだからセーフ。大げさなんだからと思いつつやる事を説明した。
天界をちょっと懲らしめるのだ。同志永江衣玖はまだ名を伏せる気であるというので仕方がない。
「……却って危険なような気がしますが」
吾妻は本当にこの方はとため息を吐きつつも言外に同意した。どうせ言っても止められないというか言いくるめられると理解していた。
「そういう意識があるなら素晴らしい」
オオスは吾妻の同意を喜んだ。言いくるめられるという諦観があるのは少し気になるが言いたい事を自省して話を最後まで聞くというのは良い傾向だと受け止めた。
「あと、今回の件ですが、麓の妖怪猿、中堅幹部の羽後猿倉。アイツが私の情報を大げさに報告したせいです。調べておいてください」
オオスは一番頼みたい事をお願いした。
今回携帯端末という永遠亭や八雲紫などなら盗聴の恐れがある機材を使ったのもこれが理由だった。
1%以下でも他勢力を巻き込んで妖怪猿を探れれば目立たないし、99%で癲狂櫟林だけだったとしてもそのまま依頼すれば良い。オオスが警戒したという認識を吾妻達に共有できただけで良い。
一見するとやらかした子どもから保護者への連絡であるが、情報管理のテストとブラフの両方を兼ね備えていた。
「調べてこちらの安全を確保して。その後は?」
吾妻はオオスへ業務内容を確認した。オオスを危険に晒した昔から敵だったゴミ、塵以下に成り下がった相手へどうしようか同僚達へ相談しようと考えていた。
「……殺すのはダメですよ?」
オオスは吾妻へ一応念押した。
殺る気は素晴らしいのだが吾妻達は妙なところで冷静さがないと変な方向で嘆いた。
オオスは吾妻達の自分への信仰を軽く忘れていた。考えたくないのもあった。
「……御心のままに」
吾妻はオオスの言葉に矛を収めた。
風の力で一寸の大きさに少しずつ切り刻んでやるのは今度にしてやると心の中の羽後猿倉へ吐き捨てた。
後回しに宣告された死刑であるが、吾妻と猿倉の力の差的に余裕で可能だった。
猿倉も本気で関わりたくない組織、癲狂櫟林の表向き代表である美濃吾妻は猿倉への嫌がらせを兼ねた身辺調査を開始した。
知恵の回る猿倉は、だから癲狂櫟林と直接敵対すること避け、組織と関係の薄そうなオオスを狙い撃ちに嫌がらせをしたつもりだった。
運の悪い事に、狙った相手が本命だった。