比那名居天子は倒壊した博麗神社を再建すべく天界から連れて来た天女達を動かしていた。
天子は、博麗霊夢には地震で倒壊した直接の原因は自分ではない。一方、異常気象は自然に起こり得たものを天子が操ったのだと語った。
霊夢は二番煎じと呆れつつ、天子が大げさに取り繕うのを辞めたことから、多少は反省したらしいと認識した。
同時に博麗神社再建の約束を取り付けたので良しとして散策しながら再建まで待つことにしていた。
……実際には比那名居天子が異常気象を積極的に引き起こし局所的な地震を引き起こしていたのは事実であり、更に博麗神社に地震対策として自身由来の要石を配置するなど仕込んでいた。
比那名居天子は博麗霊夢を出し抜いていた。
出し抜いたのは良いが霊夢への『説得』を邪魔しに来ると思っていた男は天子の下へ来なかった。
……来ない時は色々できると安堵していたが、ここまで来ないのはどうなのかと苛立ちと僅かな恐れを抱いていた。
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「あ、その柱はあっちね……」
天界から材料を直接輸送して天女へ指示して組み立てていた。
人間の職人が行うような余分な加工はなく、資材はあるべき場所へと寸分違わず組み上げられていく。
霊夢は最初こそ見事なものだと見ていたがあまりに代わり映えしないので飽きて何処かへ行ってしまった。
するすると組みあがるのは面白いが、完成形を予想できてしまうとこんなにも飽きるのかと霊夢は思った。
「なるほど、職人芸ではないが興味深い」
喪服姿で神社に来た男は作業をする天女へ軽く会釈をしながら周囲を見渡した。
天女から『喪服はちょっと……』と難色を示されたが、オオスは『この神社ではカジュアルな衣装として認可されているのですよ』と嘘八百を並べていた。
「ああ!やっと現れたわ!!」
天子は満面の笑みで喪服の男、オオスを指さして言った。
『ここまでやってようやく来たがもう遅い、残念だったな』と天子は脳内シミュレーションで色々考えていた。いざその時になったのに中々出てこなかった。
というか下手に言ったら霊夢へばらされるのではと天子は今更気が付いた。
言質があるとないとでは説得力が全然違う。天子は騙ることを辞めた。
「……ごほん。神社は災害により倒壊してしまいました。ですが、それを機に美しく強く生まれ変わったのです」
天子は社交辞令をオオスに語る。災害=自分だが、バレてようがバレてなかろうが言う必要はない。
いや、何故張り合おうとしていたのか。
天子はする必要の無い悪戯のネタバレを考えていた自分を落ち着かせようとした。
「いや、遅い。ネタバレしている相手に取り繕う必要はないです。……霊夢さんもいませんし、少し話しましょうか?」
オオスは、天子が日和ったのだと察した。異変首謀者として堂々としているようでいて、言う必要はない事はこそこそやる。
ある意味面倒臭い進化をしたなと感心と呆れが同時に来ていた。
ちなみにオオスは天子不在の天界であちこち布石を敷き、別の計画を練っていた。
後に永江衣玖主体を想定した天界の易姓革命は失敗するが、この時のオオスは割と本気だった。
オオスもこそこそしているが、オオスは天子の目論見を察していた。だからオオスは自分の勝ちだと後日盛大に天子を煽る気だった。
まぁ、オオスは永江衣玖が自分の同志と思い込んで最初から失敗していたというオチがつくのだが。
第三者視点で語るならば曲がりなりにも一度博麗神社を完成させた天子の方が上手である。
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オオスは天子へ異変の内容を直接言うわけにはいかない。その為、もの凄い婉曲なたとえをし始めていた。
なんと比那名居天子相手に英語講座を開いていた。中国古典の引用でない辺り、相手の土俵に乗ってやらないというオオスの性根の悪さが滲み出ていた。
「例えば、what on earth『一体なんだ』と疑問詞を強調するのにon earthやらin the worldと地球や世界と使ったりする」
オオスは英語表現の誇張に関して語っていた。
オオスは色々取り繕って色々言うし策を練るが今もなおこそこそするよなお前、と天子を暗に煽っていた。
「これらのことから、英語圏は大げさに強調することでわかりやすく伝える文化なのだと解釈できる」
オオスは天子を煽りつつ、異なる文化を語って聞かせた。
天子は天界の天人くずれだが、それはそうと地上を知りたいなら色々と知るべきだと無意識に伝えていた。
表面的には日本語だと誇張するのにも『世界の中心で愛を叫ぶ』というような表現を一々使わない。オーバーな表現が英語では良くあるよねと表面上はトリビアを語っていた。
「他方で、Why don’t we do~?と我々で何かしないかと誘っている。何故我々はしないのかと婉曲的に尋ねている」
オオスは押し付けがましい同調を天界でも地上でもあると婉曲に天子へ語っていた。
「横文字を語られても困るわ」
天子はあっけらかんと感想を述べた。
聞く気あるから聞いているが結論を言えと急かしていた。オオスの意地の悪い陰湿さには無いカラっとした気質を天子は持っていた。
「……つまり、大体の文化圏において違いはあれども人間の感じ方はおおよそ変わらない」
オオスは天子の言葉から先んじて結論を語った。話を長くしてやろうと思ったが言われては仕方がない。
「しかし、程度の差はある。程度の差はある異なる文化を最初から自分達と全く違うものと遡って誤認してしまう」
オオスは天子に天界の傲慢さを暗に指摘していた。
天界の押し付けは地上には通じないときがあるから注意しろと表現していた。
「その自分達というのも程度の差はあれども違うというのに」
天子は自分の事を棚上げし、オオス達地上の民の傲慢さを嘆くように溢した。
「そして、理解しないのは理解されないからだと相手へ牙を剥ける。そうすると相手も牙を剥ける」
天子は自分の事ではなく、地上の民同士の諍いとして語る。これでは天界に登れる魂はないだろうと頭を振った。
「しかし、これは自分だけ牙を剥けるなといったところで収まるものではない。自分が憎しみを辞めた所で相手は憎んだままだ」
オオスは天子に反論した。天界は憎しみを辞めろというが自分が辞めても相手が辞めないだろう、天界が何かしてくれるわけでもないと指摘した。
「そう言っても例えば、私へ具体的に何をして欲しいのかしら?」
天子は天界ではなく、自分に言えとオオスへ開き直って言った。
天子は、オオスがどうも天界へ不満を持つ自分という形で天子を見ているなと察した。
だから、自分を見ろと堂々と天界の無責任さも開き直っていた。
「……別に。だから何をしろと具体的に言う事は難しいというわけです。相手を赦せと説く宗教はありますが、相手が許してくれない場合は難しい」
オオスは天子の物言いに面食らったが、今は天子個人の話はしていないだろと指摘した。
天子自身を見る見ないに関して、今はそういう話ではないとオオスは思った。
オオスはどうも自分が空回りしていると察した。それでもまずは話す事を試してからと決めた。
オオスは天子が妙に自分へ関心を寄せていると察してはいたがその感情を読み切れていなかった。
「これは自分が許す側という驕りだ。許さない連鎖を断ち切るのに社会の同調圧力というものは機能する。許さないではなく許せと」
オオスは天界の常識では地上の怨恨は晴らせない事実を述べた。
同調圧力というマイナスが犯罪抑止として役立つ事実もある。地上の営みは原理原則にない部分も存在し得ると説明した。
「許す許さないは相手次第というのは納得できる。けれど、長いわ」
天子はオオスの語る地上の論理は理解した。理解した上でまどろっこしいと言い切った。
そのような面倒な事を比那名居天子が考慮する必要はないと言外に語っていた。
「同調圧力は悪の文脈で語られる。騙られるが正しい。行き過ぎない同調圧力とは犯罪の抑止足りえるでしょう」
オオスは長いとかまどろっこしいとか知ったことかと自分のペースを崩さず言い切った。
「同調圧力の不味い時は牙を剥けて対抗し、外からの援護を求める。この関係が機能する世界は不健全だが合理的でもある」
オオスは天界に来た天子がそれになれと暗に伝えた。
天界も地上も納得できない部分があるなら外部として健全な振る舞いをして欲しいと依頼していた。
「ふむ……」
天子はオオスが敬語を抜けていることから真剣な言葉、祈りだと認識した。
故に、具体的に何をして欲しいという問いにオオスは答えていた。
天界の人間として地上に在り方を見せて欲しい。天子はうんうんと頷いた。
天子はオオスの分かりにくい言葉から自分が受け入れられたと解釈した。寧ろ、それを望んでいる。天子は段々機嫌がよくなってきていた。
「我々は今、撹拌機の中にいる」
オオスは天子が自分の世界に入り込みかけているので言葉を変えた。
オオスは天子が妙に機嫌が良いと察したが、自分の言葉が伝わったと受け止めた。
……比那名居天子にオオスの気持ちは伝わっているのだが、特定の部分だけ伝わり過ぎた。
八雲紫から仕置きを受けるまで沙汰を待てよとオオスは警告を含ませたつもりだった。
「幻想郷もまた変わる。異なる思想、異なる信仰、異なる種族、異なる世界」
オオスは自分自身、守矢神社、比那名居天子、岡崎夢美を思い出しながら述べた。
「果たして貴方は何を望む?変革か?競争か?平穏か?安寧か?……どれもが否だとそう思うだろう。……退屈な貴方は楽しみを求めた」
オオスは天子を見て言った。今、楽しいのかと問いかける。
「そうね」
天子はうなずいた。今、実に愉快だった。無性に、何故かはわからない。
「なら、貴方は開き直りなさい。どこまでも、蝋で固めた翼で天高く飛び、太陽を目指して落ちていくのです」
オオスは天子に調子に乗って楽しんで罰を受けろバーカと冷や水を浴びせる気で言った。
「ダメじゃない」
天子はくすくすと笑ってオオスの言葉を否定した。
「今の貴方ですよ」
オオスはそう言ってため息を吐いて、天子の下から空となり消えた。
「むぅ……言いたい事だけ言ってくれるわ」
天子はオオスの秘術の仕組みが分からず、言いたい事だけ言って帰ったと頬を膨らませた。
比那名居天子は博麗神社に向き直った。
「式年遷宮ね。この神社は私のものよ」
天子は天界から地上の拠点として博麗神社に狙いを定めて言った。
今まではなんとなくだったが、ここに居を構えれば面白い事になりそうだ。
天子は愉快だったが、要石で幻想郷を人質に取りながら神社を乗っ取ろうとしていた。
そこには天人特有の傲慢さがあった。
「……」
幻想郷の管理人、八雲紫は天界猿の傲慢を見て取った。
表面上は一言も発さぬ冷静さに見えた。しかし、その手は扇子の骨を握りつぶしていた。