オオスは博麗神社で今度宴会をやると紅魔館で聞いた。
オオスは誘われていないが勿論、参加することにした。
最近ボウフラのように湧いて来た亡霊や元々良くいた霊夢を慕う妖怪等が集まっている妖怪神社である。人間であるオオスが行けば人間の比率が増す。
故に、オオスが勝手に参加することは、霊夢に感謝されるべきだろうと思った。
とはいえ、自分では常識人と自称するオオスは宴会には土産を持参すべきと考えていた。
宴会土産の為にオオスは迷いの竹林に来ていた。春が旬のタケノコ捕りである。
幻想郷に来たばかりの頃のオオスは迷いの竹林で迷う可能性が高いので避けていた。
だが、今は違う。
オオスは悪戯好きの素晴らしい兎を呼ぶため、犬笛のようなものを取り出して吹いた。
少し時間が経過してどこからともなく誰かが現れた。
「やあやあ。幻想郷で最も賢くて可愛い兎をお呼びかな?」
そう言って現れたのはウサ耳をつけた黒髪の少女だった。
服は桃色で裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用していた。
少女の名は因幡てゐ。
人間を幸運にする程度の能力を持つ幻想郷に住む兎たちの実質的ボスである。
なお、オオスとは初対面で意気投合したという極めて珍しい妖怪兎だ。
「いやあ、てゐ。元気そうで何より。鈴仙さんも元気かな?」
オオスはにこやかにてゐに挨拶をする。そして鈴仙がいないことに首を傾げる。
「そうさね。鈴仙は連れて来ようとしたら電波を感じるからいけないとか言い出したの。
それで出てくるまで時間がかかったのね」
てゐはやれやれと言うような仕草をした。
「可哀想に…春になって頭をやられてしまったのかな?」
オオスは狂気や電波を操る月の兎のことを思い出す。
オオスは鈴仙の能力には素で完全な耐性を持っているので素直に心配していた。
「全くね。一応、侵入者だから仕事のはずなのに」
てゐもそう言ってオオスに同意する。そして、オオスは侵入者らしい。
「おや?他の人間もタケノコ捕りに来ているはずだけど…」
オオスは思わず首を傾げた。
迷いの竹林のタケノコは旨いと評判で慣れた人なら取りに来る。
そして毎年幾人かは帰らぬ人となるのが人里の定番だ。
「その通りで竹林にも来訪者が途絶えないんだ。
だから、むやみに近づかないように鈴仙の能力で追い払っているんだわ」
べらべらとオオスに永遠亭の実情を話すてゐ。
オオスが誰かに喋らないからこそであるが、鈴仙がいたら激怒間違いなしだ。
「ああ、毒電波流して追っ払うと。そして、自分が毒電波にやられたと」
オオスは鈴仙の体調不良の原因を慮る。
なお、実際のところ鈴仙の急な体調不良はオオスのせいである。
「そうそう。ふぐでも自分の毒で死なないのにね」
てゐもここぞとばかりに肯定する。
オオスが原因だと言うことはわかって言っている辺り性質が悪い。
「全く軟弱な月の兎だ。今度また私が狂気耐性訓練をつけてあげるべきだろうか?」
オオスは鈴仙に狂気に対する訓練を提案する。オオスは狂気に対しては自信があるのだ。
「もし今度、姫様に会う時にでも是非やってあげて欲しいね。鈴仙は一応私の上司だからさ。
ああ、私は何て上司思いの部下なんだろうか」
感慨深げに戯言をほざくてゐ。わかってやっている辺り本当に悪質だ。
「全くだ。てゐ程上司思いの部下も珍しい。
私のような非力な人間で力になれることがあれば是非やらせていただこう」
オオスは胸を張って宣言した。鈴仙の未来は暗い。
「…そこで今すぐにでも姫様に会うとかいう選択肢がないのは流石だねぇ。
普通、姫様のこと知ったら男女問わず危険を顧みず会いに行くもんなんだけど」
てゐは苦笑したように言う。
色々口実つけて輝夜に会いに来るのが普通の男である。
輝夜の長い人生経験上はそうだった。
だが、オオスは帰るときにも面倒くさがって輝夜に挨拶しないで帰った。
輝夜はその内、オオスが自らの失礼を謝りにでも来るだろうと待っていた。
しかし、オオスは全く来る気配がないので困惑していることをてゐは知っている。
「面倒臭い。興味がない。今は会う理由もないし、他に用事もあるんだよ」
オオスは博麗神社の宴会に出すタケノコが欲しいだけで別に輝夜に会いたいとは微塵も思っていなかった。
「うわぁ…姫様聞いたらブチ切れそう」
てゐはそう言いつつも楽し気な表情である。
「てゐだから話すけど普通はここまで言わないからね。別に本人へ言っても良いよ」
オオスは茶化すように言う。てゐとは波長が合うのでいつにもましてノリノリである。
「言わないさ。鈴仙とかなら即座に報告待ったなしだけど仕事でないし」
てゐはそう言いつつも、もし輝夜に報告したら絶対面白いと思った。
鈴仙がオオスを連れ帰らなかったことで八つ当たりでもされたら面白いかもと。
オオスに言ったことを段々前言撤回したくなってきた。
「仕事熱心なのは素晴らしい。溢さないでいてくれるのは友人として誇らしいよ」
オオスはてゐの様子を見て、言外に言え言うんだ因幡てゐ!と後押しする。
鈴仙を揶揄うということは自分の首を絞める行為である。
それがわかっていてもやるてゐの姿勢をオオスは高く評価していた。
「いやはや照れるなぁ。じゃあタケノコ捕りだったかな。
帰り道に迷わないようにしとくからゆっくり探すといいわ」
そう言っててゐはオオスに手早く幸運を授ける。
早く輝夜に報告せねばとそわそわしていた。
「ああ、ありがとう。てゐも忙しいところ悪かったね」
オオスも友人のてゐが楽しそうで何よりだと嬉しそうだ。
用意してきたタケノコ捕りの礼はまた今度の方が良いだろうと見送りする。
「姫様にも貴方が来たけど会うのは面倒臭いから帰ったと伝えておくわ!」
そう言って駆けて行くてゐの姿はまさに脱兎のごとくだった。
「ありがとう。是非伝えておいてくれ」
オオスは満面の笑みでてゐを見送った。
そして、タケノコ掘りを始めることにした。輝夜には勿論会うつもりはない。