オオスは激怒した。必ずやかの邪知暴虐の巫女を分からせなければならぬ。
オオスは極めて善良な幻想郷の里人だ。最近働きすぎだと言われていた。
『最悪に備えているがバレないようにしています。何か必要なら呼んでください』
オオスは紫とのやり取りでそうに伝え、今回の異変の大部分を任せていた。
だから、比那名居天子の目を引きつけたり離したりしていた。
人里へ地震が来ても最悪は防げるように部下達を通して避難訓練もさせていた。
オオスが人里に戻れないのはヤバいという意識が人里に広がっていた。
このような事情も合わさり、避難訓練の名目としてもちょうど良かった。
オオス視点ではこれほどまで疑われるのは酷くないかと思っていた。
確かに世のため人の為と動いていたのだが、オオスは自分の影響力を過小評価していた。
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この魔女裁判において野蛮なる神の下僕たる巫女はオオスの体を完全に抑え込んでいた。
里人達は既に帰っていた。残るは妖怪達と一部の人間だけだった。……それでも多いのだが。
例えば、風見幽香はボロ雑巾の天子を椅子にしつつ紅茶を飲んでくつろいでいた。
幽香の飲む紅茶はオオスが主催する予定だった無様な天子観覧会のものだ。
岡崎夢美はマネキンと共に魔女裁判を傍聴していた。おそらく以前拾ったドローンだ。
夢美は社会見学のつもりなのであろう。オオスも逆の立場であればそうしたので納得した。
アリス・マーガトロイド、霧雨魔理沙、東風谷早苗、パチュリーなど見知った顔がいた。
ちなみに西行寺幽々子は帰っていた。幽々子ならば紫の仕業と分かっているので即裁判が終わってしまうと判断したのだろうとオオスは納得した。
その証拠に傍聴席には魂魄妖夢が座らされていた。妖夢は本気で帰りたいようだが。
あのやる気のない妖夢ならきっと自分の無実を証明してくれるはずである。オオスは真っ暗過ぎる闇を見た。
「だが、まだだ」
オオスはそう言って弁護人を見た。
オオスは本来秒で終わる無謀な魔女裁判にレミリア・スカーレット弁護士へ依頼していた。
永夜異変でオオスが異変に関与しているとねちっこく疑ってかかったレミリア元検事の手腕に期待していた。
「弁護士として最短の刑にできるように頑張るわ」
レミリアはオオスへ案ずるなと声を掛けた。
……オオスは、これはもうどう考えても無謀な負け戦であり、己の奥の手でも無理なんじゃないかなどという世迷い事を考えないようにしていた。
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オオスはまずアリス・マーガトロイドへ説得を試みた。
何故ならば昨日、オオスはアリスから疑われていたのだ。
オオスは、魔理沙がアリスから盗んだ本を返却するついでに手を握り自分の誠実な姿勢を説き伏せていた。
オオスは素晴らしい友人たるアリスならばきっと信じてくれると考えていた。
「私は昨日、アリスさんと会いました。その際に私はアリスさんへこの異変に関して無実だと誠心誠意説明をしたのです」
オオスは本泥棒のお陰で好印象で説明できたはずと思い弁明した。
オオスは決して泥棒に感謝しないが加点要素だろうとアリスを見た。
だが、
「どこまでが異変かは決めてなかったわよね?」
アリスはオオスから目を逸らして言った。……昨日のアレは反則だ。
アリスは何もなかったと思い出さないようにしていた。結果、アリスはオオスにとって不利な指摘をしてしまった。
「……未だ天気は乱れています。この異変が続いているかと」
オオスは『おいいぃアリスぅぅ!』という内心を隠してなんとか絞り出した。
異変中なにもしないという意味だよとアリスへ修正して伝えた。
「霊夢に退治されて終わりと考えるなら異変は終わりだぜ」
昨日の本泥棒魔理沙は即座にオオスへ指摘した。
アリスが動揺するのは珍しい。アリスが正気になったらオオスを犯人にできないかもしれないと魔理沙は分析した。
……昨日の磔を根に持っていた魔理沙は善意ある第三者として指摘した。
「異議あり!」
オオスは叫んだ。
『おい待てやこの泥棒が。やはり気を許すべきでなかったか』オオスは魔理沙へ復讐を決意した。
「あーもー……面倒臭いからまとめてぶん殴ろうかしら」
霊夢は面倒臭げにこの茶番に対しての感想を漏らした。オオスも犯人も纏めてぶん殴るという意味である。
霊夢は、自身の勘がこの男は犯人ではないといっていた。同時に一回絞めた方が良いとも。
茨木華扇は不在であるが、いればこの面倒な男へ活を入れてくれただろうかと考えていた。
「流石の私でも無罪なのに大人しく殴られませんからね?」
オオスは霊夢が本気で無実の自分ごと退治する気だと察してツッコんだ。
霊夢は勘でオオスが犯人ではないと思っているのなら、オオスもただではやられない。
ここでオオスが依頼したがずっと黙っていた弁護士レミリアが口を開いた。
「……無理よ。諦めなさい」
弁護士レミリアはオオスへ裁判は負けだと告げた。
オオスは味方に撃たれた。オオスにとって致命傷だが、レミリアは自分の仕事を全うする覚悟を決めていた。
「敗北を受け入れるのも悪魔としての在り方よ」
レミリアはオオスへ残酷な真理を告げた。オオスが何をしたのかはレミリアは分からない。
犯行時に皆の目の前にいて特に不審な行動はしていない。
だが、それだけだ。オオスは存在するだけで怪しく、天子を殺りかねない。
この裁判、完璧なアリバイ程度で無実を証明できるわけがないとレミリアは弁護士として結論をくだしていた。
「何キメ顔しているんですか!?」
オオスはレミリアへツッコんだ。無実だろ、完璧なアリバイもあるだろテメェと叫びたかった。
オオスは暴れようとするも霊夢に押さえつけられて動けなかった。
無関係の第三者、この魔女裁判にもなんとなくいた東風谷早苗が口を開いた。
「そういえばオオスさん、具体的に何の能力かってないですよね?『~程度の能力』」
早苗は魔女裁判を幻想郷の常識としてとらえ、ふと脳内に浮かんだ疑問を口にしていた。
「確かに幻想郷縁起に未掲載だったかしら?」
アリスは早苗に同意した。前に阿求に見せて貰った幻想郷縁起にも未掲載だったのだ。
アリスは自分の気恥ずかしさからやらかした事に動揺し、早苗の言葉に反応していた。
パチュリーはレミリアへ弁護をもう少し頑張るように説得していた。ところが、自身の読書家キャラを人形遣いに奪われてむっとした。
「私は妖怪じゃないですからね!?」
オオスは早苗とアリスへツッコんだ。
実際、オオスは善良なる里人であると幻想郷の里人達は目をそらしつつも口を揃えて断言する。
オオスはこれが証拠だと見せつけるつもりだった。
「前に神奈子様や諏訪子様へ聞き取りに来た時に確認したんです。私も掲載するとのことなのになかったので気になっていました」
早苗は思い出すようにつらつらと話し始めた。
全く悪意のない、魔女裁判の結末もよくわかっていない表情だった。
座り心地の悪い椅子に飽きた幽香は椅子を蹴り飛ばしつつ、二柱の神へ興味を抱いた。
「……現人神と人間では違うのでしょう。私は善良なる一般的な里人なので」
オオスは言葉を選んだ。早苗を人外扱いする気はないが載るだろうなと配慮していた。
オオスは阿求に幻想郷縁起へ人外枠で掲載されそうになっていた。その事実を無視していた。
「そこも含めて認めなさい。悪魔たるもの」
レミリアはオオスへ命じて言った。
レミリアはオオスへ同じ悪魔としての責務であると幻想郷縁起に載ることを説得していた。
「……何か素で悪魔だと思われていません?」
オオスは小さく溢した。何言ってんだ、このお子ちゃま悪魔が。
「レミィは錯乱しているのよ。不慣れな仕事だし」
パチュリーはレミリアが素で誤認している事実を誤魔化してオオスを宥めた。
「そうでしたか」
オオスはパチュリーの言葉に一端引いた。
だが、ふと思った。オオスは自分の能力がどの程度認識されているのかを知らなかった。
早苗の目の前で夢の具現化をやったが早苗は中には入っていない。
霊夢や魔理沙も同様だ。パチュリーは魔法の共同研究で一部は明かしているが全部ではない。
「……私の能力とか見れば分かるでしょう?」
オオスは全く明かしていない手の内を他者の反応から類推しようと試みた。
「人を小ばかにする程度の能力」「人を煙に巻く程度の能力」「河川を二つに割る程度の能力」「足元を掬われる程度の能力」「変な事を吹き込む程度の能力」……
オオスの予想と裏腹に霊夢から順に悪口大会へ移行した。
「ちょっと酷くない!?」
オオスはまたしても叫んだ。何故、善良なる自分がここまでボロクソに言われなきゃならんのか。
今回、紫に頼って数歩下がっていたし、行儀良かったよなと頭を抱えた。
なお、まだこの時のオオスは天界でプロレタリア革命をやろうと計画を企てていた。
「これでちょっとで済むのね。河川云々ってなにかしら?」
岡崎夢美は流石に可哀そうと思いつつ気になった。
夢美はドローン(仮)への教育に悪いのではとようやく気が付いた。
そこへ突然、ヌルリと空間が裂ける感覚が脳内に響いた。
「これは……紫!?」
霊夢が付き合いの長さから直感し誰もいない空間へ問いかけた。
「貴方はお酒を容れ物で呑む?それとも液体で呑むのかしら?」
八雲紫が霊夢へ問いかけた。博麗神社という器が大事なのか中身が大事なのか。
ある意味考える機会にはなった。にも拘わらず、無実の人間にかまけている場合かという発破も兼ねていた。
「うぐぅ」
霊夢は紫の指摘に唸った。胡散臭いが紫は幻想郷全体を考えている奴である。
ある意味似ていなくもないのなら本質を問うべきだった。
「……紫、アンタが犯人ね」
博麗霊夢は再度博麗神社を倒壊させた犯人を指さした。
オオスは霊夢の拘束から解かれ自由になった。
「ええ、そうよ。……ここで暴れるのも良くないわね」
紫はそう言って空をなぞり、線が開いた。
そして、いつの間にか八雲紫と博麗霊夢は消えていた。
「……さて、レミリアさん。お話したいことがあるのですが」
オオスは解放されて開口一番そういった。
仕事をしない弁護士に払う金は鉛玉にしてやろうか。オオスの目はそう言っていた。
「む、無実で良かったわねー……なんて、はは」
レミリアは頬を引きつらせてオオスの無罪を祝福した。
パチュリーはあーもーしらないと帰りたくなった。
「おい、どうなってんだ!お前の能力!?」
魔理沙はオオスへ向かって叫んでいた。魔理沙はいつの間にか磔にされていた。
「どうなっているんですかね?……魔理沙さん自力で磔になっていませんでしたか?」
早苗はあり得ないのだが、そんな気がして困惑していた。
「……興味深いわね」
アリスは魔法使いとして興味深く観察していた。
オオスへの謝罪より先に目の前で起きた意味不明な現象を分析しようと試みていた。
「これも魔法かしら?少なくとも科学ではないわ」
夢美はアリスを揺さぶるようにして尋ねていた。今まで見た何よりもわからない現象が発生していた。
……一連の現象を偶然記録できていたかもしれないドローンが夢美にはあった。
「……ぐぅ」
魂魄妖夢は疲れて寝ていた。具体的にはオオスの能力推測という名の悪口大会を言った後、寝てしまっていた。
幽々子から顛末を聞かれた際、妖夢はその結末を答えられなかった。