魔女裁判の直後、紅魔館へ戻った十六夜咲夜がフランドールの脱走を報告した。
オオスとしてはもう少しで紅魔館の主の弱みを更に作れたのだが仕方がない。
フランドールはやはり空気を読む知性を持っているとオオスは再確認した。
オオスは是非家庭教師をしたいとレミリアに言ったのだがまたしても拒否されていた。
どこぞの秘神より早く教育したいのだが、間に合わない気がしてきた。
オオスは以前、摩多羅隠岐奈と約束していた。故に秘神についてレミリアへ話せなかった。
オオスは隠岐奈ならフランドールの才能を開花させようと危ない事をしかねないと直観していた。
あの手の輩は普段出てこない癖に、やる時は危険な事を厭わない。
オオスは隠岐奈へ自分と近いものを感じていた。
しかし、今のようにふざけていられるうちならばそれでよい。
あの隠岐奈が危機感を抱くほどの事は月面戦争を除いてまだない。
例えば、今後の幻想郷で核爆発でも起こるくらいでないといけない。オオスは気を取り直した。
オオスは核融合の技術ツリーを保有していたが危機感から自ら封じていた。
外の神なら核への恐れくらいあるはずだ。オオスは理性的に分析した。
外の世界の善神が自身の神威を高める為に核開発するとオオスはギリギリ考えていなかった。
……守矢神社の八坂神奈子は核の力を用意していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔女裁判から翌日、オオスは人里へ災害の危険性が薄れて来たと報告した。
オオスがいなくなり異変調査に乗り出したと聞いた人里はいつもより警戒色が強くなっていた。
良いことだが行き過ぎれば毒となる。妖怪と人間の極めて危ういバランスで成り立っているのが幻想郷である。
オオスがこれ以上干渉していると見なされればどこかしらの勢力がオオスへクレームを入れるだろう。最悪、阿求などへも迷惑がかかるかもしれない。
オオスは丁寧に里人達へ説明していった。疑り深いだけなら良いが、下手にフェイクニュースを言いふらされても困った。
「ええと、何も起きなかったけど。大丈夫なのか?部屋の片づけにはなったけどさ」
北の境界沿いに住む与一がオオスへ問いかけた。
与一は地震となれば川も近く、一大事と年老いた母を妻の実家へ頼み込んで預けていた。
「はい。ですが、まだ安心はできません。何せ、この天気ですので」
オオスは与一を安心させたかったがまだ不安が残ると警告した。
天子は要石などの能力を持つのでまだ警戒する必要はあった。
やることやって満足した直後に八雲紫にボロ雑巾にさせられたのでオオスもある程度溜飲をさげていた。
「大丈夫ではないんかい」
熊之助はオオスにツッコんだ。熊之助はオオスが里人を安心させに来たと見抜いていた。
なので、安全ではないのかと聞き返した。
「いつだって世の中絶対安心なんて言えませんよ」
オオスは熊之助の意図を汲み取って返した。絶対安全なんて口が裂けても言えない。
そういう不安は守矢神社辺りを信仰して和らげて欲しいと考えたくないが思っていた。
オオスは人里へ信仰を誘致するような真似をしていた。嫌々やったのだからこれくらい役に立てと宗教に投げた。
飽くまでもオオスは今までよりは地震の確率は低く、警戒し過ぎる必要は無いとだけ言っていた。
「確かにアンタが安心なんて言い出した日にはどこの誰が……おっとなんでもないよ」
又吉はオオスの意図を汲み取って余計なことを言った。
慌てて訂正したが又吉はオオスからじっと見つめられた。
そこへ人里に風が吹いたような気配が降り立った。
「相変わらず、人気者ですねー」
茶色い衣装で肌を隠し、記者ごっことでも言うようなメモ帳を携えた美少年ならぬ美少女が声をかけた。
射命丸文である。天狗の一番偉い人から妙に監視されていたが、温い中間管理職を撒くのはちょろかった。
オオスは一瞬ポカンとした表情をしたが、気を取り直した。
「そりゃあ、当然でしょう。私ほどの良き隣人はそういないです」
オオスは事実を述べた。そうだろう皆の衆と顔を見渡す。
「……そうだな。うん」「まぁ、うん」「良い奴ではある」
又吉、熊之助、与一はオオスの言葉に同意した。
いや、良い奴ではあるんだ。良い奴では。そのような気配が滲み出ていた。
「今、間がありましたよ。しかも目を逸らされていませんか?」
文はオオスへ指摘した。上手く例えられないが人里の空気を支配していないかと文は思った。
文は知らないが20世紀の独裁者の言論統制に似ている。
早苗は1984とは言わない。宗教を誘致しているような相手を怒らせるのはどう考えても悪手だからだ。
この光景を霊夢が見ればノータイムでオオスを締め上げる。
「人間だれしも過ちはあるさ」
オオスは糞コラ新聞記者へおおらかな態度で頷いて見せた。何が間違っているのだろうかこの男。
「そういう問題じゃないでしょうに、ねぇ?」
文は三人の中で若干軽薄そうな又吉へ歩み寄った。
軽い色仕掛けである。文はオオスに連敗を喫していたが自身の容姿に自信があった。
「……くっ!?落ち着け、俺。オオスの野郎に通い妻していると聞く。アンタだろ…」
又吉はツーアウトであるが、スリーアウトで強制シャットアウトされた。
与一と熊之助はオオスを即座に見る。オオスは何もしていない。
ああ、又吉はあそこかと二人は納得した。流石にこの程度で磔になっていたら可哀想だと二人は頷いた。
オオスは男衆から女関係で嫉妬されていた。オオスはその自覚がない。
セクハラが過ぎると対処したくなるが何故こうも血涙を流して殺気を向けられるのかが本気で理解出来なかった。
余談だが、地底の水橋パルスィはオオスを遠巻きに見ているだけで嫉妬力が溜まると評していた。
「あーあ……無茶しやがって。すまんな姉ちゃん…ってまんざらでもなさそうか」
熊之助は糞見せつけやがってと内心愚痴って可哀そうな又吉を助けに行った。
これがなければオオスも男連中からの評価も高いだけなんだが……これ狙ってないかと与一は思った。
実際はオオスが狙ってやれていたら苦労はしない。
「後でお話しましょう。神に頼るより素晴らしい自主的な懺悔も受け付けています」
オオスは失礼な野郎どもを見送った。
もうお話したいが、何か地震への警戒より別の事へ意識が向いたようなので良しとした。
「……はっ!?周知の事実ですね私達」
文は人里公認の中になっていると妄想していたが、我に返って言った。
「帰れと言いたいが、記者は役に立つから寛大に許しましょう」
オオスは投げやりに文の価値を認めた。面倒臭くなってきた。
「都合の良い女だなんてひどいですね。責任を取るべきでは?」
文は言質をとったぞとオオスを煽った。乗っている今がチャンスと全く乗っていないオオスへ問いかけた。
「昨日の博麗神社の落成式に関してはどこまで知っていますか?」
オオスは文へどこまで知っているか尋ねた。目が冷たく、淡々とした確認作業染みていた。
「……病院から脱走して見てました。なのである程度は」
文はため息を吐き、正直に話した。
オオスの魔女裁判に居合わせたら場をかき乱してやったので文は本当に残念だった。
「病院?どこか具合でも悪かったので?」
オオスは目の色を戻し、純粋に文を心配して言った。
まさか文がミスティアの色気を感じ取り発狂したとは思わない。
「パワハラ上司の残業で」
文は天魔のせいだと暗に言った。
天狗の階級社会でトップを批判するのは恐ろしい行為だが、文はバレたらオオスに責任を取らせる気でいた。
だが、
「大山?それとも彦山?もしかして飯綱?」
オオスは大天狗のパワハラランキング順に並べ立てた。全くためらいが無い。
「……ノーコメントでお願いします」
文は流石に顔を真っ青になり、回答を拒絶した。流石に3人の大天狗を敵に回したくはない。
「なんだ八大…八人の上司がいるのは大変だなと」
オオスは八大天狗と言いかけて直した。企業みたいになってしまった。
「今更ですがうちって大企業みたいなものですかね?」
文はオオスへ尋ねた。外の世界の企業というのは把握していない。
企業が天狗社会なら外の世界を考える参考になりそうだと考えていた。
「大企業だね。八人同格の幹部がいて人材豊富で羨ましい」
オオスは大企業の要件を思い出した。天狗社会は100人以上の従業員は余裕で満たしていた。
「人材不足で?貴方の会社」
文は癲狂櫟林に関して探りを入れた。山の妖怪としては麓の妖怪の脱退者である癲狂櫟林に関して知る必要はあった。
今後の戦略上大事な情報であり、文が出世するなら値千金の価値があった。
「いやあ、優秀だよ。うちの団子屋」
オオスは癲狂櫟林のトップであるとは言わず、イーグルラヴィ達の経営する団子屋を挙げた。
文はイーグルラヴィと仲が悪かった。オオスはこれ以上話す気は無いと暗に文へ告げた。
「「ははははは」」
オオスと文は乾いた笑いを高らかにした。腹の探り合いでこれ以上得る物はない。
コロコロと態度を変える二人は妙に目立ってしまっていた。
「母上―。アレなに?」
3歳前後の子どもが指を刺して尋ねた。子どもはオオスと文のようなやり取りは見た事がなかった。
「しっ、見ちゃいけませんよ。あれは大人になったらする笑い方よ」
母親は知る時が来たら一人前だと我が子をあやして連れ帰った。
しばらく笑ったオオスと文は今後について語りあった。