オオスは、癲狂櫟林に所属する妖怪の一本松の女と組み、松材に特化した林業を営んでいた。
癲狂櫟林はオオスとは提携先の第三者という事になっている。
人里の為になる事業であると、オオスが保証している体裁を取っていた。
この件を霊夢は知らないが、守矢神社の八坂神奈子はオオスと癲狂櫟林へ抗議文を送りつけた。
当初の神奈子は手紙など生温い方法ではなく直接攻め込む気満々だった。諏訪子が止めた。
『神奈子は侵略者の思考で困る』諏訪子は文明人らしい振る舞いを主張した。
神奈子は少し考えて諏訪子に同意した。……決して蛮族ムーヴを自覚したからではない。
神奈子は現在、八咫烏の力を誰に与えるかを検討していた。
核融合の力の扱いをどうするか検討している最中に揉め事は良くないこと。諏訪子の顔を立てる。この二つで手を打っていた。
諏訪子はこれ以上の面倒が嫌なので安堵した。……オオスが神奈子へ警戒しろというお願いはここで果たされてしまった。
神奈子の手紙に対し、癲狂櫟林は『知るかそもそも俺たちはテメェのせいで生活困ってんだよ、この野郎』と返事をした。
一方、オオスは『テメェは妖怪の山というデカいシノギがあるだろうがアアン!?』と返した。
神に喧嘩を売っているとしか思えない内容だが、それはそれは丁寧な京都弁で覆い隠されていた。
手紙を読んだ諏訪子は顔を引きつり、神奈子は一見すると遜った対応を見て一旦保留とした。
普段の神奈子ならば奥に秘めた罵詈雑言を読み取れたのだが、忙しかった。
オオスは癲狂櫟林へ神奈子が攻め込んできたら撃退してやると意気込んでいたが不発に終わった。
癲狂櫟林の面々は過去の恨みが混じった手紙を送って戦々恐々としていたが何事もなくホッとした。
恨みはあったのだが、トップで一応人間のオオスが一番殺る気満々なので逆に冷静になっていた。
この一連の対応からオオスは守矢神社が理性的なのかもしれないと、若干誤解した。
オオスは神奈子から向上心、野心を感じ取っていた。
核開発並みのヤバいことをしているのではと疑い、イカれた守矢と妄想していた。
オオスは自分が神嫌いだからとはいえ、いちゃもんが過ぎたと珍しく真っ当に反省していた。
……オオスの妄想は完全に正しかった。
神様が二柱という稀有な神社である。第三者的には荒々しいが理性的な一柱の人格があるように見えていた。
オオスは神奈子の本質を言い当てていたが、核開発という非常識を妄信する程ではなく、それ以上の追及できなかった。
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一本松の女は木材を取り扱う会社の社名を『癲狂木材』としようとした。だが、オオスは流石に縁起が悪いので止めた。
直訳すれば狂気木材である。不安しかない。オオスでも流石にどうかと思った。
最終的に一松櫟店という無難な名前になった。
どうでも良くはないが、つい最近、比那名居天子が再建した博麗神社が倒壊した。
今現在、博麗神社の再再建が計画されていた。伊吹萃香が立てさせられるという話である。
一松櫟店は現在、大口契約があるという。オオスは部下の会社の事情は知らないなと耳を塞いだ。
オオスは博麗神社の木材需要を理解しているが、なるべく知らない振りをすべく振舞っていた。
八雲紫からの依頼でなければ他の木材屋を提案していた。
……オオスの力で促成栽培した松でなければならないのが嫌だった。何故なのかがわからない。
オオスは善良な一般里人であって、天子除けになる神か何かではない。仮にそんな存在であっても効果は間違いなくないに等しい。
「経木として使うのでしょう。団子の包装紙でも使っていますし」
オオスは松を紙のように薄く削った経木を例に挙げた。
鈴瑚屋や清蘭屋といった団子屋等にオオスは経木を卸していた。
「松はねじれながら成長します。柱などには不向きです」
オオスは萃香に一応言った。大工へ言うのも釈迦に説法だろうが即席栽培の松であるので柱としてはやや不安だった。
「お前なー……面倒な奴だ、はぁ」
松を引き取りに来た萃香はオオスの面倒な振る舞いへため息をついた。
オオスの言うように、加工で出た端材か何かで萃香が経木を作るかもしれない……というのは無理がある。手間がかかるし。
もしくは、博麗神社の経木として売れという提案を霊夢に伝えろという事かもしれない。
萃香はそんな面倒なことはしない。萃香も面倒なのでオオスの言葉を否定しない。
萃香は、オオス自身がそれを言えと思った。
普段からそういうことを言っていれば霊夢からの当たりも良くなるだろう。
もっとも、突然オオスがそんなことを言えば霊夢は怪しむだろうが。面倒な関係である。
「しかし、これら松の耐水性や防腐性、何より粘り強さは梁や桁などの横架材には向いています。いやあ、建材としても使えそうだなぁ」
オオスは白々しく大げさに萃香へ語った。
霊夢の住む博麗神社で使われるなんて思っていない。だが、飽くまで建材として、これらの松を用いるならそのようにすべきだと萃香へ念押しした。
「……わかったから、なっ?」
萃香は聞き分けの無い子どもをあやす様に言った。
まるで頭の残念な子を扱うような、たおやかな母性を感じるような振る舞いだった。
「……」
オオスは流石に恥ずかしくなって顔をそむけた。
なんでこんなバカみたいな事をしているのだろうか。オオスはここしばらくで最もダメージを受けた。
萃香は酒を飲んで忘れた。何故かオオスの態度を見たらこちらまで恥ずかしくなってしまった。
その日の夜、八雲紫は隙間で萃香を呼び寄せた。何故か不機嫌な紫は萃香へ八つ当たりをした。
萃香は紫の理不尽に対しキレた。
『紫にあんな顔をしないとかそんな少女みたいな理由でキレるか、馬鹿じゃねぇの年を考えろ』と。
……それはまぁ酷いことになった。