博麗神社の宴会当日招かれてもいない男は宴会前に到着していた。
オオスは着物姿であり、大きな袋を担いでやって来た。
「博麗神社の巫女改め、妖怪神社の素敵な巫女さんご機嫌よう!」
オオスはそう言って霊夢に挨拶する。明らかに馬鹿にしているようだ。
「ちょっと誰よこいつ呼んだの」
霊夢は招いていない客にご立腹だ。最も変に気を使われるとそれはそれで調子が狂うが。
「呼ばれていないが来た次第です。礼儀として酒とツマミは用意してあります。
なお、いらないのであれば即持って帰ります」
オオスはそう言って担いできた袋を広げる。ここ数日で揃えた季節の品々だった。
「霊夢。これ多分、迷いの竹林のタケノコだぜ!人里では見かけない立派なやつだ。
他にもふきのとうにタラの芽…これどうしたんだ?」
魔理沙は普段様々なところに出かけるのでオオスの持ってきた品々の価値がわかり、素直に驚いていた。
「迷いの竹林には友人が住んでいましてね。協力して貰って集めたり買ったりしました。
酒は森岡さんところの日本酒。これは竹林付近の水を使った酒。竹林の食材に合うこと…」
オオスは魔理沙の反応に気を良くし、長々と自慢し始めた。
「ああ、良いわよ!良いわよ!どうせ妖怪ばっかり集まっているんだし同じことよ!」
霊夢はオオスの参加を投げやりに認めた。
オオスはしばらくぶりの顔を見つけて挨拶しに行った。
「あら、こんばんは。元気にしていたかしら?」
幽々子は白玉楼のときと変わらずにオオスに挨拶する。
「…どうも」
妖夢は何か気まずそうにオオスに会釈をした。
「ああ、幽々子さんに妖夢さんこんばんは。お久し振りですね」
オオスは何事もなかったかのように挨拶を返した。
「あの後、挨拶もなしに帰ってしまい申し訳ありません。
…ここなら会えるかと思ってきたのは正解でしたね」
オオスは挨拶もなしに帰ったことを謝罪する。
勿論、後々冥界に行く気ではいたが、ここで会えたことを喜んだ。
「気にしなくて良いわよ。お世話になったわね」
幽々子はオオスに気にしないように言う。いつものように微笑んでいた。
「こちらこそお世話になりました。今度白玉楼にまた伺っても良いですか」
オオスは幽々子に礼を返し、冥界テロリスト未遂犯は訪れて良いか念のため聞いた。
「ええ、勿論よ。いつでもいらっしゃい」
幽々子は何だか嬉しそうだ。
「えっ…えっ…」
妖夢は幾ら恩があるとはいえ、冥界テロリスト未遂犯を招いて良いものか困惑していた。
「では、また後程。私も料理したいと思いますので楽しみにしていてください。
それと妖夢さんを借りても良いですか?無理でしたら良いんですが」
オオスは妖夢を借りて良いかと主である幽々子に尋ねた。
「妖夢。いってらっしゃい」
幽々子は即答で妖夢を送り出した。
「ゆ、幽々子さま!私急に具合が…」
妖夢は急に具合が悪くなったようだ。
「ありがとうございます。ではいきましょうか妖夢さん。
早速ですが、楼観剣ってタケノコ斬れますかね?」
オオスは妖夢を引っ張っていく。妖夢の都合など無視だ。
「楼観剣はそんなことに使うものではない!」
引きずられながらも妖夢はオオスに叫び返した。
博麗神社の調理場前まで勝手にお邪魔したオオスは見知った顔を見つけた。
「咲夜さんこんばんは。…パチュリーはいますか?」
オオスは咲夜に挨拶をした。そして、パチュリーがいないか咲夜に囁くように尋ねる。
「こんばんは。パチュリー様はまだ図書館に引き籠っているわよ。
まもなく来ると思うけど。…何か用でもあったのかしら?」
咲夜も挨拶を返すが、何故パチュリーを今いないか聞いたのか気になって聞き返した。
「…気のせいだと良いんですけどね」
オオスは小さく呟いた。僅かだろうが気配の変化はオオスにとっては死活問題だ。
オオスはまだ確証が持てなかった。だが、良く考えたら今は宴会だ。
害がないならそれで良いと思いなおした。それにどう考えてもオオスの出る幕ではない。
「何か言ったかしら?それに妖夢を連れてどうしたの」
咲夜は聞き取れなかったようだ。そして、オオスが妖夢を引きずって来たのを見て言った。
「何でもないです。ささ、妖夢さんその刀でパフォーマンスの練習をですね」
オオスは誤魔化して妖夢に芸を披露するように依頼する。
「しないからね!しないからな!!」
楼観剣を芸か何かに使わせる気満々のオオスに妖夢は叫んだ。
「取り敢えず用意してきたタケノコ型の模型です。
これらの番号順に斬ればタケノコの刺身の完成となります」
オオスは予め用意しておいたタケノコの模型を出して説明し始めた。
タケノコの刺身を妖夢に即興劇としてやらせるのだ。
「無視するな!しないからね!」
妖夢は叫びまくって元気そうだ。
「できないのですか?まさかとは思いますが白玉楼の剣の指南役ともあろう方が!?」
オオスは妖夢を煽り出した。できないならできると言わせるまでだ。
「で、できるわ!できるに決まっているじゃない!」
妖夢は売り言葉に買い言葉で思わず返してしまった。オオスに言質を与えてしまった。
「咲夜さん大道芸に…じゃない一名追加です。
私は咲夜さんとこれから調理するので妖夢さんは練習しておいてくださいね」
オオスは咲夜に芸人一名と調理人一名追加で参加を希望した。
「今、大道芸人って言ったなお前!」
妖夢の叫びは虚しく調理場前で響いた。勿論、オオスは無視した。
「…まぁ、手伝ってくれるのならありがたいわ。よろしくね」
咲夜は面倒くさそうな口調ながらもどこか嬉しそうだ。
そして共に調理場で料理を開始した。
オオスはまずはタケノコでグラタンを作るつもりだ。
一筋の風が博麗神社の上を吹く。それはありきたりであり良くあることだった。
もし、そこに射命丸文がいれば何か違和感を覚えていたかもしれない。
だが、まだいなかった。いても何かできたわけではない。
知っていても対策しようのない存在がそこにはいた。
「危ないなー。もう見つかりかけるとは思わなかったわー…まだ何もしていないのに。
鬼のことを覚えているほぼ唯一の人間なだけあるのかな?…ただ、嘘つきなのがなぁ」
鬼は幻想郷のどこにでもいてどこにでもいない状態で愚痴を溢す。
オオスと呼ばれる男に異変を起こす前に勘付かれた。
本来鬼はオオスのような嘘つきは嫌いだ。
まぁ、悪意のある嘘は少ないのでその鬼としては許容範囲内だ。
その鬼はオオスと名乗る男が『鬼』を一人だけ覚えていて黙々と日々対策していたのは見ていた。
鬼は幻想郷にもういないと言われても、いるとほぼ断定して対策する様は鬼から見ても滑稽を通り越して病的だった。
最も鬼の見た限り自らの害に成りえる程ではない。
…本当に男は基礎能力が弱すぎた。それが鬼に取っては残念極まりない。
だが、一人でも鬼を覚えていたことだけはとても嬉しい。鬼はそれが目的なのだから。
しかし、男が邪魔するならばそれを見逃すほどの好感ではない。
もし、オオスが邪魔するようなら容赦しない。鬼として叩き潰すまでである。
「気分を変えて今日から賑やかな楽しい宴会だ。いつまでもどこまでも続けていくよ!
毎日萃めて萃めて萃めてどんちゃん騒ぎ!皆で楽しく飲んで歌え!!
そしたら、皆も返って来るだろうさ!」
鬼は笑う。これからの宴に起こることを予想して自らの瓢箪に入った酒を飲む。
だが、鬼は知らない。
奇しくも鬼と似たようなことを形は違うが外の世界でしようとした者がいた。
鬼は幻想郷の全てが見えていても過去までは見えなかった。
それはそれとして宴会は進む。皆が遅い春を祝い飲み騒いでいた。
「……妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」
オオスが初対面時の妖夢の物真似をした。
わざわざ妖夢と同じ格好を用意していた。
そして、声から体の動き方まで完璧に同じだ。
「や、やめてー!!」
妖夢は顔を真っ赤にして叫んだ。
「妖夢にお姉さんっていたかしら?」
幽々子は思わず本気で自らの記憶を思い返していた。
オオスのそれは本当に妖夢の姉と言われても全く違和感がなかった。