嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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有り得ないことは有り得ない

春も終わりを迎え初夏の兆しが見えて来たその日。

 

オオスは自宅内にある隠し部屋にて疑問を解決しようと机上で計算していた。

それは、外の世界の天文学と幻想郷内の天文学の差異の研究だった。

永遠亭に行った際、月の民という存在がいた。正直、それらには興味がない。

しかし、自らの天文学の知識と幻想郷内の知識がズレていた場合、困るのだった。

 

もし、何らかの現象でオオスがどこかへ急に転移したら?

これは外でオオスが経験していた問題だった。

 

外にいたオオスならば天文学の知識で大よその位置を割り出して何とかしてきた。

オオスは幻想郷にいないと言われていた鬼の出現を思い起こす。

 

オオスは外で学んでいた『有り得ないことは有り得ない』事実を思い出していた。

 

そこで自らの知識の再確認していた。

オオスは赤外線天文学の簡易な検出装置を作成し、幻想郷の夜空を確認した。

結果、1~5 μm の波長域には宇宙の変化が見られなかった。

 

オオスからすれば現代科学の初歩だが検出結果に問題なかったことになる。

 

今度はオカルト部分での検証となった。

つまりはオオスの持つ占星術等であった。だが、少々厄介な問題があった。

前に忠告した占術士にオオスが頼ろうとすれば意図せずにやらかす可能性があった。

 

そして、パチュリーに相談した場合、永遠亭のことが漏れてしまう可能性があった。

 

オオスは困った。知識の照らし合わせでそのきっかけが月の民である以上、知識の齟齬からパチュリーなら勘付いた。

適当なことを言って誤魔化すことも可能だがあまり気が進まない。

 

さらに下手したら、永遠亭勢力と敵対する可能性が高い。

 

彼女たちは幻想郷の住民という意識が希薄だった。もしかしたら、というかないのだろう。

月の高度な学術式まで仕込んで三重に隠れ住んでいることからも明らかだった。

 

仕方がなく、オオスは自身の占星術を検証するために魔法の森に来ていた。

あそこなら何しても基本的には問題ないというところだった。

 

 

 

魔法の森は人里から少し離れた比較的行きやすい場所にある。

だが、森の中は禍々しい化け物茸の放つ瘴気が漂っている。

普通の人間だと息をするだけで体調を崩し、長時間入れば下手したら発狂して死ぬ。

森はジメジメと湿っているので化け物茸が際限なく育つ。

その瘴気は妖怪すらあまり近寄らないほどである。

 

だが、オオスはその辺に関しては素で完全耐性を持っていた。

つまり、オオスにとって魔法の森は安全地帯なのだ。

一般的な人里の人間のオオスとしては複雑だが、オオスはここで野宿すら可能だ。

寧ろ、何で今までしなかったのかとオオスは即座に開き直ることにした。

 

オオスは魔法の森の中に入り占星術の効力が高くなる夜を待っていた。

またついでに化け物茸を採取していた。

化け物茸の胞子がもたらす幻覚はオオスには効かないが、最近使っていない煙幕の材料になる。

オオスが改良すれば適当な妖怪ならば撒けるものになるので貧弱なオオスは一人で化け物茸を黙々と採取していた。

 

 

オオスはこのとき、人に会う可能性を考えていなかった。

 

ところが、

「あっ…」

霧雨魔理沙とばったり出会った。まさかのエンカウントである。

 

だが、オオスは魔理沙が魔法の森に住んでいること。こそこそ研究しているのを知っていた。

とはいえ、行動範囲が広い彼女と魔理沙の住む魔法の森とはいえ出会う確率はどれ程低いのか。

オオスは自分の今日の不運を呪った。正直、帰りたい。

 

「よ、よう。元気にしていたか!」

魔理沙はそうオオスに挨拶した。魔理沙も何だか気まずそうだ。

宴会ではそれなりに打ち解けたが素面で会うのはまだお互いに慣れていない。

 

「こんにちは。魔理沙さん。お元気そうで何よりです」

そう言ってオオスは挨拶し返す。紅魔館でするように紳士の礼だ。

 

「…じゃねぇ!お前何でこんなところにいるんだ!?」

魔理沙はオオスに危険地帯である魔法の森にいることを聞いて来た。

 

「ああ、大丈夫です。ここは良いところですね。中々快適なところだ」

オオスは極々普通に自然に戯れているように言った。しらばっくれるのだ。

 

「ええー…ここにいて具合悪くならないのか?」

魔理沙は怪訝な顔をした。

 

「この程度の瘴気なら問題ありません。

 ちょっと森で採取と実験がしたくてやってきました」

オオスは正直に言う事にした。

魔理沙はどうもオオスのことを心配してくれているようだからだ。

 

「…霊夢じゃないけど、お前のような普通の里人は無理があるぜ」

魔理沙は大変失礼なことを言い始めた。

だが、一般里人の大半は魔法の森に長時間いれば発狂しかねない。

 

「妖怪ってほら私のような里人には危険でしょう?だから、少ないここは快適です。

 更に言えば、ここの化け茸の胞子を使って妖怪から逃げる際の煙幕も作れますし」

オオスはもうぶっちゃけた。また魔理沙にエンカウントしても面倒なためだ。

 

「…まぁ、大丈夫なら良いけど。でも、夜になったらここも危ないぜ」

魔理沙はオオスに警告してくれている。

話してみると意外と常識的な良い子だなとオオスは思った。

オオスからすると紅魔館に頻出する捻くれた本泥棒なのだが。

 

「その夜の方が本命なんですよね。私が実験したいことって」

オオスは誤魔化さずに正直に話すことにした。もう実験は諦めて帰ろうかとも思った。

そもそも魔法の森じゃなくても実験はできなくはない。誤魔化すのが面倒なだけだ。

 

「…困ったな。私も用事があるし。よし、ちょっとついて来い」

魔理沙はオオスの手を引っ張ってついてくるように言った。

…ついて来いも何も手を掴まれてはオオスも行くしかなかった。

 

 

 

魔理沙と森の奥の方へ歩いていくとまさしく魔女の家という風な建物にやって来た。

 

「おーい!お邪魔するぜ」

そう言って魔理沙は家の扉を勝手に開けた。ノックもなしである。マナーが悪い。

 

「ちょっと魔理沙さん。ノックくらいしましょうよ」

オオスは魔理沙に注意をした。オオスはマナーには煩いのだ。

 

次の瞬間、何かの殺気がした。

オオスは無理やり魔理沙の手を引っ張った。

 

「あら?誰かと思えば魔理沙と…この間の紙芝居屋さんね」

そこにいたのは人形のような整った容姿の金髪の女性だった。

青のワンピースのようなノースリーブに、ロングスカートを着用し、肩にはケープを羽織っており、頭には赤いリボンが巻かれている。

オオスは紙芝居屋の競合他社。人形劇の魔法使いアリス・マーガトロイドだとわかった。

 

オオスとアリスは会話したことがなかった。宴会でも基本的に関わっていない。

あまり話さない性質なのかもしれない。

 

「いきなり何をするん…」

魔理沙はオオスのいきなりの行動に怒りかけ、目の前の人形達の刃を見て言葉を止めた。

 

「殺す気か!?」

魔理沙はアリスを怒鳴りつけた。オオスから見ても見事な殺意の高さである。

あそこまで沢山のトラップ、ならぬ殺人人形を操れるのはオオスも見習いたい。

 

「いい加減マナーというものを学びなさいな」

アリスは何度にも渡る魔理沙の無礼な訪問に怒りを抱いていたようだ。

それは怒るとオオスは思った。

 

「ああ、ごめんなさい。つい、殺気がしたので引っ張ってしまいました」

オオスはアリスに魔理沙を引っ込めたことへ謝罪した。

無礼な訪問者にはオオスもそれ相応の対応を取るからだ。

 

「あら、良いのよ。ちょっとした躾のつもりだったから」

アリスはそう言ってオオスを許してくれた。中々優しい娘である。

 

「普通、そこは私に謝らないか!?」

魔理沙はご立腹のようだ。マナー違反は誅殺である。とはいえ、魔理沙には今回恩があった。

 

「ああ、ごめんなさい魔理沙さん。

 …ひょっとして私を連れてきたのはアリスさんの家に案内するためで?」

オオスは魔理沙の意図を読み取った。

 

「そうなんだけど…あ、ヤバい!そろそろ時間だ!」

そう言って魔理沙は駆け足で去って行った。

 

「アリス!そいつ夜まで森にいたいって言う馬鹿だからよろしく頼む!」

魔理沙はそう叫んで今度こそ見えなくなった。

 

「…今度お礼の品を持っていくべきですね」

オオスは呟いた。

魔理沙がオオスを馬鹿と言ったのは仕方がない。実際、オオスが逆の立場なら注意した。

 

「貴方なら大丈夫だと思うのだけど…まあ、折角だし家にあがる?」

アリスはオオスを家に招いた。

 

 

 

アリスの家の内装は外の世界で見た玩具の妖精の家という感じだ。

薪ストーブに丸テーブル、振り子時計と少女らしい生活感のある空間だ。

 

オオスはアリスへ勧められて椅子に腰掛ける前に手土産の代わりを渡した。

 

「これはつまらない物ですが」

オオスはそう言って自分のお菓子として持ってきていたクッキーを渡した。

…来るのであればもっと手の込んだ物を用意していたがこればかりは仕方がない。

 

「あら、どうも。紅茶を淹れるからいただこうかしら?」

アリスはそう言って人形に紅茶を淹れさせ始めた。

アリスの家は色々な人形が作業していた。

掃除に洗濯にお茶入れ果ては魔法の研究までしていた。

 

オオスは自分でやらずに人形達を操りやらせるアリスは逆に大変ではなかろうかと心配になった。

 

「すみません。突然お邪魔する形になりまして」

オオスは謝罪する。

特に理由がないが同業他社と幻想郷でパチュリー以外の本物の魔法使いとの接触だった。

 

「魔理沙が連れて来たのでしょう?気にすることはないわ」

アリスはオオスに言う。実に落ち着いていた。

 

「…善意だったので断りにくくて」

オオスは善意には弱いのだ。悪でない鬼である萃香にも弱い。

 

「まあ、ゆっくりしていきなさいな」

そう言ってアリスは魔導書を読み始めた。

 

「ありがとうございます」

オオスも紅茶を飲みつつ、占星術の術式を確認したり更に改良したりして時間を潰した。

 

 

 

辺りが暗くなり窓からは月の光が見え始めて来た。

 

「ありがとうございました」

そう言ってオオスはアリスへ挨拶し、帰ろうとした。

なお、七時間くらいお互いに無口だった。

人伝に聞いた話だと無言で怖いだの不気味だの言っていたが、一人でいるときのオオスもこんな感じなのでそういうのは感じなかった。

 

「待って」

アリスがオオスに声をかけた。

 

「何かしら実験するみたいだけど私も見ていいかしら?」

アリスはオオスに聞いた。どうも魔法使い的に気になるらしい。

 

「ええ、構いませんよ。…とはいえ大したものではありませんが」

オオスはアリスへの礼としてであれば安いものだと思った。

 

夜空を見上げ気の流れから算出し、特定の位置と方位を割り出したオオスは大樹を範囲として9m四方に運勢を上げる。そして次の術で使う時の天魔と呼ばれる存在から見られぬように角度を逸らす。

 

「霊夢が昔使っていたものと似ているわね」

アリスが呟くように言う。

 

「まあ、私のこれは占星術ですが陰陽道でもありますからね」

オオスはアリスの理解が正しいことを伝えた。

 

「ですが、ここからが本番です」

そう言ってオオスは水晶を取り出した。

オオスのやろうとしていることは超限定的な過去視だ。

場所が限定される上に安全を確保してだと短時間でしか使えない。

正直、ほとんど役に立たないに等しい術だった。

 

オオスは礼にアリスに時間設定を依頼してみることにしていた。

それにオオスでは過去視が成功したかもわかりづらい。

 

「アリスさん。この場所限定になりますが見たい過去とかありますか?」

オオスはアリスに尋ねた。そして、過去を覗く術だと説明した。

 

「ここで、だとねぇ…」

アリスは考え込んだ。何か思い出でもあるのだろうかとオオスは思った。

 

「一年前の春とかできるかしら?日付とか時間も大丈夫?」

アリスはそうオオスに言った。

オオスが見た範囲になるが、感情が強く出ている気がする。

 

「可能です。この場所限定なら」

オオスはアリスに同意した。

 

「じゃあ…」

そう言ってアリスは時間をオオスに伝えた。

 

 

 

「できました。安全を確保した上だと短期間しか見られませんが…」

オオスはアリスの言う時間設定した。アリスの声で時間を水晶に吹き込んだ。

 

「本当に過去が見られるの?」

アリスは何だかそわそわしているようだ。

…オオスの気のせいかもしれないが。

 

「ええ、勿論…あっ、見えましたよ」

オオスはアリスに見えたことを伝えた。

 

水晶から過去が映し出された。

 

そこには、ロングヘアーの緑髪に青のベストとスカート姿の女性の亡霊が映っていた。

 

『魔界の連中調子乗ってるわー…潰さなきゃ!人間界は私のものよー!!』

何かとんでもなく物騒なことを言っている。

これは明らかに悪霊ではないかとオオスは思った。

 

「あら、本当!魅魔だわ、これ」

アリスが驚愕している。オオスが初めて見る表情だった。

…宴会のときと人形劇のときだけだが。

 

恐らく声まで聞こえるのは想定外だったようだとオオスは思った。

だが、それ以外の感情も含まれていそうだ。付き合いの浅いオオスにはわからないが。

 

「お知り合いの方で?」

オオスはアリスに聞いた。

 

「ええ、そう。ここではもう見ないけど」

アリスは懐かしそうな声色で言った。…オオスは発言に違和感を覚えた。

 

『ん?何か誰かに見られているような気がするわね』

映像の魅魔は何かに気づいたようだ。

 

オオスは即座に水晶を壊した。

…こちらに魅魔が来る可能性があったからだ。

過去と現在を弄ると面倒なことになりかねない。

 

「…凄い方のようですね。下手したら神霊か何かで?」

オオスは内心本気で焦っていた。

対策をした上での過去視の発動で今までこんなことなかった。

 

だが、占術が発動したので外と幻想郷は同じことができることを再確認できた。

 

「いえ、ただの亡霊よ」

アリスは懐かしそうにそう言いきった。

 

そう、アリスは懐かしそうなのだ。…一年前の春の出来事のはずなのに、だ。

 

「…ひょっとしてパラレルワールドか何かのご出身で?」

オオスはアリスに尋ねた。

オオスの経験上、過去視の設定者が違う場合に有り得た過去を覗けたことがあった。

 

それは一度きりだったが。

…時間軸が混ざり合う世界の存在もオオスは知っていた。

有り得ないことは有り得ない。

 

「ありがとう良い物が見られたわ」

アリスはオオスの答えには答えず、だが笑顔で返した。

 

「それは何よりです」

オオスはアリスへ無粋なことを聞くのを辞めた。

 

 

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