永遠亭のいつぞや訪れた客間にてオオスと永琳、輝夜が対面していた。
周囲は完全に人払いがされていた。
…外から中を伺うことは如何なる存在であろうとも不可能である。
永琳と輝夜の本気がわかる。
沈黙が場を支配していた。
そんな雰囲気の中でオオスは変わらぬような態度でお茶を飲んでいた。
全く空気を読んでいない。
オオスのお茶がなくなった段階で沈黙は止んだ。
「さて、私の推理を述べさせていただいてもよろしいでしょうか」
オオスは挨拶もなしに自らの推理を述べたいと申し出る。
それはまるで推理小説の探偵であり、実際過去そうであった。
「構わないわ」
輝夜が永遠亭の主人としてオオスの発言を許す。永琳は沈黙したままだ。
「鈴仙さんの能力を使ってこっそりと月と交信をしていた。これが前提です」
オオスは前提を述べた。これが違うと推理も変わってくる。
だが、オオスはこの一番可能性が高いと思っていた。
鈴仙の能力ははっきり言ってチートである。何にでも応用可能な能力だった。
「ええ、そうよ」
永琳はオオスの言葉を肯定した。
これくらいは読んでいたと永琳も考えていた。
問題はオオスがどこまでわかっているかだった。
「となると、今まで問題なかったのに、今更何かしらしなければならないことがあった」
オオスは当たり前の言葉を続ける。
「鈴仙さんは永遠亭でもどう見ても浮いています。てゐとはまた違う意味で」
オオスはてゐを除外して話を進める。
なお、オオスはてゐを地上の兎というだけではない。
その正体を何となく察していたがここでは無視した。
「輝夜さんと永琳さんは月の民。一方、鈴仙さんは月の兎…。身分が違う」
永琳たちはオオスへ学術的な問答以外、月の情報を一切渡さなかった。
だが、あからさまな身分差は日常であり隠すものではなかった。
ここは正直、永琳の初歩的なミスだとオオスは考えている。誤魔化す手段はあるにはあった。
永琳は智謀、能力ともに桁外れだが、それ故に目の前の何かを見落とす弱点がある。
それを永琳が自覚しているかわからないし、致命的な物ではないとオオスは考えていた。
「つまり、かぐや姫の物語と違い、今回は鈴仙さんの方に危機が訪れた」
オオスは推理の本題を言った。
永琳と輝夜は沈黙を貫く。それが答えであるとオオスは受け取った。
「それもお二方を巻き込む程度には」
オオスは永琳が冷酷な判断を辞さない存在であることを永琳に強調して伝えていた。
だから、鈴仙の方が異変の目的であると気づかないと思われていると確信していた。
人は何であれ第一印象からは中々抜け出せない。これをアンカリングの罠と言う。
オオスは初対面時、永琳という圧倒的な知性を前に使うかもわからない罠を仕込んでいた。
「まさか月側も月の民である二人と一緒にいるとは思っていないでしょう。
地上人相手ならば簡単に連れ去れると思っていた。だから、迎えに来ると宣告した」
オオスは捲し立てる様に答えを突き付けた。反論は許さない。
オオスは言外に正解のみを並べ立てる。
「鈴仙さんを返さなければ月の使者を妨害するにしても、殺害しても別の所に隠れ住なければならない」
オオスは二人を見て、そして月の兎を思い出しながら言った。
「ですが、お二方は鈴仙さんを守るために月と幻想郷の間に何かしようと企んでいる」
実に仲間思いの関係だ。オオスは永琳と輝夜に尊敬の念を抱く。
…そこに幻想郷の、地上の民への配慮等ないことを知りつつも。
「私の推理は以上です」
オオスは以上をもって推理を終わらせた。
永琳も輝夜も拍手喝采とはいかないようだとオオスは場違いなことを思った。
「…あなたを連れ去ろうとした理由が述べられていないわ」
永琳はオオスに全て言い当てられた。
だからつい、オオスの推理の不足を指摘した。
「ああ、それを聞くのですか?」
オオスは呆れたように言う。
…敢えて避けていたのに永琳は意地が悪いと思った。
「私が月へ行くことが可能な技術も能力も持っているから。
何よりも誰よりも早くこれから行う異変の正体に気が付けるから」
オオスは自身の能力を永遠亭で"止まった"日々で観察されていたことに気が付いていた。
特に永琳に至っては実験動物のようであった。
オオスは自身ができることの大よそを悟られていると確信していた。
…最後の防波堤は機能していたが。
「最初に会ったときに私を殺害しておけば良かったのに…お優しいことだ」
オオスは殺されると思って輝夜の招きに応じたのだ。
もし、断ったら周囲への被害を考慮していた。
最悪、人里や紅魔館に被害に遭うことを考えていた。
実際は輝夜の気まぐれが大きなところだったが。
永琳が来る前に適当に話して返す気だったらしい。
喪服に使われている御伽噺の無理難題の五つの神宝。
火鼠の皮衣を持っていたオオスをコレクターとして招きたかったのかと推測している。
…オオスには輝夜の気まぐれは推理できない。想定外の一つだ。
だから、浦島太郎みたいなことをするなと永琳に最後お願いした。
「…今からでもやるとは思わないの?」
永琳がオオスに言う。目が笑っていない。
「鈴仙さんは私を殺そうとしませんでした。それが答えです。
…まぁ、最後は私が脅かし過ぎて、ちょっとだけ殺されるかと思いましたが」
オオスは最後半狂乱になってブチかましてきた鈴仙を思い出した。
正直、予め仕込んでなかったらオオスは死んでいた。
時速80㎞のトラックに引かれるようなものだ。死ぬ、死んじゃうと内心焦った。
「それは自業自得よね」
輝夜は呆れたように言う。てゐから聞いた限り自己防衛の範疇を超えていた。
鈴仙からしたら邪神が目の前に現れたようだろう。
…それを怒るつもりはないし、できないが。
「私を舐めて鈴仙さんだけで攫えると思ったのが間違いだと知っていただくためです」
オオスは敢えてそうしたことを二人の月の民に伝える。
そして、オオスの雰囲気が変わった。永琳と輝夜は不死の存在なのに“寒さ”を感じた。
永琳は“それ”の正体を悟った。
だが、それを目の前の人間如きができるはずがない。
「…月だろうが神だろうが私を思うが儘にできると思うなよ」
男が頬を裂けるような笑みで二人を嘲笑うかのように宣告した。
世界が違う、狂気染みた“何か”がいた。
すると、また空気が変わった。何というか物凄く雑な感じだ。
「以上、善良なる幻想郷の一般里人の主張のコーナーでした。
如何でしたでしょうか?解説の永琳さんと輝夜さん!」
オオスは朝の情報番組のようなノリで二人に感想を聞いた。
「貴方みたいな一般的な里人はいないと思うわ」
永琳は呆れたように言った。
だが、そこには今までのような実験動物を見るようなものはなかった。
「同じく」
輝夜は普段と同じように同意した。
「…酷い」
オオスは最近似たような反応ばかりされるので傷ついた。