永遠に時が進まない永遠亭の縁側で菓子をつまみながら他愛もない会話をしていた。
「貴方は永遠に生きたいと思わないの?」
私は彼に尋ねた。いつも同じ答えが返って来ていた。
しかし、この日は違った。
「永遠にですか?うーん…」
彼は何か考えているようだ。いつも適当に聞き流していたのかもしれない。
「生き物は成長を止めて食べ物は腐らない。割れ物を落としても割れない。
覆水盆も返る。私達月の民はその逆を穢れと呼び、地上を忌み嫌ったわ」
私は月の民として永遠と穢れについて述べる。
彼のような学者肌の人間ならばもしかしたらと思いつつ。
「興味がないです」
彼はいつもと同じ答えを言った。心底どうでも良いと改めて思ったようだ。
「またその答えね。…どうしてかしら?」
私はいつもとは違う反応から聞き返した。
私は永遠に生きることの恐怖か何かかと思っていた。
死の可能性が一切ないというのを苦しみと考えたのかと。
だが、彼は違った。
「だって、つまらないですよ」
彼はそう言うと私の目を見つめて言った。
「永遠、それは素晴らしいかもしれません。
私達地上に生きる者は生きているからこそ死ぬことを恐れ、永遠を望む」
彼は暗に死を恐れ、永遠を望んでいると言う。
では、一体何故なのか、思わず私は彼に聞き返していた。
「だったら何故かしら。それなら貴方も生きたいのではないかしら?」
私は意地悪な質問だったかと一瞬思いながらも言葉が止まらなかった。
彼は気にした様子もなく言った。
「死にたくはない。だからこそ今を生きるのですよ」
それは私にはわからない価値観だった。死にたくないから生きる。
相反した答えだった。
「わからないわ」
私は思わず内心を言葉にしていた。
「ひょっとしたら、この異変がきっかけとなるかもしれませんよ」
彼はそう言って別な何かを見て言った。
私ではなく他の誰かを見ていた。
「何がかしら?」
私は彼に思わず続きを促した。
「生きる楽しさというやつですよ」
彼はそう言ってお茶を啜った。
そして、その時は来た。
人間と妖怪がこの邸に攻め込んできたのだ。
私は彼の言葉を思い出していた。
「…その意味がわかった気がするわ!」
弾幕を交わして、躱して人間と妖怪が共に戦う様子を見ていた。
私はそれを酷く羨ましく思った。
永遠に月の使者に怯えて暮らす自分が馬鹿らしくなるほどに。
「戦いの最中に随分余裕ね。私は今からあなたを懲らしめるわけだけど!」
紅白の巫女が大幣を振り、札が何枚も弾幕となり飛んでくる。
どうも自分達を舐めていると思ったようだ。それは違う。
「ふふふ。焦らなくても見せてあげるわよ。
本当の月が持つ毒気を!それと、私からの美しき難題を!」
だが、私もそれに本気で答えることにした。
「これからが本番みたいよ。気をつけなさい。霊夢」
紫の衣装に身を包んだ妖怪が巫女に気を引き締めるように言った。
「懲らしめるのに変わらないから問題ないわ!」
紅白の巫女はそう叫び返した。
巫女というのは野蛮だと彼が言っていたのを思い出す。
確かに野蛮だった。思わず私は笑ってしまう。
「いや、そうじゃなくてね…ほら笑われているわよ。恥ずかしい」
紫の妖怪は巫女へ苦言を呈す。
相手は気を抜いたままだが、私は改めて宣言する。
「今まで、何人もの人間が敗れ去っていった五…」
そこまで言って私はふと、彼を思い出した。
難題の一つを持っていて未だに渡す気がない彼のことを。
「いや、四つの難題。貴方達に幾つ解けるかしら?」
だから、言いなおし、私は挑戦者たちへ難題を突き付けた。
全てが終わった後、永遠から時間を進めるようになってすぐ彼はやってきた。
「楽しかったですか?」
彼が私を見下ろして聞いた。
不躾であるがそれを気にせず私は笑って返した。
「ええ、とても」