永夜異変が終わり、博麗神社では宴会が催されていた。
オオスが『かぐや姫歓迎会』と題して酒から何から用意していた。
霊夢としても断る理由がなかった。…何しろただ酒である。ただ酒より旨い物はない。
紅魔館組はオオスそっちのけで何か怪しげな催しを企んでいる模様なので誘えなかった。
…どうせレミリアが今回の異変で月へ行くとか言い出したのだろうとオオスは睨んでいる。
オオスがいると輝夜辺りにバラされて行く前に終わると思っているのかもしれない。
どうせ材料を揃えられずにレミリアが泣きを見るのが目に見えている。
なので、この日は小さな前祝いという感じである。
後日、永遠亭主催で肝試しがあるらしい。オオスは行かないつもりである。
一般的な里人であるオオスが迷いの竹林に夜行ったら死ぬし、輝夜の思惑に乗る気はない。
そして、オオスは宴会芸のコツと題してネタを披露していた。
「私の思考模写…物真似芸のコツは相手の思考を模写するところから始まります」
オオスは過去探偵業で培った他人になりきる技術を観客に説明し始める。
「例えば霊夢さんなら博麗神社を繁盛させるため地道な努力ではなく、福の神を拉致してくる」
オオスにとって霊夢は良くも悪くもわかりやすい。程々欲深く人間らしい。
説明にうってつけだった。
「ちょっと!」
霊夢が茶々入れるがオオスは無視した。
「自分は精一杯努力していると自信満々でかつ手っ取り早いという理由でやり始める」
オオスは霊夢がやりそうだと心の底から思い『博麗霊夢』と自身を重ねる。
「故に、『福の神を拉致してくるのが手っ取り早いわね。努力して』となります」
オオスは博麗霊夢を演じ切った。
「ね?簡単でしょう?」
オオスは観衆に感想を求めた。
「ちょっと待ちなさい!あんたの中でどんだけ私がめついのよ!!」
霊夢はオオスの『霊夢』像にケチをつけて騒いでいた。
だが、
「すげぇ…完璧に霊夢だぜ」
魔理沙は余りにも霊夢がやりそうなことだったので、真似できるかは兎も角驚愕していた。
「ええ、ありありと目に浮かぶわ」
アリスも魔理沙に同意した。本当に霊夢そのものだ。
「皆して…大体、私は努力しているじゃない!それなのに人が来ないのがおかしいのよ!」
霊夢は意図せずにオオスが言う霊夢そのものになってしまった。
「ほら、この通り」
オオスは霊夢を指し示し、自身が正しいことを示した。
「もうお前の頭に霊夢が住んでいるんじゃないか?」
魔理沙は余りにも霊夢そのものだったために本気でそう思っているかのように言った。
「そうね。霊夢って二人いたのね」
アリスも思わず同意した。
「アンタたち!いい加減にしなさい!!」
霊夢はオオスよりも魔理沙とアリスにブチ切れて突撃した。
「霊夢、ちょっと待ちなさい!」
アリスは霊夢を迎撃するために体勢を整える。
「霊夢が暴れ始めたぞ!やっちまえ!!」
魔理沙はそう叫び、アリスと共に弾幕ごっこを開始した。
「…地上の民って業が深いわね」
思わぬ形で弾幕ごっこが始まったのを見て輝夜は思わず呟いた。
「最近の若い者はこれだから困るよ」
永琳も呆れたように呟いていた。呟きの年季が違う。
「でも、見ていて楽しいでしょう?」
オオスは呆れながらも楽しそうな輝夜を見て言った。
「ええ。貴方の言う通りだったわ。…今を楽しまなければ意味が無い」
輝夜は立ち上がったかと思うとオオスの目を見つめて言った。
「私はね月の力に敵う地上人が居るとは思わなかったのよ。
だから、今は少しでもここの話が聞きたい」
輝夜はそう言って霊夢ではなくオオスを見つめていた。
「姫様…」
永琳は何か言いたげだが、輝夜は言葉を続ける。
「私は永遠に住む者。過去は無限にやってくるわ。
千年でも万年でも、今の一瞬に敵う物は無い」
輝夜は永遠に生きながらも今を生きると決意したようだった。
「それは何よりで」
オオスは以前お茶を飲みながら話した内容を内心で反駁しつつ言葉を返そうとした。
だが、
「だけど」
輝夜はオオスの言葉を妨げ、言葉を続ける。
「私にそれを気づかせたのはあの巫女達ではなく、貴方よ」
輝夜はそう言った。その目は男の目だけを見つめ続けていた。
「…」
オオスも輝夜が何を言いたいかはわかった。
ここまで示されては流石にわかる。
「返事はいつまでも待っているわ。だって私は永遠に住む者ですもの」
そう言って輝夜は宴会に戻ろうとした。
しかし、
「面倒臭いです」
オオスは輝夜にそう吐き捨てた。
「…はぁ!?」
輝夜思わず声を荒げた。自分の一世一代の問に目の前の男は何と言ったのか。
側にいた永琳も呆然としていた。
オオスは言葉を続ける。
「私はここにいます。いつまでも待っています。
…今の一瞬に敵う物がないのであれば、私にそれを超える物を見せてください」
オオスは輝夜に難題を突きつけた。
かぐや姫が求婚者達に突きつけたような難題を自身へ示せと言い返した。
「…難題を突き付けられる側になって、初めてその理不尽さに気が付いたわ」
輝夜は思わず天を仰いだ。
「ふふ…」
永琳は思わず笑った。
良くも悪くもこの人間は思い通りになりそうにない。
「過去は無限にやってくるのでしょう?楽しみにしています」
オオスはそう言って輝夜に首を垂れた。それは優雅な振舞いであった。
そして、弾幕ごっこを止めに行った。
「酒飲んでそんなに運動したら吐きますよ!止めなさい!誰が掃除するんですか!!」
オオスはさっきまでの風情を台無しにすることを叫んで止めに入った。
「フフフ…上等だわ」
輝夜はオオスの言いたいことがわかった。
どこまでも自分の思い通りにならない男である。
この日、輝夜は何かを決意した。