妖怪の山の射命丸文の家から全力で逃げるために黄金の蜂蜜酒を一気飲みした。
オオスは妖怪の山はどころか人里、魔法の森を通り越した再思の道を過ぎ去って幻想郷の『行き止まり』に転移した。
オオスは周囲を木々で囲まれた多くの彼岸花が咲き乱れる場所に不時着した。
美しく咲き乱れる彼岸花を見て、そしてその周囲の歪みを察した。
オオスは偶然にも人里の人間として来ることができなかった。
だが、いつかは来たいと思っていた場所にたどり着いたことに気が付いた。
その場所の名は無縁塚。縁者の居ない者達の墓地である。
ここ、幻想郷には人間はいるが、無縁の人間は殆どいない。
人間達は住む場所が限られて纏まっているからだ。
ここの墓に眠る人間の殆どは幻想郷に紛れ込んだりして、妖怪の食料として連れて来られた外の世界の人間だった。
…オオスはどうしてもここに来たかった。
自身が有り得たかもしれない人々の墓に参りたかった。
オオスは神には祈らないし、祈れない。
だが、どこにあろうとも神に祈らずに誰かのために行動してきた。
それは外でも幻想郷でも変わらぬオオスの信念だった。
それが例え誰にも伝わらなくても、助けた者達に裏切られても、死を覚悟しても。
それは変わることはない自身への誓いだった。
オオスは幻想郷に来て初めて里人ではなく本来の『自分自身』に戻った。
オオスは自身の気を削り念じ、霊視を試みた。
オオスは顔を青くしながらも場所全体の歪みを見つめた。
墓の下に眠る外の人間の数がオオスの思っていたよりも多かった。否、多すぎた。
外と内、冥界の3つのありえない結界の交点は自分の存在の維持すら危うい場所であると改めて悟った。
オオスは彼らのために最大限出来ることするために普段は忌避する行為を行う決意をした。
それは神道の神楽による禊に近い物であった。
男は季節が秋の10月であること、恰好が山伏の白装束であったことに感謝した。
これから行うのは神に祈らないオオスができる範囲での最大限の儀式である。
それには穢れを清める白装束が最も相応しかった。
男は舞いを踊る。霊夢が見ればそれは神楽であるが内容が別物だと気づくだろう。
男は四方八方を切り払う動作により本来神を呼ぶ儀式を神無しですることを宣言した。
男が行う舞いは言うなれば真逆の神楽だった。神に仕える巫女等からすれば正気の沙汰ではない。不可能であった。
だが、それは神に祈らない男の誓いであり曲げられぬ信念を具現化した生涯を描いた舞いだ。
後ろから斬られ、傷つき、それでも救いを探した男が10月の神無月を再現する。
顔は見る見るうちに蒼白となるが、男は辞めない。
ここにいる大量の罪深い人間を救うにはまだ足りなかった。
舞いを続けて霊視によって罪人を救うだけの境を男は探す。
そして、境を見つけた。男は不可能を可能にして見せた。
それは神不在での神の力の行使だった。
三途の川へと続く中有の道へ自身の同胞を救いへと導くために男は強引に界渡りを行った。
「はあ…はあ…」
大量の霊魂を救済するという神の御業を力技で再現した男、否、オオスは動けなかった。
普段でもオオスにとっては生理的に無理なのに、今回は更に妖怪の山を登るという無茶苦茶をしたばかり。
どう考えても無理があった。
本来の神楽は神に祈ればそこまで大げさなものではなかった。
オオスは霊夢ならここまでせずとも簡単にできるだろうと思いつつ、レミリア達へ相談も何もないと自己嫌悪した。
何かするつもりならば相談するという約束なので今回のこれは正確には約束破りではない。だが、オオスにとってもこれは酷過ぎた。
そもそも本来であれば供養するだけで良かったはずだ。
だが、無縁塚へ来てしまったらどうしても自身の体が救われない同胞を救うために動いていた。
狂気染みた感覚に身を任せてしまった自身は結局変わらないどうしようもない愚か者である。
…誰かのためにと言いながら自身の力のなさに悔しさを覚えた。
そして、それでも神に祈れない自分が間違っていると認めたくなかった。
今回、自分は里人として恥じるべき行為をした。
流石に同じ里人の慧音達へ顔向けできないと人妖問わない危険地帯無縁塚でオオスは不貞寝しそうになった。
だが、
「…お前さん、人間じゃなくて神じゃないか?」
オオスの逆鱗に触れる声が聞こえた。それは女性のものだった。
オオスは即座に立ち上がった。
「私に対して神とは何たる屈辱!まだ悪魔の方が幾億倍もマシだ!!」
オオスは怒りのあまり声の主に叫んだ。
自身の身体の疲弊も糞もなく本当に精神力のみで立ち上がった。
それは凄まじい怒りであり、第三者からすれば血管が破れそうと心配する程であった。
「…悪魔のがマシって返しはどうかと思うよ」
大きな鎌を持った赤髪の女性はオオスの怒りに気圧されながらも呆れた顔をして呟いた。
女性はくせ毛の髪をトンボでツインテールにしており、服装は半袖にロングスカートの着物のようなものを着用し、腰巻をしていた。
女性の名は小野塚小町。死神であり、三途の水先案内人である妖怪だった。