オオスは輝夜にきちんと断りを言れてから肝試しを抜け出した。
だが、オオスは輝夜から約束をすっぽかされたと怒られた。
輝夜はまさか本気でオオスが抜け出すとは思わなかった。
だが、オオスは嘘をつくが、約束は守る男である。
売り言葉に買い言葉で輝夜が納得しそうな珍しい物を持ってきてやると約束してしまった。
…このままではオオスの喪服が持って行かれてしまう。オオスは大変焦った。
焦ったオオスは紅魔館へ行き図書館にてパチュリーと同席していた咲夜に相談した。
オオスはパチュリーと咲夜から賽の河原の石ころを投げつけられた。
二人からはそれをくれてやれとアドバイスを貰った。オオスは少なくともそう捉えた。
オオスは素直に二人へ感謝の言葉を述べて帰った。
なお、この光景を見たレミリアは呆れた。
オオスとしても石ころという発想がなかった。相談してみるものだとオオスは感心した。
しかし、翌朝起きて改めて考えたらそんなに珍しくないかもしれないと思いなおした。
オオスは改めて思い悩んでいた。…悩むところが違う。
オオスは悩みつつも人里で仕事である紙芝居をしていた。
最悪、自身の宝である喪服を持って行かれることを考慮しても紙芝居屋としての仕事を優先するのが善良なる一般里人のあり方だとオオスは自負している。
ところがその日、何と万引きが発生した。
紙芝居と同時に販売している甘味を盗まれた。
オオスが見つけた犯人は薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングの少女であった。
罪悪感もなしに、無意識に盗んだような気配だった。
オオスの目の前で万引きとは良い度胸である。オオスは感心した。
人里においてオオスから物を盗むことは、人殺しを含めた犯罪者や人食いの妖怪でもやらない重大事件である。
人里は騒然とした。あのオオスからよりにもよって盗みを働く者が現れた。
酒屋の森岡などはこの世の終わりが近いかもしれないと恐怖し、部屋の奥で震えた。
オオスは全力で盗人の少女の後を追った。あらゆる技術を総動員して。
妖怪の山に入り、天狗の術まで使って後を追った。絶対に逃がさないという鉄の意思だ。
…オオスは気が付けば旧地獄、通称『地底』まで来てしまっていた。
オオスは少女を見失っていた。
オオスはそこで地上ではないどこかであることに漸く気が付いた。
「どこだかわからんが逃がさん!私から逃げきれた泥棒はいない!!」
オオスは地の底で叫んだ。
金さえ払えば文句はないが、取り立てるまで絶対に帰らない。
そこにはパチュリーから96点オーバーキルと言われたネズミ捕りの姿があった。
オオスは街中を散策し、自身の知識と照らし合わせた。
ここは旧地獄、地底だとようやく気が付いた。
だが、オオスにとってそんなことはどうでも良いことだった。
盗人を捕らえるまでは絶対に帰らない。
里人が妖怪よりも恐れるものがそこにはいた。
「失礼。そこの鬼の方」
オオスは不退転の覚悟を決めて住民と思わしき鬼へ声をかけた。
「何だい…何で人間何かがここにいるんだ?」
鬼は声の主を見て驚いた表情をした。
鬼は金髪ロングの髪をしており、頭には赤い角が一本生えていた。
体操服に似た服とロングスカートをはいていた。
「私の名はオオス。地上で紙芝居屋を営む善良なる一般里人です。泥棒を追ってきました。
薄く緑がかった癖のある灰色の髪の少女を見かけませんでしたか?」
オオスは真摯に礼をした。少したりとも鬼に対して怯えを見せずに優雅な振舞いを見せる。
「…お前は虚弱なように見えるがここがどこで私を誰だか知っての事かい?」
鬼はオオスへ威圧を放った。
それは、ここは人間の来るところではないと言わんばかりだった。
その一方で、鬼は虚弱そうな男が地上から地底まで盗人を追って来たという話に内心興味を示した。
「知らん!私は命を懸けてでも泥棒に金を払わせに来ただけだ!!」
オオスは激怒した。完全に逆ギレである。
オオスのそれは質問に質問で返すなと言わんばかりの態度であった。鬼に対してである。
「ここは地底、そして私の名は星熊勇儀!許せるのは強い奴と勇気のある奴だけだ!」
鬼、勇儀はオオスに対して名乗りを挙げた。
しかし、同じ鬼でも勇儀の威圧を受けてここまでの啖呵を切れる者はそうはいない。
勇儀はオオスを内心認めていた。
「私は弱いし、卑怯で嘘つきである。だが、そこを通してもらいたい!
…我が誇りに懸けて盗みは許さない!!」
オオスは正直に言った。自分は弱者であるがそこを退けと勇儀に叫んだ。
…余計なことを言わなければ勇儀も素直に避けたであろうが、オオスはそんなこと知らない。
オオスは正直で善良な相手の心理を読むのが下手であった。
「…潔くカッコ悪いこと言っているんじゃないよ!だが、その誇りとやらを見せて貰おうか!」
勇儀はオオスの覇気に思わず気をされた。
内心、その事実だけでオオスの勝ちを認めたが、それでもなお最低限の力を示せと言った。
だが、
「断る!せめて殺すなら泥棒を捕まえさせてからにして欲しい!!」
オオスは常に後ろ向きに全力だった。
暗に戦えばすぐ死ぬから盗人を捕らえてから殺せと言い切った。
「…ああ、もう面倒臭い!この盃の酒を一滴でも落とせば勝ちとしてやるからかかってきな!」
勇儀は勇気があるのかないのかわからないオオスが面倒臭くなった。
だから、思わず無理難題をそのままオオスに突きつけてしまった。
オオスではこのお題は無理だろうと勇儀は思った。
「…」
だが、オオスには秘策があった。
地上から地底まで泥棒を追ってこれた術を即座に使った。
オオスは風と一体となった。
「消えた!いや、これは…」
勇儀はオオスが一瞬だけ消えたと思った。しかし、懐かしい見覚えのある術であった。
その事実に驚いて勇儀に空白が生まれた。
「はい。ダバー」
オオスは風から元に戻り、空気を読まずに勢いよく杯を傾けて酒を溢した。
そこに躊躇の文字は存在しなかった。勝てば官軍である。
「卑怯だぞ!…いや、自分は卑怯だって宣言していたな」
勇儀は思わず卑怯と叫ぶが、目の前の男は自分が卑怯と宣言していた。
これはどう判断して良いかわからないが、オオスの勝ちであることは明白だった。
「あはははは!…一本取られたなこれは!お前は天狗かい?」
勇儀は豪快に笑い飛ばした。まさかオオスが天狗だとは思わなかった。
虚弱な人間に見えるが狡猾な天狗らしい。勇儀は中々やると思った。
「私は天狗じゃないですよ?何故かこの間勘違いされましたけど」
オオスは勇儀に天狗ではないと否定した。オオスは本当に人間である。
「ならば、随分懐かしい術を見せて貰った!約束は約束だ。案内してやろう」
勇儀はオオスが人間であろうがなかろうが負けは負けとオオスへ案内を買って出た。
「…お詫びじゃないですが、あなたに同条件で勝てそうな人間が四人程います。
会えることは保証できませんが、その時は是非思う存分やってください」
オオスは他人任せなことを言った。妖怪は地底に来られないはず。
しかし、人間は別であると知っていた。妖怪同士の条約等オオスにとっては解読済みだった。
もしかしたら、勇儀を満足させる戦いになるかも知れないとオオスは思った。
「確かにそれでは詫びじゃないな!人任せ過ぎる。はははは!」
勇儀は嬉しそうにオオスの背中を叩いて笑った。
叩いた瞬間、オオスからみしり、バキッ!と音がした。
…音からして確実にオオスの骨の何本かは折れていた。
勇儀はオオスが本当に人間であることを漸く悟った。天狗だと思い込んでやり過ぎた。
だが、
「豪快な方だなぁ…」
オオスは笑ってそう言った。
そして、口から血を吐いた。オオスはなおも笑っていた。本当に楽しそうである。
…勇儀は虚弱な目の前の男を認めた。
勇儀とオオスは意外と仲良く雑談しながら旧地獄のほぼ中央にある邸の前まできていた。
「ここは地霊殿。お前さんの言う泥棒はここの主の妹だろう。
だが、気をつけな。ここの主は心を読む。…ついて行ってやろうか?」
勇儀は古明地さとりのことを思い出しながらオオスへ提案した。
勇儀はオオスと話していて気が付いた。
やはりオオスは頭で勝負をするタイプの人間だった。
昔、そういう卑怯な輩が嫌になって地獄へ来たが、オオスは別として勇儀は扱った。
オオスと話していて勇儀は気が付いた。
オオスは死狂いとも言うべき鬼すら引くレベル精神力の持ち主だった。
オオスがもう少し強ければと勇儀は惜しんだ。明らかに精神と力が釣り合っていない。
オオスもそれが悔しいようだと勇儀は悟った。
オオスは本心では搦手等使わずに戦いたいと言外に漏れていた。
そして、勇儀と戦えそうなその四人を羨んでいた。本人もそれは自覚しているようだ。
だが、精神力の怪物だろうがこの地霊殿の主、古明地さとりはオオスの天敵だった。
頭を使うオオスでは心を読まれて勝ち目はないだろう。
勇儀はつい余計な事をオオスに提案してしまった。
「いえ、結構です。というよりもこれは私の戦い。
申し訳ありませんが、口出しはしないでいただきたい」
オオスは勇儀が暗に言いたいことがわかりつつも断った。
オオスからしても確かに勝ち目がない。
だが、これはオオスにとって紙芝居屋としての誇りを懸けた戦いである。
鬼だろうが横から口出しされる謂れはない。
オオスは勇儀が意外に繊細だなと思った。
…勇儀本人に言うと怒られそうなので口には出さないが。
「鬼は本来、嘘つきが嫌いなんだが…気に入った!今度遊びに来い!」
勇儀は他人からすれば馬鹿げた理由で命を懸けるオオスを気にいった。
普通に金払えと言えば勿論、さとりはこいしの分の金を払うだろう。
しかし、オオスは本気で命がけで地底まで降りて来た。
その無茶苦茶加減と有り方は勇儀に取って実に好ましかった。
「それは是非!私は宴会芸だけは得意なんです」
オオスは勇儀の誘いに笑顔で答えた。
そして、
「もし、私の芸が気に入らなかったら命でも何でも持って行くと良い」
オオスはそう勇儀に告げた。オオスは本気である。
「あはははは!その時は人攫いとでも行こうかね」
勇儀は普通、そこまでしないと思いつつもオオスにそう言った。
なお、勇儀も人攫いは本気である。
「では、勇儀さん。また会いましょう」
オオスはそう言い最初会った時と同じく礼をした。
「ああ、またなオオス!」
そう言って勇儀は後ろ手で右手を振って別れを告げた。
見切りをつけた人間にも面白い奴がいたものだと過去を振り返った。