嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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地底の真の支配者

地霊殿。そこは旧地獄の中心地にあり、和風な名とは違い洋風の館である。

そこには地底へ追いやられた厄介者の妖怪達の中でも嫌われ者の頂点、覚妖怪。

古明地さとりが住んでいる。

古明地さとり。地底のほぼ全てが嫌悪しながら、誰も逆らわない地底の真の支配者であった。

 

男はコツコツと音を立ててその支配者に近づいていく。

人払いが既にされている支配者の、不気味な洋館の中で真っ直ぐに男は何も感じないように歩いていく。

 

「ご機嫌よう。地霊殿の主にして究極の探偵、古明地さとりさん。

 私の名はオオス。本日は妹さんの件で参りました」

そう言って男は支配者へ挨拶をした。

左手を腹に、右手を背中へ回し、深々と頭を下げる。

 

オオスは敢えて偽りの名を名乗る。

今回は友好的な交渉ではないとさとりに暗に示していた。

 

「…お燐の尾行も地底の諸事情もある程度事前に把握していた、と。随分、観察力に長けた方なのですね」

古明地さとりは片目を閉じて、第三の目を見開きオオスの心を読む。

 

古明地さとりはやや癖のある薄紫の髪の少女のような容姿だ。

フリルの多くついた水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートを履いていた。頭に赤いヘアバンドをつけ、心を読む能力を持つ第三の目が胸元に浮いている。

 

地底に来た想定外の人間、オオスが敢えてさとりへ時間を与えていたことを読み解いた。

さとりはペットの火車のお燐、本名火焔猫燐にオオスと勇儀のやり取りを見張らせていたが無意味だった。

 

オオスは大物と思われる勇儀との接触こそ少し想定外だった。

だが、それをも利用していた機転でさとりへの思考による後の先だった。

勇儀へ本音を述べながらさとりへ嘘をつく。

 

心が読めない状態でオオスの第一印象を拘束し、地霊殿に到着した後で変化させる。

オオスが仕掛けたさとりの支配地、地底でのアドバンテージを少しでも削ぐための対策だった。

 

さとりは心を読めるからこそ、オオスの脅威がわかった。

オオスが地底に着いたことがわかった瞬間、こいしが地底の支配者古明地さとりの関係者である可能性があるというだけで仕組んで、そして仕掛けていた。

オオスは地底という未知の脅威から自身の身を守るために本能的に行っていた。

 

オオスは未知の場所への対応が慣れ過ぎていた。

 

…最も全ての発端、オオスの僅かな金銭であろうとも自分への泥棒を許さないことは全く嘘偽りがなかった。

オオスは自分の頭脳と能力の使いどころを完全に間違っているとさとりは思った。

 

「…こんにちは。外の世界の探偵さん。仰るとおり私は古明地さとり。地霊殿の主です」

古明地さとりはオオスへ挨拶を返した。

 

心を読む能力でオオスが仕掛けている思考と無数のやり取りをしながらだ。

オオスのそれは何人もの賢者と同時に対話しているような一秒すら濃密な時間だった。

 

「…この度は妹が申し訳ありません。それとそんなに物騒なことを考えなくてもお金なら払います。

 …というかそれは辞めてください。心を読めるのはそんなに全能ではありません」

さとりはあらゆる思考や思念で攻撃をしてくるオオスに対して降参を示した。

 

さとりからしても、今回はどう考えても妹のこいしが悪いのでオオスの想定しているような『戦い』はする気はなかった。

 

「…というより、そういう『使い方』もあるのですね。今度、真似させていただきます」

さとりはオオスの思考を読んで様々なことを学んだ。

 

今回オオスが仕掛けて来た思念での攻撃は、精神的攻撃に弱い妖怪に絶大な効果を及ぼす。

さとりはオオスとの僅かな時間の間で覚妖怪として進化した。

 

「…それよりも頼みたいことがあります」

さとりはこいしの姿が見えるオオスの力を読んで言った。

妹、こいしの大よその能力をオオスは悟っていた。

 

オオスはさとりに取ってもはや現れないだろう素晴らしい逸材だった。

 

「…ええ、そうです。私の妹は少々変わっていまして」

さとりはオオスがこいしへ頼みたいことを理解したことを読み取った。

本当に素晴らしい逸材だった。

 

…地上の各勢力との関わりがなければさとりはオオスの引き抜きを図っていただろう。

 

「その能力は便利ですが、あまり読まれるとこちらの思考と齟齬がでます」

オオスは敢えて口を出した。さとりのペースに合わせる気はないことを態度で示した。

 

「…ああ、複数のパターンを想定しているので確認のために口に出したいと。

 頭が良いのも考え物ですね。…私の力に嫌悪感はないと」

さとりはオオスの思考を読み解いて口に出した。

 

さとりにとっては意外なことに覚の能力への嫌悪感はオオスには一切なかった。

 

「妹さんは無意識で盗みと感じていない。それは仕方がない。お金を立て替えてくれるならもう用はありません」

オオスはもうさとりには用がないことを示した。

更に目の前の人物の思考を模写し始めていた。

 

「しかし、先ずは此度の私の地底での無礼をお許しください」

オオスは地底に思わぬ形で訪れたことを詫びた。それは心からの謝罪であった。

 

「…随分気にしておられるようですね。貴方が思っているように人間にはあの条約は適用されません。ご安心を」

さとりはオオスが本心から謝罪していることを読み取り気にしないように促した。

 

だが、

「…え、それは駄目です。というかそんなことをされると…いや、それはそうなのですが。

 条約の解釈は間違っていませんが、それは辞めてください。本当に」

さとりは許した途端に洒落にならない提案を心の中で矢継ぎ早にしてくるオオスに慌てた。

 

例えば、地底がかなり気に入ったので自宅と地底を繋いで良いかという提案だ。

オオスは冗談ではなく本気である。さとりはそれがわかるので洒落になっていない。

 

「…ええ、そうです。妹、こいしは私には見つけられません。無意識なので」

さとりはいきなり思考をこいしの話題に戻したオオスに返答した。

 

「心を読むというのは面白いですね。中々話すのも大変なので」

オオスは笑みを浮かべてさとりに言った。実に便利だとオオスは心から思った。

 

「ええ、素晴らしい能力でしょう?妹も心を閉ざしたのは残念に思います」

さとりは本心から自らの能力を誇った。

そして、妹であるこいしが第三の目を閉ざしたのをどうにかして欲しいとオオスへ暗に依頼した。

 

「ですが、それはお断りします」

オオスは敢えて口に出してさとりの依頼を断った。

 

「…ええ、ああ、なるほど。貴方は随分と自分の今の仕事に誇りに思っているのですね。

 …条件付きならば駄目ですか?」

さとりはオオスが本気で自分を善良なる一般里人と定義し、紙芝居屋としての誇りを読み取った。

だが、余りにも惜しかった。なので条件付きでもダメか尋ねた。

 

「ペットに妹さんの相手をさせているのでしょう?そちらで思考への興味を延ばしていくのが適切な判断かと」

オオスはさとりの人格を模写して返答した。却下が答えであると暗に示した。

 

「…その通りです。貴方は心が読めるわけではない。『思考模写』ですか。

 この短時間で私の人格を形成して先を読んでいる」

さとりは覚妖怪並みの能力を実際に見せたオオスに驚きの声を隠せなかった。

心を読ませるだけではないというオオスなりの仕返しだと知っても共感した。

 

「覚の能力よりも限定的ですが、厄介な技術ですね」

さとりはそう言いつつも思わずくすくすと笑ってしまう。

オオスの思考模写はまるで目の前に同胞がいるようだった。

 

「それを言っては貴方も大概では?」

オオスもさとりへ笑みを持って返した。

 

「違いないですね。ふふふ」

さとりは久方ぶりに心から楽しみを感じた。

 

 

 

オオスとさとりの本人達視点では和やかな会談。

しかし、隠れて見ていたお燐は二人とも何も話さない不気味な空間だと思った。

 

さとりは心の中でそろそろ帰るというオオスの答えに敢えて口に出して見送ることにした。

 

「一つ、忠告を。私ですら貴方の『本当の』心の奥底は覗けない」

さとりはそうオオスへ告げた。自己を人間と規定する目の前の存在に。

 

「深淵を覗くとき深淵もまた貴方を覗いている」

オオスはそう言ってさとりへ警告した。

そこには“寒さ”を感じる何かがいた。

 

お燐はさとりを守ろうと思わず出て来ようとしたが、さとりは手で制した。

オオスの心が読めるから問題ないとわかっていた。

 

「神扱いはお嫌いなのは承知の上です。私としても同類に会えたことは喜ばしい。

 …そうです。ご一考だけしていただければ」

さとりは暗に地底に来ないかとオオスへ誘っていた。

…人間としてではなく。

 

「中々有意義な会談でした。ですが」

オオスはさとりに全く邪な感情ではなく、寧ろ善意だとわかっていた。

…覚妖怪のように思考模写で読み解いたから。

 

「私はオオス。善良なる一般里人にして紙芝居屋。それ以上でもそれ以下でもありません」

そう言ってオオスは地底の支配者へ敬意を表して礼を返す。

その姿は優雅な振舞いであり、誇りを感じられるものだった。

 

「大変有意義な時間でした。どうかお気をつけてお帰りを」

さとりはそう言って地底の支配者として×××××を見送った。

 

 

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