嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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勢力均衡

紅魔館の図書館にてオオスはパチュリーと紅茶を飲みながら談笑していた。

今日はレミリアと咲夜は博麗神社へ遊びに行っているということなので二人きりだ。

小悪魔は図書を整理している様子だ。忙しそうなので無理に声はかけない。

オオスは小悪魔の仕事がひと段落したら土産の菓子を一緒に食べないか誘うつもりだ。

 

「こちらお土産です」

オオスはそう言って十数冊の本を手渡した。

 

オオスが持って来た本は古明地探偵シリーズと銘された探偵小説だった。

大分バイオレンスな内容だが妖怪の力を含む幻想郷向けのロジックで構成されている。

オオスとしても大絶賛の内容だった。

 

「作者名は…なし。出版元は…古明地出版?聞いたことがない名前の出版社ね」

パチュリーはオオスから渡された本に軽く目を通した。

…少々変わっているが普通の小説だと判断した。

 

「私、泥棒追いかけていたら気が付いたら地底まで行ってしまって…」

オオスはさらっと地底まで行ったことをパチュリーに話す。

事前に相談する前に泥棒が現れたのが悪いとはいえ、オオスは紅魔館に報告へ来ていた。

 

「…あんまり危ないことしちゃ駄目よ」

パチュリーは呆れた顔をしつつ、そうオオスを窘めた。

オオスへはもはや言っても聞かないが、それでもこうして報告に来るだけマシだと思った。

 

「勤勉な馬鹿ほどはた迷惑なものはない…仰る通りですね」

オオスは吹っ切れたとは言え、少々やり過ぎたと反省の言葉を述べた。

 

「貴方らしくない言葉だけど…誰かの言葉かしら?」

パチュリーはオオスらしからぬ言葉に尋ねる。深い意味はないが。

 

「まぁ、そうなんですけど。それよりもこの本の心理描写は凄いですよ。

 まるで犯罪者の心が全て読めるかのようなんです」

オオスはパチュリーの問をはぐらかして持って来た本の内容を絶賛した。

実際、心が読める覚妖怪が解決してきた事件を元に書いている。その通りである。

 

「あら、そうなの。後でちょっと読んでみようかしら」

パチュリーもオオスがここまで絶賛するのは珍しいので興味を持ったようだ。

 

「ええ、オススメです。私も店にある分だけ買い占めてしまいました」

オオスは地底の本屋の在庫を買い占めた。…鬼と酒を飲んだせいで、かなり酔った勢いもあった。

地底で散財し過ぎたとオオスは少し反省していた。

 

パチュリーに土産として渡すのも自身への言い訳の側面もあった。

 

「貴方の金銭事情が気になるのだけど…大丈夫なのかしら?」

パチュリーはオオスが良く散財する気があるので心配して言った。

オオスがいつも持ってきている菓子の材料を人里で買うだけで結構かかっているはずであった。

里人としてのオオス、魔理沙視点からではわからない紅魔館視点でのオオスの素行であった。

 

「…パチュリーだから言うのですが、私、河童と取引していましてお金はあるんです」

オオスは耳打ちするようにパチュリーに河童との取引を明かす。

別に他の里人も妖怪と取引しているが、オオス程の巨額はそうそうない。

ましてや個人間ではないと断言できた。

 

下手な有力者よりオオスはお金を稼いでいた。

外での経験もあったので、目をつけられないように大分稼いでいた。

そのお陰で何代かなら一生遊んで暮らせる程度以上には稼いであった。

 

「河童?前に冷蔵庫がどうこうとか言っていたわね。それかしら?」

パチュリーは以前、オオスが幻想郷に来てどうやって里人になったのか聞いたことを思い出した。

オオスは確か生活基盤を整えるために始めた冷蔵庫事業を転移初期に河童へ売り払ったと言っていた。

 

オオスを始めとする外来人は人によりけりだが、知識を持っていることが多い。

だが、大抵は機械の使い方を知っていても作り方を知らない等、殆ど役に立たない。

肉体労働としても貧弱で使えない。外の世界と幻想郷を比べて愚痴を吐く等素行も悪い。

 

そのため、人減らしや人食い妖怪にやられる対象である。

 

オオスのように馴染める者は素行が良かったり、一芸に長けている者がほとんどだ。

それでも大抵の者は外への帰還を望むので外来人は人里にほとんどいない。

なお、オオスはその少数の外来人からも同じ外来人と思われていない。

 

オオスが自身のことを善良なる一般里人と名乗る一因でもある。

 

「それの延長上ですね。河童達は工学的には強いですが、魔術的なことに弱い。

 そして、河童経済では河童の人件費が極めて高い。隙間産業的な需要があるんですよ」

オオスは河童が光学迷彩等、外の最新鋭並み、若しくはそれ以上の技術力を持っていることを思い出して言う。

 

 

オオスから見ても凄まじい技術力だった。

そのため、オオスは勢力均衡の観点から河童に自身の本格的な技術提供は一切していない。

 

人里社会は妖怪同士の勢力均衡で成り立っているとオオスは認識している。

吸血鬼、河童、天狗、一人妖怪、神々等々だ。

…博麗の巫女が妖怪達のやり過ぎを監視してはいるが、実情は妖怪が握っている。

なので初対面の時、八雲紫に霊夢一人に押し付け過ぎだとオオスは文句を言った。

 

そして、勢力として成り立っている妖怪達の全てが人里を纏める人間が現れないか警戒し合っている。

オオスは自身が人里を纏める気がないか警戒して射命丸文が派遣された、或いは近寄って来たことも気づいていた。

 

八雲紫、射命丸文というか天狗等の各勢力は最悪、『事故』としてオオスを処理することも視野に入れていた。

外の世界での経験上そうであるとオオスは確信している。今では問題なく振る舞えている。

…だが、無縁塚でやり過ぎて紫から警告された。オオスからしてもやり過ぎた。里人としてアウトである。

 

なお、文は今ではあの有様だ。…どうしてああなった。

オオスは最初に出会った古株の鴉天狗としての、緊迫感ある文を返して欲しいと偶に思う。

 

 

話を河童に戻すが、高い科学技術を持つ反面、河童は呪術的な魔道具の作成は不得手だった。

…オオスはどちらも可能なので、河童の求める隙間に答えることができた。

勢力の均衡を保てる範囲内で細心の注意を払いつつ。

 

古明地さとりにもそれは疲れないかと心配された。

…地底に来ればそんな気を使わなくて良いとの善意だった。

心を読む妖怪は、本当は優しい心の持ち主であるのだが、どうも嫌われることを選択したようだ。

オオスとしても気持ちはとても良くわかる。…鬼である萃香にも指摘されたが好かれるより嫌われる方が楽なのだ。

 

「ああ、何となくわかったわ。人里と河童達、その差額とかで儲けているのね。

 心配しなくても私は貴方の仕事を取り上げたりしないわよ」

オオスの顔が少し変わったのを見て自分の商売が取られないか不安視したとパチュリーは捉えたようだ。

少し無意味なことを考えてしまったとオオスは反省した。

 

「ありがとうございます。私は紙芝居屋が本業なので辞めても良いのですが、河童の要望が意外と多くて…」

オオスはそう言ってげんなりした様子でパチュリーに答えた。…嘘ではない。事実である。

河城にとり等出会った当初は人間を盟友と謳いながら心の底で人間を見下していた。

 

…オオスはそれにムカついたのでその要望に応え過ぎた。

 

今では住処である玄武の沢まで来いという始末だ。

オオスとしては善良なる一般里人としてあまり近づきたくないのだが。

 

「ああ、なんか面倒臭い注文とかしそうよね。河童の春のバザーとか私も行ったことあるから何となく想像つくわ」

パチュリーは定期的に開催している河童のバザーに行ったときのことを思い出して言う。

魔法という学問を究めんとする者として参考までに赴いたが、全自動尻子玉抜き器等技術は凄いが酷い商品を思い出した。

 

「最近、河童が遠慮なく無茶ぶりするようになってきて困るんですよね」

オオスはにとりを始めとする河童が大分無茶ぶりするのを思い出して言った。

 

…GPSを博麗大結界内で使用できるようにしたいとか言うのだ。結界内でGPSは機能しない。

外から流れてきた機械を解析して自分達も使いたいらしい。無茶言うな。

…だが、オオスには可能だった。占星術を組み合わせれば可能というか作れてしまった。

 

オオスは人里から基本動かないし、行く気ないからそこまで求めないで欲しい。

 

「…もう辞めたら?」

パチュリーはオオスの心底うんざりした様子を見て言った。善意であることは明白だった。

 

「一応、私の気分次第で辞める通達は河童達にしているのでまだ大丈夫です。

 その辺りの感覚は気分屋気質の河童にも理解しやすいのか納得して貰っています」

オオスは河童の自分勝手に作ったときに天才的な才能を発揮するギークな気質を思い出して言った。

オオスは河童が自分達の感性で話すのに共感してくれたようだと確信している。

 

「何か貴方の想像以上に影響大きくなっているような気がするのだけど…」

パチュリーはオオスの客観視が足りないところを思い出して呟いた。

パチュリーとしては、オオス本人がそれで良いのならば良いのだが。

 

「まぁ、今日はこの間アドバイス頂いたお礼をしに来た次第でして」

オオスは話が逸れ過ぎたと本題に戻した。

今回は近況報告もあるが、以前紅魔館に来た時に賽の河原の石というアドバイスを貰った礼も兼ねていた。

オオスとしてもそういう発想はなかったので今後も是非相談したい。

 

「…本当にあの石やったの?」

パチュリーは怪訝そうな顔をしてオオスに尋ねた。

 

「いいえ、地底に行ったら思わぬ宝物が見つかったのでそれを渡しました。

 あのお姫様は悔しそうで大変痛快でした」

オオスはあの痛快な宴を思い出して嬉しそうにパチュリーに答えた。

だが、賽の河原の石は輝夜には通じないだろう。それを指摘するのは無粋だとオオスは思った。

 

「…そう。それなら良かったわ」

パチュリーは心の底からホッとしたようだ。

オオスは自身と同じく、あの後改めて考えてないと思ったのだろうと察した。

…確かにその通りなのだが、意味合いが違う。

 

「地底は危険なので頻繁にはいけませんが、次回面白そうなもの見つけたら持ってきますね」

オオスは地底に行く気満々だ。何せ勇儀との約束もある。探索は次回が本番と言えるだろう。

 

「最初の言葉、もう忘れたのかしら。全くしょうがないわね…」

パチュリーはオオスの危険行為をします宣言に呆れつつも嬉しそうに話を続けた。

 

 

…この日、紅魔館の図書館には新しい本のスペースが増えた。

 

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