嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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善良なる一般里人

オオスが人里に慣れ始めた頃、オオスと河童の取引を知った射命丸文はオオスへ取材しに人里へ来ていた。

 

人気の少ない場所で取材に応じるというオオスの申し出を射命丸文は受け入れた。

元々、文はそうするつもりだったのをオオスは理解していた。

…排除か否かどちらかを見極めるためだろう。もし、外来人であればなおのことだ。

 

 

「…というわけで、私は仕事が大変になってきたので河童へ業務を売り払ったんですよ」

オオスは大よそ記事になるように答えていた。

射命丸文が求めている範囲内の『人』として振る舞った。

 

「取材にご協力いただきましてありがとうございます。

 …では、また機会がありましたらよろしくお願いします!」

射命丸文は定型文の感謝の言葉をオオスへ述べて帰ろうとした。

 

だが、オオスは自分でわざわざ撒いた餌に食いついてくれた天狗、射命丸文へ礼の言葉を述べることにした。…オオスなりのだが。

 

オオスはガラリと雰囲気を変えて立ち上がる。オオスは取材が終ったから帰るのではない。

オオスは先ほどまでの外向けの様相を変えた。

全ては今後の善良なる一般里人として振る舞うためだ。

 

「…まだ何かありましたか?もう少しお聞きしてもいいですか?」

文はオオスの気配の変容に気が付いた。興味を持ってくれたようだ。

 

オオスとしてもこれから人里へ貢献するためには余り詮索をされたくない。

だから、ここで誰かにオオスの立ち位置を示しておく必要があった。

…目立たないために目立つことも必要だとオオスは知っている。

 

「大衆を騙す力こそ指導者として最も大切な力だと思われているようですね。

 だからこそ天狗はその力を奪うことを主眼としている」

オオスは自身が見聞きして仮定した天狗像について射命丸文に確認する。

オオスはまだ右も左も知らぬ存在だ。古代天狗語も何も知らない時期だった。

 

オオスはこれからあらゆる物を貯える必要があった。…人里はまだ余裕がない。

もし、今この瞬間にでも異変が起こったら少なからず犠牲者が出てしまうだろう。

 

施せるだけの余裕がある善良なる一般里人になるためにはそれなりの覚悟が必要だった。

天狗という情報の担い手に善良なる一般里人オオスを示す必要があった。

本来はこんなことをしたくはないが、仕方がない。外の世界とはまた違う。

 

「…なんのことですかね?私は人里に現れて早々に妖怪と取引した人間に興味を持って取材しに来ただけです」

射命丸文は顔こそ笑っているが目が笑っていない。

 

…彼女の本質を引き出せたとオオスは確信した。

この顔こそ射命丸文が小金持ちになったオオスへ接触した真の目的だ。

オオスが河童との取引で手に入れたその金で何をするのかを確認しに来た。

オオスが人里を纏める存在に、リーダーになる気があったら困るのだ。

危険な芽は早い内に摘んでおくに限る。鴉天狗の人間観だ。

 

射命丸文は一見すると人受けが良さそうに見えた。だが、やはり狡猾な天狗である。

…最もオオスに初見で見抜かれるのは想定外だったらしい。

文は内心どう処理するか考えているようだ。

オオスに取っては大抵の人ならば怖気づく射命丸文の、その顔が求めている情報だった。

 

「事実や嘘は二の次。そこに至る結論こそ、情報を扱う者に取って大切なこと」

オオスは自身の哲学を淡々と文へ述べる。

極論すれば、結論が正しければ、否、正しくなれば良い。

大衆にとってわかりやすい結論だけが、受け入れられることこそ重要だから。

 

しかし、

「だからこそ、覚悟と責任がつきまとう。…それを天狗達自身がわかっているかは別として」

オオスはそう文へ言う。射命丸文という個に価値をオオスは見出しているとアピールした。

 

情報を扱う者は扱う覚悟と責任を持たなければならない。オオスは文の目だけを見つめた。

河童経由で仕入れた天狗達の新聞は残念ながら『それ』がわかっていなかった。

 

「貴方は私が見た中で一番それをわかっていらっしゃる」

オオスは文にそう告げた。

 

人里までわざわざ来て取材する姿勢だけでも合格だった。

…他の天狗は人里へ来もしないでオオスについて適当に書き過ぎである。

どこかで文句の一つでも言いに行きたい。善良なる一般里人が行けるかはわからないが。

 

「…もしかして口説いています?私はそんな安い女ではないですよ」

文はオオスの言葉を煽てていると思ったようだ。…オオスの言葉は本心なのだが。

 

「だからこそ、私は貴方の新聞を購読し、その情報に踊らされましょう。

 …なんせ私は善良なる一般里人なのですから」

オオスは文へ自身のあり方を宣言した。文の考えているような愚かな大衆の一人として。

 

「…何が目的ですか?」

文はオオスの言う事を信じてくれないようだ。オオスは先ほどから本心しか言っていないのだが。

 

「新聞を楽しみにしております。射命丸文さん」

オオスはそう言って優雅な礼を持って取材を打ち切った。

…これ以上は姿勢で示そうとオオスは思った。

オオスはあくまでも善良なる一般里人の範疇を出ることはしない。

 

だが、射命丸文の取材は中々面白かった。今回の取材が記事になるのが楽しみであるとオオスは思った。

 

 

 

それが現在では…。

 

「言い訳して逃げていますよね。これ」

オオスの自宅前にてオオスは文にそう言ってじっと見つめる。

オオスは文々。新聞の記事をその場で読み、射命丸文へ文句をつけていた。

 

「逃げていません。…新聞として少し変になっているのは認めますが」

文はオオスの刺すような視線に耐えられなくなったのか言い訳をした。

 

その記事の内容が以下のようなものである。

 

『文々。新聞 迷いの竹林で不審火

●月●日19時頃、迷いの竹林で火の手が上がった。この火事で被害者はなく、偶々現場に居合わせた蓬莱山輝夜と藤原妹紅(共に人間)が消火した。輝夜氏は取材に対し、『タバコのポイ捨てが原因みたい。焼き鳥になりたくないなら気を付けた方が良いわよ』とのこと。タバコのポイ捨ては非常に危険であるので今後も注意が必要である。決して、焼き鳥という単語に身の危険を感じて逃げたわけではない。仏教では兎を鳥と言うこともある。兎が多く住む地域柄の喩えで…』

冬に入りもうすぐ雪が降る頃合いの文々。新聞の一面記事だった。

輝夜はこの間のオオスの煽りが原因で妹紅との喧嘩に夢中になり過ぎて火災になったらしい。アホかとオオスは思った。

文々。新聞の記事内容は焼き鳥について触れられた辺りからおかしくなっている。

鴉天狗の文は元鴉。完全に怖気づいて逃げているとオオスは感じた。

 

 

「まぁ、同族が食われるのは余り良い気はしないですよね」

オオスは何だかんだでフォローするよう文へ言った。

 

オオスも外の世界で幾度となく目の前で人が食われるような経験がある。

なので、文の気持ちはとても良くわかる。

そういう時は感情を殺さないと対処が遅れる。オオスは慣れたが文は辛いのだろう。

同族思いの良い鴉である。オオスも見習いたい。

 

「わかってくれますか!目が本気なんですよ、あの二人!!」

文はオオスの心からの賛同に思わず口を滑らせた。

 

「…逃げたんじゃないですか」

オオスは思わず文へツッコむ。

 

「…逃げました。はい」

文も認めた。輝夜と妹紅が怖くて逃げたらしい。

…最初に出会った頃の射命丸文ならオオスにこういう言質をとられはしないのだが。

 

「しかし、すっかり新聞も元に戻りましたね。購読者の一人としては嬉しい限りですが…。

 私が余計なこと言ったせいで売り上げ落ちましたか?」

オオスはいつもの文々。新聞に戻って嬉しい反面、少し気にしていた。

 

…オオスが購読を辞めれば良いだけで、口出しするのも少しおかしい話かもしれなかった。

昔の射命丸文を思い出してオオスはつい口を滑らせた。

 

「いや、天狗内での売り上げは伸びましたよ」

文はオオスに言い切った。即答だった。

…予め用意していた答えのようだった。文の様子が微妙におかしいとオオスは気が付いた。

 

「…なるほど、私と接触してないか検閲入るようになったんですね。ごめんなさい」

オオスは妖怪の山で起こした騒動に文が巻き込まれたと確信した。

オオスのせいで文々。新聞が上層部に目をつけられたかと反省し、謝罪した。

 

…また文が同じことになったら発破を懸けに何度でも妖怪の山へ行くが。

オオスは自身が読む新聞が鞍馬諧報のような新聞になればキレる。

善良なる一購読者として文句を言いに行くのだ。それに伴う危険など知ったことではない。

 

「いや、謝られることじゃないですよ。寧ろ…」

文はオオスへ気にしないように言う。途中、文の雰囲気が変わった。

…何か変なことを思いついた顔だ。

 

オオスはこの文の反応を知っていた。だが、今回は懐に手を入れるまでもない。

 

「はっ!つまり、ここで襲えと…」

文はオオスの想像通りの戯言をほざいた。

 

…オオスが懐に手を入れていないのを好機と捉えたようだ。

だが、オオスはもう対策済みだ。オオスは何度も同じ手を使う程愚かではない。

 

「では、私は出かけるのでご機嫌よう」

オオスはそう言って、奥歯に仕込んでいた黄金の蜂蜜酒のカプセルを噛み砕いた。

そして、目的地まで転移した。

 

懐に手を入れてから取り出す動作を何度もしていては文にいつか取り上げられかねない。

オオスはわざわざ自身の歯を加工して作った。地味に結構痛かった。

 

備えは早速役に立った。やはり日頃からの備えは大切であるとオオスは確信した。

 

「だから、毎回、持ち上げて落とすって酷くないですか!?」

文が戯言を叫ぶ。…オオスとしてはもう少し品位が欲しい。

 

本当に最初に会った頃の射命丸文はどこにいったのだ。オオスは改めて嘆いた。

 

 

 

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