オオスは射命丸文を撒いた。今日はレミリアに用があったのだった。
だが、紅魔館にレミリアは不在であると門番の紅美鈴に聞いた。咲夜も仕事中であるという。
…仕方がなく、オオスにとって気の進まない危険地帯へ足を運んでいた。
「レミリアさん。妹さんに家庭教師をつける気はありませんか?」
オオスは挨拶も早々にレミリアに本題を言った。
フランドールに家庭教師をつけるのだ。
冬の間に常識を学ばせ自身のような善良なる一般里人並みに仕上げて見せる。
「嫌よ!!」
レミリアは即拒絶した。オオスの詳しい内容を聞かないし、聞きたくない。
「私のような善良なる人格者を育てる学習コースが今なら無料!…それなのに断られるとは」
オオスはレミリアに考え直すように言う。
…正直、冬の間は紙芝居屋はお休みで暇なのだ。
春になればまた色々あるが、この時期は執筆活動と魔道具の作成と人里の有力者への挨拶周りくらいしか正直ない。
「それを聞いて了承する奴がいるわけないでしょう!」
レミリアはオオスの提案を聞いて改めて拒絶した。レミリアの思いは強固になった。
「…酷いと思いませんか、霊夢さん?」
オオスはレミリアの強情さに呆れ、危険地帯妖怪神社の巫女へ話を振った。
「なんでうちでそんなことを話す必要があるのかしら?」
霊夢はそう言って顔をひきつらせて言った。
悪魔の家庭教師とか、それが狂気の妹フランドールにだとかツッコミどころは満載だ。
だが、レミリアだけなら兎も角、オオスとかいう意味不明な存在がいることが気に食わない。
オオスは博麗神社へ来ていた。霊夢ではなく、レミリアを尋ねてだ。
レミリアだけで神社へ来ることは良くある。
そして、オオスがわざわざ博麗神社へ来ることはまずない。
オオスとしては世話になってもいない神へ参拝しなければならないのかという理由だ。
別に霊夢に他意があるわけではない。…様子を見に来たというのはあった。
「菓子折りは持ってきているんですから問題ないはずでは?」
オオスは霊夢に菓子折りを見せた時の笑顔を思い出して言った。
それなのに、ここまで歓迎されないとは理不尽である。
「それだけ置いて帰りなさい。しっしっ!」
霊夢は露骨に嫌そうな顔をしてオオスを手で払う。余りにも邪見にし過ぎである。
人里でオオスへこのような仕打ちが見られたら博麗神社へ参拝者も増えることだろう。
…人里でも指折りの悪人達の参拝になるだろうが。
「レミリアさんをそんな邪見に扱わなくても…悪魔にも人権は適応されるべきでは?」
オオスはレミリアを庇うように言う。少数者迫害は良くない。
「私じゃなくてアンタでしょう!」
レミリアはオオスにツッコんだ。霊夢はどう見てもオオスを手で払っていた。
「どっちもよ!今日は…特にないけど兎に角!」
霊夢は思わずどちらも帰るように叫ぶ。…理由が思いつかなかったらしい。
オオスは神に仕える巫女としてそれで良いのかと思った。…オオスの様子見はそちらでもあった。
「神事やれば良いのに…この時期なら七五三に新嘗祭。煤払いや大祓とか色々あるでしょうに」
オオスは霊夢に神事を提案する。霊夢は物臭過ぎる。
オオスとしては神に祈らないなら実に喜ばしいが忌々しいことに霊夢は巫女なのだ。
…仕事はすべきであると忠告しに来た。オオスとしても余り言いたくはないが。
「…何かしらそれ?」
レミリアは神社について詳しくないのでオオスへ尋ねた。咲夜がいないので仕方がない。
オオスは聞けば一応、答えてくれる。
「神社の行事です。早い話が節分の豆まきみたいなものです」
オオスは各行事を説明するのが面倒くさいので纏めて説明した。
「…そうよ、それよ!今から準備するから帰りなさい!」
霊夢はオオスの話を聞いて思い出したかのように言った。
…本気で忘れていたらしい。
参拝客を集めたいなら妖怪退治よりも寧ろそちらをやるべきだとオオスは思っていた。
だが、まさか本当に忘れているとは思わなかった。
競合他社がいない独占企業の末路を見た気がする。実に嘆かわしいとオオスは思った。
…この分だと博麗神社で祀られている神すら霊夢は知らないかもしれない。
「神に仕える巫女がこれで良いんでしょうか?レミリアさん」
オオスは思わず素でレミリアに話を振る。これはない。
「…ちょっとどうなのかしら、確かに」
レミリアも霊夢の物臭巫女っぷりに同意した。悪魔である自分がそれを言うのもどうかと思ったが。
「取り敢えず帰りなさい!どうせアンタもお賽銭入れる気ないんでしょう!」
霊夢はやる気というかヤケクソになったようだ。オオスへ帰るように再度通告した。
それでも巫女として仕事をする気になったのならオオス個人としては兎も角、里人としては喜ばしい。
「良くお分かりで。私は神も仏も信じはしない。一応、お世話になったらお返しくらいしますが」
オオスは神に祈らないが世間体くらいは守る。
例えば、秋姉妹の神々にはきちんと菓子折りを渡している。
『人里の皆がお世話になっています。私は貴方達へ祈りませんがどうかよろしくお願いします』
といった具合だ。
…何故か二柱にはこの挨拶をすると毎回微妙な顔をされる。
何故だろうかとオオスは疑問である。秋の間は見かけたら挨拶もすれば里から山への見送りや何なら見舞だって持って行く。
熱心な信仰者と言われることが稀にあるがその時は断固として否定している。
オオスは善良なる里人としての振舞いをしているだけである。
「それ人里のなんちゃらとしてどうなのかしら?」
レミリアはオオスの内心を知らずに言葉の表面だけ見て言う。失礼であるとオオスは思った。
「善良なる一般里人は信仰に囚われない。信仰の自由が保障されます。悪魔崇拝は…ちょっと駄目かも」
オオスは信仰の自由を謳う。基本的人権万歳。
悪魔崇拝は個人的には認めても良いが、里人としてはアウトだった。
「そこは駄目と言い切らないといけないのではないかしら?悪魔の私が言うのは何だけど」
レミリアはオオスへ正論を言う。
…実際、オオスは紅魔館へ良く行くので悪魔崇拝者疑惑があった。
そんな誹謗中傷を言う輩にはオオスが如何に善良なる一般里人かを洗…説明している。
「そこ!喋るだけなら帰った、帰った」
霊夢は邪魔者へ帰るように言う。実に酷いとオオスは思った。
それに、
「霊夢さん。良く考えてください。…今、言ったの一人でやれますか?」
オオスはそう霊夢に尋ねた。ノウハウも喪失しているのに等しい状況である。
霊夢はまだ河童と関わりがないようだし、何なら紹介してやろうかとも思う。
お祭りが更に盛り上がること間違いない。河童は成功しないイベントが大嫌いだ。
…ただし、妖怪神社が更に進むが。
「だ、大丈夫よ…多分」
霊夢は目が泳いでいた。
オオスはもう勝手にやろうと思った。…ここまでオオスに対して強情だとは思わなかった。
どうせオオス以外からならば提案されれば食いつくはずである。
霊夢からは随分嫌われたものだとも思うが。
「言い切れないから妖怪神社とか言われるんですよ」
オオスは霊夢にそれだけ言った。霊夢はキレかけている。
霊夢は敵が居れば行動するタイプだ。これで良い。
「…取り敢えず私もそろそろ帰るわ」
レミリアは呆れたような表情でオオスを見て言った。
レミリアも紅魔館へ帰ると言うので、オオスも帰ることにした。
だが、
「レミリアさん。家庭教師の件考えておいてくださいね。
流石に地下室へ直接乗り込んで妹さんに突撃するのはちょっとだけ怖いので」
オオスは改めてレミリアに家庭教師の件を相談した。なお、オオスは本気である。
フランドールはまだオオスを殺しかねないのでちょっとだけ怖いのだ。
「怖いと思うならするな!!」
レミリアはオオスへ吐き捨てた。
「いい加減、帰りなさい!今から何とかするから!」
霊夢は激怒した。いい感じにキレてるなとオオスは思った。
この調子ならば年明けに参拝客が多少増えそうである。
「では、霊夢さん、レミリアさんごきげんよう。何かありましたら人里までお声掛けください」
オオスはそう言って優雅に礼をし、風となり消えていった。
「…また萃香の真似事を」
霊夢はもはや人間辞めているオオスを見て呆れた。
オオスは一体何がしたかったのかわからないまま帰った。まるで紫であると霊夢は思った。
「…何アレ?私、あんなことできるとか聞いてないんだけど」
レミリアはオオスの天狗の術の行使を初めて見たので動揺している。
あんなことまでできるようになられると自分の安全地帯がなくなる。
レミリアは人間相手に割と真面目に恐怖した。
オオスがあんな術を手に入れたら何しでかすかわからないからだ。
「…アンタだけ省かれているんじゃない?ひょっとして」
霊夢は思わず指摘した。
自分より仲良くしている相手も知らない術がある等、誰にも知られていない奥の手とか色々ありそうである。オオスを退治するとき面倒だと霊夢は思った。
「…咲夜に聞いてくるわ」
レミリアは焦燥した様子で紅魔館へ帰った。
その様子を見て、霊夢はレミリアに言い過ぎたかと一瞬思ったがすぐに忘れた。
霊夢は今を生きる巫女なのである。