嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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地底の花見

昨年の春雪異変は春になっても冬が続き続けていた。

今年の春はそれに反比例するかのように花々が咲き乱れる美しい生命の季節であった。

ただし、桜、向日葵、野菊、桔梗等々。

…まだ春だというのに、一年中全ての花が同時に咲き出していた。

 

博麗霊夢はこれを異変と捉えた。

これ程わかりやすい異変を放置するのは、まるで自身が仕事をしていないようではないか。

 

霊夢は巫女として神事を積極的に行っていた。

結果、人里で妖怪神社との汚名を完全にではないにしろ大分濯ぎ、博麗神社は人で賑わいを見せつつあった。

霊夢は年明けから人間の参拝客が増えて来たのを見て浮かれていた。

 

だが、

「あの男…これが狙いだったのね!」

霊夢は激怒した。神事に気を取らせて異変を起こすとは良い度胸である。

あの男は前にも博麗神社を冬から春に一瞬で変えていた。

あからさまに怪しいことこの上ない。霊夢はオオスが犯人と断定した。

 

霊夢はこの異変の首謀者オオスを血眼で探した。

しかし、人里のどこにもオオスはいなかった。

 

「オオスなら用事があるとかでしばらく帰ってこないと言っていたぞ」

上白沢慧音はオオスの行方を尋ねる霊夢にそう言った。

…同時に何だか霊夢がヤバいのでオオスが戻って来てもしばらく霊夢から隠そうと決意した。

 

「こうなったら、手当たり次第探す必要がありそうね…」

霊夢は慧音に礼も言わずに早々に立ち去った。ガチギレである。

 

「ひょっとしてこの花のことなら…」

慧音が霊夢にこの異変の原因を教えようとした時には霊夢の姿は消えていた。

 

 

 

霊夢がオオスを異変首謀者と断定し、あちこちの無実の妖怪その他を退治して回る少し前。

 

オオスは旧地獄、地底に来ていた。

 

「これが地底の花見ですか…」

オオスは地底の桜吹雪とも言うべき光景に圧倒されていた。

 

「おう!これが地底の石桜の花見だよ」

勇儀はオオスの感嘆の言葉に気を良くして答えた。

 

地上が春の時、地底もまた春だった。

オオスは地底で大人買いした文献を読み、地底の春の風習を知った。

パチュリーには渡していない古明地探偵シリーズ以外の妖魔本もオオスは購入していた。

 

桜の木の下には死体が眠っている。それは少なくとも幻想郷において事実である。

綺麗な桜を見るために桜の下へ死体を埋めるのは、必要な処置であった。

その死体が土に帰った後、残った魂はゆっくりと地下へ沈んでいく。

段々と魂は純化され、最終的には結晶となって地底世界へ降りてゆく。

最終的には石の桜となり、それが春になり地底世界に桜吹雪を齎すのだ。

 

「さて、では私もこれに見合う芸をしなくてはなりませんね」

オオスはそう言って勇儀が用意してくれた芸を披露する場に向かっていった。

 

オオスは勿論、宴会芸を予め考えていた。

オオスは勇儀との約束である宴会芸をしに来ていた。

単純に冬が明け、春となり地底へ行けるようになったからだ。

このオオスの行動に特に深い意味はない。友達の家へ遊びに行くような気軽さだ。

鬼達が住み、普通の人間なら怨霊の気にあてられるような環境でもオオスには無意味だ。

 

地上で霊夢がオオスを探してもいるわけがない。オオスは地底にいるのだから。

霊夢はまさに骨折り損のくたびれ儲けであった。今回の件でオオスに全く悪意はない。

…オオスは博麗の巫女が60年周期の幻想郷の還暦を知らないとは思っていなかった。

霊夢は誰かから聞いているとオオスは思っていた。それこそ八雲紫や先代の巫女等から。

 

なお、紫も60年に一度年中の花々が咲き誇ることは覚えていた。だが、まだ冬眠明けの寝ボケでどういう原理かは思い出せないでいた。

紫は霊夢に見栄を張り、間違ったことを言って後で恥ずかしい思いをしたくなかった。

…特に原因をもう知っているだろう誰かには悟られたくはない。

萃香が何を言おうが紫の心は少女であった。少女なのだ。

 

 

 

これから披露する宴会芸の用意はオオスの魔法の森での実験で完成していた。

特にアリスのお陰であるとオオスは思っていた。

 

幻想郷に来た当初、オオスは自作した魔道具を扱う経験が少々不足していた。

 

外の世界とは違い、今のオオスの魔道具は完全手作りである。

オオスが外の世界に居た時は専門職になるべく依頼していた。

勿論、自分でも作れる。その場のアイディアで魔道具を作成しなければならないことも多かったからだ。

 

だが、外の世界の探偵業務は一度のミスで死ぬ依頼がほとんどであった。

…人探しの依頼をしていたら邪教徒が対象の住む地域の壊滅を目論んでいたとかはまだマシだった。

 

そのため、外でのオオスは出来る限り信用できる専門職に事前に依頼した。

予め用意することで何が起こっても良いように対策を万全にしていた。

…それこそ空がいつ落ちてきても良いくらいには。オオスの対策は明らかにやり過ぎである。

 

それは萃香やレミリアからも指摘されていた。

…萃香と話し合う為の、オオスに取って最低限の武装は鬼と戦いに来たと思われた。

幻想郷に来てもなお未だに治らないオオスの悪癖の一つである。

他にもオオスにとって興味の欠片もない月の都へ行ける用意をすること自体有り得ない。

 

話を戻すが、オオスは外と違い、幻想郷で魔道具の作成をあまり依頼できない環境にあった。

勿論、人里で世話になっている鍛冶師やパチュリー達の腕を疑うわけではない。

 

オオスの知識と幻想郷の環境との齟齬による問題が発生した場合不味かった。

無論、人里で危険な実験をオオスはするつもりはない。論外である。

 

だが、何が起こるかわからない以上自分で行う。

最低限確認するのが善良なる一般里人のマナーだと思っていた。

オオスの天体観測や占星術の類の確認もその一環であった。

…善良なる一般里人なら魔道具の自作等しない。そんな実験もしないという正論はオオスには通用しない。

 

そんな中で人里から離れた魔法の森に住んでいて、かつ人形を作成し、操作しているアリスはまさにオオスにとって理想の教師であった。

オオスは永遠亭で魔理沙を十字架にかけたが、アリスと会わせてくれたことは本当に感謝していた。

アリスが魔法で人形を動かしているのを観察するだけでも参考になった。

場所代としての対価とはいえ、オオスの実験に立ち会ってくれるだけで心情的に助かった。

偶にアリスが実験について口を挟むこともある。

だが、それもオオスにない視点であり、魔道具を修正する際に大変参考になった。

 

その結果、オオスは自作魔道具を扱う外での齟齬を無くすことができていた。

魔道具の作成の技術と扱う経験が、オオスの予定より短期間で大幅に改善された。

 

鈴仙との立ち回りの際にも身代わりが機能するから大丈夫と自信を持って立ち回れた。

そして、これから行う地底での芸で使う魔道具もオオスは自信があった。

 

なお、アリス的には日常であり、オオスの実験に興味があるだけだったので気づいていない。

アリスがオオスに何かを頼めばすぐに引き受けるくらいには感謝されている。

…アリスがそれをオオスにするかは別として。

 

 

 

オオスは石桜の花見、鬼達の宴会に参加していた。

所謂お立ち台が急遽設置された。勇儀が事前に用意してくれたのであろう。急ごしらえにしては良い出来だった。

 

「急に来て、このような場を用意して貰ってありがとうございます」

オオスは芸の前にお立ち台を設置した鬼やその他地底の妖怪に感謝の言葉をまず述べた。

 

オオスは勇儀へ事前に連絡をしておけば良かったと反省した。

以前さとりには断られたが、地底との連絡手段を作りたいとオオスは思った。

それならばセーフだろう。河童達が使っている電話線を改造すれば簡単である。

オオスの自宅と地底までを電話線の分だけ穴を開ければ簡単にできる。

 

オオスは宴会が終わり次第すぐにでもさとりと交渉しようと決意した。

…古明地さとりがオオスのこの無茶ぶりを飲むかどうかは別として。

 

「では、この地底の桜に相応しいであろう芸を始めさせていただきます」

オオスは優雅に礼をして始めた。オオスは懐から金属製の横笛を取り出した。

 

評判を聞いてか急な宴会なのに前よりも参加数が多かった。

…オオスはこの芸にして正解だと思った。

 

オオスは持って来た『闇のフルート』に音声拡大の魔法をかけた。

 

演奏することで光を吸収する闇のフルートである。当然、音声拡大とともに効果範囲は広まった。

 

オオスはフルートにより、美しい音色を奏で始めた。それだけで地底の妖怪達は聞き入った。

 

時を進めるのを辞めたような地底にも桜吹雪花が舞い散る。その華やかさ。

オオスはその感動を元に明るく朗らかな曲を即興の演奏で表現していく。

…それは本来、この魔道具の使い道とは逆の演奏法であった。

 

フルートにかけた魔法により、鬼達が酒を飲んで騒いでも自然に耳どころか、脳裏に聞こえてくるフルートの音色はオオスの配慮を悟らせるには十分だった。

 

…今回は舞いではないのか、演奏を聞きたいから黙れ等と言ってオオスそっちのけで喧嘩していた地底の妖怪達も自然と収まっていった。

 

その演奏に聞き入っているとフルートが光を周囲の吸収し、ただでさえ暗い地底が段々と暗くなっていく。

しかし、フルートの奏でる美しい音色に聞き入っているので誰もそのことに気に留めなかった。

 

演出として必要な行為であったが、想定していた混乱が見られないことにオオスは内心ホッとした。

オオスは最初の説明でフルートの演奏により暗くなることを注意しようとした。

だが、前回の宴会に参加していない妖怪達がオオスに対して早く始めろ等と煩くてできなかった。

…その妖怪達は勇儀等から殴られていたが。

 

これで気兼ねなくできる。オオスはフルートの演奏に気合を入れなおした。

 

演奏も終盤となり、周囲の光は完全になくなり、石桜の輝きも失われた。

暗くなったから、今度は夜酒だなんだと妖怪や鬼達は実に豪胆であり気楽だった。

 

…だが、その瞬間、光が地底を覆い尽くした。

光あれ。オオスは心の中で呟いた。

 

今まで吸収していた地底の光、それがフルートの演奏終了とともに一気に解放された。

 

太陽がなく、光が少ない地底でかき集めた光である。

しかし、そのか細い光が纏まることで夜空に煌めく星々のような光となった。

地底に夜空の星々が煌めき、光を放つ。

 

オオスの狙いはそれだけではない。

オオスによって即興で計算されたフルートの光の放出はその先を行く。

 

石桜の花びらがフルートから放出された光を反射する。

更に、石桜の光の反射がまたも反射をと繰り返す。

 

最終的には地底の会場全体を照らし出していく。

地底に月夜に映える桜吹雪が舞う。

 

…これこそオオスの地底に住む者達への贈り物だった。

 

観客はフルートの演奏ではなく、今度は美しい桜吹雪を照らす光に魅了された。

 

こうして、オオスの芸はまたしても見事に成功を収めた。

 

 

 

芸が終わり鬼やら何やらとまた話したり、酒を交わしながらオオスは勇儀の下へと戻っていった。

 

「どうでしたか?」

オオスは勇儀に率直な感想を聞いた。無粋な言葉で飾るはずもない。

この芸こそが飾る言葉の代わりであるとオオスは暗に示していた。

 

オオスは舞いではない芸を用意してくるという勇儀との約束に今持てる範囲で最大限答えたつもりだ。

 

そして、

「あははは!最高だ、最高だよ!こんな愉快なのは地底に来て以来かもしれない!」

勇儀は豪快に笑い、オオスの芸を褒めたたえた。

 

「それは光栄の至り」

オオスは勇儀の答えに礼を持って答えた。

いつものように優雅さをもって振舞いを見せた。

 

 

オオスは心まで乗っ取られそうな地底の石桜の色彩よりも喜ぶ観客の姿に魅了された。

 

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