霊夢が幽香と戦っていた頃、オオスはまず一番珍しい花から見に行くと決めていた。
「珍しさから言うとここから見始めるべきか」
オオスは迷いの竹林に来ていた。
迷いの竹林は人間の里から見て妖怪の山の正反対に位置する。
霊夢がいた太陽の畑も妖怪の山とは反対方面の奥地である。
…オオスは奇しくも霊夢とすれ違いになっていた。
もう少しでオオスは霊夢の問答無用の無慈悲に晒されていた。
竹の花は60年に一度しか咲かないという極めて珍しい花であった。
…迷いの竹林ではその時期のはずだった。
オオスとしても実利的にも興味的にも行きたいところであった。
しかし、そこは永遠亭の本拠地であった。オオスは鈴仙を見つけた。
…鈴仙は竹の花を採取しにきたのかとオオスは思った。
だが、どうやら緊急事態のようであった。オオスは即座に鈴仙の下へ駆け寄った。
「鈴仙さんごきげんよう。背中に背負っているのは、てゐかな?」
オオスは挨拶も早々に鈴仙の背負われたてゐを見て言った。
…背負われている因幡てゐはどう見てもうなされていた。
「あ、どうも。私はこれで…」
鈴仙はオオスに挨拶も早々に永遠亭に行こうとしていた。
…敵前逃亡ではない。緊急事態である。鈴仙は自身へ言い聞かせた。
だが、オオスは応急手当ができる手段を持っていた。
地底で使わなかったため、ここで使うべきだとオオスは判断した。
「…これは毒にやられているな。大した事はないが心の方が問題か」
オオスは鈴仙を無理やり捕まえて、てゐの様子を観察した。
オオスが想像していたよりもてゐの症状は大したことはなかった。オオスはホッとした。
…応急手当としては破格の薬になるが、オオスは友のためにアレを使うことにした。
「ああ、鈴蘭の毒が…」
鈴仙がオオスへ毒の説明をし出すが、オオスも大体わかっていた。
心配無用と鈴仙を手で制した。これがあれば一発だ。
「これを飲ませると良い」
オオスはそう言って懐から薬を取り出した。オオス特製の秘薬である。
「な、何ですか!?この真っ黒なの!!」
鈴仙はあからさまにヤバい液体を見て叫んだ。
…オオスはてゐを殺す気かと鈴仙は思った。
「パウト、魔術的な気付け薬だ。これは心にも効く。さぁ、てゐを寄越してくれ」
オオスはさあ患者を寄越せと鈴仙に詰め寄る。
心身ともに健康体になれる。無害である。
なお、パウトは、エジプト魔術で作られた真っ黒な液体である。
銀、純水、希少な軟膏、ハーブ、及びスパイスが成分であり、太陽と月の光を浴びせながら呪文を唱え作成する。
材料費が結構高くつくが、どんな容器だろうが無期限に保存できるのでオオスは常備していた。
「そんなヤバそうなの飲ませられるわけないじゃないですか!?」
オオスの取り出した薬は毒物にしか見えない。鈴仙は拒絶の意思を示した。
…オオスの薬、パウトは効果は兎も角、見た目的に最悪であった。
「…仕方がない」
オオスはその場で風となり、空となって消えた。
「あ、また消えた。…この流れわかるわ」
鈴仙はオオスが感知できない状態になったと悟った。
電波で感知しようが、何だろうがオオスが空そのものとなれば探知しようがない。
オオスはどんどん対鈴仙特化の天敵として日々、進化していく。…鈴仙にとって悪夢である。
「わかっているならもう少し抵抗しなさいな」
オオスは実体となり、鈴仙の背にいるてゐへ無理やり黒い液体を飲み込ませた。
「飲ませてから言いますか!?」
鈴仙は思わず叫んだ。鈴仙からすればオオスは医者でも何でもない。
…無茶苦茶であると思った。
「大丈夫。ぞっとした味がするが、飲めば爽快になる」
オオスはそう言って自身の薬を保証した。
意識がある状態ならちょっとキツイかもしれないが、気を失っているならセーフだ。
「どこに大丈夫な要素が!?お師匠様に見せないと…」
鈴仙はパニックになった。
鈴蘭の毒に犯されたてゐが今度は怪しげな薬、鈴仙からすれば毒にしか見えない物を飲まされたのだ。…そうもなる。
なので、
「××××様…」
てゐの呟きはオオスしか聞き取れなかった。
「…おやすみてゐ」
オオスは友の心情を鑑み、てゐの呟きを聞かなかったことにした。
オオスは彼の存在とは無関係であるし、誰かの信仰についてとやかく言う程小さくはない。
「…うん?何か言いましたか?」
鈴仙はようやく正気に戻り、オオスへ尋ねた。
「いや、なんでもないです」
オオスは何事もなかったかのように鈴仙へ振る舞った。
「鈴仙さん、てゐを永琳さんに見せてあげてくださいね。一応、飲ませた薬もう一つ渡しておきますから」
オオスは自身の薬が信用できないらしい鈴仙のために予備を一つ渡した。
れっきとした秘薬である。しかし、信用ならない鈴仙の気持ちもわからなくはない。
正直、オオスが今から行くところを考えれば秘薬自体はまだあるとはいえ、あまり渡したくなかった。
「…これ本当に薬なんですか?」
鈴仙はオオスの薬をまだ疑っていた。…何度見ても毒薬にしか見えない。
「私の薬にケチつけるとは…何なら今ここで飲ませて」
オオスは鈴仙に身を持って知ってもらおうかと思った。…慣れると寧ろ旨いくらいである。
「失礼しました!」
鈴仙は全力で逃げた。否、永遠亭の永琳にてゐを見せに行った。敵前逃亡では決してない。
鈴仙はオオスから全力で離れて行った。…後で輝夜から叱られること待ったなしである。
「…行ったか」
オオスはてゐを背負った鈴仙を見送り、大事ないことを確信した。
パウトの成分をあまり知られたくはないが、それ以上の薬を簡単に作れる永琳ならば知られても問題ないとオオスは思った。
「60年に1度しか咲かない竹の花。…少々貰っても罰は当たるまい」
オオスはそう言ってちゃっかり希少な素材を採取し始めた。
永琳も求めているだろうが、オオスは早い者勝ちであると言わんばかりに採取した。
…60年に1度の素材は、パウトの代金としても大分高いものになるが。
「次は鈴蘭を見に無名の丘へ行こうかな。今年は見事な鈴蘭なのだろう」
オオスは次の目的地を無名の丘に定めた。…鈴仙が鈴蘭の毒と言ったからだ。
無名の丘は妖怪の山とは正反対の方向にある低い山にある草原であり、春過ぎになると鈴蘭の花が咲き誇る。
「コンバラトキシン、コンバラトキソール、コンバロサイド…鈴蘭は30を優に超える毒の塊のような花だが、花言葉は『純粋』」
オオスはつらつらと独り言を並び立てる。
オオスはてゐがただの鈴蘭の毒にやられるわけがないと推理していく。
何者かがいた。だから、てゐも思わぬ形でああなったのだろう。
…オオスが見た限り、精神的なショックも大きいようだが。
「幻想郷になる前は間引きの丘という俗称もあったらしい。…無名の幼子を見舞いに行くとしよう」
オオスはそう呟いて無名の丘へふらふらと歩き出した。
オオスは鈴仙とてゐの様子から『毒』について結論が出た。
躰は毒で出来ているような物だ。何かが魂を宿しても不思議ではない。
故に、鈴蘭畑に何かが生まれていている。オオスはそう結論した。
花言葉どおりの純粋な何かが生まれたのだろう。…加減を知らず毒を撒き散らす幼子だ。
オオスは悪意がない子どもに怒ったりはしない。だからこそ、会いに行くことにした。
「quid faciam? quo eam?」
(一体私は何をしたらよいの?一体私はどこへ行けばよいの?)
オオスはラテン語の一節を口遊み、迷い子を探しに無名の丘へ向かうことにした。