見知らぬ地で彼岸花の毒を満喫していた時、そこにあった紫の桜に触れようとしたが止められた。
その際、ある人物に言われたことをメディスン・メランコリーは思い返していた。
『貴方のように小さな所にずっと引きこもっていると他人が見えなくなる。
自分の心だけが毒で攻撃的になる。
貴方はあなたが嫌う人間の、小さな心の持ち主です』
鈴蘭畑に捨てられてから人形として長い年月をずっと一人でいたメディスン。
数年前に体が自分の意思で動くようになり、最近では異常な強さを身に着けていた。
だが、その人物からメディスンは視野が狭い、味方がいないということに漸く気が付かされていた。
人形解放を謳いながらもそれすらどうしたら良いかわからず、無名の丘にある鈴蘭畑で悩んでいた。
「どうしたら良いと思う?スーさん」
メディスンは長い年月を共にしてきた鈴蘭に話しかけた。
…満足いく答えは一人ではでない。メディスンはきっかけを欲していた。
そこへ奇妙な男が現れた。黒い服を着た彼岸花が似合いそうな人間だった。
「odi et amo, quare id faciam, fortasse requiris, nescio, sed fieri sentio et excrucior.」
(憎しみながら愛する。どうしてそうなるのか、君は多分尋ねるだろう。しかし、私にも分からない。ただそういう気持ちになり、苦しんでしまう)
オオスは純粋な生命を謳うラテン語の詩を歌っていた。
生きることは悩むことであるとオオスは知っている。
一人では辛いことをオオスは経験していた。
だから、オオスは敢えて純粋な生命に会いに無名の丘に来ていた。
「やあ、こんにちは。人形さん」
オオスは無名の丘の鈴蘭畑にいた人形に声をかけた。付喪神とはまた違う生命に。
人形の髪は金髪のウェーブのかかったショートボブで瞳の色はブルーであった。
赤いリボンが蝶結びで結ばれており、黒と赤を基調とした物を着ている。
またロングスカートをはいており、リボンを胸元と腰に付けていた。
オオスは生まれたての純粋な人形へ優雅に礼をした。オオスにとって挨拶は大切である。だが…
目の前に人間が現れた。メディスンのコマンドは一択であった。
「あ、人間よ?人間!スーさん、やっちまいな!」
メディスンは人形を捨てる憎き人間が現れたので鈴蘭のスーさんに攻撃させた。
オートで攻撃が選択された。
鈴蘭の毒が人間に直撃した。…というよりも周囲一体を包み込んだ。
「あ、ヤバい、思ったより毒が体に回るのが早い…」
人間は即座に倒れた。痙攣すらしていない。…死んだかもしれない。
「あ、あれ?人間ってこんなに弱かったかしら?」
メディスンは牽制のつもりで毒を放ったが一瞬で倒れた人間を見て困惑した。
…弱い。弱すぎた。メディスンは憎き人間を殺した嬉しさよりも動揺してしまった。
だが、
「ああ、死ぬかと思った。って、コラ!殺す前にせめて挨拶くらい返さないとダメでしょ!」
人間は即座に起きあがってメディスンに対し、変なことで怒ってきた。
…メディスンから見て本当に死んだように見えたが生きていたようだ。
「怒るところそこかしら??」
メディスンは困惑した。
メディスンは外に出たのは今日が初めてだ。
…紫の桜の場所にいた人物の話であったようにまるで何も知らない。
だが、短い生であろうとも、こんな反応をする人間はおかしいのはわかった。
「相手の痛みをわかるようになるのがコミュニケーションの基本です。
次からは挨拶してから殺しましょうね。…全くもう」
人間は怒りの表情を見せているがそこまで怒っていないようだ。
メディスンは更に混乱した。普通挨拶してから殺せと返事をする存在がいるだろうか。
…だが、『相手の痛みをわかること』というのは自分一人では学べないことだと思った。
「では、改めまして。初めまして人形さん。私の名はオオス。人里で紙芝居屋を営む善良なる一般里人です」
人間、オオスはメディスンへ優雅な礼を持って挨拶を再度してきた。
どうもメディスンに話があってきたようだった。
メディスンはオオスの奇妙な圧力に屈した。
オオスはメディスンの、鈴蘭の毒に耐性を持っていなければ本当に死んでいた。
だから、本気で死んだふりをしてメディスンに示して見せたのだった。
「今年は日と春と土の組み合わせの年なんです。そして、それは六十年に一度しかやってこない」
オオスは自分の力を加減できないメディスンに今の時期が特別なことを説明した。
「それが意味するのは、あらゆる物の再生」
オオスは咲き誇る鈴蘭を示し、メディスンへ伝えた。
「私だからよかったものの、この時期に調子に乗って人間の大量殺戮なんてやった日には恐ろしいことになっていましたよ」
オオスはメディスンに再度警告した。
オオスとしても幻想郷のルールすらまだ知らないメディスンの能力は危険過ぎた。
「そんなことしないわよ!」
メディスンは心から叫んだ。
メディスンはどうやら善良な性格のようだとオオスはホッとした。性善説万歳。
「メディスンさん。私のような善良なる一般里人の感覚を今すぐに持つのは難しいかもわかりませんが」
オオスはメディスンへ幻想郷で正しく生きるコツを教えようとした。
しかし、
「今日は何人か人間や妖怪も来たけどあなたのような変な人はいなかったわ」
メディスンはオオスへ返した。
やたら狂暴な紅白の人間と毒を茶にしようとする銀髪の人間等来ていた。
…そして、メディスンと取引がしたいという兎が来ていた。
「ハハハ!ならば問題なかったようですね」
オオスは笑った。メディスンが心配で来てみたが、意外と良識的だった。
力のコントロールが出来ていないだけなら必要なのは人里へ行う一応の注意くらいだろう。
稗田阿求に呼び出された際にでも報告しておけばよい。
メディスンのオオスに対する変な人扱いは言いたいことはあるが、まだ幼き子どもに等しい。…妖精を相手にするようなものだ。
なお、オオスは妖精から未だに人外扱いなのは不服であるが、そこは許している。
「では、その中で多分、この鈴蘭に注目した方はいませんでしたか?」
オオスはメディスンに尋ねた。永遠亭に丸投げすることにした。
オオスより毒物に長けているからメディスンの今後の振舞いの勉強になるだろう。
「ええ、いたわ。何人か」
メディスンはオオスの問に答えた。
…メディスンはオオスがやけに友好的なのに戸惑った。
殺そうとしたのにこんな反応されるとメディスンも困る。
「では、その中で人間以外の方と交流してみては如何でしょうか?」
オオスはメディスンに提案した。
「貴方が今後どのようにしたいかは敢えて聞きませんが、味方がいないと色々困りますよ?」
オオスは善意から言う。…外で何もかも敵になったときは辛かった。
「…人形解放のためにももっと自分の味方を作る必要があるわね」
メディスンは味方を作る、仲間を増やすことを目標にすることにした。
メディスンはオオスという人間か怪しい存在が少なくとも善意で言っていることはわかった。
だから、
「ありがとう。参考になったわ」
憎き人間であろうともメディスンは感謝の言葉をオオスへ述べた。
「どういたしまして。…では、私はこの辺で失礼させていただきます。
どこかでまた会うこともあるでしょう」
オオスは優雅に礼をして、実体から風となり、空となり消えて行った。
次は季節外れの向日葵でも見に行こうかとオオスは思った。
「…やっぱり人間じゃなかったのね。でも、嘘つきね」
メディスンは思わず笑ってそう呟いた。
メディスンはオオスを人外扱いした。今の光景を見れば当然であった。
メディスンからしてもオオスはどう考えても人間じゃない。
…オオスは嘘つきではあるが、次会う時には友好的に接しようとメディスンは思った。
改めて感謝の言葉でも言うことを一先ず決めた。