博麗霊夢と四季映姫・ヤマザナドゥの弾幕ごっこでの決闘、意地の張り合い。
今回の勝敗はどちらでも良かった。…異変ではないのだから。
「いいかしら?なるべく早めに霊達をどうにかして頂戴!」
霊夢は最後にそれだけ改めて伝えた。
霊夢も今回は人間の範疇を超えた事象が原因とわかり納得した。
紫の桜に魅入る前に足早に帰って行った。
「…言うだけいって帰りましたね、映姫様」
小町は霊夢が帰ったのを見計らってから言った。
小町は二人だけの時のように下の名で四季を呼んだ。
だが、
「まだ終わりじゃないわ。小町」
四季は『閻魔』としての仕事が残っていた。
「いい加減、そろそろ出てきてなさい」
四季は虚空に向かって言う。
「…四季様?もう誰もいませんよ」
小町は四季の独り言かと思いつつ、上の名で呼んだ。
そこへ突然、虚空から風となり、最後に実体となって男が現れた。
「…最後の件は私宛だったので?」
男、オオスは四季に聞いた。
「ええ、そうです。貴方とは話さなくてはと思っていました。
本来はこちらから出向くつもりでしたが。丁度良い、今話しましょう」
四季映姫・ヤマザナドゥは堂々たる面持ちでオオスへ宣言した。
…白黒はっきりつける能力を持つ彼女を欺ける者は誰一人としていなかった。
オオスが空となろうが、それが『人間』の範疇ならば見抜けぬ道理はなかった。
「小町は仕事に戻っていなさい」
四季は突然現れたオオスに呆然としている小町に命令した。
『人の秘密を暴くのも、紛争を起こすのも、犠牲を伴う決断を下すのも。
…それが仕事の人もいる。仕事だからというものは罪の免罪符には決してならない。
だからこそ、罪を少しでも減らすために常日頃から善行を積む必要がある』
四季の言葉は霊夢に当てた言葉であり、隠れ見ていたオオスに当てた言葉でもあった。
オオスは風見幽香から太陽の畑で霊夢が暴れていったことを聞いた。
それを聞き、オオスは自らの失態を悟った。
霊夢は今回の花々が咲き乱れるのを異変と誤認しているとわかった。
オオスは太陽の畑に来て、早々切り上げることを幽香に謝罪した。
そして、黄金の蜂蜜酒を使って太陽の畑から無縁塚に転移していた。
だが、既に霊夢と四季はぶつかる直前であった。
…以上がオオスから見た事の顛末だった。
ちなみに、オオスは自分が霊夢に問答無用で襲われそうだと知っていたら即逃げていた。
霊夢の説得以前に死ぬからである。
死神が慌てて仕事に戻り、人払いが済んだ無縁塚にて閻魔と外来人は向き合った。
…罪の色である紫の桜が彼岸花に降り注ぐ。悲しくも美しい光景の中で。
「…この度は私の不手際もあり霊夢さんが暴れまわったことをお詫び申し上げます」
オオスは四季に真摯に謝罪した。
オオスは博麗の巫女が60年に一度の博麗大結界がらみの事象を知らないとは思わなかった。
誰が何と言おうとオオスは自身のコミュニケーション不足が招いたミスだと理解していた。
「…そうですね。貴方が神を嫌うことなく博麗霊夢と関わっていればこうはならなかったでしょう」
四季はオオスの謝罪を受け入れつつも淡々と指摘した。
「貴方は神仏を敬わない。貴方の態度では博麗霊夢との衝突は何らかの形で起きていたでしょう。
…ある意味今回のような些事で済んで良かったとも言えます。それでも貴方の責任は大きい」
四季は閻魔としてオオスの謝罪等は全く関係なく裁く。
感情に流されずに真の意味で公平である閻魔大王でしか言い切れない。
気に入った人間や嫌いな人間、感情を基準にして白黒つける判決を出さない。
四季映姫・ヤマザナドゥとは閻魔として極めて真っ当であり、それ故に八雲紫等からは疎まれる。
場合によっては白黒つけない方が良いことでも職責として判断する立場にあるが故に。
「貴方は幻想郷に来る前も、来た後も確かに善行を行っていた。
だが、それは裁きが変わる理由とはならない」
四季は淡々と今はオオスと名乗る人間に告げる。
…閻魔の裁きにおいてなんのお咎めもなく通り抜ける事の出来る者は存在しえない。
だが、
「しかし、今回は私も休憩の時間です。…裁きではなく話をしましょうと最初に言いました」
四季は休憩の時間だった。…そもそもそうでなければ無縁塚まで来ない。
閻魔の仕事は二交代制なので自由に使える時間で四季は小町を叱りに来ていた。
メディスンに桜に触れないように注意したのもまた休憩の時である。
…四季は休憩だろうがなかろうが説教して回る閻魔だった。
そのため、八雲紫以外からも敬遠されている。誰だって説教は嫌だ。
その四季の様子を見て、オオスは気分を即座に切り替えた。
「それはありがたい!私は無縁塚の紫の桜もみたいと思っていたので丁度良かったです」
オオスは謝罪の体勢から急に明るい顔をして桜を見たいとほざきだした。
懐から酒まで取り出しそうな勢いである。というか酒を出した。…閻魔の前で。
オオスにはさっきまでの真摯な謝罪は面影もなかった。
…見る人によってはオオスがふざけているのかと思われる。
しかし、オオスは四季へ本気で謝罪していた。
オオスは古明地さとりも心を読んでびっくりする程即座に感情が切り替わるのだった。
「そういうところが、余計にあの巫女を怒らせるのです。
私はふざけていないのはわかるけど、反省の姿勢を維持する体面も必要だわ」
四季映姫は呆れてオオスへ指摘した。
四季映姫・ヤマザナドゥはオオスのことを浄玻璃の鏡で見ていた。…小町の報告があってからだ。
外から来た正体不明の神の出現は、死後の人妖を裁く是非曲直庁に取って寝耳に水であった。
オオスが生まれてから死ぬまでを、閻魔の沙汰の前に四季は全て見ていた。
幻想が失われた外の世界の、この時代に特別な血縁も何も関係なく自力で神にまで至った。
それは異例中の特例である。
形だけの神ではなく権能まで備えているのは有り得なかった。
従って、幻想郷担当の閻魔としては男を調べ上げ、監視するのも職責になった。
なお、八雲紫にもオオスの人生の一部を閲覧させた。
幻想郷の賢者として検閲する権限があったからだ。
他の賢者も是非曲直庁に問い合わせがあれば閲覧可能である。
…いつもは閻魔の呼び出しに中々応じない八雲紫がすぐに来た。
そのため、オオスの人生全てを知る四季映姫・ヤマザナドゥは目の前の男が如何に面倒臭い『人間』なのか誰よりも詳しい。
…オオスは三歳からずっとこの調子なのだ。
ここまで三つ子の魂百までということわざがそっくりそのまま当てはまる人間は四季も見たことが無い。
「私の人生全て覗いたのなら遠慮はいらないと思っただけです。
これが死後の裁きなら大人しくしています」
オオスは四季を恐れもせずに言い切った。…小町が見ていれば恐ろしくてたまらない。
「…貴方を説教しに来たのですが、やはり貴方には無意味。
もし、裁くとしたら人間として死んで三途の川を渡ってからになるでしょう」
四季はオオスという人間がどれほど大ウソつきか知っているので追及を辞めた。
しかし、オオスの嘘は賢者の嘘であった。
騙されたはずの者は騙されたことに気が付かないし、気が付いても損をしない。
それどころか嘘つきに感謝すらする。…本当に賢い者の嘘つきである。
因幡てゐのような悪戯紛いの詐欺ではない。
やられたらやり返すこと以外は無害なので四季も叱るに叱れない。
嘘を叱るにしても今度は必要な時の嘘まで辞めかねない。
四季がオオスの人生全体を通して見た結論だ。…実に極端かつ面倒臭い。
オオスの死後裁きがあれば、いつも以上に事細かく調べ上げる必要になるだろう。
そして、僅かにでも過失があれば説教となることは間違いない。
「ああ、やはり人間としてという頭文字がつくのですね。…嫌だなぁ」
オオスは四季が想像通りの公正な閻魔だとわかったので、暗に神扱いしても怒れない。
「…貴方はもう人間を辞めつつある。
私が何を言おうが勝手に進行している現象です。
貴方の意思では止められないでしょう」
四季はオオスの意思とは無関係に人間を辞めつつあると指摘した。
「…やはり、天狗の術が変化したのもそういう?」
オオスは自らの変化を既に自覚していた。
風になる天狗の術が『空』の領域に変化した。
簡易的な炉を作成できる魔法『ボロナスの炉』が核融合レベルまで高めることができるようになった等だ。
…オオスの技能の一部はもう人間の域を超えていた。
「貴方が全力で抵抗していなければもうとっくに神になっています」
四季はオオスに宣言した。…オオスは神に成りたくなくて全力で抵抗していた。
小町は神嫌いの神と表現したが、オオスは人間として死にたがっているだけだ。
神嫌いというよりも寧ろ問題の本質は別にあると四季は知っている。
…不老不死の輝夜への対応もそうした問題が背景がオオスにはあった。
「…貴方は他人の業を背負い過ぎた。三途の川を渡れない。私の裁きを受ける以前の問題です」
四季はオオスに宣言した。
オオスには救いはなかった。
行いが善でもそれにより発生した恨みつらみにより、オオスは三途の川を決して渡れない。
オオスは永遠の地獄を彷徨うことになる運命にあった。
「それは別に気にしません。私の人生ですので」
オオスは四季の宣言に気にせず言い切った。
外に居た時からもとよりそのつもりである。覚悟もしていた。
初めて八雲紫に会った際、地獄へ行っても怒るのは筋違いとオオスは言った。
…それが想定内だったというのもあった。
「貴方は私が裁きたいですが、人間としての生の範疇では決して不可能です」
四季はオオスに言いなおした。否、暗に可能性を示唆した。
「神になるのは断じて嫌ですが、私は自殺するつもりもない。…どちらが勝つか負けるか」
オオスは四季の言いたいことを理解した上で人間として死にたいと改めて宣言した。
「貴方は自分を許せないだけです。神という救いから逃げているだけ」
四季はオオスへ閻魔として指摘した。オオスは逃げている。
「貴方は信仰の欠片もない。人間として死ねば誰も貴方を助けはしない。
恨みに飲まれて永遠に苦しむことになるでしょう」
四季はオオスへ断言した。
…幻想郷でどれだけ善行を積もうが、神仏に祈りもしないオオスは三途の川を渡り切れない。
オオスは幻想郷ならば可能な神という第三者からの救いを拒絶していた。
「貴方のそれは博麗霊夢とは違いもはや改善の余地はない」
四季映姫・ヤマザナドゥは人間×××××を裁けない。
…そう言われて考えを改めるつもりがあったらどれ程楽であったかと四季は思う。
「私に取って神とは敵であり、私の歩みを邪魔するものだった。
…それが邪神とはいえ、同じ神である以上はそれを認めるのは難しい」
オオスは外の世界での神々が齎した数々の悲劇を思い出して言った。
オオスに取って今更、神に祈るなど外の世界での悲劇を思い出せば不可能だった。
だからこそ神にとって代わって外の世界でオオスは自らの意思で動いてきた。
悲劇を喜劇に変えて来た。それがオオスの日常であった。
それは本来あるべき悲劇を知らない者にとって『憎悪』にしかならないものだった。
だが、
「貴方はここに来て何を学んだのか」
四季はオオスの悲観論を一蹴した。
「そう、あなたは少し客観視がなさすぎる」
四季映姫・ヤマザナドゥはオオスへ宣告した。その目は閻魔大王としての責務があった。
「…それはどういう」
オオスは思わぬ返しに四季に尋ねようとした。
しかし、四季はオオスの問の最中に立ち上がった。
「それを探すことこそ貴方に必要なことです」
四季は休憩が終わったので服を整える等して帰ろうとしていた。オオスの問は無視だ。
最後に、四季はオオスへ振り返った。四季はオオスの目だけを見ていた。
オオスから見て、背に悔悟の棒を持っている四季の佇まいは厳かなであり、美しかった。
「貴方はその紫の桜が降りしきる下で天国か地獄。行きたいのはどちらか考えなさい」
四季はそれだけ言うと今度こそ飛んで去って行った。
「…面倒臭い。今回の謎は実に面倒な謎解きだ」
オオスは飛んでいく四季を見て呟いた。
結局、取り出した酒は一人で飲んだ。
紫の桜は誰の意思とも無関係に美しく咲き乱れ、そして散っていった。