四季が去った無縁塚にて一人残されたオオスは弔い酒を飲んだ。
罪人達の紫の桜と孤独な人々の彼岸花を眺めつつ。
異様な美しさを醸し出す無縁塚は無言でオオスに何かを返していた。
喪服に身をつつみ黙祷を捧げる男は、桜の花びらと共に今にも散りそうな儚さがあった。
その光景を知る者は桜と彼岸花のみだ。
オオスは無縁塚の、罪と孤独を抱えた花々の下を後にした。
…これ以上長居するとまた感情に流される気がした。
魔法の森は真っ当な空間ではない。化け物茸の瘴気等で満ちている。
そのため、森は幻想郷中の花が咲き乱れても、いつもと変わらぬ光景であった。
オオスは彼岸花が咲き誇る再思の道を通り過ぎて魔法の森まで戻って来た。
魔法の森は飛ぶのに適さない。あの霊夢ですらここで飛んで行き来することはまずない。
オオスの術や黄金の蜂蜜酒も無制限に使えるわけはない。
そのため、オオスは魔法の森を普通に歩いていた。
「ここだけ変わらないと少し安心するのは、人里の人間としてはあまり良くないかもしれない」
オオスは独り言を呟いた。
…今更ながら瘴気に満ちた魔法の森で平然と過ごし、それどころか安心してしまった自分は他者から見てどう思うのかを考えていた。
地底でも地獄の数々を見学したが、オオスは普通の観光客気分であった。
オオスは少し感傷的になっていた。
四季に言われた言葉を考え、霊夢の暴走を思い出した。
オオスにとっては霊夢へ神事を勧めたのは善意であったのだが、あれは想定外であった。
オオスは珍しく堪えていた。
…気分を変える必要がない孤独の森を歩いているせいもあるだろう。
だが、
「あら?久しぶりね」
アリスがオオスを見つけて声をかけて来た。
オオスはアリスと久しぶりに再会した。
オオスは即座に気分を変えた。
「お久し振りです。前に会ったのは確か去年の秋でしたね」
オオスは本当に久しぶりなアリスに挨拶を返した。優雅な礼を忘れずに。
冬の間、オオスは人里にいることがほとんどだった。
アリスとの話題の為に冬の間のことをオオスは思い出していた。
鈴奈庵の小鈴の些細な会話から派生した人里で行われた謎の磔。
オオスは稗田家の阿求に呼びつけられていつものようにお叱りを受けた。
犯人等いない。被害者は自分で自分を磔したと証言していた。マゾヒストか何かである。
だが、オオスが呼びつけられた。…実に如何だとオオスは今でも思っている。
他には冬の間に紅魔館に押しかけた件。
オオスの家庭教師はフランドール自身から断られた。
生徒本人から拒否されたのなら仕方がないとオオスは渋々引き下がった。
姉はその妹の姿を見て感動した。オオスのゴリ押しを耐えきった妹の奮闘を見て、だ。
…パチュリーはそんなレミリアの様子に呆れていた。咲夜も同様である。
今回は残念だが、正気でない狂気のフランドールのことだ、来年の冬はOKを貰えるかもしれないとオオスは思いなおした。
オオスは諦めていない。
オオスはそんな冬の極々些細な思い出を一気に思い返した。
特に冬に事件は何もなかった。実に平和な幻想郷だ。…話題には成りえないかもしれない。
オオスにはもはや先程までの感傷は一切なかった。
「喪服着ているみたいだけどどうしたの?」
アリスはオオスに尋ねた。
普通に森で喪服はおかしい。アリスは純粋な疑問から聞いた。
オオスはアリスの前で喪服を着るのは神社での宴会以来かもしれないと思い返した。
あの時は、オオスは萃香との対面前ということもあり宴の席で踊念仏という宴会芸をした。
喪服でその後行動しても怪しまれないように、オオスなりのカモフラージュだった。
なお、オオスは喪服を着ることは余りない。
オオスが喪服を着るのは戦闘か危険地帯のみだ。
人里や紅魔館等、そして魔法の森はオオスに取って安全地帯である。
重ねて言うがアリスは純粋な疑問で尋ねた。
…オオスと何回も会ってはいるが互いのことを知らないというのが大きい。
他の面々はオオスの非常識さから喪服を見ても尋ねないだろう。
魔法の森に何度も来て会っていても、アリスとオオスは未だに基本無言だった。
「ああ、今、あちこち見て回っていたので」
オオスはそう言いつつもこれでは答えになっていないなと思った。
なので、
「今着ているのが前に話した火鼠の皮衣なんですよ」
オオスはアリスなら良いと思ってそう言った。
輝夜との話題でオオスは火鼠の皮衣を持っているとアリスと魔理沙に話してはいた。
だから、世話になっているアリスには言っても構わないと判断した。
なお、オオスは魔理沙には絶対に言わない。盗まれかねないからだ。
当然、アリスも魔理沙には言う事はないだろう。魔理沙は喪服を盗みかねないからだ。
「…喪服に火鼠の皮衣を使うって焼かれたくないとかかしら?」
アリスは困惑した。当然の反応である。常識的に考えて意味が分からない。
喪服にかぐや姫の五難題の一つが使われているのは勿体ない。アリスの素直な感想であった。
「まぁ、作った時は皮肉を込めてたんですが、これが結構使いまわしが良くて」
オオスは普通に聞かれたから答えていた。
オオスは火鼠の皮衣を加工する際、何日も寝ていない状態であった。
オオスは気が付いた時には喪服に改造していた。
あの時程馬鹿なことをしたと思ったことはない。
だが、結果的にオオスに取って最適な装備へと変貌していた。
喪服に加工することにより、オオスの神秘性が増した。
オオスの正体不明さが増したともいえる。
呪術は神秘性が加わることで効果が増す。
オオスが身に着けた時、限定ではあるが喪服の、火鼠の皮衣の効果は何倍にも跳ね上がっていた。
なお、オオスの神化が進んでいる現在も増している。
それには外の世界での出来事が絡んでいるので、オオスはそれに気が付いていない。
最も、外から相当なオカルトマニアが来ない限り誰にもわからないだろう。
話を戻すが、オオスは今まで誰にも話したことが無いことをアリスへ話していた。
「この服さえあれば死ぬときも見栄えが良いですよね」
オオスは極々普通にそう言った。
…オオスにとって喪服はそういう物だった。
いつ死んでも良いように、綺麗な状態で逝けるのならそうしたいという思いを込めていた。
だが、
「…そういうのはどうかと思うわ」
アリスはオオスに苦言を呈した。普通にオオスの返しは不謹慎である。
だが、その苦言は、アリス自身も判らない感情が籠った言葉であった。
「…言われたことがなかった」
オオスは思わず呟いた。
その呟きは誰にも聞こえない位小さな物だった。
オオスはアリスの言葉に含まれた感情を理解できなかった。
そういう感情を誰かに言われたことがないが故に。
しかし、オオスは気分を変えた。久しぶりの再会にこんな雰囲気は嫌だ。
「まぁ、戦闘用の服装です。相手を翻弄するのにこの姿だけで煽りになります」
オオスは気分を変えて明るく言いなおした。実際、敵を煽るのに最適なのだ。
「自分は死ぬ用意ができているのに殺せないとかねぇ、どんな気持ち?みたいな感じです」
オオスは本心からアリスへそう言った。オオスは外でそういう使い方をしていた。
だから、
「ふふふ。相変わらずね」
アリスもオオスの言葉に笑った。いつものオオスのふざけた答えが返って来たから。
アリスも何故かホッとした。
その後、オオスとアリスはいつも通りの会話となった。
適当に久方ぶりの再会を喜び、オオスは次に魔法の森で実験する時に会う約束をした。
…この時にオオスの呟きがアリスに聞こえていればまた違った展開になったかもしれない。
オオスは大嘘つきであった。自分すらも騙して気が付かない程の。