嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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幻想郷のフィクサー

アリスと別れたオオスは妖怪の山を登っていた。

今回は山を登るのに、厄除けの禹歩も天狗の術も使わない。

 

オオスは度重なる妖怪の山への不法侵入で大よその山の勢力図を把握していた。

だから、目的の妖怪に会う方法もわかっていた。

 

「人間が山に入ってどうするの。危ないわよ?」

そう言って赤いゴスロリ風のドレスを着た少女が現れた。

 

彼女の名は鍵山雛。秘神流し雛の二つ名を持つ厄神様と呼ばれる妖怪である。

 

鍵山雛についてオオスは、厄神様は神ではないのでギリセーフとしている。

そのため、鍵山雛はオオスが敬いの姿勢を素で見せる数少ない存在の一人である。

 

「って、あら?人里の紙芝居屋さんじゃない?どうしたの妖怪の山まで来て」

雛は人里で自分に普通に話しかけてくる唯一の里人を見て驚きの声をあげた。

 

鍵山雛は緑色の髪をしており、後ろからサイドにかけて胸元で一本にまとめている。

頭部にはフリル付きの暗い赤色のリボンを結んだヘッドドレスを着けていた。

 

「お久しぶりです。雛さん」

オオスは雛へ挨拶をした。

 

鍵山雛は近くに居るだけで人間も妖怪も不幸にし、名を口に出すだけでも不幸を招く。

しかし、オオスにはそれらが素で効かないので普通に話せる存在であった。

オオスが雛と話すのは、人妖問わず正気を疑われる光景なのだがオオスは一切気にしていない。

差別は良くないとオオスは思っている。とはいえ、他者に強要するつもりもないが。

 

「この度は突然の訪問、誠に申し訳ありません」

オオスは雛に対して訪問を詫びる。真摯な姿勢であった。

 

「…ひょっとして私に用があったのかしら?」

雛はオオスの態度に驚いた。今まで自分を尋ねて来た者はいない。

 

例外は厄を渡す神くらいだが、神に対しては厄を渡すのであり招く物ではない。

もし、雛に用があるのならば、オオスは彼女をわざわざ訪ねて来た最初の一人となる。

 

だが、

「不躾で申し訳ありません。本日は貴方が厄を渡している神に用があって参りました」

オオスは謝罪しつつ、否定した。雛ではなく神に用があった。

 

オオスは雛を通してなら彼の神に会える可能性が高いと思っていた。

古代天狗語の文献でその存在を知った。障碍の民の祖である。

…外の世界の文献上でも自分に近い思想の神であった。

 

オオスは四季との対話から、神になりつつある自分を再確認した。

…自分の将来に対して布石を打っておくべきと判断した。嫌ではあるが。

この時期ならばオオスでも可能と判断した。

 

「あら?でもそれは駄目よ。どの方かわからないけれど、お許しにならないと思うわ」

雛は人間が神に会うのは不敬として言う。

…個人的には会わせてあげたいが、駄目なものは駄目である。

 

「大丈夫です。…それと申し訳ありません」

オオスは問題ないと宣言し、雛に謝罪した。…これから行うことは雛にとって迷惑だろう。

 

「摩多羅神はおられるでしょうか?」

オオスは神の名を呼んだ。

 

「えっ…何であの方を知っているの」

雛は驚いた。…それは自分以外知るはずのない神の存在だったからだ。

後戸の国に住み、生命力や精神力を調整している神である。誰のどこにでもいる。

幻想郷の厄を神々へ届ける自分すらよくわかっていない神であった。

 

困惑する雛がオオスへ問いかけた瞬間、鍵山雛の背中に『扉』が現れた。

 

…オオスは雛の背中の扉から現れた二人の少女に引き釣り込まれた。

オオスの予想通りに。

 

 

 

数々の扉が入り乱れる不思議な空間。空虚でありながら神秘的な光景が広がっていた。

 

「お師匠様!連れてきましたよ」

海松色の髪の笹色のドレスの様な服を着た少女はそう言ってオオスをぶん投げた。

…オオスはべちゃっと床に叩きつけられた。非常に痛い。

 

「…もう少し丁寧に扱ってくれても良いでしょうに」

オオスは少女に苦言を呈した。だが、もう少女はいなかった。

 

「あっはっは、これは面白い!よりにもよってこの時期に私を呼ぶとは!」

金髪のロングヘアに冠を被った女性が高らかに笑い声をあげてオオスを出迎える。

 

オオスは即座に佇まいを直した。

本来は唾棄する神とはいえ、目の前の神はオオスの、本来の有り方に近い。

幻想郷のフィクサーともいえる。オオスも外では隠れていた。

この神とオオスはやり方が似ているのだ。

 

それに、マナー違反はオオスにある。オオスにとってマナーは大切だ。

 

「初めまして摩多羅神とお見受け致します。私の名はオオス。善良なる一般里人です」

オオスは目の前の神へ礼をする。

 

…オオスは優雅な振舞いを失わないように自分へ言い聞かせていた。

オオスが振舞いに関して自分へ言い聞かせること等、滅多にない。

 

「私は摩多羅隠岐奈。後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神である」

椅子に座ったまま尊大な態度を崩さずに神は名乗った。

隠岐奈の服装はオレンジ色の狩衣に緑色のスカート、ロングブーツという組み合わせであった。その前掛けには北斗七星や星座が描かれている。

 

本来、神が多くの神格を持っているのは有り合えない。

しかし、それがこの神の本質でもあった。オオスもそれを知っていた。

 

「存じ上げております。障碍の民の祖。仏の後ろに潜み人里に棲んだ障碍の秘神」

オオスは礼の姿勢のまま、秘神の正体の一部を明かす。

今の幻想郷においては賢者を除き、誰にも知られていないはずのものであった。

 

「…お前のことは見ていたが、よりにもよって秘神を暴こうとはどういうつもりだい?」

隠岐奈はオオスの返答に含まれている暴挙に問いかけた。

尊大な態度は一切崩さない。その振舞いは正しく神であった。

 

「私は神には成りたくありませんが、万が一なるとすれば…ということでご挨拶に参りました」

オオスは神となるのならば、こうなる可能性の高い神へ挨拶に来ていた。

神になど成りたくはないが、あらゆることに備えるのはオオスの基本だった。

 

…古代天狗文字の文献には天狗の祖について書かれた者があった。

別れた二つの祖の片割れ、オオスにとって隠岐奈は興味深い存在だった。

 

「やはり、この時期に来たのは」

隠岐奈はオオスの真意を見通していながらも、敢えて尋ねた。

 

「…季節の隙間が満ち溢れているこの時しか、私が貴方にお会いするのは不可能と判断しました」

オオスは秘神を暴くのにはこの時期しかないと前々から思っていた。

 

例え、この秘神が役割の為に幻想郷に現れるとして何十年いや、何百年先かわかったものではなかった。

…四季に言われた神化の進行がオオスの背を後押ししていた。

 

「私が言うのも何だが、境界の民として来るのであればそこまで備えずとも良い」

隠岐奈はオオスが敢えて自分に会うために備えているのを看破した。

自分に合わせていることに好感を覚えた。

 

…元来、出生という血による穢れを司る神に謁見するのにオオスの用意は実に見事であった。

季節の隙間という有り得ない花々が咲き乱れる幻影風景に騙されること無く、オオスは神意を看破していた。

60年に一度という竹の花まで備えているとは見事であると隠岐奈は感心した。

 

だが、オオスがどこまで調べ切っているのかは隠岐奈すらわからなかった。

 

「お前、過剰防衛が過ぎるぞ」

隠岐奈は呆れて指摘した。オオスは何重にも備えていた。

隠岐奈でなければ、戦いに来たと誤解されかねないだろう。

 

「前にも言われました。鬼に」

オオスは隠岐奈が意外にフランクなのに内心驚きつつ返した。

隠岐奈は随分親し気であった。

四季映姫に会う前に竹の花を回収していたのはオオスとしても幸運だったと安心した。

 

この幻想郷では概念や言霊が非常に強い力を持つ。

オオスはそれを見抜いてこの時期、この場所にしか有り得ない物を多く回収できていた。

地底での地獄の観光で穢れを観察した。季節外れの花々により季節の隙間を作り出した。

…厄神様という穢れを扱う特異な存在に接触することで隠岐奈の関心を引いた。

 

これら全てが目の前の神、摩多羅隠岐奈に会うためにオオスが備えたことだった。

 

古明地さとりも観光しに来たというオオスの本音しか見抜けないだろう。

実際、会うとはオオスも四季に指摘されるまでは可能性しか考えていなかったのだから。

 

「神ともあろう方が私の行為の意味を気付かないわけがないと思いました。それに貴方を滅しにきた訳ではございません。…不可能ですので」

オオスは人間の自分では目の前の神に会うことすら不可能に近いと自負している。

何せ善良な神である。オオスが外の世界で会えなかった善神である。

 

なお、オオスは邪神には会う手段を持っている。会いたくはない。

 

「勇気と無謀は違う。お前のは考えすぎなのだ。空が上から落ちてくると思っているだろう」

隠岐奈は呆れてオオスへ言った。半分冗談であった。

 

だが、

「はい。おおよそ」

オオスはガチであった。何なら月から攻め込まれることすら考えている。

 

「…うちの二童子もそろそろ解放してやりたいんだが。その後継者にならないか?」

隠岐奈はオオスのガチガチの対策を見て、思わず誘いの言葉をかけていた。

…オオスは隠岐奈から見て素質があり過ぎた。

 

「お断りします。私は善良なる一般里人なので」

オオスは即答で断った。

それがブラック企業も真っ青なのはオオスも調べていて分かっていた。

 

「それは残念だな。生命担当の丁礼田と精神担当の爾子田の両方の働きをしそうなんだが」

隠岐奈は心の底から残念そうに言った。

オオスは人間のままでも十分過ぎるくらい有能だ。…隠岐奈は本当に残念だった。

 

「代わりと言っては何ですが、貴方が異変を起こすとき私は動かないとか契約しませんか?…私なら多分即解決できてしまうので」

オオスはブラック企業は嫌なので代案を提案した。

隠岐奈がオオスの生きている内に異変を起こすのならば破格の契約だとオオスは自負している。

何せ、オオスは天狗の祖まで調べ尽くしている唯一の存在だ。

オオスを殺す気がないのならば、自分を黙らせることは目の前の神にとって垂涎の提案であるはずだと確信していた。

 

「神に対して本当に敬意のない奴だわ。何だかなぁ」

隠岐奈はオオスに呆れかえった。神に対して敬意無さ過ぎである。

自分が殺す気ならばどうしていたのだろうと隠岐奈は思った。

 

なお、オオスは隠岐奈が殺す気なら仕方がなく殺されていただけである。

…隠岐奈への対抗手段が人間のままではオオスには存在しなかった。

 

「では、この話はお終いでよろしいでしょうか?」

オオスはそんな気配を見せることなく帰ろうとした。ブラック企業は嫌であった。

 

「ああ、待った!わかったから。お前の言う通り契約しよう。

 …その代わり余計な茶々を入れてくれるなよ?」

隠岐奈はオオスの契約に乗ることにした。…万が一があると隠岐奈も思っていた。

月の民が地上に来ていたのを隠岐奈も把握していた。

 

…それすらオオスの思い通りなのにはムカつくが。

 

「それが必要なことはわかっております。何せ私が唯一話せると思った神で有らせられるので」

オオスは契約を飲んでくれた神に感謝の言葉を述べた。完全に上から目線である。

 

「上から目線とは本当に失礼だな。…まぁ、心変わりを待って置こう」

隠岐奈はオオスへそう言った。実に失礼極まりない。

 

…隠岐奈へこのような態度を取った人間等いなかった。

だから、心変わりを本当に楽しみにしていた。

 

「お前が神になるにしてもならないにしても」

隠岐奈はオオスが嫌がることを敢えて言った。

 

「嫌です。神の下働きとか死んでもしませんよ」

オオスは隠岐奈の挑発を無視した。乗ったら負けだと思ったからだ。

 

「…本当に挨拶しに来ただけなんだよな?喧嘩売っているなら買うぞ」

隠岐奈は本当にオオスを甚振ってやろうかと考えた。

 

だが、

「辞めてください死んでしまいます」

オオスはみっともないことを言い出した。

 

その全力なオオスのみっともなさに隠岐奈は呆れた。

 

「まぁ、いいや。お客さんのお帰りだ。返してやろう」

隠岐奈はオオスとの会話を終わりにした。

…隠岐奈はオオスもこれ以上は望んでいないに違いないと確信していた。

 

「では、また会おう」

隠岐奈はそうオオスへ言った。

オオスが神になるにしても隠岐奈が異変を起こすにしても、だ。

…隠岐奈はオオスが本気で後悔しそうな顔が目に浮かんだ。

 

「…できれば避けたいですが、またいつか」

オオスは隠岐奈の意図を見抜きつつも礼をかえした。

 

 

 

鍵山雛が再び気が付くとオオスがいた。

雛にはその間の記憶がないが、日の光から多少時間が経っていることがわかった。

 

「大丈夫だった?」

雛はオオスを心配して声をかけた。何せ人里で唯一話しかけてくる稀有な存在である。

雛は話好きだった。そして、雛と話すだけで人妖問わず厄が降りかかる。

 

鍵山雛は歩く災害であった。…人々から厄を集める善良な存在なのが性質が悪い。

 

「この度は申し訳ありません。

 …差支えなければですが、厄神様には永久紙芝居特等席権を差し上げたいのですが」

オオスは人里に災害を招くとほざきだした。

 

後で阿求から叱られることなどお構いなしである。

 

「あら、良いのかしら?私が近づくと皆いなくなってしまわないかしら?」

雛は自分が人から避けられていることは自覚しているのでオオスを心配して言った。

 

「ふふふ。私はお客様を差別しません。そういう方のための特別席です。是非、ご覧いただければ」

オオスは雛のような存在の為に紙芝居屋として席を作成していた。

故に全く問題ないと自負していた。…阿求から怒られること等知ったことではない。

 

「じゃあ、今度人里に行ったときに見に行くわね」

雛は喜んでオオスの誘いに乗った。

…誰か止めろと人里の人間なら叫ぶこと待ったなしである。

 

「ありがとうございます。…それと薄荷の生えていそうな横べり路傍などの湿地があれば教えてもらいたいのですが」

オオスはついでとばかりに雛へ尋ねた。

 

オオスは急にハッカ飴が食べたくなったのだ。

初夏から初秋までが採取期だが、今なら薄荷も採取できるだろう。

 

「それくらいなら良いわよ。何なら案内してあげましょうか?」

雛はオオスに案内を買って出た。雛は非常に機嫌が良かった。

 

「いいんですか!ありがとうございます」

オオスは雛へ感謝の言葉を述べた。

 

「気にしなくても良いわよ。いつも話し相手になって貰っているし」

雛はオオスに気にしないように言った。

 

 

 

なお、厄神様の通り道となった妖怪達はその日、厄が降り注ぎ大変な目に遭うこととなった。

オオスは人間なので知ったことではない。

 

 

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