まだ桜が咲く季節、迷いの竹林でオオスと兎二匹は歩きつつも話し込んでいた。
八雲藍が来て、射命丸文に文句を言ったその日の内であった。
オオスは先に呼んだてゐから聞いた話を鈴仙に振っていた。
「自爆以外なら何でも言う事を聞くようになる薬を部下に処方するとか酷いですね」
オオスは鈴仙を非難していた。
オオスがてゐから聞いた話では言う事を聞かない部下に処方しようとしたとのことだ。
可愛い顔して恐ろしい娘である。何て極悪非道なんだとオオスは素で思った。
「部下の管理不足を薬による洗脳で補おうって理由なんだよ、あんな顔してね」
てゐはオオスに補足説明をする。鈴仙が酷い上司であると言わんばかりである。
「あ、あれは私じゃなくてお師匠様が」
鈴仙は思わず二人に反論した。
部下の兎達が鈴仙の言う事を聞かないと相談したら、永琳に処方されたのだ。
鈴仙はそこまで求めていない。鈴仙も永琳のマッドサイエンティストっぷりに引いた。
「うわぁ…人のせいとか」
オオスは鈴仙を見て改めて引いた。
自爆以外を強制するような薬を作るのは永琳ならやりかねない。
しかし、それを把握していない鈴仙の方に問題があるとオオスは思っていた。
部下の管理もそうだが、上司の行動を予測するのも中間管理職の責務である。
鈴仙は些か仕事に対する緊張感に欠けている。
オオスが永琳の立場ならば鈴仙に教育的指導をしていただろう。
「兎達が言う事を聞かない事をお師匠様に相談してたこと知っているんだからね!」
てゐも鈴仙を非難した。
言う事を聞かない部下の代表格が自分のことを全力で棚に上げて何かをほざいていた。
迷いの竹林の、永遠亭の永琳が医師として人里で有名になりつつあった。
輝夜が永遠の魔法を解いて永遠亭を解放した結果、永琳は医師として開業し始めていた。
最も立地的に中々訪れる者は少ない。
オオスが勝手に永遠亭の医師を保証していなければ細々とした物になっていただろう。
永遠亭勢力が人里に与える影響を考慮してもメリットの方が大きい。
オオスはそう判断して阿求や人里の有力者に説得を永琳に黙って勝手に行っていた。
オオスはこの際、里人達に置き薬の販売でもしてくれないかと永琳へ相談しに来ていた。
どうも永琳は薬の販売をオオスの仕事と思っているのではないかと疑っていた。
てゐに処方した薬が、パウトが不味かったかとオオスは思っていた。
単純に永琳はまだ下地が、信用度が足りないと判断しているだけかも知れない。
…或いは永琳がオオスを呼ぶための材料にしているのかも知れない。例の月の件で。
オオスにとっては月等本当にどうでも良いのだが。
月の民を仮想敵にしているのはついでである。
オオスだって外にいた頃は国規模や邪神等への対策をしていた。
外の世界では、10億円以上持っている所属が不明な個人は国から睨まれる。
…国へテロを起こす可能性があるからだ。所謂、公安や別班のお仕事である。
そのため、些細な事情聴取等を気づかれないように行うのだ。
地元の、何も知らない善良な警官が上の意図等知りもせずに行ったりするのが微妙に厄介だ。
それらへの対策は普通の人間ならば当然行っている。それと何ら変わらない。
しかし、人里に永琳の薬があれば心強い。オオスも妖怪の山に不法侵入しなくても済む。
オオスは妖怪の山にて、鍵山雛を紙芝居に呼んだり、薬の材料を集めたり、潜入工作等をしていた。
妖怪の山への不法侵入の数を少しでも減らせればオオスとしてもありがたかった。
そのため、オオスは善良なる一般里人として永遠亭を訪れていた。
満月になる例月祭の前に、だ。
満月になる時、永遠亭は罪を償うために月への行事を毎月行っていた。
次の満月の時、永遠亭は忙しくなるだろう。
今回の訪問はオオスなりの配慮であった。
オオスが永遠亭に着いて丁度、誰かが出迎えに来ていた。
美しい着物に身を包んだ、否、その着物すら添え物となっている。
そんな絶世の美少女が出迎えに出ていた。それは遠目からでもわかる堂々とした佇まいであった。
…まるで竜宮城であるとオオスは思った。一歩間違えれば自らの破滅という点で。
「ご機嫌よう。人里の紙芝居屋さん」
永遠亭の主、輝夜が礼をもってオオスを出迎えた。
今回の輝夜は小細工無しだ。…正々堂々行くのが一番自分の武器だと輝夜は確信していた。
だが、
「ああ、こんにちは。輝夜さん。お元気にしていましたか?」
オオスは何でもないかのように普通に挨拶を返した。
…輝夜の予想では跪いてこれまでの愚行に対する懺悔をし始めると思っていたのだが。
「魅力的であるとは思いますが、そういうのは私には効きませんよ」
オオスは輝夜の内心を読み切って吐き捨てた。
…輝夜に邪念がなければ効いていたかもしれないというのは言わない。
「あら、何のことかしら?」
輝夜はオオスの勘違いだと言わんばかりに平然として返した。
…ここで振舞いを崩すのは輝夜の負けだとも思っているので悔しさが出せない。
「そういえば聞きましたよ。昨年の冬、竹林で火事になったそうですね?大丈夫でしたか」
オオスは輝夜を心配するように聞いた。
大分日付の経った今更な話題ではあるが、幻想郷では情報網が発達していない。
そのため、先月とか昨年の話題も最近に部類される話題になり得る。
…火事になった遠因が自分にあるのを知っているのに素知らぬ顔である。
「ああ、煙草のポイ捨てが原因だった奴かしら?困るわよねぇ。
火を使う近所の不審者が犯人じゃないかと疑っているの」
輝夜は昨年の冬、妹紅との喧嘩のことを言っているのかとわかりオオスへ返した。
輝夜は妹紅へいつも以上に殺意剥き出しで攻撃していた。
そうしたら、妹紅が煽り返した。『酒は旨かったぞ』という具合に。
…結果、いつも以上の大喧嘩になった。
火災となり二人で喧嘩を辞めて慌てて消火したら、鴉天狗が取材としてやってきたのだ。
…あそこからオオスへ漏れたのか。やはりあの天狗は焼くべきだった。
輝夜は次会ったらあの天狗は焼くと決意した。慈悲はない。
「姫様?ちょっと良いかしら」
永琳が収拾つかなくなりそうなオオスと輝夜との会話に入って来た。
怯えている鈴仙と逃げたてゐでは止め役にならない。
そのため、二人の話が終わるのは夜になりかねない。永琳は早めに止めに入ったのだ。
オオスへ聞きたいこともあった。丁度良いところに来たと永琳は思った。
例月祭の忙しい時期を避けて来たようである。
…オオスの意図を永琳は確信していた。
「ああ、永琳さん。こんにちは。
医師としてだけでなく、人里への置き薬もしないかと相談に参りました。
…輝夜さんには悪いですが、お時間大丈夫ですか?」
オオスは永琳に用があると宣言した。
…永琳の罠は邪推し過ぎだったようだとオオスは判断した。
何で興味のない月のことでこんなに頭を使わなければならないのか。
オオスはいっそ月を壊滅させようかと思った。今なら犯人が誰かバレずに壊滅できる。
オオスはまだ月も登らない昼下がりの永遠亭の前でそんな些細な八つ当たりを考えていた。