嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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神なんざいらねぇ

山の麓の玄武の沢近くの河原で河童の春のバザーは行われていた。

しかし、他の妖怪等も参加しているので人間が近づくのは危ない。

 

…バザーを主催している河童自体も隙あらば水中から人間の尻子玉を狙っていたりする。

実は本当に危ない。それでも河童の道具を手に入れる貴重な機会であるので人間も結構来ていた。

 

その日、霊夢は魔理沙に誘われて河童のバザーを訪れていた。

春の季節外れの花々が咲く光景は解決しつつあった。

霊夢が博麗神社で桜の花びらの掃き掃除を毎日しなければならない程ではなくなっていた。

…それでも霊夢に余裕ができたのはオオスが一度全部纏めたことが大きかったが。

 

魔理沙は霊夢に気を使って誘った面もあった。

魔理沙から見て霊夢は悩みとまでは行かないが何だかモヤモヤしているようだったからだ。

気分転換の話題として河童のバザーは丁度良かった。

この日の魔理沙は完全に善意で霊夢を誘っていた。

 

 

「河童の道具って生臭そうなイメージがあるのだけど」

霊夢は魔理沙にそう言った。尻子玉とか尻子玉とかである。

 

「そんなことは無いがなぁ」

魔理沙も霊夢のイメージがわかるので苦笑いしつつ、否定した。

写真機や電話等便利でかつ耐水性のある物は高いが生臭くはない。

 

…全自動尻子玉抜き器なる物以外は。ちなみに普通に人間でも買えた。

それを買う者はいないが。

 

「もし、河童が人間に何かしようとしたら退治すれば良いわね」

霊夢は自分の本分である妖怪退治を忘れずに言う。

 

閻魔の四季映姫は霊夢に無関係な妖怪退治がどうこう言っていた。

要するに大した理由があれば良いのだ。霊夢は開き直っていた。

 

…多少、普段の自分の行動を顧みるようにはなったが。

 

あの時、霊夢がおかしかったのはオオスとかいう意味不明な存在のせいだった。

今から行くところは河童のバザーであるから全く関係ない。

 

霊夢も余計なことを考えずに魔理沙に流されるままに玄武の沢まできていた。

 

 

…だが、霊夢がバザーの会場である河まで来た時、それは起こった。

 

「何だ?何か舞っているな。…砂?」

魔理沙が真っ先に異変に気が付いた。

 

それは魔力が籠った砂であった。

人体に害はないようだが、河童の演出でも始まるのだろうかと魔理沙は思った。

 

その砂は人気を避ける様、河全体を縦に二本で区切るように撒かれていた。

 

「…何か嫌な予感がするのだけど」

霊夢が呟いたその瞬間。

 

河原の水が二つに割れた。文字通り真っ二つに綺麗さっぱり。

割れた水は大雪を雪かきした跡のような壁となっていた。

一滴も水は壁から滴り落ちていない。…まるでゼリーか何かのようになっていた。

 

魔理沙は砂を撒かれた縦線に沿って水が完全になくなったことに気が付いた。

 

霊夢は尻子玉を抜こうと水底に潜んでいた河童が、水がなくなり慌てているのが見えた。

やはり、妖怪は油断も隙も無い。霊夢は改めて妖怪退治は必須と確信した。

 

「…何をしたの?」

霊夢は近くにいた河童の少女の胸倉を掴み、顔を近づけて言った。

霊夢のそれは客観的に見てヤクザのそれであった。

 

「何もしてないよ!」

河童の少女は霊夢の迫力に気をされつつも言い返した。

河童達にはこんなイベントの予定なかったし、本当に何も知らない。

 

「ここら辺が河童のアジトなのはわかってるのよ!」

霊夢は知らぬ存ぜぬを突き通す河童に再度尋ねた。…完全にヤクザである。

 

 

そこに河童の一応の代表格が現れた。

それは好き勝手する行動する河童達の中で一番顔が利く河童であった。

 

「いや、本当に何もしてないよ。私達は」

河城にとりはそう霊夢に断言した。

 

にとりはウェーブのかかった外ハネが特徴的な青髪が特徴的な河童だ。

数珠のようなものでツーサイドアップにして、緑のキャスケット帽を被り、水色の上着と裾に大量のポケットが付いた濃い青色のスカートを着用している。

長靴を履いており、背中には大きいリュックを背負っていた。

 

「こんな規模で水を扱えるのは水龍様くらいだけど」

にとりは霊夢に推測を述べる。この規模で水を操れる者はそうはいない。

 

「…怒らせるようなことはしてないよ?」

にとりは水龍様が怖いので声が震えていた。

正直、他の誰かが何か仕出かしたのではないのか不安であった。

 

「…何だっけ?前にこんな感じのこと何かで読んだんだが」

魔理沙はふと大量の水を真っ二つに割るというのを何かで読んだ覚えがあった。

 

霊夢が魔理沙に尋ねようとしたその瞬間、

 

「フハハハハ!どうだ!神なんぞいなくても海割り程度造作もないわ!!」

上空から聞き覚えのある声がバザー会場の河原に響き渡った。

…人妖問わず大量の目撃者がいる中で。

 

霊夢達は声の方を見上げた。…それはもう完全にオオスだった。

今回の異変は誰がどう見てもオオスが犯人であった。

 

魔理沙は呆れた。霊夢に疑われないように紅魔館で相談されたが意味が無かった。

オオスは今回の所行は人妖問わず目撃されているが、良いのだろうかと魔理沙は思った。

霊夢はキレた。オオスの、あの一方的な宣言の後にこれである。

…そして霊夢は安心もしていた。

 

なお、オオスの側には何故かはしゃいでいるレミリアと呆れているパチュリーがいた。

 

 

 

少し時間はさかのぼる。

オオスは玄武の沢近くの河童の春バザー会場近くまでレミリア達と来ていた。

 

「で、どうするのよ?私やっぱり河原だとバザー見れないんだけど」

レミリアはオオスに文句を言っていた。

折角足を運んでもバザーを見られないのでは意味が無い。

 

「まぁ、待ちましょう。レミィ」

パチュリーはレミリアに落ち着くように言った。

…何となくだが、オオスは河に何かするのだろうとパチュリーは思っていた。

 

「ああ、そうだ。レミリアさん」

オオスは思いついたように言った。

 

「モーセの海割りってご存知ですか?」

オオスはレミリアに尋ねた。…実ににこやかに。

 

「知っているも何も私達の敵なんだけど!」

レミリアは宿敵に部類される聖人の名を上げられて怒った。

…悪魔としてはあまり気の良い部類の話ではない。

 

「実はですね…私も神が大嫌いなんですよ」

オオスはレミリアに更に深く微笑んだ。オオスの顔は実ににこやかであった。

…発言の中身が人間として最悪であるが。

 

「「知ってるわ」」

レミリアとパチュリーは同時に言っていた。

紅魔館においてオオスの神嫌いを知らないものはいない。

 

オオスは信仰の否定こそしないが、悪魔の方が親近感を持っているくらいである。

紅魔館に訪れて悪魔崇拝者と疑われるのも全く不自然ではなかった。

 

そんなことはお構いなしにオオスは話を続けた。

 

「私、この話を知った時に思ったんです」

オオスは物心つく前後のことを思い出す。

あれは二歳半くらいのことだったかと回想していた。

 

「私がこれを真似できれば、海割り何て神の御業でも何でもないただの魔術ではないかと」

オオスは物凄く罰当たりなことを爽やかな笑みを浮かべて言い切った。

…オオスのその発言は教会総出でぶん殴りに来るようなことだった。

 

「…そうね!それは良いことね!」

レミリアは思わず歓喜の声を出した。

神の否定とは悪魔的に大歓迎であった。特に名高い聖人の御業ともなれば。

 

「ああ…もしかして」

パチュリーは呆れた。オオスがやろうとしていることの規模を想像した。

河原は優に人妖でごった返していた。

このバザーは珍しい河童の道具を手に入れられる機会だ。

 

オオスは善良なる一般里人を名乗っているが、これからすることは反しないのかとパチュリーは思った。

…オオスは勢いに任せて考え無しで行動しているのではないかと思った。

パチュリーから見てオオスはストレスでおかしくなっていた。

正直、止めた方が良い気がした。

だが、レミリアも乗り気である。パチュリーにはもうオオスを止める事は不可能だった。

 

「では、今からここら一帯全て海割りならぬ河割りします。他でもない私が」

オオスは神が大嫌いと宣言しながらも名高い聖人の御業を再現すると宣った。

 

「良いわね!良いわ!実に良いわ!」

レミリアは興奮していた。何せ悪魔の代表的な敵である。

オオスが疑似的にでも再現できればこれ程痛快な事は悪魔的にはない。

 

「しかも、それをその辺の砂で再現します」

オオスはそう言って、河辺の砂を手に持った。

 

「…ちょっと乾かしますね」

オオスは思ったよりも水気が多い砂だったので乾かすことにした。

 

オオスはブツブツと呪文を唱えた。すると、直径1m前後の熱球が現れた。

それはオオスの自宅地下の核融合炉にも使われている『ボロナスの炉』だった。

放射される熱は魔術によって炉そのものに遮られる。

 

オオスは砂の水分を飛ばしたいだけなので今回はそこまでの火力は出さない。

 

「乾きました。後は、砂漠の砂くらいまで乾燥させたら魔力と呪文を唱えるだけで完成です」

オオスは料理番組の進行役のような口調で言った。

 

オオスの魔術は『分かれの砂』という古代エジプトの魔術だった。

非生物の障害物を二つに分ける魔法だった。今回は水が対象である。

人体などには全く害はない魔法の砂である。

 

「え、それだけ?」

レミリアはオオスを疑いの眼差しで見つめる。簡単過ぎやしないかと。

 

「砂漠の砂に魔力を込めて砂を撒くだけです。簡単そうで実は結構難しい」

オオスはそう言いつつも、レミリアの反応は最もだと思った。

 

オオスもこの魔術を知った際、必要魔力さえあれば余裕ではないかと思った。

聖書に神の御業としてこれを載せたのは少々誇張が過ぎるとオオスは思った。

 

「では、河を全部、きっちり割るためにちょっと飛びましょうか」

オオスはそう言って空高く舞い上がった。レミリア達もそれに続く。

 

オオスはレミリア達に振り向いてこれから行うことを宣言した。

 

「では、タイトルは『神なんざいらねぇ』です。ご覧ください」

オオスはそう吐き捨てて向き直り、砂を二列になるように天狗風で飛ばした。

 

オオスが砂を撒いた次の瞬間、人妖大量にいたはずの河原の水が真っ二つに割れた。

…それは神の御業であった。オオスの言動がなければ、だが。

 

 

 

霊夢はオオスに突撃した。異変の元凶である。退治せねばと決意して飛んだ。

 

「フハハハ!良い光景だ。神なんざいらねぇ!」

オオスは普段の丁寧語等無視して、霊夢にも気が付かずにすさまじい暴言を吐いていた。

 

そして、

「ん?何か紅白…」

オオスは霊夢に気が付く前にぶん殴られた。

霊夢は見事なアッパーをオオスにぶち込んだ。…死なない程度に加減して。

 

レミリア達も反応に遅れ、オオスは霊夢の拳をもろに食らった。

オオスは即座に気絶した。…霊夢は博麗の巫女として異変を解決した。

 

「これで良し!」

霊夢はスカっとした。とても晴れやかな気分になった。

 

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