オオスは玄武の沢近くの河童のバザー会場にて霊夢に正座させられていた。
多くの人妖が遠巻きに見ている中で、だ。
オオスは石が足に突き刺さり、血を流しても平然とした佇まいを崩さない。
なお、水の壁はオオスが気絶しても半日は持つようになっていることは説明済みだった。
「ついかっとなってやった。反省はしているが後悔はしていない」
オオスはこういう時のために存在する現代日本人の定型文を霊夢へ述べた。
霊夢はオオスの言葉に青筋を立てた。凄まじいプレシャーがバザー会場全体を覆った。
周囲は霊夢の圧を感じ取り、中には失神寸前、震える者もいた。…人妖問わずにである。
周囲からは霊夢にそんな妄言吐けるとかマジかよ…というオオスへの謎の感動があった。
オオスは正座しているにも関わらず、その姿勢には惨めさの欠片も存在しなかった。
戦国時代に見た切腹前の気高き武将のようだった。この光景を見ていた妖怪は後に語った。
「いや、もう普通に謝っちゃいなさいよ」
レミリアはオオスの謎の意地の張り具合に呆れて言った。
なお、レミリア達はオオスが一人で責任を背負ったので霊夢からの説教を回避していた。
パチュリーはオオスを弁護しようとしたが、レミリアに止められた。
…レミリアまで連座させられそうだからである。
「レミリアさん。思い出してください。私は何と言って河を割りましたか?」
オオスはレミリアに自分の発言を振り返るように言った。
オオスはレミリアに誇りをかけて謝らないことを宣言した。
『神なんざいらねぇ』である。そして、目の前にいるのは神の下僕たる巫女だ。
…オオスはここで屈するは恥として引かなかった。
「…!」
レミリアは口に手を当てて自らを恥じた。
レミリアには、オオスの覚悟が『言葉』でなく『心』で理解できた。
…何という神への反骨心であろうか。
レミリアは悪魔としてオオスの有り方に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「いや、何感動してんだよ」
魔理沙は思わずレミリアにツッコんだ。
馬鹿じゃねえのというのが魔理沙の思うところである。
「もういいわ、無理やり頭下げさせてやる!」
霊夢はオオスの強情さに苛立ち、無理やり頭を下げさせようとした。
それは、オオスへの土下座の強要だった。
「もう、止めて霊夢!それ以上は…」
レミリアは思わず霊夢を止めようとした。
レミリアは500年生きて来たがあれ程、悪魔として誇り高き姿勢は見たことがなかった。
その気高き誇りを汚すのは悪魔として、吸血鬼として見たくはなかった。
だが、
「我が心と行動に一点の曇りなし!…止めてくれるな!!」
オオスはレミリアの静止を拒絶した。
そして、オオスは霊夢に最後まで力の限り歯向かった。
オオスと霊夢の攻防は何と10分も続いた。
…オオスの身体能力を思えばそれは奇跡であった。オオスは精神が肉体を超越していた。
オオスのそれは誰がどう見ても劣勢の中での死闘だった。
周囲の人妖は種族を問わずその光景に感動を覚えた。
被害者であるはずの河童を含めた妖怪は妖怪としての誇りをオオスから感じ取っていた。
人間はオオスから人外の誇りを感じ取り、種族は違えどもオオスに敬意を評していた。
…だが、魔理沙とパチュリーだけはオオスに呆れかえっていた。
オオスは人間である。オオスのそれは、どう考えても意地を張るところがおかしかった。
それをキチンとわかっているのはその場には魔理沙とパチュリーしかいなかった。
ここにいる全員、馬鹿かと二人して思った。