後に、河割異変と言われる小規模な異変は秒殺された異変として幻想郷の歴史に残ることになる。
だが、その犯人の見事なまでの最後は妖怪達の間でも評判となった。
足から血を流し、動けぬ状態になろうとも最後まで自らを曲げず、妖怪の意地を見せた。
それが人妖問わず語られた。そのため、小さいながらも異変として記録されることになる。
…となると当然、あの種族が出払ってくるのは自明の理であった。
その日の内に天狗が飛んできた。というか河童のバザーの、その場にいた。
オオスの強制土下座まで写真に撮っていた。何とかして燃やしたいとオオスは思った。
オオスは足から血がだらだらと流れるのを気にも留めずに鴉天狗に挨拶しに行った。
霊夢は魔理沙を引き連れ、異変解決と言って帰って行った。
魔理沙は呆れ顔でオオスを見つめていた。
オオスは最大の懸念材料がその場から離れたことを確認した。
何だかんだで魔理沙は頭が良い。勘と推理力で真相にたどり着く恐れがあった。
魔理沙は霊夢の様に過程を吹っ飛ばすタイプでないので、オオス的に一番厄介だったりする。
それが人里に取って有益とオオスは判断したのだが。…少々仮面を被り過ぎたかと反省した。
…レミリア達は鴉天狗に土下座写真を撮られたとオオスが言った。
ちょっとその件で天狗記者と話してくるから二人きりにしてくれと頼み込んだ。
レミリア達はオオスの事情を察して少し離れたところで他の妖怪と共に談笑し始めた。
レミリア達はオオスに掛ける言葉が見つからないというのもあった。色んな意味で。
そのために、オオスと鴉天狗の二人だけで取材に応じることに成功した。
ここまでは計算通りだった。…霊夢という計算外を除けばだが。
三流の手口で二番目というところかとオオスは自身の行動を自己採点した。
なお、もしもの時は助けを呼べとパチュリーはオオスに声掛けしてくれた。
その時は鴉天狗を骨まで残らず焼くとのことだった。
何て優しいのだろうとオオスはパチュリーに感謝の言葉を述べた。
本当に素直に心配してくれるので嬉しかった。
…だからこそ、射命丸文とは腹を割って話す必要があった。
これからの幻想郷の平和のために。オオスは第三の選択肢も視野に入れた。
それはオオスにとって大変嫌だが、立ち回り次第では有り得ると認めざるを得なくなった。
射命丸文とオオスは二人きりでインタビューに応じていた。
ゴシップ紙に乗りたくない妖怪や人間達をオオスは上手く躱すことに成功した。
だから、ここからが本番だった。オオスなりの異変の最終局面である。
これまでの計略から逆算して、文にどこまで情報を扱わせるか考える。
射命丸文の知恵の泉を何をどう染めるか、はたまたオオスが逆襲されるのか。
もう後戻りはできないとオオスは思考を現実に戻した。
「いや、何やっているんですか?本当に」
文はオオスに挨拶も早々に言ってきた。
文はオオスらしからぬ滅茶苦茶ぶりに素で尋ねていた。
「何か世界一の宗教に喧嘩売ろうぜってノリで…」
オオスはチャリで来た的なノリだったと説明する。
実際、嘘ではなかった。
レミリアからの提案にオオスが計画していたものを載せたというのはあるが。
だが、
「ノリでそんなことしませんよね?何かあったんですか?」
文はオオスの真意を半分見抜いていた。
オオスが幻想郷に来た初期からオオスを見ていた。
なので、幾ら錯乱しようともこういうことをする人間ではないと知っていた。
…パチュリーでも気が付けないオオスの素を射命丸文は理解していた。
文はそれすらもオオスの虚構と実像の交錯する一部でしかないだろうと知っていた。
だからこそ、文にとって未だにオオスは謎であり、興味が尽きる事がないのだった。
それでなくとも、もはや他の天狗に渡したりなどしないが。
射命丸文はオオスという個人をスクープとして逃さない。
「…オフレコでお願いしますが、冬の話はご存知で?」
オオスは文が情報屋として進化していたので予め用意していた最上級の返しをした。
…紅魔組にも月の件が話されていたことから山の勢力はどうなのか暗に尋ねた。
この文ならば把握していることだろうとオオスは確信した。故に話しても問題ない。
「…ああ、なるほど。わかりました」
文はオオスの言う事を理解した。
オオスはフィクサーとして立ち回るために今回の異変を敢えて起こしたのだと理解した。
そして、情報屋として『射命丸文』個人を非常に高く評価していることも確信した。
…文はここ最近でそれが一番うれしかった。
「…そういうことです。私は最悪に備えた中間役。
不自然でない形である程度力を示す必要がありました」
オオスは文だから、真の情報を扱う者だから明かせる真相の一部を話した。
いざという時に何もない一般里人では、交渉の材料として不足していた。
オオスは八雲藍が二~三日置いてくれれば異変を起こさずに済んだのにと思った。
それ以外の実績、何も知らない。気づいていない第三者として堂々と永遠亭に関われた。
オオスは外である事件で味方がやらかしたのをわざと聞かないで交渉に赴いたことがあった。
…具体的には会談相手の重鎮の暗殺未遂をオオスが交渉する前にやらかしていた。
あの時、オオスが味方のやらかしを知っていたら相手はそれを詰り、殺されていただろう。
知らない状態の、本心からの誠意をその場で示すのも交渉術の一つの手法だった。
今回もまだオオスが何も知らない状態でなら、鈴仙を一人で返さずに着いて行っていた。
永遠亭勢力との関係性を深め、善意の第三者として振る舞えた。
オオスとしては今回の行動は三流の手口だった。
オオスとしてはあまり気持ちの良いやり方ではなかった。
「それで河童のバザーで河を割ったんですか?」
文はオオスの内心を全てわかるわけではないが、何となく察して尋ねた。
「はい。半分は本気で趣味でやりました」
オオスは文に言い切った。楽しんでやれなければ本気でやれない。
河を割った時はスカッとした。…そしてズカッと霊夢にやられたわけだが。
まさかその場にいるとはオオスも思わなかった。
河童のバザー、妖怪の住処に異変でもないのに足を運んでいるとは想定外だった。
…念のためにオオスは秒殺解決も考慮に入れていたが、使うと思わなかった。
「あ、はい。でしょうね」
文はオオスの清々しいまでの神への暴言を聞いていた。
アレが嘘なら世界中の誰も信用できなくなるくらいの本音をオオスはぶちかましていた。
「これ、絶対言わないでくださいよ。射命丸さんなら嗅ぎまわると思って先にお話しますが」
オオスは文なら記事を下調べする可能性を考え、ネタばらしすることにした。
下手に真意を探られるくらいならバラすべきであるとオオスは情報の取捨選択をしていた。
「まさか霊夢さんがその場にいると思わなかったですが。
…これ、計算づくとかバレたら効果が弱まります」
オオスは文にそう言って内密にするように言った。
オオスはもう少し騒ぎを大きくするつもりだった。
永遠亭にここまでできるんだぞーという軽いアピールタイムである。
こんな些細な異変を博麗の巫女が秒殺してくるのはオオスの想定内の想定外だった。
「…わかりました。不本意ですが、天狗にとっても不都合なことは書かない。
貴方がバラされなければ面白おかしくかけたのですが」
文は残念極まりないと頭を振った。
幻想郷に取って月面戦争とは重大事件だ。
文の個人的な行動が全体に影響を及ぼす懸念をオオスは釘をわざわざ刺してきた。
文の内心はオオスのそれが嬉しくてたまらない。
「土下座写真あるでしょう。もうそれ載せて構いませんよ」
オオスは文に譲歩して言った。…文の内心はオオスが読み取れない類のものだった。
オオスに取って非常に情けない写真だが、文に交渉材料になりそうな物が他にない。
そのため、写真の使用を公的に認めた。…月への呪詛をオオスは内心で吐いた。
だが、
「これは使いません」
文はオオスに敢えて宣言した。
「こんなに面白い写真を誰かに見せるわけないじゃないですか?」
文はそう言ってひらひらと写真をオオスへ見せびらかした。
外の情報屋に一泡吹かせることに成功したと確信して文は言った。
「…お見事です」
オオスは本心から一本取られたと、文に負けを認めた。
オオスにとって想定外の自体ではあるが、これは面白い成長だった。
オオスには文に対して借りが出来てしまった。それをどう使うかは文次第ではあるが。
…射命丸文は中々面白い情報屋になってきたとオオスは本心からの笑顔を見せた。