オオスは人里で最も有力なお屋敷稗田家の一室に案内されていた。
そこには稗田家当主、稗田阿求と最近妖怪と噂される男、オオスが対面でいた。
…今回は今までとは様相が異なっていた。
「幻想郷において妖怪は人間の敵。特に人里においては」
阿求は幻想郷の不変のルールを口にする。
阿求はオオスの最近の振舞いを暗に問題視していた。
否、
「貴方をもう妖怪と断言している人々も出始めています」
阿求は黙ることができずに直接口に出していた。
河割異変に博麗神社の謎の快晴。オオスは自らが犯人だと明かしていた。
オオスはついに最低限の体面すら取繕わなくなっていた。
「今までの貴方ならそれが発生する前段階で抑えて来たはず」
阿求はオオスに指摘していた。
…オオスの里人としての体面を維持するための時には過激な手を打って来たこと等とっくに知っていた。
「なのに、どうして今更それを辞めたのですか」
阿求はオオスへ内心を吐露するように口に出していた。
オオスはこのままでは人里に居られなくなる。
…オオスはそれを望んでいるのかと暗に阿求は問いただしていた。
御阿礼の子としてはオオスがいなくなるならばそれはそれで問題なかった。
…オオスがいなくなること自体は幻想郷全体から見れば些事であった。
人里から人外が去った。言ってしまえばそれだけである。
人助け等の善行も含めてオオスの異常さを覆い隠すのを超えたと判断すれば良かった。
…それなのに阿求は今回オオスを呼び出していた。
今回のオオスの呼び出しは完全に阿求の私的な感情から来るものだった。
「…見つかるまで待つ時間がないからです」
オオスは阿求にヒントを言うことにした。
オオスはここまで感情的な阿求を見て、感じるものがあった。
これからオオスが言うのは愚者の行いである。…オオスは魔が差した。
幾ら転生を繰り返すとは言えど、自分より年下の子を巻き込みたくはなかった。
「それはどういう意味ですか?このままでは貴方はここに居られなくなりますよ」
阿求はオオスの言葉の意味がわからず、再度問いただした。
人払いも意味をなさない激情が出てきそうなのを阿求は抑えていた。
…それこそ最悪であると阿求は確信していた。だからこそ捻じ伏せた。
「Saying is one thing and doing another.」
オオスは突如として英語のことわざを言ってみた。
オオスは阿求が激情に流されそうなの様子を見て謎かけをしてみることにした。
「言行不一致?」
阿求は直訳をそのままオオスに言う。阿求は何となくわかってきた。
日本語ではなく、英語で言ってくるということは言えない事情があるということか。
言行不一致とは正しく今のオオスの状態を表している。
阿求の様子を見て、本来言う必要のないことまでオオスは婉曲な形で伝えようとしていた。
…これは阿求の余計な心配だったかも知れないと思いなおした。
オオスは人里から去る気がない。
「だからこそ一致させるための努力を惜しまないのです。
…今回は里人としてではなかっただけ」
オオスは阿求がどこまでわかっているか確かめるように改めて言う。
里人としての行動だけでは足りぬ事情が、規模が動いていると暗に示した。
「…今回はですね」
阿求はオオスが完全に言わなくても良いことを明かしていることに気が付いた。
なので、阿求は繰り言のみで確認した。
「人間の行為の正しさは、理性だけで決まる事ではないのです。
理性ではなく感情で動くのもまた人間です。そういうことにしておいてください」
オオスは感情的に動いた愚か者として扱うように阿求へ言った。
…阿求としても何もしないのはきっと嫌だろうからである。
本来はオオスがやる仕事の範疇なのだが、お願いすることにした。
「流石に今回はやり過ぎですよ」
阿求はオオスがわざわざ自分へ仕事を振ったことを理解した。
オオスはわざと限界ギリギリ以上の行為を行う必要がある。
誰かへのメッセージとして、だ。阿求にはそれが何なのかさっぱりわからないが。
「哲学を学ばれることをお勧めします。特に経験論」
オオスは釈迦に説法だろうと思いつつ、阿求へ遊びを持ちかける。
オオスの遊び相手である。…実に面倒な事この上ないと示した。
「実験を重視し、真理を探究しようという論でしたか?」
阿求は平然とオオスへ返した。オオスの謎かけの相手等今まで何度となくしてきた。
今更であると暗に返す。
「仰る通り。後はもう答えは目の前です。…語り過ぎたかと反省するくらい」
オオスは阿求の答えを快諾と見なし、語り過ぎてもう引き返せないけど良いか尋ねた。
「例外というわけですね。…ああ、もう!」
阿求はオオスが自身を特別扱いしていることに嬉しさを覚えたのが腹が立った。
なので、少し感情が爆発した。
オオスの表情が少し変わった。拒否と受け止められたかと阿求は佇まいを正す。
もはや毒を食らわば皿までである。…今世は今までで一番濃い内容になるであろうことを阿求は確信した。
「わかりました。私の方で手はまわしておきます」
阿求は稗田家の全面サポートでオオスの悪ふざけを後押しすると宣言した。
「今回、貴方はもみ消せない。動けない。敢えて残す必要がある」
阿求はオオスの行動の真意を淡々と述べていく。
これから行うことへの再確認である。共犯者として必要だからだ。
人里のためでもあるのだとオオスのこれまでの行動から確信していた。
…そこには阿求個人の感情も含まれていた。本来有ってはならないことのはずなのに。
「そういうことですね?」
阿求はオオスに確認した。
オオスへ自分にここまで言わせたのだから責任を持てと阿求は暗に言った。
だが、
「沈黙は金ですよ」
オオスは沈黙で返した。流石にそこまでやる必要はないと暗に返した。
阿求は踏み込み過ぎであるとオオスは少々困惑した。
…オオスとしては阿求には傍観していて貰うくらいで良かったのだが。
「雄弁は銀ですよ。この場合は」
阿求はオオスに返した。
子ども扱いするなと金でなく、銀で良いと返す。
阿求はオオスに何かするなら関わらせろと言い返していた。
「これは…一本取られました」
オオスは阿求の熱意に当てられて言い返せなかった。
なので、
「どうぞよろしくお願い致します」
オオスは三つ指をついて礼をする。
オオスは阿求の好意に頼ることにした。計略は一瞬で纏まった。
…何せ稗田家のバックアップ付きである。オオスの行動の自由度が躍増した。
「ですが、枷外しますけどよろしいですか?」
オオスは稗田阿求のバックボーンが得られたからには制限しない。
それでも良いかとオオスは阿求へ再度確認する。
だが、
「くどい!…良いから私も混ぜなさい!」
阿求はオオスのしつこさに痺れを切らし、啖呵を切った。
オオスのそれが阿求を思ってのことだと理解してもいた。
阿求の啖呵を聞いたオオスは全力でそれに答えることにした。
…阿求をオオスの月面戦争に参加させることに決めた。もはや慈悲はない。
「…では、早速。今年の冬、私は幻想郷にない物を盗んで来たいと思います。個人的に」
オオスは阿求に対し最初の無茶ぶりをすることにした。
「…こ、個人的に」
阿求は早速挫けそうになってきた。…オオスは個人的なことまで阿求を巻き込むつもりだ。
オオスが何をするのかわからないがそれが無茶苦茶なことだと阿求は確信できた。