オオスが永遠亭に置き薬の販売について相談してから一週間が経過した。
オオスはその日、迷いの竹林にある永遠亭を再度尋ねようとしていた。
…正確に言えば、輝夜の錯乱(ウサ耳)を見たので一度引き返していた。
そのため、オオスは一週間も置き薬の案件を放置してしまっていた。
なので、オオスの薬草等の薬効を聞きにわざわざ永遠亭に訪れていたのだ。
だが、てゐを呼んでもオオスの前に現れない。
前は呼ばなかったので輝夜の錯乱を目撃した。
そのため、今回は先に確認したかったのだが。
不思議に思ったが、オオスとしてもこれ以上先延ばしするのは良くなかった。
竹林以外にもてゐの目撃情報はある。呼んでも来ないのは不自然ではない。
てゐが賽銭箱をもって人里に現れた話があった。
その際は、てゐの持つ賽銭箱を博麗神社の賽銭箱と勘違いし入れる者が人間が続出した。
物珍しさからいつもなら入れない賽銭を投げ込んだという話だ。
先日の花見の席でオオスが聞いた話では、アリスや咲夜も入れたという。
オオスとしても実に小気味の良い話だとてゐに感心するばかりである。
てゐには幸運を与える能力がある以上、詐欺ではない。
…人間ではないアリスには効果がないかもしれないが。
それでも胡散臭い宗教施設に金を巻き上げられるより余程健全である。
花見の席で霊夢はてゐのことを賽銭泥棒等と戯言を言っていた。
霊夢は何だかんだでオオスに絡んでくるようになった。…大概喧嘩腰だが。
この件に関してはオオスに何とかしろと言う前に霊夢が自分で何とかしろと言ってある。
オオスは友を売るような薄情な人間ではない。
話を戻すが、オオスはこの日、一人で永遠亭に直接来た。
何度も来ていれば迷いの竹林だろうとオオスが迷うことはない。
オオスに狂気の類の罠は効かない。
だが、てゐがいない理由はオオスが永遠亭に到着して発覚した。
「あははははは!あははっはっは!」
今度は鈴仙が物凄い勢いで回転しつつ腕を振り回して竹林を走り回っていた。
鈴仙の目は正気ではなく、グルグルとそこら中を走り回っている。
どう見ても鈴仙は錯乱していた。
…これではてゐも逃げる。オオスも逃げたいくらいである。
オオスはまた帰りたくなった。だが、今回は帰れない。
永遠亭では定期的に人妖問わずおかしくならないといけない決まりでもあるのだろうか。
正直、オオスにとって正気の鈴仙より今の方が危なかった。
鈴仙は玉兎、月の兎である。
オオスからすれば鈴仙は、能力よりも身体能力の方がオオスにとっては厄介である。
外で例えればお米の国の海兵隊員が薬を決めて銃乱…錯乱しているようなものだ。
実に危険極まりない。普通に死ねる。
「…永遠亭では誰かが錯乱する決まりでもあるだろうか?」
オオスは鈴仙を見て思わず呟いた。
そのオオスの呟きと同時に永遠亭の中から輝夜が現れた。
「元気になって良かったわ」
輝夜は鈴仙を見て満足気な様子で言った。
…よく見ると輝夜は割烹着を羽織っていた。
オオスは原因がわかった。
「こんにちは。輝夜さん。…鈴仙さんは風邪か何かだったのですか?」
オオスは輝夜に挨拶しつつも輝夜に尋ねた。
「あら、ごきげんよう」
輝夜はオオスに優雅な礼をする。
…割烹着姿なのが少々輝夜としては不服だが、今回は仕方がない。
「そうなの。でも私が作った鍋を食べさせたらあんなに元気になったの」
輝夜はオオスへ誇るように言った。あんなに元気な鈴仙は三日ぶりである。
鈴仙があんなに元気そうで嬉しく思い、輝夜は自画自賛した。
…自分の成果をオオスに見せることができたので結果オーライであると言い聞かせていた。
オオスにとってドン引きであり、逆効果であるとも知らずに。
「そうですか。…ちなみになんですけど、どんな鍋だったんですか?」
オオスは輝夜にツッコまない。輝夜の作った鍋が原因と判明した。
鈴仙は風邪どころか薬キメているレベルである。どう見てもヤバい。
「梅干し湯を煮汁にした鳥肉と葱とキノコの鍋よ」
輝夜は会心の出来だったと自負している。
輝夜は普通に自分で味見もして確認していた。
…不老不死の輝夜である。味以外の問題が当てにならないとオオスは思った。
「…何の茸入れたんですか?」
オオスは茸が原因とわかり、輝夜に尋ねた。
大方、レシピに独自のアレンジを加えたのだろう。
オオスが聞いた限り、茸以外は普通に問題なかった。
輝夜は風邪を引いた鈴仙の看病をしようとしたのだろう。
実に部下思いである。…オオスはその点だけは感心した。
永琳は輝夜の鈴仙に対する人体実験を尊重して微笑ましい目で見ていたに違いない。
そして、毒物混入を見逃した。
オオスからしても永琳は輝夜に甘い。十分に有り得た結果である。
だが、死なない程度で問題ないと判断したのだろう。オオスは安心した。
「ええと…残りが丁度あったわ」
輝夜はそんなオオスの内心は露知らず、どんな茸かを思い出そうとしていた。
輝夜は割烹着のポケットに茸の残りを見つけた。
「永琳の部屋にあったこのキノコを入れたの」
輝夜はオオスに見せた。普通の緑っぽい灰色の茸である。
輝夜もどんな茸かはわからないが普通の茸だ。
「…ちょっと失礼」
オオスは輝夜から茸を見せて貰った。
…オオスは輝夜が差し出した茸に見覚えがあった。
記憶違いであって欲しい。他の似た茸を脳内で検索した。
茸は素人でも玄人でも判別が難しい。
毒か否かわからない種類だけでも膨大な数がある。
同じ種類でも場所によって色や形まで全然違うこともある。
さらに、食用茸と思ったら実は毒茸だったと数十年後にわかったりもする。
例えば、スギヒラタケは食用茸として古くから親しまれていた。
しかし、平成16年に死亡例のある毒茸と判明した。
玄人でも顕微鏡で胞子を確認しないと最終的に食用か否か判別できない場合もある。
…今回の茸の場合、モエギタケにも見えなくもない。
それならばセーフだ。その茸ならさっぱりとした風味で普通に美味である。
だが、
「アオゾメヒカゲタケですね」
オオスはマジックマッシュルームの一種と特定した。普通に毒キノコであった。
この茸にはシロシビンという成分があり、抗うつ剤としても使用可能だ。
…永琳の部屋にあってもおかしくはない。
しかし、この茸は接種後2~3時間で強い興奮、幻覚作用を引き起こす。
鈴仙の錯乱はこれが原因だとオオスは確信した。
「…?」
輝夜はオオスが何だか深刻そうな顔つきなので疑問に思った。
何か問題でもあったのか少し不安になった。
「…問題ないですね。それよりも永琳さんにお会いできますかね」
オオスは問題ないとして鈴仙を放置することにした。
「ええ、永琳も話したいことがあるらしくて」
輝夜はオオスが元に戻ったので気のせいだったかと思いなおした。
「その矢先に鈴仙が風邪引いたのよね」
輝夜はそう言って、元気になった鈴仙は放置して永遠亭へオオスを案内した。
「あははっはっは!あはは!」
鈴仙は茸の毒が抜けるまで、永遠亭の前で踊り狂っていた。
なお、てゐは輝夜が鍋を作る段階で逃げていた。
オオスとも今回ばかりは会えない。てゐは文字通り脱兎のごとく逃げ出していた。