嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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隙あらば世界の標準を自分に合わせようとするの辞めてくれない?

オオスと永琳は永琳の部屋にて二人きりで話すことになった。

今回ばかりは薬師としての話であり、輝夜は下がっていて欲しいと両名が頼み込んだ。

輝夜は渋々だが、納得し引き下がった。輝夜にとってはつまらない話だと思ったのも大きいが。

 

 

永琳の部屋で人払いを済ませた。

永琳もオオスも最初から交渉人モードであった。

 

会話は永琳から始まった。

 

「貴方の薬草を見せて貰ったわ」

永琳はオオスの薬草について話を切り出す。

 

「貴方が言うように薬効が特化されていたわ」

永琳はオオスからの説明通りの効能があったという。

 

だが、

「でも、今が春でもあの薬草はおかしい」

永琳はオオスの異常性を薬草のみで看破した。

 

永琳は薬師として、今の幻想郷では有り得ない物を検出できた。

 

「…正直、神でもなければあれ程の物は作れないわ」

永琳は薬師としてオオスへ告げた。

 

あの薬草を再現すること自体は永琳が本気になれば可能だった。

 

しかし、鈴仙からの報告によればオオスは簡易的過ぎる方法で栽培していた。

何れ月の都に一部到達しかねない領域に達しようとしていた。

オオスがそれを自覚しているか永琳は尋ねた。

 

「…少量灌水栽培というのをご存知でしょうか?」

オオスは神扱いを無視して外の世界の栽培方法を述べた。

オオスなりの薬草に対する私見である。

 

…神器と化した春季光星については言わない。オオスとしては可哀想だからだ。

 

「必要な分を必要なだけ。限界ギリギリの環境におくことで栄養価が増す外の栽培法です」

オオスは淡々と説明する。

 

永琳からの裏の意図がオオスにはわかった。

…薬草から来るとは想定外だが、オオスの想定内だった。

オオスの異常性をもう少しアピールしてから来ると思っていたのだが。

 

「瘴気に満たされた魔法の森で栽培することで、私はそれを再現した。それだけのことです」

オオスは限界ギリギリの瘴気という環境に薬草を置き、春季光星で春度を照射した。

 

自作した薬で怪我等を治す際も春雪異変の、冬を春にした物で栽培したから凄い効きが良いとオオスは患者へ言っていた。

偽薬効果の類を期待していた。薬草に対する信仰に類する物による相乗効果を望んでいたのは否めない。

…春季光星の方が神器になるのはオオスも想定外だった。オオスとしては忌々しい。

 

「中々興味深いけど、何か隠していそうね。…まぁいいわ」

永琳はオオスの栽培法のみでは答えになっていないが、ある程度納得できたので聞くのを辞めた。

…下手にオオスを問いただして、あれ程の薬草を手放すのは薬師として永琳は惜しかった。

 

何だかんだ言いつつ永琳の本分は学者よりの思考であった。

永琳としてはそれもオオスの想定内だと言う事実に少々思うところはあるが、不快ではない。

寧ろ、この領域までこの時代の外来人で至れることに敬意を評した。

 

永琳は外来人を一人では何もできない弱者としていたが、オオスのように侮れぬ脅威も有り得ると思考を修正していた。

今でも半分は月の民としての意識がある永琳に取って、オオスのような外来人が数人いるだけで厄介であった。実際、いるかどうかは別として。

 

「私達も月について有る程度情報を揃えたの。

 …その結果、鈴仙に無茶させて風邪を引かせてしまったのだけど」

永琳は鈴仙の奮闘を評価するように言った。

 

ご褒美として輝夜の看病まで受けたのだ。

鈴仙も喜んでいるに違いないと永琳は思っている。

…輝夜の三日間に渡る鈴仙への人体実験から永琳は目を背けた。…永琳は輝夜に甘すぎた。

 

「貴方は月の都が存在することを外の世界の人間にしてはすぐ受け入れられたわね?」

永琳は今更なことをオオスに告げた。

 

『何でわかるのかしら?私達は月の民だから月を見ればわかるけど』

…輝夜の純粋な疑問は永琳も改めて考え直すところがあった。

初歩的過ぎるが、純粋な疑問という物は学者としては時間よりも大切な物である。

特に永琳のように優れた学者程、自己の見識を疑わないで進めてしまう傾向があるからなおさらだった。

 

「外来人はオカルトとして妖怪や幻想郷等の存在を、基本的に信じないというのはこれまでの医療行為でわかったわ」

永琳はオオスが外来人ということで既に情報収集を独自に行っていた。

…それがオオスの思惑通りだと永琳もわかっていた。

 

オオスはフィクサーとして立ち回るための自分自身の特異性を撒き餌にしていた。

秘密主義者の癖に秘匿しない有り方は永琳としても厄介だった。

 

「では、私の知る外の世界のオカルトについて少し、お話しましょうか」

オオスは永琳の話を聞いて、自身の知るオカルトについて語り始めることにした。

 

…オオスは自身の特異性を知らしめるメッセージを早めることにした。

オオスが現在進行形で阿求へ依頼している行為への目くらましにもなる。

 

そして、ここからがオオスの月面戦争の開始であった。

 

全ては八雲紫も、永琳も掴めない、不可視の一撃のために。

何よりもオオスが自分の本領を発揮できるアドバンテージを確保するために。

オオスは計略を積み重ねていく。

 

「『Xinaian』という種族の存在。便宜上クン・ヤンとしますが、要するに地底人」

オオスは今ではもう使わない情報を公開することにした。どうでも良いオカルト話である。

 

「クン・ヤン達はテレパシーで会話をし、己の肉体を非物質化して壁を抜け等が可能な種族です」

オオスは古明地さとりとの最初の会話で彼らを思い出した。

 

さとりの方もオオスが彼らから学んだ精神攻撃手段を会得していたようだった。

 

オオスはさとりが覚妖怪というのを隠さず名前にしている事実に敬意を評している。

さとりは自分を隠さないことを名前で持って宣言していた。

…古明地さとりは自分の有り方に誇りを持っていた。

 

オオスという偽名で隠す自分とは違うそのあり方をオオスは高く評価している。

 

「そして、クン・ヤン達は老いを克服しており、死のうとしなければ死なない」

オオスはそんな内心を兎も角として話を続けた。

 

…月の民と似た特異性と言えなくもない。オオスとしてはどうでも良い種族でもある。

オオスはクン・ヤンという種族を敢えて例えとして選択していた。

 

「では、続いて地球空洞説というオカルト話をしましょうか」

オオスは話を続ける。地下空間に関する話だ。

 

…クン・ヤンと連動していることは永琳にも伝わるだろう。

 

「この説はエドモンド・ハレーという学者が主張し始めました。

 さらに19世紀、退役軍人J・C・シムズが、地球には四層構造の空洞があり、北極と南極に地球空洞に繋がる穴が開いていると主張し始めました」

オオスは電波な軍人の記録を読んだことを思い出す。

オオスをして偶にある狂人の看破は侮れない。

 

推理小説で言えば、推理なく犯人を当ててくるようなイメージである。

インチキ、チートの類である。

現代で稀に見つかる異端者は狂人の戯言として処理されることの方が多い。

…オオスも不本意ながら、そういう類に部類される存在であった。

 

「…中々、興味深い話だったわ。月の民としては」

永琳はオオスのオカルト話に真実が含まれていることを知っている。

 

…だからこそ、その程度かと落胆してしまう。永琳が落胆してしまうのはおかしい話だ。

落胆はオオスの言うことが永琳にとって既知である事柄だからである。

寧ろ、そこまで掴んでいること自体には永琳は驚きの感情を持っていた。

しかし、飽くまで外来人にとっては推測の域を出ない範疇の話である。

オオス自身が何かを為したわけではないと永琳は判断した。

 

だが、

「一方、こちらは科学的な事実です。現代科学は日々進歩しています。

 南極大陸の氷床の下3500mに、オンタリオ湖と同程度の規模を持つ巨大な地底湖があることがわかっています」

オオスはまだ終わっていないと永琳に話を続けた。

 

永琳はオオスの話はこちらが本命とわかった。

今までのは前提の話だと確信した。オオスなりのプレゼンテーションだったようだ。

 

「ロシアの観測基地から名前と取って、ヴォストーク湖と名付けられたこの地底には数万年前の大気と水が封じ込められており、生物がいる可能性もあります」

オオスは淡々と述べていく。権威ある科学雑誌にも記載されている事実であった。

 

…オオスは過去の一部を明かすことを決めた。

永琳のオオスの話への反応からこれが適切と判断した。言いたくはないが。

 

「…貴重な環境破壊を防ぐため、また、上部に載っている氷床の崩壊を防ぐため、ボーリング調査は見送られることにしました」

オオスはそう締めくくった。永琳なら直ぐにわかるだろう。

 

「…しました?」

永琳も気が付いた。オオスの発言は主体的に行動したと受け取れる。敢えて聞き返した。

 

「ええ、しました」

オオスは永琳にそう述べた。

 

「彼らとの接触は私の時代では早すぎると判断したためです」

オオスは淡々と指を交差させて言った。

 

永琳にはオオスの些細な動作が、異なる種族、文明の交差に対して×を表しているように感じた。

 

「…謎解きは探偵の本分なんじゃないのかしら?」

永琳は思わずオオスにツッコんだ。

オオスは探偵と言っていたが、フィクサーとして随分大立ち回りをしたようだったからだ。

 

…それではまるで探偵というよりも犯人である。永琳はそう思った。

 

「…ブラウン神父という探偵小説の主人公をお話しましょう」

オオスは少し言い過ぎたかと話を逸らした。

 

…永琳にはもう策を仕込めた。永琳の反応を見てオオスは思考を制限できたと確信した。

 

「彼は真犯人を敢えて見逃すことにより平和的に事を収めた探偵です。

 …私としてはやり方に言いたいことはありますが」

オオスはそのような内心を一切見せずに探偵小説の司祭を語る。

 

オオスの所行は探偵の範囲内だと言外に示す。

 

「つまり、外での貴方は探偵で間違いないと言いたいわけね」

永琳もオオスの真意がわかりそう返した。

 

「ええ、真実とは多面的な物。あらゆる知的生命体は都合の良い真実を取捨選択する」

オオスは射命丸文が既に持っていた情報というものが持つ本来の価値を述べた。

 

「つまり、貴方は外で幻想郷を含めた異界の存在を知りながら、敢えて放置していた。

 …それが月の都を受け入れられる素地だったということかしら?」

永琳は興味深い話だが、これ以上は無粋としてこの辺で切り上げることにした。

 

学者としては興味が尽きない論争になりそうだが、これ以上は輝夜に怪しまれかねない。

 

「ええ。幻想郷は知りませんでしたが、妖怪含めたオカルトな存在は知っていましたよ」

オオスは酒の村で見た半妖が経営していた旅館を思い出す。

 

あの村は滅茶苦茶だったが、今思うと幻想郷に近いと思った。

…あそこにも酷い巫女がいたが今日も元気に夢の世界で暗躍していることだろう。

あれはヤバい薬キメた巫女だった。そして今日は見たのは茸キメた鈴仙である。

何だか外のことを思い出す日だとオオスは思った。

 

オオスはふと、思い出し笑いをしてしまった。

 

「…貴方は外で何だか色々起こしているみたいだけど」

永琳はオオスの反応を見て過去を回想していたのだと気が付いた。

 

…オオスは外でも楽しく暴れまわっていたようだと思った。

輝夜とは関係なく気になるが、そこは無粋であろうと指摘はしない。

 

「私は薬師よ。そこまで行動を起こさなくても貴方という脅威はわかっていたわ」

永琳はオオスの幻想郷での騒ぎを患者から既に聞いていた。

 

だが、その騒ぎがなくとも薬師として、薬草のみでアピールは十分だと指摘した。

これ以上示すのは暗に要らないと永琳はオオスへ告げた。

 

オオスは第三者として立ち回る資格を示すのに十分過ぎた。

 

「…ありがとうございます」

オオスは敢えて感謝を口に出した。

 

だが、永琳もオオスの認識がまだまだ甘いようだと悟った。

オオスが外で世界を相手に立ち回れたその謀略を月に示す必要性を認識した。

オオスは脅威として受け止められていないようだからだ。

 

永琳自身は気が付いていないようだが、オオスを上から目線で評価していた。

まだ月の民特有の上から目線であるようだとオオスは思った。

 

 

なお、オオスのそれは思い込みも甚だしく永琳の反応は全く普通でありおかしくない。

だが、オオスは反骨心が強すぎた。オオスは神に歯向かう悪魔より性質が悪かった。

 

 

イラッときたオオスは冬にやはりアレをやることに決めた。阿求にも根回し済みである。

…もはや慈悲はない。

 

「何のことかしら?」

オオスの内心等知らない永琳は感謝の言葉を素直に受け止めて、敢えて流した。

 

「まぁ、まだまだ情勢がどうなるかは私にもわからないんだけどね。

 …教えてくれたら別なんだけど」

永琳はオオスに聞いてみた。

オオスは言わないだろうが、知っていたらと思い鎌をかけた。

 

「知りませんし、興味がないです。私は私の真実を選ぶのみ」

オオスは本当に八雲紫の計画を知らないので独自に動くのみである。

そのため、本心から永琳に告げた。

 

「…秘匿しない秘密主義者と言ったところかしら?」

永琳は呆れて呟いた。

オオスの無関心さと目立ちたがりなのか秘匿したいのかわからない在り方に苦言を呈した。

 

「どこぞの店主も私をそう例えていましたよ。永琳さんと話が合うかもわかりませんね」

オオスは香霖堂の店主がオオスをそう評価していたのを思い出して言った。

 

「…いや、多分あんまり合わないと思うわ」

永琳はオオスの評価は多面的となることに気が付いていた。

…永琳と同じ考えとは思えないのでオオスにそう返した。

 

「おや、同族嫌悪ですか?意外な反応なんですが」

オオスは永琳の反応を意外に思い返した。

 

「これ以上頭を使いたくないだけよ」

永琳は仮に永琳と同じ結論だとしたら、返って面倒になると思い言い切った。

 

「…大変なんですね。永遠亭の頭脳担当者は」

オオスは永琳の苦労具合に同情した。

 

「貴方が言わないで頂戴な!」

永琳は思わず素で声を荒げた。ただでさえ、今は月のことで頭が一杯なのである。

 

最近、その中心になりつつある元凶に対して文句を言った。

 

「では、薬師として置き薬の話でもしましょうか」

オオスは気分を変えるように永琳に暗に促した。

 

「…そういうところはあの亡霊とそっくりね。真実を見抜きつつも呆けるところが」

永琳はオオスと白玉楼の主である亡霊を重ねて呟いた。

 

「妖夢さんの件ではお世話になりました。私は16歳で専門的な知識を欠いているので」

オオスは素直に感謝の言葉を述べた。

オオスでは妖夢が月の狂気に浸食されていることはわかっても治すのは面倒だった。

 

「隙あらば世界の標準を自分に合わせようとするの辞めてくれない?」

永琳はオオスへ素でツッコんだ。

オオスは善良なる里人やら普通の外来人やらと面倒臭いことこの上ない。

 

「過分な評価をいただいているようで光栄の至りです」

オオスは過分な評価と受け取り首を垂れた。

 

「…置き薬の話でもしましょうか。箸休めという意味で」

永琳はもうツッコむのを辞めた。

 

「私としてはそちらが本命なんですがね。真面目に」

オオスは本来、月のこと等考えたくもない。

里人達の健康のために思考を割く方が有意義であると心の底からの思いで言った。

 

「…本当にそっちの方が本音っぽいのがアレなのよねぇ」

永琳は呆れてそう言った。やはり、オオスは白玉楼の亡霊と似ていると思った。

 

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