永遠亭で置き薬の交渉の結果、オオスはそこそこの稼ぎを得ることになった。
その代わりオオスの薬草というブランドを永遠亭に譲渡することになった。
勿論、オオス個人が使うのは構わないが、永遠亭の、薬の売り込みに役立つからということだった。
オオスはブランド使用料は無料でも良かったのだが、偽薬効果も含めて金銭を受け取ることにした。
永遠亭に行った翌日、オオスは霧の湖に来ていた。
…オオスが霧の湖まで来た原因は文々。新聞に掲載されていた妖精戦争だった。
「まさか、私のお菓子が原因で妖精の間で戦争になっているとは…」
オオスは嘆かわしい、悲しいという表情を隠さずに言った。
…オオスは今日の朝刊で地獄土産のお菓子を巡ってチルノ対全妖精の大戦争になっていることを知った。
オオスはそれを止めに来ていた。文は遠巻きに写真まで撮っているがオオスは無視した。
なお、オオスは文が煽りまくったせいで戦争にまで発達したという事実を知らない。
知っていたら本気で磔にするのも辞さない。…文はかなりギリギリの綱渡りをしていた。
「もしかして、私余計な火種ばら撒きましたかね」
オオスは妖精達に嘆かわしいという風な様子で言った。
なお、オオスは忘れがちだが、儚く美しい容姿の持ち主である。
オオスが悲しむと本当に見るもの全てが何とかしたいと思う庇護欲を湧かせる物があった。
オオスは日頃の言動と行動でそれを台無しにしている。
その日のオオスは珍しく自らの容姿を全面的に活用していた。
…シャッターチャンスと言わんばかりに文は写真を撮りまくっていた。
記事のためであるが、半分以上は文の個人的な私物にする気だ。
…オオスは文にイラつくが無視した。今は我慢だと自分に言い聞かせていた。
「そ、そんなに落ち込むな!」
チルノは思わずオオスに声をかける。
…オオスを見ていると何だか本気で悪いことをした気分になるのだ。
「でも、チルノが…」
サニーミルクが思わず反論を仕掛ける。
サニーミルクは光の三妖精と自称するリーダー格の妖精である。
それを自負するサニーはチルノへの対抗心を未だに引きづっていた。
サニーは妖精戦争で対チルノ防衛網を指揮していた。
まだ継戦派に部類される妖精の中では猛将に部類されていた。
サニーはオレンジのかかった金髪のセミロングで、その両側を赤いリボンで二房のツーサイドアップで括って、頭の上には白のヘッドドレスをつけていた。
服装は袖の大きな長袖ブラウスと赤のロングスカートをしていた。
サニーは光を屈折させる能力を持つ。
サニーはオオスの菜園で光の屈折が利用できないか実験兼バイトにも協力したことがあった。
なお、河童よりも金払いが良く、紅魔館よりも待遇が良いオオスのバイトは妖精達の間で評判である。
オオスとも仲は良いが、それはそれとして継戦派の主張を繰り広げようとしていた。
「辞めなさいサニー!」
青いドレスのような衣装のさらさらの腰まである黒髪の美少女に見えなくもない妖精がサニーを窘めた。
彼女の名はスターサファイア。タレ目気味な黒い瞳、大きな青いリボンが特徴的な妖精である。
彼女も三妖精の一人であるが、どちらかというと中立派である。
そして、妖精の中でもひときわ機転が利く。
オオスをこれ以上困らせると妖精全体に不利益になると勘付いていた。
スターは動く物の気配を探る能力を持つ。
オオスの畑に入ろうとする害虫の動きを観察するバイトをしたことがあった。
「もう、喧嘩の原因になるのならお菓子を持って来ない方が良いですよね…ごめんなさい」
オオスはスターの予想通り、妖精達にとって絶望を述べた。悲しそうな表情である。
なお、文は全力で遠巻きにシャッターを切りまくっていた。
明日の新聞は売れると文は確信していた。文は最高に興奮していた。
文は思わず涎が口元から垂れたので袖口で拭った。
…文はどう見ても完全に危ない不審者であった。
「いや、喧嘩じゃないわ!遊びの範疇に入るわよ」
亜麻色に近い金髪と、赤い瞳、黒いリボンと白い帽子をしている白のドレスをした妖精がオオスに慌てて修正を試みていた。
彼女の名はルナチャイルド。三妖精の中で最も知的好奇心に溢れており、妖精としては珍しく新聞や本を好み、読書用のメガネまで持っている程である。
周りの音を消す能力を持っていた。
オオスの菜園では音楽を聞かせた場合と無音に近い状態で育てた場合の比較検討の研究のバイトをしていた。
学があるため、オオスの研究にも多少理解を示していた。…飽くまで妖精の範囲内であるが。
ルナは早期講和派であり、非戦派に属していた。
今回の戦争もオオスにバレたら厄介な展開になると予想していた。
ルナは全力で言い訳を考えていた。…妖精なりにでは有るが。
「戦争って遊びなのか?」
チルノはルナに疑問を述べた。純粋な疑問である。
「前にひまわり畑で大量殺戮も遊びって妖怪が言っていたわ」
ルナは非戦派に有るまじき凄まじい問題発言をした。
…平和主義者が一番過激なのはいつの世も同じかとオオスは外の世界を思い出した。
「じゃあ、戦争も遊びだな!」
チルノは納得したようだ。ちなみにチルノはオオスの菜園では冷蔵担当である。
なお、バイト代は魔理沙にその日のうちに巻き上げられた。チルノはすぐに忘れた。
「…遊びの範疇だったのですか、喧嘩じゃない?」
オオスはルナとチルノの発言に乗っかることにした。
…妖精だからもうこれで大丈夫だろうと見積もった。
「喧嘩じゃないよ。あたい達仲良し」
チルノはオオスの様子を見て慌てて仲良さげに空気を読んで振る舞った。
「そうそう妖精同士だしね」
ルナもそれに乗っかった。和平成立である。
「悪戯しようにも一人だけだと何もできないというだけでは?」
遠巻きに和平案を聞いていた妖精の一人、大妖精が茶々を入れた。
「でも、幻想郷中の妖精が手を組めばあの暴力巫女だって倒せるわ」
スターは妖精の底力を大妖精に示した。
…スターは有事の際にこの妖精間の結束を利用する気満々であり、少々腹黒かった。
「それも戦争の原因じゃない?もう辞めましょうよ」
サニーはスターの意図を知らずにツッコミを入れた。
タカ派が一番丸め込みやすいのは外でもオオスは経験していた。
そして、オオスは中立派が一番得をするのも知っていた。
妖精を見ていると人間の縮図に見えてきてオオスは興味深かった。
「まぁ、喧嘩じゃないなら今日持って来たお菓子も無駄にならずに済みましたね」
オオスはそう言って笑みを取り戻し、お菓子の箱を取り出した。
文はまたシャッターを切り、明日の朝刊の流れが決まったと今回の黒幕として感極まっていた。
「わーい!」「やったぜ」「今回のお菓子は何?」
そんな邪悪な鴉天狗の思惑等知らない妖精達は喜びを隠さずにオオスの菓子を期待していた。
そこにはもう戦争していた姿はなかった。
そして、文はその最後の一枚を写真に収めた。
もう素材は集まったとして文は帰って行った。…妖精達の戦争は文に取って些事であった。
オオスの写真と戦争から和平までの流れだけあれば十分だった。
「今日は何とですね。月の兎の付いた餅です」
オオスは邪魔な文が帰って行ったのを確認してお菓子を取り出した。
なお、この餅は病気から回復した鈴仙が病み上がりの中つかされた餅であった。
オオスを歓迎するために輝夜がやらせたのだが、流石に可哀想になりオオスは鈴仙を手伝った。
なお、鈴仙への優しさとも取れるオオスの好意を見た輝夜はまた拗らせることになる。
…オオスが再度輝夜のウサ耳を見る日は近い。今度はマジである。
話は妖精の講和条約に戻る。
…文もまだまだ甘いとオオスは思いつつ、餅を取り出した。
文もだが、この幻想郷の住民は妖精を軽視し過ぎである。
オオスの工作活動のメインは彼女達の働きにかかっていた。
…幻想郷にアレを創造するのだ。そのためには生命を司る妖精達の力がいるのだ。
「月には兎がいるって慧音が言ってたな」
チルノは月の餅という言葉に反応して言った。
「慧音って?」「確か人里の睡眠導入剤」「眠くなる呪文の使い手」
妖精達は慧音について思い思いを口にした。
「…慧音散々な言われようだな」
オオスは慧音の教師としての有り様に少しアドバイスできないか考え始めていた。
妖精達の意見は純粋であるが故に酷かった。
「細かくしてあるので喉に詰まらせて一回休み…ということはないと思いますが」
オオスは妖精達に気を付けて食べるように言った。
「ありがとう!」「ただで食えないからね」「そりゃ悪戯ばっかりしていたら誰もくれないわ」
チルノは素直に感謝し、サニーはただで食べられることに感謝し、スターは妖精の現状は当然の結論であるとした。
「気を付けて食べてくださいね」
オオスは妖精達の微笑ましい光景を見つつ、注意を促した。
そして、
「ああ、そう言えばなんですけど、皆さん月には海があるって知っていますか?」
オオスは妖精達へ本題を切り出した。
…まずは少しずつ浸透させる。オオスの一年を通した計略の開始であった。