嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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辞めてください。死んでしまいます

 

オオスは春が終わり夏になりつつある季節。オオスは地底の地霊殿に遊びに行った。

心を読まれようがお構いなしである。オオスの遊びにさとりも誘ってみようという善意だ。

…地底なら何をしてもバレやしない。オオスは完全に悪だくみをしていた。

 

オオスはこの日、さとりに会いに来ていた。

だが、オオスは地底に着くなり勇儀に捕まった。

 

「おう!元気にしてたか?」

勇儀はオオスを見つけて首根っこ掴んで聞いてきた。

 

勇儀は着物をはだけたように着こなしていた。正直、花魁風の姿のようだとオオスは思った。

 

「こんにちは。元気にしてました」

オオスは勇儀の問に答えた。

 

「…勇儀さん普段と恰好違くありませんか?」

オオスは思わず勇儀に尋ねた。いつもの体操服みたいなのはどうしたのだろうか。

 

「…いつも同じ格好なわけないだろうよ。あはははは!」

勇儀はオオスの問を笑って返した。

 

オオスは勇儀の間が気になったが、無粋と判断して辞めた。

 

「丁度良かったです。実はさとりさんに用がありまして、地霊殿へ一緒に行きませんか?」

オオスは勇儀に首ねっこを掴まれたまま尋ねた。

 

「ああ、まあ、まずここに来たらそこに用があるわな」

勇儀はオオスの問に納得した。

 

「いいぞ。このまま連れてってやろう」

勇儀はオオスの首ねっこを掴んだまま運び出した。

 

「ありがとうございます。…できれば運び方を変えて欲しいのですが」

オオスは勇儀に注文したが、その注文は勇儀に無視された。

 

 

 

地霊殿に着いたオオスはお燐に勇儀に首根っこ掴まれたまま挨拶した。

 

「こんにちは。お燐さん。さとりさんいますか?」

オオスはにこやかに挨拶をした。

 

「うーん?お兄さん。苦しくないのかいそれ?」

お燐は思わずその光景を見て言った。

 

そして、

「さとりさんに勇儀さんと私以外の、人払いを頼めるかと伝えてくれませんか」

オオスはお燐にさとりの護衛を排して話したいと言った。

 

「おい、それは…」

勇儀はオオスに言おうとするが、その前にお燐が反応をした。

 

「うーん?それは聞いてみるけどさ…」

お燐は訝しげな顔をしつつも、了承してさとりの下へ言った。

少しして、お燐が戻って来た。

 

「さとり様は大丈夫だってさ」

お燐はさとりがあっさり認めたので事前に連絡でもあったのかと思った。

…実際にはそんなことはない。

 

オオスには害する意思はないとさとりは確信しているからだった。

害意があれば既にさとりは何らかの方法で死んでいると断言できた。

…さとりとしても嫌な確信であった。

 

お燐は玄関前で待機することにした。さとりにもこれは譲らなかった。

いざという時に駆けつける。何が何でも、だ。

 

「…話は聞かないけど、そこは譲れないよ」

お燐はオオスに宣言した。正直、こんなこと主人であるさとりから言われなければ了承等しない。

 

「私としてはいて貰って構わないんだけど、多分さとりさんが駄目だというと思うですよね」

オオスはお燐に意味深な回答で返した。

 

オオスは勇儀から首根っこを離してもらっていた。

オオスがその場で首元の乱れを直して、古明地さとりの下へ歩いて行った。

 

お燐はオオスの返答に首を傾げた。

…勇儀はオオスが碌でもない話を持って来たと悟った。

 

 

 

地霊殿の客間に来たオオスはさとりの、心を読む第三の目の視界に入った。

 

「うわぁ…」

さとりはオオスの心を読み、思わずうめき声をあげた。

 

お燐がいなくて良かったとさとりもオオスに同意した。

こんな反応したらお燐が心配するだろう。…その配慮を自分にもしろとさとりは思った。

 

「挨拶も早々にそういう反応は良くないと思います」

オオスはさとりに挨拶の大切さを踏まえ、注意した。

 

「いや、どうせお前さんが悪いんだろう?この場合」

勇儀はオオスに呆れて言った。

オオスは碌でもないことを考えてさとりにわざと読ませたに違いない。

勇儀もオオスのやり口はわかっていた。

 

「…取り乱しました。失礼を」

さとりは勇儀へ大丈夫だと告げた。さとりは座るように仕草を示す。

 

オオスはそれを見て椅子に腰かけた。勇儀は立ったままでいることにした。

…飽くまでオオスとさとりの会話だと勇儀は思ったからだ。

 

「はぁ…」

さとりは思わずため息をついた。

 

さとりは様々な心を読んできたが、会って早々にこんな酷い提案をする存在はなかった。

悪魔よりも性質が悪い。…オオス的には善意なので余計に性質が悪いとさとりは思った。

 

「大丈夫かい?」

勇儀はさとりの様子を見て声をかける。

 

さとりは地底での怨恨殺人事件等を解いて来た。

そんなさとりの姿を勇儀は前々から知っている。

だが、さとりがこんな反応をするのは見たことがなかった。

 

…オオスは一体どんな碌でもないことを思っていたのか。勇儀は呆れた。

 

「…勇儀さん。この人、月の都に喧嘩を売る気です」

さとりは勇儀へ端的に述べた。さとりは勇儀にこいつ頭おかしいと宣言した。

 

…オオスの心を読んだ限り、勇儀にも関係ある話であった。

さとりはオオスの内心を読んで、先に言えば良いのにと思った。

周囲の目を気にしていたのはわかるが、言っておけば勇儀がオオスの首根っこ掴んだまま来ることはなかった。

 

さとりは月へ喧嘩を売る気満々である狂人の策というのか怪しい物を読み解いた。

 

「…マジかよ」

勇儀はさとりの答えに言葉を失った。

 

勇儀は前回の月面戦争のことを知っていた。鬼がまだ地底に籠る前の出来事であった。

 

…正直、オオスがどんな策を弄しようとも、何をしても勝てる光景が思いつかない。

あれは一方的な蹂躙だったと勇儀は記憶していた。

勇儀から見て、あれは喧嘩の楽しみも糞もないただの殺戮だった。

 

勇儀は喧嘩をする気が失せた。それは決して勝てないからではない。

勇儀は、否、鬼は月の民の有り様に興味が失せたのだ。

 

月の民は地上に住む者達をゴミ掃除の様に敵と扱う。

 

敵に敬意を持たない。そんな連中だと鬼達は悟ってしまったのだ。

月の民とは戦う意味がない相手だった。

 

いくら相手が強くてもそんな連中と喧嘩しても楽しくない。

鬼は月の民に失望していた。

 

しかし、

「喧嘩だなんて…私はただ人里の子ども達のために知的な場を創造するだけですよ」

オオスは戯言をほざいた。…勇儀にはそれが本心に見えた。

 

オオスの振舞いはまるで純粋な子どものようだと勇儀は思った。

 

「…その過程で対月の兵器作っているじゃないですか」

さとりは呆れた。物は言いようである。

…しかもオオスのはそれも本音なので性質が悪い。

 

「ただの副産物です」

オオスはさとりのツッコミを躱してほざいた。実際、副産物である。

 

「私のところに来たのは確認のためですか。…まぁ可能でしょうね」

さとりはオオスを無視して、心を読んで会話を続ける。さとりはオオスの策を認めた。

 

オオスの策は月の民では絶対に防げない。

オオスのそれは月の民が最も忌み嫌う、関わりたくない類の行為だった。

 

「一体、何をしようって言うんだい?」

勇儀はさとりに尋ねた。…オオスに聞いても答えが返って来るとは思えないからだ。

 

「…端的に言えば最悪、月と相打ちになれるモノです」

さとりはオオスが許可できるだろう範囲内で答えた。

 

オオスの策は本当にえげつない。さとりは改めて思った。気が付けばもう手遅れである。

オオスの匙加減一つで月は緩やかな滅びを迎えることになる。

 

「私は子ども達の知的教育、紙芝居のために月に沢山あるものを分けて貰うだけですよ」

オオスはさとりに笑って言った。ほんの少し分けてもらうだけである。

…それを幻想郷に合わせて加工はするが。

 

「…えげつない。本当にえげつない」

さとりは思わず二度呟いた。はっきり言ってドン引きである。

 

オオスが想定する最悪が起きた時、つまり月が幻想郷に攻め込んだ場合。

月はその時、初めて恐怖と、何より完全なる絶望を味わうことになる。

 

今年の冬に行われるオオスの悪戯はただ先触れであり、オオスなりの挨拶に過ぎない。

それを悟る引き金を自ら引いてしまった時、月はオオスの策の使い道を知ることになる。

 

…さとりはそれを自らの身に起こることでないと知っていてもぞっとした。

 

「さとりにえげつないって言わせるってどんだけえげつないんだよ」

勇儀は思わず呆れた。どんな策なのか聞きたくもないと思った。

 

だが、

「こちらが何もできないと思い込んで調子に乗っている奴らですよ。…ムカつきません?」

オオスは勇儀に煽ってきた。オオスは月の民の在り方にムカついた。

 

オオスは、月の在り様にムカつくと思いもしなかったのかと勇儀に対して暗に聞いていた。

奇しくも、オオスの推理した過去の月面戦争は勇儀の経験と合致していた。

 

「…まぁ、ムカつきはするな」

勇儀は鬼として嘘はつかない。…確かにムカつきはした。

 

それ以上に嫌気が差したのだが、オオスに改めて聞かれると段々ムカついてきた。

月の連中の殺戮を見て、一体何様のつもりなんだとは思った。

あれは弔いすら許さない行為であり、死への侮辱だった。

 

「そこで勇儀さんにも少し手伝って欲しいなと」

オオスは勇儀を遊びに誘う。

オオスは飽くまで善意で勇儀を誘っていた。

 

「いや、私は月どころか地上にも出られないからな。…少し行きたいと思うけどよ」

勇儀は地上との契約があるので出られないとオオスに忠告した。本音を一部溢した。

 

…勇儀はオオスから頼られて嬉しい気持ちもあったが、それは誤魔化した。

 

「地底から鬼の四天王、力の勇儀さんにしか頼めないことがあるんですよ」

オオスは縋るように言う。オオス的にはそこまで迷惑をかけない。セーフである。

 

「…勇儀さん。この人、善意で誘っています。…常人の善意とは異なりますが」

さとりはオオスの内心の理屈に呆れつつも解説した。

 

オオスは友達を遊びに誘う感覚で勇儀に提案していた。

さとりはオオスが敢えて勇儀の力を借りる必要がある形の計略にしていた。

 

…さとりは会ったこともない稗田阿求に同情した。

阿求がいなければオオスは勇儀を誘えなかった。

オオスは個人的な遊びについても遠慮なく阿求を頼っていた。

 

オオスは稗田家の権力をフル活用することに対して全く躊躇していない。

さとりは大いに呆れた。そんなオオスに入れ込んだ阿求も阿求であるとも思った。

 

だが、勇儀が断るのならばオオスは元の策に戻すだけであるともさとりは悟っていた。

 

それをさとりは口にはしないが。

 

さとりも勇儀と仲良くなる過程で無粋なことは段々言わなくなってきていた。

オオスと出会う前のさとりならば口に出して顰蹙を買っていただろう。

 

オオスに感謝すべきことなのだろうが、さとりは素直に喜べなかった。

…さとりはそれを認めたら負けのような気がしていた。勝ち負けではないのだが。

 

「まぁ、前からムカつくと思っていた連中ではあるな」

勇儀も月の民を見限ったが、ムカつくとは思っていた。…勇儀はそれを改めて認めた。

 

「…よし!」

勇儀は自身に活を入れた。オオスの誘いに乗ることにした。

 

勇儀は立つのを止め、客間にあるソファーに腰を落ち着けた。

オオスと対面になるように、だ。

 

「何をやれば良いのか、聞かせて貰おうじゃないか」

勇儀はオオスに向かい合い、目を見て尋ねた。

 

「ありがとうございます」

オオスは勇儀に感謝の言葉を述べた。目は逸らさずにキチンと向き合っていた。

 

 

 

勇儀がオオスから頼まれたことは些細なことだった。

少なくとも勇儀からすればそうであった。

 

オオスからすれば鬼の四天王、力の勇儀にしか頼れないことなのだが。

 

「…それだけで良いのかい?これに?」

勇儀はオオスから受け取った物をのぞき込んで尋ねた。

 

正直、勇儀にはオオスから頼まれた行為の意味がよくわからない。

だが、オオスの注文する力とその期間は自分以外の鬼では難しいかもしれないと思った。

 

「私では力が不足していまして。…魔法等で再現すると杜撰な物になってしまいます」

オオスは正直に答えた。…実は勇儀じゃなくても良い。

 

「…どんなことをするのかは知らないが、終わったら聞かせて貰うからな」

勇儀は正直に言ったオオスを鬼としては兎も角、個人的には何となくイラっときた。

 

…この件に関しては嘘をついたかは勇儀には判別がつく。

勇儀の得意分野であるから尚更である。

だから、正直に言われた方がずっと良い。しかし、オオスの返しに勇儀はイラっときた。

勇儀自身も不思議な気分なのでよくわからないが。

 

「はい」

オオスは勇儀に約束した。

 

終わったらネタバレタイムである。…勇儀は地底の鬼であり、バレる心配はない。

オオスも手伝ってくれた礼として誰かに話したかった。

 

しかし、今更ながら改めて考えるとオオスの策は陰険だと思わなくもない。

…勇儀が怒ってオオスが殺されたらその時はその時である。

 

「…それと地底にも作りませんか?さとりさん」

オオスはさとりも誘った。…地底にも楽しい遊び場を作らないか提案した。

 

「駄目です、絶対駄目」

さとりは断固として拒絶した。

…旧地獄製のまで用意するとかオーバーキルも良いところであるとさとりは思った。

 

「さとりが即拒絶するって嫌な予感しかしないんだが」

勇儀はさとりの凄まじい拒絶を見て言った。

今更ながら、物凄く不味いことに応じてしまったのではないかと勇儀は思った。

 

「…ペットの飼育環境を整えたいと思ったことは?妹さんも喜ぶのでは?」

オオスはプレゼンテーションを開始した。

 

オオスは予めさとりが喜びそうなフレーズは沢山考えて来ていた。

月が攻め込んでくるとかして使わなければセーフである。

…さとりは何も気にすることは無い。全てはオオスの責任である。

 

しかし、

「…勇儀さん。申し訳ないんですが、この人追い払って貰えますか?」

さとりはオオスのプレゼンを聞く前に追い出すことにした。

 

「おう!」

勇儀はさとりの要望を快諾した。オオスは企んでいることは碌なことでないと確信した。

 

「…依頼はやっておくから、今日は大人しく帰れな」

それでも、勇儀は約束を守ると宣言した。

 

そして、オオスを放り投げる準備をし始める。

地霊殿の玄関先までオオスは勇儀の肩に担がれていた。逃げられない。

 

…玄関前にいたお燐は唖然としてしまい、オオスと勇儀を見ていてたが止めなかった。

 

「いや、ちょっと、血の池地獄だけ見せて」

オオスは血の池地獄だけは見て帰りたかった。

 

「また来た時に見に来い。諦めろ」

勇儀はオオスに微笑んだ。そして、斜方投射の構えを取った。

オオスに慈悲は不要である。勇儀はそう判断した。

 

「いや、投げるとかひど…ああー!!」

オオスは穏便なやり方を提案する前に、鬼の力で投げ飛ばされた。

 

…オオスは途中で実体からすぐに風となって空となって消えた。

オオスに取って無粋だが、空にならなければ死んでいた。

 

 

 

勇儀はオオスが空となって落ちても大丈夫なのを確認してからさとりの下へ戻った。

 

「…これで良かったかい?」

勇儀はさとりに聞いた。あんな感じでぶん投げたが良かったかと。

 

「ありがとうございます。…危うく言いくるめられるところでした」

さとりは心から勇儀に感謝を述べた。

オオスには力技が一番効く。さとりとしてもオオスの言葉攻めは躱すのが面倒だった。

 

「一体何を企んでいるのか教えてもらえないか…ってのは無粋か」

勇儀はさとりの安堵を見て、思わず口に出しかけるが無粋と断じた。

 

「本人的には良かれと思って勇儀さん誘っていますからね。一応」

さとりは一応オオスが本心から良かれと思っていたことだけは伝えることにした。

 

「月と喧嘩してきましたって言ったら、私も一口噛ませろと後で言い出すとか考えたのかねぇ」

勇儀はオオスなりの善意と聞いて想像して口にしてみたが、微妙に違う気もした。

 

「…目立つので本当は避けたいけど、勇儀さんだけでも誘えないかとか考えていました」

さとりはオオスがさとりは断るだろうと思いつつ来ていたと暗に伝えた。

 

…要するに勇儀だけのためにオオスは来ていた。本命と言いつつ、さとりへはついでであった。

さとりはイラっときた。

 

「私ってそんなに喧嘩好きに見えるかい?」

勇儀はさとりの答えを聞いて聞き返した。

 

「…感情を誤魔化すのが上手になりましたね。誰に似たんでしょうか?」

さとりは勇儀の内心と外側の違いに興味深げに呟いた。当てつけである。

 

「…おう、さとり。喧嘩を売ってるなら買うぞ」

勇儀は無粋なことをぬかしたさとりに言った。勇儀は半分本気である。

 

「辞めてください。死んでしまいます」

さとりはどこかの誰かの振舞いを真似て、勇儀へ慈悲を乞うた。

それは、オオスへの当てつけでもあった。

 

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