永遠亭前の竹林にて、月の兎と八意永琳は話していた。
永遠亭には入れないで永琳は話していた。
…想定外の早さでここにたどり着いた兎から聞き出していた。
「…オオスという人間が貴方を此処へ行くように言ったのね」
永琳は再度確かめた。
…永琳はオオスの真意を掴み兼ねていた。
このタイミングで月の兎を寄越すのは悪手である。
まだ、永琳は月の都の情報を鈴仙に集めさせていた。
月の羽衣が見えたからだ。オオスは何故、印象を悪くする悪手を打ったのか。
あの男がこれを悪手とわからぬはずがない。
…永琳がオオスの立場ならば月の兎をわざわざ回復させない。
一日ばかり置いた方が双方の利益となるはずであった。
「はい。私が月の兎だと看破し、ここまで真っ直ぐ進むようにと…」
月の兎、玉兎は永琳の内心等知らずに正直に話す。
…自分でもわかる圧倒的格上の存在。それを目の前に嘘などつけるはずもない。
「…してやられたわ」
永琳はつい溢した。
玉兎をこのタイミングで使うことで永琳の策を崩しにかかった。
…オオスのそれはブラフか否かわからない。
永琳もそれに備えて二重に対策していたが、まさか使う羽目になることになるとは。
「貴方は何をしに来たの?××の罪を背負いし、玉兎が」
永琳は玉兎に尋ねた。何をしにきたのかと。
「××様の名は地上の人間では発音できないはず…貴方は一体?」
玉兎は驚いた。
月での仕事に関わる御方の名を言える目の前の存在を地上の民ではないと確信した。
「…その名を口にするのは止めた方が良いわ。嫦娥とここでは呼ばれているわ」
永琳は今更ながらそう言った。
オオスは月の情勢をどこまで掴んでいる?
永琳は会話よりもそちらに思考を取られていた。
「貴方は一体…先ほどの男の方もそうでしたが」
玉兎は先ほどのオオスと名乗る男を思い出す。
自らの隠れる力が一切効果を持っていなかった。
月の光の、羽衣まで使った迷彩である。見破れるわけがない。
…オオスは人間ではない。玉兎はそう思っていた。
「…私の名は八意××。ここでは永琳と名乗っているわ」
永琳は敢えて本名を名乗った。オオスに否定した名だ。
…今思うとオオスは初対面の『永琳』という名から正体を察していた。
あそこから仕込んでいた可能性がある。幻想郷に着た瞬間まで疑い出すとキリがない。
永琳は思考を辞めた。
…ブラフも大概にしろとオオスへ愚痴った。何重に仕込めば気が済むのだろうか。
「八意様!?あの遥か昔に月から逃亡されたと言われる方ですか!?」
玉兎は驚きの声をあげる。…そして、歓喜した。目的の存在が目の前にいた。
「…貴方は何故ここに降りて来たのかしら。敵意はないようだけど」
永琳は玉兎の好意的な反応を見て、尋ねた。
…月では自分は今現在の謀反を起こした人物扱いなのだと永琳は知っていた。
「私も革命の仲間に入れていただきたくはせ参じました」
玉兎は永琳の機嫌を損ねぬように姿勢を正し、宣言した。
だが、
「嘘ね。もし、そうだったら貴方は死んでいたわ」
永琳は即嘘だと見破った。…オオスがそんな存在を生かしておくわけがない。
彼は幻想郷を守るためなら手段を選ばないだろう。
…月の騒乱に巻き込まれる種を見過ごすはずがない。
「え…ええと…実はもう嫦娥様の罪を償う仕事にウンザリしていてそれで…」
玉兎は嘘と見破られたので、正直に話した。…同じことの毎日でウンザリしていた。
「なるほど。だから丁度良いと…」
永琳は玉兎の反応に納得した。
しかし、
「いや、待って。貴方は彼にどこまで話したのかしら?」
永琳はオオスが玉兎に何を話したのかを尋ねた。…オオスのブラフの判断材料足り得た。
「…何も話していません。霊夢という方の顔を立てて見逃すとか何とか言われました」
玉兎は永琳の真剣な表情に困惑しつつもオオスの言葉を思い出して言った。
「…何故、霊夢?」
永琳は困惑した。何故、ここで博麗霊夢が出てくるのか。
「ブラフにしては杜撰過ぎる…どこまで計略を仕込んでいる?」
永琳は考える。オオスは大小は兎も角として、意味のない行為を好まない。
何かしら意図があるはずだった。
…一瞬でわかった。永琳の策に一部は乗るという話だった。
活かして返すことで綿月姉妹の疑惑を晴らす。少なくともそれには乗る。
永琳はオオスなりの真意を理解した。…面倒臭いことこの上ない。
「…あのー。あの男性と八意様はひょっとして、仲間等ではないのでしょうか?」
玉兎は永琳が先程から考え込んでいる謎の男について尋ねた。
「仲間ではないわ。中立よりの敵よ。今は」
永琳は正直に言った。…オオスは中立よりの敵として振る舞っていた。
「ええ…?それはどういう?」
玉兎は困惑した。何故、敵を放置しているのか。
…中立よりの敵などと言われても玉兎にはわからなかった。
「…貴方はすぐに月に帰るべきです。私は月の侵略など考えていません」
永琳は思考を戻した。やる事は変わらなかった。
…オオスのせいで思考が乱されたが、やる事は変わらなかった。
「でも、私は八意様の居場所を知ってしまいましたよ。…よろしいのですか?」
玉兎は暗に匿って欲しいという。…もう月に戻れない。
「貴方には密使として働いてもらう代わりに安全を約束しましょう」
永琳は玉兎に告げた。仕事をすれば少なくとも安全だと保障する。
「月の羽衣でくるような貴方はここに置くわけにはいかないのです。月に未練があるような者には」
永琳は月に未練があり、戻る可能性のある者をおいておくわけにはいかなかった。
「あ…」
玉兎は永琳の発言を聞き思い出した。オオスは自分を見て評した言葉だ。
「さ、参考になるかわかりませんが、あの男は私をこう言っていました!」
玉兎は永琳に告げた。今更であるが、少しでも自分の価値を高めようとした。
『…地上の兎に化けるにしても、羽衣にしても。三流の兎にしか見えない』
オオスは玉兎を見てそう言っていた。
…玉兎としては地上の普通の兎に化けたつもりだったのだが。
羽衣も永琳と同じ結論に至ったのだと推測した。
…だとすれば。玉兎にはオオスという男の正体がますますわからなくなっていた。
「…なるほど。訂正するわ。彼は敵か味方かも怪しい存在よ」
永琳は玉兎の発言を聞き、訂正した。
…あの男、オオスは月に喧嘩を売るつもりなのかもしれない。
しかも、個人的にだ。有り得ない仮定だが、有り得た。
そして、これは永琳へのメッセージでもあった。
『三流の下っ端なんで送りました。羽衣は奪いません。私は別の手段を用意しています』
永琳へこのようなメッセージを送っていると確信した。
「ええ…」
玉兎はますます困惑した。…オオスという存在を考えれば考える程わからない。
「…この二通の封書をそこに書いてある人物に渡しなさい」
永琳は玉兎へ封書を二通渡した。
…永琳はオオスの真意を読み解いたが、やることは変わらなかった。
オオスは永琳にもし、読み違えがあった場合のメッセージとして玉兎に言ったのだろう。
伝わろうが、伝わらなかろうがどちらでも良い。
これはオオスなりの誠意であると永琳は悟った。
どちらにせよ、オオスは永琳と読み合いを挑むつもりのようだ。
輝夜に害が及ばない範囲で。…月という遊び場で遊びを誘っているのだ。
…恐れを知らないにも程があると永琳は思った。…そして、輝夜の将来を不安に思った。
「ってええ!…無理ですよ!綿月様のような方に私のような一介の兎風情が会えるわけが」
玉兎は封書に書かれた名を見て驚愕した。…偉い上に永琳の敵ではないかと思った。
「堂々と私の名を出して渡しなさい。それで貴方の逃亡の罪は帳消しとなるはずです」
永琳は玉兎の反応を無視して淡々と言う。
「一通は今起きている現実とこれから起こるであろう未来が書かれています」
永琳は一通目の内容を玉兎に伝える。赤い封筒であった。
「このとおりにすれば、月の都は安泰でしょう」
永琳は玉兎に断言した。…オオスが何を考えて居ようがこれで普通は問題ない。
「…もう一通は?」
玉兎はもう一通が気になって言った。青い封筒である。
「万が一、その手紙にある想定を上回った場合の手段が書かれています。
…こちらは想定外が起こった時のみ空け、なければ燃やすように伝えなさい」
永琳は玉兎にそう伝えた。…オオスが永琳を上回った場合に書かれた手紙である。
正直、焼き捨てて欲しいと永琳は心から願った。