嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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現人神の末裔

オオスは幻想郷に来た当初、チルノとの会話から幻想、妖怪等の隔離空間だと悟った。

そして、ふと思ったのだった。…外から神がやってくる可能性もある。

邪神の類が来ないかとオオスは危機感を常に持っていた。最も、来たら追い払うまでだが。

 

オオスは秋のある日、妖怪の山の方で変化があったのを悟った。

 

度重なる妖怪の山への不法侵入をしていなければオオスは気が付くのが遅れていただろう。

オオスはいつものように妖怪の山に住む妖怪や神々に気が付かれないようにして山を登り切った。

 

「神社と湖ごと転移してくるとは…」

オオスは外の世界でも有名な神社が転移してきたと悟った。

 

信仰心の減少を悟って幻想郷へ移転してきたという判断自体は良い。

だが、オオスにとっては神々の来訪は喜ばしくなかった。

自分の好悪だけでなく、幻想郷のパワーバランス的にもである。

山の妖怪だけが強くなりすぎると、相対的に麓の妖怪が弱くなる。

 

…人里に間接的に害が及ぶ可能性がある。

ただでさえ、今は月のことで暗躍している時である。オオスはさっさと調べて帰るつもりだった。

 

 

 

東風谷早苗は守矢神社が幻想郷という新しい世界に来たことを嬉しく思い境内を散策していた。

 

早苗は緑の長い髪を髪の左側を一房髪留めでまとめ、白地に青の縁取りがされた上着と、水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカートを穿いていた。

 

早苗は、八坂神奈子と洩矢諏訪子の巫女として仕えていると同時に同じ神、現人神であった。

 

今はまだ転移したばかりである。神奈子が辺りの様子を見回りしているところだ。

現在地の確認と、人里が近くに無いか探してくるとのことだった。

 

過保護な二人に見つかると煩いので境内の中で外の風に当たっていた。

早苗は境内に、神社に合っていない恰好をした男性を発見した。

 

どうも守矢神社を眺めているようである。早苗からは後ろ姿しか見えない。

早苗はその男性に後ろから声をかけることにした。

 

「神社に喪服はないですよ」

早苗は第一参拝者と思われる現地人に声をかけた。

どう考えても神社に喪服はない。

…とはいえ、守矢神社は急に転移してきたから仕方がないかもしれないと思いなおした。

 

吉凶に喪服で現れるというのは外で最後に聞いた都市伝説のようだと早苗は思った。

 

この男性に一先ず信仰の大切さを説くことにした。早苗の第一信徒である。

…これからが早苗の新しい人生の幕開けだと気合を入れた。

 

「こんにちは。私の名はオオスと申します。人里に住む善良なる里人で紙芝居屋を営む者です」

現地人と名乗る男性、オオスは頭を下げ、先に名乗った。

紙芝居屋とは随分古臭い職業だと早苗は思った。…早苗は顔をあげたオオスを見た。

 

その瞬間、早苗は喪服に似合う儚さを感じさせる美しい容姿に目を奪われてしまった。

 

「巫女…というより現人神ですか。珍しいですね」

オオスは早苗が目を奪われているのにも気が付かないでそう言い切った。

 

どうやら目の前のオオスは早苗の正体がわかるようだ。

…幻想郷の住民は皆こうなのだろうか。それならば早苗としては嬉しいことこの上ない。

 

早苗は外でもはや必要とされなかった『自分』を認められたようで嬉しかった。

 

「如何にも私は風祝の早苗。外の世界では絶え果てた現人神の末裔です。

 …貴方は参拝しに来た方でしょうか?」

早苗は目の前のオオスに名乗りを上げ、参拝しに来たのかと尋ねた。

 

しかし、

「いいえ。私は神には祈りません」

オオスは参拝客ではなかったようだ。…早苗は外の世界を思い出してガッカリした。

 

だが、幻想郷にとってこそ信仰の力は大切であると早苗は知っていた。

…ひょっとしたら、別の神を信仰しているのかも知れない。

神に祈らないというのはそういうことだろう。早苗はそう思った。

オオスは喪服であるが故にどんな宗派かはわからないが。

 

「…幻想郷には信仰心が足りない。信仰心が失われた状態が続けば、幻想郷は力を失います。奇跡を起こす力を失うのです」

早苗はそう言って、オオスに信仰の尊さを説いた。

それは、幻想郷の住民では身近過ぎて気が付かないであろう危機であった。

 

「神がいなくても問題ない…といえば嘘になりますね。信仰の力は幻想郷にとって有益なのは認めます」

オオスは神と信仰の必要性を認めているようだが、早苗はその発言に違和感を覚えた。

 

だが、その違和感を吹き飛ばすことをオオスは発言した。

 

「私としては神より貴方の方に興味があります」

オオスは早苗に興味があると言い出した。

 

「…へっ?」

早苗は思わず呆然とした。…初対面の男性にここまで熱烈に迫られたのは初めてかもしれない。

 

しかし、

「貴方は何故、幻想郷という危険地帯へわざわざ来たのか?」

オオスは早苗にそう聞いて来た。

 

…興味があるというのは幻想郷に来た理由だったようだ。

早苗は何故かガッカリした。自分でも不思議なのだが。

 

「この神社に住まう二柱の神々への信仰心ですか?それとも…」

オオスは守矢神社の神々を何故か知っているようだ。

 

早苗がオオスへ何故それを知っているのか聞こうとした時、

 

「奇跡の世界へ行く事自体が目的だったのですか?」

オオスは早苗の本質を言い当てて来た。

 

「あちらでは信仰も奇跡も失われつつある。現人神であろうともただの人間だ」

オオスは呆然とする早苗をおいて話を続ける。

 

…早苗のかつての実情をそのまま言い当てていった。

 

「…それが嫌だからこちらに来たのですか?」

オオスは早苗の目を見て尋ねて来た。その目は真剣そのものだった。

 

早苗はある都市伝説を思い出した。…早苗は詳しく読まなかったことを後悔した。

 

「…貴方の言う通りです。奇跡を起こす力を持つ私が活躍できる幻想の世界」

早苗は正直に答えた。目の前の幻想の存在に自分のありのまま話していた。

 

「人間の世界との別れは怖くなかったので?」

オオスは早苗の目だけを見つめ続けていた。その目は早苗だけを見つめていた。

 

「人間の世界との別れは怖くもあり寂しくもありました。

 …ですが、ここは私達、いや、私を必要としてくれる世界だと知りました」

早苗はオオスにではなく、自分に言い聞かせていた。

 

「私が必要とされている世界なのです!…そのために私はここへ来ました」

早苗はオオスの目を見つめ返し宣言した。

 

自分のありのままを必要とされる世界にやってきた。

…外ではもう求められない奇跡の力を必要とする幻想の世界へ来たのだ。

 

「…なるほど、貴方は確かに力をお持ちだ。そして、外で不要とされつつある力でもある」

オオスと名乗る外の都市伝説は早苗を見てそう断言した。

 

「貴方の神社の風祝とは、元々は風鎮めの神事。…持統天皇によって行われた由緒あるものだ」

オオスは早苗がぼんやりと覚えている都市伝説通り全てを見通すように淡々と述べていく。

 

早苗はオカルトに一時期熱狂的に嵌っていたが、ある日を境に幻滅していた。

なので、最新の物は余り詳しくはなかった。

自分が必要とされていない現実を見るようになって辛くなったのだ。

早苗はそれを後悔していた。…目の前の都市伝説を早苗はほとんど知らない。

 

「貴方は幻想郷で現人神として存分に力を発揮できるでしょう」

オオスは断言した。早苗はここで必要とされている。…それを聞いて早苗は歓喜した。

 

しかし、

「…貴方がもし、仮に神として振る舞うならば、人間とは相容れない覚悟がありますか?」

オオスは早苗に突然、覚悟を求めて来た。

 

「えっ…?」

早苗は困惑した。必要とされていると思っていたが、覚悟とはどういうことだろうか。

 

早苗は自分自身に問いかけるが、わからなかった。

…早苗は良くも悪くもほとんどを人間として暮らしてきていた。

 

「神に和と荒の二つの側面が存在するように。神が必ずしも歓迎されるとは限りません」

オオスは残酷な神としての有り様を語る。

幻想郷では力は発揮できる。

だが、必ずしも歓迎されるとは限らないと早苗に忠告しているのがわかった。

 

そして、

「信濃なる木曽路の桜咲きにけり風の祝に隙間あらすな」

オオスは何か歌を歌った。…早苗は理系なのでオオスの歌の意味がわからなかった。

 

「…どうか、幻想郷という花を散らさぬようにお願いします」

オオスはそう言って優雅に礼をし、いつのまにか風となり守矢神社から消えて行った。

 

…早苗はオオスに言いたいことと聞きたいことの両方が言えなかった。

 

 

 

「早苗!ごはんはー?」

諏訪子は外に出た早苗を呼んでいた。

 

諏訪子は幼子のような容姿をした神であった。

髪型は金髪のショートボブで青と白を基調とした壺装束という恰好をしていた。

足には白のニーソックスをはき、頭にはいつも市女笠に目玉が二つ付いた特殊な帽子を被っている。

 

「神奈子もそろそろ戻って来るし、用意してよー」

諏訪子は早苗を探して境内へ出る。ごはん担当は早苗である。早く食わせろと急かしていた。

 

しかし、

「…早苗?どうしたの?」

諏訪子は早苗の様子がおかしいことに気が付いた。

 

「諏訪子様」

早苗は諏訪子を呼んだ。その早苗の顔は真剣そのものだった。

 

「何?」

諏訪子は早苗の真剣な表情に内心驚きつつも聞いた。

 

「ええと…『しなのなるきそじの桜咲きにけり、風のはふりにすきまあらすな』ってどういう意味ですか?」

早苗は思い出しながら一文字ずつ読み上げて言っているようだった。

 

「それはまた随分懐かしい歌だなぁ…」

諏訪子は平安時代を思い出す。確か源俊頼とか言ったか。

この神社にも深く関係している歌だった。

 

「自分で調べたら?…っていうのは無理か」

諏訪子は早苗が理系を自称し、オカルトかロボットばかりに興味をもっていた。

この守矢神社の歴史についてもあまり知らないし、知ろうとしてこなかったのを思い出した。

神がそのまま見えるから毎回早苗に答えてあげていた。…過保護だと自分達も自覚していた。

 

「ええとね。簡単に言うと美しい桜を風祝の力で散らさないでくれって意味だけど」

諏訪子は端的に述べた。詳しい歴史の経緯は置いておく。

話せば長くなるからだ。…ごはんが遅くなる。

 

どちらかというとミシャグジさまを束ねる自分への当てつけに相当する歌なのだが。

 

「…今、秋だよ?何で知ったのかわからないけど、桜の散る様を何かに例えたとか?」

諏訪子は早苗が何でこんな古い歌を知ったのかわからない。

神奈子が自分への当てつけとして言ったのだとしたらと仮定して言った。

 

だが、

「諏訪子様。…幻想郷って良いところですね」

早苗は諏訪子にそう言った。

 

「うん?」

諏訪子は早苗が突然何言い出したのかわからない。

 

神奈子が自分に黙って勝手に移転したことを実は諏訪子はまだ怒っていた。

…しかし、早苗の様子を見て、諏訪子は少しだけ神奈子を許すことにした。

 

早苗の様子が実に晴れやかだったからだ。

それはまるで何かから解放されたかのようだった。

 

 

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