先日、秋の博麗神社に東風谷早苗と名乗る風祝が博麗神社を見に来ていた。
『信仰を集められない神社は潰してしまうか、山の上の神様に明け渡しなさい』
早苗は博麗神社と霊夢を見て、それだけ言うと去って行った。
…霊夢は早苗に何も言い返せなかった。
霊夢は巫女として信仰深いかと言われるとそうでもないのかもしれない。
早苗が見た博麗神社の閑散具合からしてもそれは明らかだった。
早苗が去って霊夢は行事も何もない。今は誰もいない博麗神社の縁側にいた。
誰もいない博麗神社の庭を見ながら、霊夢は黄昏ていた。
「妖怪ばかりが集まって、人間はほとんど近づかない」
霊夢は独り言を呟いた。
…霊夢は早苗の、自身にはない巫女としての熱心さを見て思うところがあった。
霊夢も薄々わかっているのだ。
博麗神社は神社として信仰を集められているかというとない。
少しは改善してはいるが、それでも普段人は来ない。…博麗神社自体の信仰はほぼない。
早苗はそれを見て言いたいことがあったのだろう。…霊夢は勘でわかってしまった。
早苗の語り口は霊夢にとって実に傲慢な言い方ではあった。
しかし、巫女としての善意ではあった。寂れた神社のままなら明け渡せという忠告だった。
「…信仰が集められるなら神社を渡してもいいかな?」
霊夢は自らに問いかけていた。
霊夢は早苗を見て思ってしまった。渡した方が為になるのではないか。
その後に霊夢を尋ねて来た魔理沙には何でもないように言った。
実際、その時は何でもないように思ってその件を放置していた。
しかし、魔理沙が帰った今、霊夢は自分自身を振り返った。
無関心である自分はそれで良いのだろうかと問うてしまった。
「…でも、胡散臭いような気もするわね」
霊夢は自分にあった感情を押し殺し、屁理屈を立てていた。
…早苗の言う通りだとしても、霊夢は否定されたままで在りたくなかった。
そこに、一筋の風が吹いた。…霊夢は誰が来たのかわかった。
「今回はアンタが出る幕はないわよ」
霊夢は心の底からそう言った。
神への信仰も何もない存在に今回、霊夢に何かを言う資格はない。
霊夢に構わずいつものように風は実体となり、最終的にオオスが現れた。
「…悩んでいるようで」
オオスは霊夢の言葉を無視し、霊夢を見てそう言った。
…相変わらずどこから聞きつけて来るのだろうか。霊夢にもそれはわからなかった。
「胡散臭い代表が何の用かしら?」
霊夢はオオスに尋ねた。…暗に霊夢はオオスに帰れと言った。
霊夢はオオスが何をしに来たのかさっぱりわからない。今回に関しては特に、だ。
そもそもオオスは神社や神に関して関わることすら嫌がるはずである。何をしに来たのか。
「…釈迦に説法だろうが、神を信じることと神にすがることは違う」
オオスは霊夢へ本当に当たり前のことを言ってきた。
しかし、オオスにはいつもの敬語はなかった。
霊夢はオオスが何を言いたいのか本当にわからなかった。
霊夢は神に縋っているとでも言いたいのか。神に祈らない存在が。
「そんな人間が私に何か言いに来たのかしら?これは私の問題よ」
霊夢は余計なお世話ならさっさと帰れと言った。
悩みなら今から憂さ晴らしに行くのだ。オオスには関係ない。
だが、
「はぁ…」
オオスは霊夢を見てため息をついた。…霊夢はイラっときた。
「私は神に縋ることも信じることも生まれてから一度たりともしたことがない」
オオスは霊夢の目を見つつ、神へ祈らない自身の在り方を改めて宣言した。
…相変わらず神社でそういうことを言うとは、罰当たり極まりない存在だと霊夢は思った。
「…その通りだ。私は博麗神社の祀る神に関して言うつもりはないし、資格もない」
オオスは暗に霊夢の問題であると認めた。
オオスには関係ないし、資格もないとも認めていた。
「神社に祀られている神に信仰が足りないというのならば別の神を祀るのも良いだろう」
オオスはそう投げやりに言ってきた。オオスは霊夢の迷いを今更蒸し返してきた。
…今からそこへ乗り込みに行く霊夢にとって、オオスの言葉は余計なお世話だった。
「…だったら、何で来たのよ」
霊夢はオオスへ問うた。…邪魔しに来たのかと霊夢はオオスを責めていた。
「だが、私は人の意思を尊重している」
オオスはそう霊夢に言い聞かせるように宣った。
霊夢にはオオスが何を言いたいのかわからなかった。
しかし、
「…つまりは、どうあろうとも霊夢、私は貴様の味方なのだ」
オオスは人間の、霊夢にそう言い切った。…オオスは霊夢を見ていた。
オオスは霊夢の反応やそこに含まれる感情等を無視して言葉を続ける。
オオスは博麗神社等どうでも良く、霊夢にのみ言いたいことがあると宣言していた。
「人間とは時に悩み、足掻き、そして、後退することもあるだろう」
オオスは言葉を辞めない。霊夢に言う。悩みがあろうともそれは人として普通なのだと。
オオスは人間としての『霊夢』のみを見て、言っていた。
「だが、諦めない限り人というのは終わりではない」
オオスは霊夢に言い切った。…霊夢は気が付いた。
オオスは人間とは諦めない限り終わりではないという自分自身の信念を述べていた。
そして、神を仕える博麗の巫女ではなく、霊夢の『意思』に問うていた。
「…」
霊夢はオオスの問に何も返せず、ただただ見つめ返していた。
「…少々、話が過ぎたな」
オオスはそう言って霊夢に踵を返した。
「私らしくもないことを言った。…失礼した」
オオスはそれだけ言うと、実体から風となり、空となり、完全に消えていった。
オオスは今度こそ帰って行った。…霊夢の感情等お構いなしに実に身勝手に。
「…毎回、言いたいことだけ言って帰るんじゃないわよ」
霊夢は消えたオオスへ言い返していた。
だが、霊夢は山の、早苗の神社に改めて自分の意思で文句を言いに行くことにした。
それは最初の八つ当たりのような感情ではなく、霊夢自身がそうしたいと思ったからだった。