嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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月夜

紅魔館製ロケットの完成間近だと聞いたその日。

秋の満月にオオスは一人で月見をしていた。ぼんやりと何も考えずに月夜をみていた。

 

オオスはふと思ったことをそのまま口に出していた。誰もいない、聞かせる意図もなく言う。

 

「死んだ土地から記憶と欲望とを混ぜ合わせ、精のない草木の根元を春の雨で掻き起こす」

オオスは生命の循環を謳う。それはオオスから見た生命の理だった。

 

「冬は自らの体温を保ち、忘却の雪で大地を被い、小さい生命を干乾びた根を養っていた」

オオスは冬で耐えた生命が春に命を芽生える感動を謳っていた。

 

オオスは月を見上げた。その目は欠けることのない満月を見ていた。

 

「ああ、月よ。その欠けることのない在り方に。…この風情はわかるまい」

オオスは風情を失くした、この感動を失った月の民を憐れむ。

…この憐みは彼らには決して理解されないだろう。それを断言できるのが男は悲しかった。

 

そこへ誰かが現れた。オオスにはそれが誰かがわかった。

 

「…三日月は剣、半月は弓、満月は鏡と呼ばれています」

八雲紫はオオスが月を見て嘆く姿を見て、月の変化を言う。

 

紫は扇で月を指し示す。…オオスへ何かを伝えるように。

 

「太陽の光を反射させる鏡。欠けることのない光が陰を生み出し怪異に力を与えてくれる」

紫は月夜が与える変化を謳う。

風情がわからなくても月が与える物があるとオオスへ伝えた。

 

「陰が人の恐怖を産み、妖怪を生むこともある。月は妖怪の生みの親とも言えますわ」

紫は妖怪として、人間の彼の内心がわからない。

だからこそ、自らの、妖怪の生命の在り方を述べた。…人の生命の在り方を謳う彼へ返していた。

 

オオスは紫の返しに答えることにした。…返さないのは風情がない。

 

「ここは洞窟です。汗ばむ顔と松明に赤く映える顔。石多き所に死ぬばかり苦しむばかり」

オオスは地上の苦しみを謳う。暗く、深い恐怖は妖怪と人の関係性を表していた。

 

「ある人は嘆きと悲しみを叫ぶでしょう。月の民が牢獄と例えるのも一理ある」

オオスは残酷な真実を言う。嘆き、悲しみは地上にありふれている。

 

…それを忌避する永遠を求めるような月の在り方を一部認めていた。

 

「しかし、生命ありしものも今は亡く、生命ありしわれらは死にゆく」

オオスはどんなに嘆こうとも地上の生命は死にゆく運命にあると言う。

その姿には一片の曇りもなく、妖怪の、紫の目だけを見ていた。

 

「…その一筋の忍耐こそが生命の美しさだと私は思います」

オオスはそう締めくくって紫に対して優雅な礼をもって返した。

 

全てが死にゆく定めだとしても、その耐える足掻きが醜くとも。

それら全てを彼は愛していた。そこに人間、妖怪の違いはないとオオスは紫に返していた。

 

紫は扇で口元を隠していた。…オオスにはそこに含まれる感情はわからなかった。

 

「…やはり、貴方を誘えなくて残念ですわ」

紫は心の底から残念に思う。男の、その在り方を紫は儚く美しく感じていた。

式神の藍にはこういう返しができない。藍は計算した結果をそのままを口にするだろう。

 

人の感情は複雑だ。…そして、妖怪の感情も。

 

「私は…やはり参加しなくて良かったと思います」

オオスは紫の誘いに魅力を感じ、一瞬言葉を詰まりながらも言い切った。

 

「そう…無粋なことを申し上げましたわ」

紫はそう言って月を見上げた。

彼に迷いを与えたことを嬉しく思う無粋な我が身を月の光が隠してくれると期待していた。

 

だが、

「光と陰は表裏一体。無粋なことはありません。

 …私の意思を尊重してくれる貴方はとても優しく、美しい」

男は紫が自分の意思を尊重してくれる様に感謝した。その優しく美しい在り方を賛美する。

 

「ふふふ。…月の光よりも暗いことに感謝する日が来るなんて」

紫はそう言いつつも、暗いことが妖怪にとっての生みの時期と先ほど述べていた。

だからこれは嘘である。…彼の言葉に返せぬ自分を覆い隠す陰に感謝していた。

 

「ええ、暗いことも時には大切です」

オオスは何か紫が嘘をついたと察したが、それも良いと返した。

 

「…私は衰退も極楽も嫌ですわ」

紫は彼の生命の在り方を聞いて改めて思ったことを伝えることにした。

 

「私には都会の喧噪が必要なのです」

紫はいつも愉快な妖怪達と人間達の喧騒が絶えない幻想郷を愛していた。

 

「ええ、私もです」

オオスも紫の言葉に同意した。実に幻想郷は素晴らしい。

だからこそ、自らの意思で動くのだ。…誰にも気が付かれることなく。

 

オオスは紫に言えないことを申し訳なく思った。

 

「…これ以上はまた今度に」

紫はそう言って隙間に入り、消えて行った。

本当はもっといたかったが、紫はこれ以上いるとどうにかなりそうだった。

 

「…また今度か」

オオスは紫を見送りつつもまたねと言える相手がいることが嬉しかった。

 

彼はその日、月をずっと一人で見ていた。風情ある月のみをただただ見つめていた。

 

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