―――
DODODODO!!!!
猛烈なスピードで帰路を走る。下手な『個性』持ちより速いかもしれねぇ。
ガキの頃から爺さんたちと鍛えてたおかげだ。
なんでそんなに急いでるかって?そりゃあ、「エルドラ」の開発を急いでるからだ。
「エルドラ」―正式な名称は五体合体エルドラVにした。
爺さんたちと、俺はあったことないけど、爺さんとともに戦ったっていう女のひとの『個性』を再現するべく俺が鋭意開発中のサポートアイテム兼、合体式パワードスーツだ。
爺さんたちの『個性』のデータだけじゃなくて、爺さんたちがヴィランからくすねてきたらしいロボットのデータがあったから、何とか開発に手を付けられている。
爺さんたちは結構稼いでいたらしく、一人で生きていくには十分なお金が銀行口座にはある。
けど、サポートアイテムの開発となると話が違う。材料に道具、いろんなものにお金をかけないと、ヒーロー活動に十分使用できる、俺にとっては生命線となるようなものが作れるはずがない。
爺さんたちがアイテムを自作するような古くて多芸なヒーローじゃなかったら、もっと困ってただろうな……。
現状の開発進度は10%ちょいって感じだ。それも中学一年の頃から始めているのにも関わらず、である。圧倒的に時間が足りないのである。
『個性』を疑似再現するのだから、素人の俺がこれだけ勧められたのが奇跡といってもいい状態ですらある。
一応、パーツとして完成してるのが腕となる 「重爆撃機 パワーハンダ―」だ。
再現している個性は『熱拳』。爆発的な熱量とエネルギーでぶん殴る、という非常にシンプルかつ攻撃的な性質のものだ。
あとせめて足のパーツが完成すれば、なんとか受験の実技試験に間に合うって感じだな……。よっし、さっさと帰るぞ!
と、思ったその瞬間、爆音と破壊音が響いたんだ、昼下がりの町で。
―――BOOooooooMMM!
私は、うれしい反面、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
私のようなとっつきにくい人間にも元気に話しかけてくださるような鐵さんに、きっと先生は酷な話をするのだと思っていましたから。
彼はすごい人だと、思います。
『無個性』であることに心折れないばかりか、体を鍛えて勉学に励んでいる姿は、クラスメイトとして好感を抱かざるを得ません。
それよりも、彼はヒーローとしての素養を感じさせる、とても優しい心をお持ちです。
彼曰く「勇者の掟」、らしいのですが、弱きを助け強きをくじく、人々に無償の愛情と思いやりを持っている。
そんな、私が同年代で初めて尊敬した人にとって、ヒーローの道があまりにも険しい、ということがとても不憫に思えたのです。
そんな鬱屈とした気持ちで、自立するためにと、お父様の送迎のご提案をお断りしての徒歩での帰り道に、私は初めて遭遇してしまったのです。
暴力を振りかざす、本物の、悪意に。
「どうして……。どうして誰も俺を認めてくれない!『個性』が気持ち悪いからって馬鹿にして!ふざけるな!」
巨大な植物のような肉体のヴィランが、町の真ん中で大暴れしていました。
私は足がすくんで、恐ろしくて、ただ震えることしかできませんでした。
そのヴィランのそばには血を流したヒーローもたくさん倒れていたのです。
「お前……。堀須磨の生徒だろ…?勝ち組にはわからないだろう!俺のような人間の!怒りが!悲しみが!」
憎しみにまみれた目が私をにらみつけた時、初めて私は逃げ出そうと足を動かし始めました。
けど、遅かった。ヴィランのツタのような腕に体を締め付けられたとき、私は本当にもう、おしまいだと思ってしまいました。
あの、
「フリー・フォールッ!グラッチェ!!」
―――
戦闘音が響き渡っている。
ヴィランが暴れてる、それも昼間に長時間。これは異常だ。
このヒーロー飽和社会、ヒーローはごろごろいる。ヴィランが暴れだしたとして、十分もすりゃ現場にはヒーローが必ず一人はいるだろう。
音源に向かってる間にも、音は絶えず鳴り響いている。
ということは、「ヒーローを倒せるぐらい強いヴィラン」が暴れてるってことだ。
何ができるかはわからない。けど、無視するのは勇者のやることじゃない。せめて、避難の手伝いぐらいはしたいと駆け付けるべく走る。
すぐに、ヴィランのもとにたどり着いた。
かなりの巨体だ。4、5メートルはあるんじゃないか。ヴィランの手前には、同じ中学の女子制服をきたポニーテールの女の子がへたり込んで……。
あれ八百万さんじゃねぇか!
あの巨体、まともにやりあえるわけがねぇ。
お守り代わりに「パワーハンダ―」をもち歩いてたけど、それ使ってぶん殴っても効き目は薄いだろう。
一瞬、一瞬だけ時間が稼げりゃいい!それで彼女が逃げられればそれでいい!
そう思って頭に血が上ってきたら、俺はパワーハンダ―を装着し、ビルの外壁を、装備のパワーとパルクールの要領でよじ登り、ヴィランを眼下に見下ろせる屋上にたどり着いた。
見下ろした瞬間、八百万さんに魔の手が迫っていることに気が付いた俺は、いつの間にか飛び降りていたんだ。
―――
強烈な打撃音が辺りに響きました。
そこには、鐵さんが、鮮明な黄色の籠手をつけてヴィランを上から殴りつけている光景がありました。
「ヒーロー志望のガキか!パワーがないッ!」
しかし、巨大なヴィランはほとんどダメージがない様子で、その巨体をしならせて彼を私の方に弾き飛ばしました。
彼は地面に打ち付けれたのに、すぐにふらつきながらも立ち上がって、私の方に笑いかけて、こう言ってくれました。
「助けに来たぜ!八百万さん!!」
彼の闘志に満ちた瞳が、私を見つめて、私の心の闇を打ち払ってくれました。
あの時の彼は、誰よりも、ヒーローだったのです。
―――
八百万さんの顔には、恐怖、絶望、そんな感情でいっぱいだった。
俺は、自分の力のなさを情けなく思えた。
友達の、こんな顔は見たくなかった。みんなの笑顔を守るのが勇者だというのに!
だんだんと心の中に怒りが燃え上っていた。けど最優先すべきは彼女の安全だ。
「八百万さん!逃げて!ヒーローをたくさん呼んできてくれ!俺が時間を稼ぐから!」
これが恐らく最善だ。彼女の『個性』では、奴を抑えきれない。
圧倒的なパワーの前には、彼女の『個性』では時間がなさすぎる。
「ですが、あなたには『個性』が!」
「それでも俺は君を守る!」
これは意地でもあった。彼女には未来があるから。俺にはなくて、彼女にはあるもの。それを守りたかった。
ここで俺が命を懸けて守れるのなら、そうしようという、そういう覚悟があったんだ。
「へェ……。お前、『無個性』なんだろ!ヒーローまがいのガキ!ならわかるだろ!俺の気持ちが!
『個性』でなにもかもが決まる!誰もわかってくれない!俺を見てくれない!
堀須磨の奴なんてエリートばかりだ!苦労したんだろ!
『個性』がないだけで蔑まれたりしたんだろ!
なのにどうして!お前はその女を守ろうとする!どうして!!」
悪のなかにも可哀想な奴がいる、って爺さんたちも言っていた。
目の前の彼もそうなんだろう。異形型の個性は、今でもいじめなどの問題が多い。気持ちは、理解できた。
気持ちだけは、理解できた。
「気持ちは、わかるよ。けど、俺は認められたいから戦うんじゃない。
誰かの
俺は高ぶる心に身を任せてヴィランの眼前に飛び出す。
巨木のような腕と正面から組み合う。ものすごいパワーで、当然押されていく。
「そんな力で、守れるものかよッ!」
グイグイ押してくる力が最大限に高ぶった瞬間、アレを叩き込むしかないッ!!
「死ねェ!ヒーローまがいのクソガキ!!」
今だッ!押しつぶそうと力がかけられた瞬間、俺は手を放し、思いっきり間合いの中にもぐりこんだ。
「オオオォォォッ!!!エルドラ・フィスト!!アルティメット!!!」
鋼鉄の拳にナックルガードが瞬時に展開される。本当は、熱から身を守るためにアーマーが必要な必殺技を、俺は最大出力で叩き込む。
熱で白く燃え上がる『熱拳』を用いたテレフォンパンチ。
爺さんたちから教わり、受け継いだ勇者の一撃!正義と勇気と闘志が生み出す爆発的なエネルギー!
「ば、馬鹿なッ!『無個性』じゃなかったのかッ!グワアァァァァァ!!!」
「アディオース……アッミーゴォ!!!」
カチあげる勢いのまま、拳を天に突き出す。多分、ヴィランは倒した。
あぁ、けど腕が滅茶苦茶痛い。あれ、なんか遠くで声が聞こえる。
八百万さん、無事だといいな……。
俺は、そこで意識を手放した。
いきなりの初戦です。
ここで初戦を経験するぐらいじゃないと、USJで普通に戦えるわけないでしょ、高校一年生なんですから。
いかがだったでしょうか。
今後もよろしくお願いします