茜無自覚の楽→茜がメインのお話です。
「俺、秋津茜の事が好きだ」
私の好きな声が耳を撫ぜた。
どこか夢見心地なのは私がこの現実をきっと受け入れられていないからで。このありえないはずの現実は、私一人の夢の中でなきゃ味わえないもののはずだったからで。
「ぇ……ぁ……その……」
何かを言わなきゃ。何を、なんて、私は……
「…………」
私を見つめるその目は真剣で。いつも仮面に遮られてどこか表情の読み取りにくかったサンラクさんの普段触れない素の表情に触れて、私の中でナニカがどんどん熱くなっていく。
抗わなきゃダメなのに。
この熱に身を任せるがどうしても心地よくて。
色々考えなきゃいけないことはあるはずなのに。
その言葉を聞けたのが本当にうれしかったから。
……嬉しかったから。
……本当に、嬉しかったんだ。
◇
『別に好きでもない男と仲良くする必要なんてなくない?』
……なんていう言葉は、今日とあるクラスメイトの口から出たものだった。
「……??」
うーん、どういう事ですかね?
それがシンプルな感想だった。
いまだに恋愛らしい恋愛をした事がない私にとってはその『好き』っていう感情があまり想像できなくて、何となく、『仲良く』している男女について少し考えてみた。
付き合っていると噂のクラスメイト。
お父さんとお母さん。
そして、とある男女が私の頭の中に浮かんだ。
サンラクさんとサイガ-0さんだ。
もちろんサンラクさんはペンシルゴンさんたちとも仲がいい。でも多分それは今日友達聞いた「好き」とは違う気がする。サンラクさんに直接そんなことを聞こうもんならきっと今までに見たこともないような顔をされるだろう。
さらに言えば私だってサンラクさんやオイカッツォさんとも仲がいいけど、無論そう言った感情からの打算によるものではない。当然だ。遊んでいて楽しいから仲良くさせてもらっている。
やっぱり、クラスメイトの彼女の言った事は全部が全部合ってるとは思えなかった。それでも、あの二人は、きっと『好き』で二人一緒にいるんだろうななんて思えてしまう。
もちろん、根拠なんてない。
でも、二人に『恋』という概念を見出すのがどこか楽しくて。
二人の間に『恋』を見いだせた私はどこか今までの私よりも成長できた気がして。
そして私は、二人の恋を応援しようと決めたのだ。
私は、どこかで漠然と『恋』に憧れていたのかもしれない。
色とりどりな恋に溢れた世界は、私には煌めいて見えた。
◇
今日も今日とてシャンフロにログイン。今日は何をしようかな、なんて一切ノープランでログインした私はとりあえずラビッツの街を歩いてみることにした。
見慣れたラビッツの町並み。たくさんのヴォーパルバニーの闊歩するこの街で、私は
「…………!!」
私は自分でもびっくりするほどの瞬発力で建物の影に隠れて、その二人組の様子に目を凝らした。
ラビッツにいる時は基本的に鍛冶場に籠もっているイムロンさんを除けば、この街を歩く事ができるプレイヤーは3人だけだ。
『……ぁ……の武器が……陸の反……らし………たいん………』
『わ、わた………けれ………一緒……て………きたく……』
うーん、やっぱりこの距離じゃ会話まではちゃんとは聞こえないなぁ……。
名前の知らないヴォーパルバニーさんたちに不審な目をされながらも私が覗いていたのは、サンラクさんとサイガ-0さんだった。
あの日以来、私はサンラクさんとサイガ-0さんを目で追うようになった。
サイガ-0さんの気持ちに気づいてから、二人がこうして一緒にシャンフロをプレイところを見ると、微笑ましいような、むず痒いような気持ちになってしまってどうにもたまらない。その感覚がどこか気持ちよくて、私は二人にもっと距離感を縮めてほしいなって思ったんだ。
そこで、私はとある作戦を考えついた。聞いた話によると、サンラクさんは新大陸の西側にユニーククエストを進めるためのパーティを探しているらしかった。サードレマで“何か”の準備をしているペンシルゴンさんやリアルが忙しいらしいオイカッツォさん、そもそもどこにいるかわからないルストさんやモルドさん、京極さんが頼れなければ、私さえサンラクさんと会わなければ、自然と頼られるのはサイガ-0さんになるはずだ。
そして、サイガ-0さんは晴れてサンラクさんとの
さっきの会話も微妙に聞き取れなかったものの、『武器』や『新大陸』といった単語がサンラクさんの口から聞こえて来た気がする。もしかしたら、サンラクさんはサイガ-0さんをパーティーに誘ったのかもしれない……!!
「狐の御人……何をしているのです?」
「うさぎさん、しーっ、です」
「しょ、承知ですわ……」
何やら話しかけてきたヴォーパルバニーさんと共に身を潜めながら、二人の会話の内容を確認するためにちょっとずつ二人との距離を詰める。
『おっけ。じゃあレイさんは確定で。あと声かけられそうなのは秋津茜くらいか……』
『他の方は?』
『予定つかなかったりそもそも連絡つかなかったり』
よし。ある程度聞き取れるくらい近くまで来れましたかな……??
聞こえてきた会話の内容からして、サンラクさんはどうやらサイガ-0さんを誘えたらしい。なら、あとはサンラクさんが私とも連絡がつかなければいいだけ!
「うさぎさんっ!逃げましょう!」
「……!?」
「静かに、ですよっ!」
「が、がってん!」
サンラクさんが上手くやってることを確認した私はウキウキとした足取りで踵を返す。
……だがしかし
「あれ、秋津茜じゃん」
「ひょえっ!?!?」
肩をビクリと跳ねさせておそるおそる振り返ると、サンラクさんの視線は確実に私を捉えていて。
「では私はこれで……」
「あ、うん。ありがとうレイさん」
この後に用事でもあるのかログアウトしてしまったサイガ-0さんを見送ってサンラクさんがこちらに駆けよってきた。
「ちょうどよかった、秋津茜。お前にメッセ飛ばそうかと思っててさ」
「へ、へぇ~。そうなんですか」
「週末、ユニーク手伝ってくれないか?パーティーメンバー探しててさ」
落ち着け私……!!まだここで断れば大丈夫だから!!
「すみません、週末は部活なので……」
「そっか。じゃあしゃーねーな」
「えへへ、すみません……」
よし、とりあえずこれで……
「ちなみに、他に秋津茜が空いてる日ってあるのか?」
「ぇ?」
えっと、私が暇な日?基本的に部活がなけりゃ大丈夫だけど……
「平日の夜とかですかね……?」
「じゃあ、明日の夜とか暇?」
「暇ですけど……??」
「じゃあ、一緒に狩りに行こうぜ」
「いいですよ!ちなみに、他の方は誰をお誘いします?」
「いやその……二人。エムルたちも置いてって、二人きりで」
……??
「えと、そういう縛りのユニークですか?」
「いや、特にそういうわけじゃないが」
ーーーそれじゃあまるでデートみたいじゃないですか。
なんて笑って流してしまいたいけど、それをするべきは私じゃなくてサイガ-0さんだ。んもう。こういう二人きりのお誘いなら私じゃなくてサイガ-0さんを誘えばいいのに……
「なぁ、デートみたい……とか、気にしてるか?」
「っ………ッへっ!?」
私が言おうとしなかった単語がサンラクさんの口から出てきて、変な声が出た。いやちょっと待ってくださいよサンラクさん、そういうのは私じゃなくて……
「お前が気にするなら遠慮するが、正直に言うと、俺はそういう側面も込みで声をかけたから」
ちょ、ちょっと待ってください?それはどういうことですか?私相手に、デートを誘ったってことはそれはつまり……
「秋津茜、ちょっと大事な話、いいか?」
変化は急だった。
一人で混乱している私を置いて、サンラクさんが
「ふぇ?」
そう。今までに見たことのないような真剣な顔。今までサンラクさんが他人に見せることをしなかった、この
「流石にこんな話を顔隠しながらは失礼だからな」
待ってくださいよ、こんな話ってどんな話ですか?今からいったい何を言うつもりなんですか?
混乱した頭じゃサンラクさんが何を言おうとしているかなんて皆目見当もつかない。でも、頭のどこか軽忽な部分が、何となくその雰囲気を感じ取ってしまって。
「なぁ、秋津茜」
や、ちょっと待ってくださいよサンラクさん。私まだ、
「俺、秋津茜のこと好きだから」
聞いてしまった。
聞いちゃいけないはずの言葉を。
その認識しちゃいけなかった『好き』の二文字を。
「な、なんで……」
「俺の周りって変なゲームばっかやって達観しちまったやつが多くてさ、秋津茜みたいに本気で楽しんでゲームしてる奴っていなくてさ。秋津茜、すげぇ楽しそうにゲームしてるだろ?それがなんかさ、俺には、眩しく見えた」
何でなんて聞いてしまったけど、別に何でかなんてどうでもよくて。ただ、私はこの言葉を素直に受け取っていいのかの
……
そこまで整理して、ふと、気づいた。気づいてしまった。
サンラクさんが私に心の準備をする時間をくれたとしていたらなんだというのだ。もし、私が
とくん。と、胸の奥で何かが聞こえた気がした。
まって。
だめ。
おちついて。
おちついて。
れいせいになって……
冷静になって、一つ、思い当たってしまった。
ーーー私は、この展開を望んでしまっていた?
「わ、私じゃなくたって、サイガ-0さんとか……」
「レイさん?いや、あの人はむしろゲームの辛みまで知り切っちゃってる廃人タイプだし……レイさんだって、相談したときはちゃんと応援してくれたんだよ。ありがたいことに」
サイガ-0さんが応援してくれた?それは本心から?
私にはわかる。サンラクさんと一緒に居たサイガ-0さんを見てきたからわかる。サイガ-0さんは本気でサンラクさんが好きで一緒に居たはずだ。
……じゃあ、私は?
私は、どうだったのだろうか。私はそうじゃなかったと思っていたけど。もしかしたら…………いや、違うって。ダメだよそんなの………
「秋津茜、もう一回言わせてくれ」
いつまで考えてもきっと結論なんて出ないのに、それでも、もっと考えさせてなんて心の中ではテンパってて。きっと、私は今のままもう一度
「俺、秋津茜のことが好きだから」
だめだった。
もっと
「ぇ……ぁ……その……」
考えれば考えるほどその言葉が心に突き刺さってはなれない。胸の奥を掴んでしまって放してくれない。
「……はいっ!!!」
私は、その気持ちを拒むことができなかった。
胸の内は、幸せであふれてしまっていた。
『秋津茜メインで何か書こう!』からこれが出てくるの、なに?
とある理由から今日の間に投稿したかったので、多分そのうち誤字とか出てくる。適宜修正します。