斎賀玲を引き付ける太陽属性の少年とは別に、頑張って照らしてくれようとする光属性の少女にソレを見出してしまった時、そんな冒険があってもいいのかなって。(百合厨の戯言)
紅音瑠美同級生時空です。
恋って、なんだろう。
かれこれずっと楽郎くんを追いかけてきて、今更こんな疑問にぶつかるなんて思わなかった。
今まで私が楽郎くんに向けていたそれを、私は「好き」って感情だと思ってた。もちろん、今でもそう思ってる。
「……」
今私が見つめる先にいるのは、数か月前に
私はその気持ちを知っている。
私はその気持ちに共感できる。
だから、私は彼女のその気持ちに名前を付けてあげることができる。
あの日、私が岩巻さんにしてもらえたように。
「……あかね、ちゃん」
じゃあ、私のこの気持ちは、なんだろう。
私は、この気持ちを知らない。
私にとっての恋っていうのは楽郎くんに対してい抱いたその感情で。
今隠岐さんに対してい抱いているこの感情じゃなくて。
……じゃあ、この感情が「恋」じゃないというのなら。
あまりにも恋と似て、でも決定的に違うこの感情。
私のこの気持ちは、一体……???
◇
とある日の朝、いつも通り私が楽郎くんと
「……ぴぇ?」
咄嗟に隠れた私は何となくその二人の様子に目を凝らした。
一人は私もお会いしたことのある楽郎くんの妹さんで、瑠美ちゃん。そしてもう一人は、
そのぴょこぴょこと小さく飛び跳ねるような小柄な体に、その万物を明るく照らすかのような明るい笑顔にはとても強い既視感があって。
「秋津…茜さん?」
その時、そよ風に揺れた彼女のアホ毛がまるで何かを感じ取ったかのようにビビッとゆれ、勢いよく振り返った彼女と私の視線がぶつかった。
これが私と
それ以来、私と彼女は
二人で一緒にゲームをした。
楽郎くんとの話題作りのために挑んだ
二人で一緒にショッピングをした。
趣味で
二人で一緒に勉強をした。
万に一つも楽郎くんと同じ高校に落ちないようにと必死にこなした受験勉強は、彼女に勉強を教えるのに意外にも役に立った。
そうして、今日も今日とて何をしようかと連絡をとってみれば、走っている姿を見てほしいと言われ、今日私は彼女の中学のすぐそばまで来ていた。
学校をぐるりと覆う網の外からなんとなく中を見てみる。すると部活動の最中なのか、数人の女子生徒とともに何度もトラックを走る隠岐さんの姿。
「……かっこいい」
素直にそう思う。
私は、何かに真剣に打ち込んでいる人が好きだ。その必死になりながらも、苦し気というよりは楽しげなその表情が好きだ。
走るときの彼女に見せる表情はまさに私の好きなそれで、走り終えた彼女のぱっと華やいだ表情に私は思わず拍手をしてしまった。
そうして、日が暮れるまで、ひたすらに彼女の走る姿を見る。
ただ何度も同じコースを走るだけ。でもそれを眺めるのは全然飽きなくて。
彼女の走る姿や、走った後に何か真剣に友達と話している姿、そして、私が見ていることに気づいて大きく手を振る彼女の笑顔。どれも目を惹かれてしまう。
彼女の走る姿を眺めて、日は傾いていく。気が付けば陸上部の活動は終わっていて、今度は制服に身を包んだ隠岐さんが校門から出てきた。
「斎賀さん!」
「お疲れ様です、隠岐さん」
「ありがとうございました!」
隠岐さんの友人たちと別れを告げて、二人で歩き始める。
今日、隠岐さんは私の家でお泊りだ。私も友達を泊めるのは初めての事なので、ちょっと緊張している。
「ちゃんと見ててくれました?」
「見てましたよ。すごかったです!」
「やった!……えへへ」
「隠岐さんはすごいです。私、あんな速く走れませんもん」
「フォームを意識すればそこそこ速くなりますよ?今度教えてあげます!」
「楽しみにしてますね」
隠岐さんはあれだけいっぱい走った後なのに一切疲れを感じさせない。体力がきっと多いのだろうし、疲れがあってもそれを見せないのが上手いんだと思う。
「そうだ、今度斎賀さんが武道を習ってるところも見たいです!」
「え”ッ」
いや、ちょっとそれは、流石に他人に見せられないと言いますか。
「かっこいいんだろうなぁ……」
「その、とてもハシタナイトコロを見せてしまう事になってしまいますが……」
「いいです。見せてください。全部」
私が一人恥ずかしさに悶えてると、すん、と隠岐さんの雰囲気が変わった。
「斎賀さんと仲良くなってから、二人でいろんなことをして、斎賀さんのいろんな一面を見ました。……でも、足りないんです。もっと知りたい。もっと見たい。もっと見て欲しい!」
「隠岐さん……」
「私、最近変なんです。斎賀さんと遊んだ後はいつも不思議なくらいに楽しくなっちゃって、ずっと斎賀さんのことを考えちゃうんです。眠れなくなるくらいに」
言われて、ドキッとした。その感覚には私にも覚えがあったから。
でも、それは……
「もっと仲良くなって、もっといろんな斎賀さんを見てたら、きっともっと楽しいんだろうなぁって。気が付けば、街を歩くだけで『斎賀さんとすれ違わないかな』ってキョロキョロするようになっちゃって。おかしいですよね?」
「……おかしくなんて、ないですよ」
その感情は、おかしい感情じゃない。私も知っている感情。でも、それが私に向けられていることに、とても困惑する。
だって私にとってその感情は。
……岩巻さんに恋と名付けられた、その感情なのだから。
何となく立ち止まってしまった私を、隠岐さんが数歩先から振り返る。でも、私は彼女に向かう一歩を踏み出せない。
「……斎賀さん?」
私は、知ってしまっているのだ。その気持ちがどれだけしんどいものか。
そして、その気持ちと向き合おうとしている隠岐さんが、どれだけ大変なことをしようとしているのかを。
「隠岐さん、それは、」
恋だよ、なんて岩巻さんみたいに一言で告げてあげるだけなら簡単だ。でも、私にはそれをしてあげる勇気が出ない。
彼女が私に恋してるだなんて自意識過剰みたいなシチュエーションが訪れるなんて思ってもみなかったから、私自身の気持ちの整理がつかない。
私が無責任にも彼女に恋という感情のラベリングを与えてしまえば、きっと彼女は私のように一生抜け出せない螺旋階段を走り始める羽目になる。
私にその恋を受け入れることはできないから。
私には
「?」
隠岐さんを見る。愛おしいとは思う。この少女を手放したくないとも思う。
……でも、それは
ふと、疑問に思った。
この感情が恋でないというのなら、私の隠岐さんに対するこの気持ちはどう名付けてあげればいいのだろうか。
楽郎くんの時もそうだった。『よくわからない酷い好奇心』が恋と名付けられて、私は晴れて恋を覚えた。
いつだってそうだ。自分のよくわからない気持ちなんてものはきっと自分自身じゃ解決できなくて。今は結局それで私も隠岐さんも苦しんでる。
「あかね、ちゃん」
「ッ!?」
私がそれを口にしてしまえば、きっと後戻りはできない。
……でも、きっとその先へと冒険するなら、紅音ちゃん以上に心強い仲間はきっといない。
紅音ちゃんの恋の様なそれと向き合うために。
私の恋じゃないようなそれと向き合うために。
私は、覚悟を決めて一歩を踏み出す。
「それは、ね」
――――恋って、言うんだよ。
他人を絆す理由付けとしての「光属性ぱわー」の絶対的安心感。
それはそれとして、自分の手の届く範囲を思い切り、されど優しく照らそうとする隠岐紅音はやっぱりやたらと強い太陽属性に対しての光属性として、すごく強固なんだなという新たな納得感。