とある世界のとある一幕   作:chee

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魚臣慧お誕生日めでたい!!!!

夏目ちゃんとカッツォ、惚れこむ前にはこんなにバチバチしてる時期があったらいいなぁ……という妄想の過去捏造文です。


意地でも貴方を認めたくない

その男の第一印象といえば、「なんかなよなよしてる」でしかなかった。

 

(夏目恵)(魚臣慧)の出会いは爆薬分隊(ニトロスクワッド)に入隊したその時だった。ことVR格ゲーにおいては同い年の相手には負けなしを誇っていた私。そんな私と同時にプロ入りした同期が、自分と同い年の、それも、風格も何もあったものじゃないような青年だった。

 

特に高すぎない伸長に、何故か男らしさのような厳つさも一切感じさせない金髪パーマ。この貫禄のなさはどのようにここまで演出しているのだろうかと疑問だった。

 

正直、彼の事をナメていた。だから、衝撃だった。

 

始めて彼と顔を合わせたその日、「親睦を深めよう」との理由で行ったGH:B(VR格ゲー)10先(ジュッサキ)。お互いまだ10代。相手もプロ入りしている以上最低限の実力はあるだろうとは踏んでいたが、まさか負けるなんて到底思っていなくて。

 

「……ふぇ?」

 

「これからよろしくね、夏目さん」

 

「……っ!!よろしくじゃないわよ!もう一戦!!」

 

その後も結局ボコボコにされて。

 

私のプロゲーマー生活のスタートは、同い年の同期に自信とプライドをへし折られるところから始まった。

 

「ッ~~~~!!!!! ありえないんですけどっ!!!!!」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いて……」

 

「これがどうやったら落ち着いていられるっていうのよ!!!」

 

 

きっとここで私は初めて『誰かに執着する』ということを知った。

 

このスカした優しい顔をした魚臣慧とかいう(バケモノ)を、私は認めるわけにはいかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

システムメッセージに従って私はヘッドギアを外してチェアの上で脱力した。

 

ここは電脳大隊(バーチャル・バタリオン)有するトレーニング施設の一室。爆薬分隊(ニトロスクワッド)に限らず多くの電脳大隊(バーチャル・バタリオン)所属のチームが日夜ここでトレーニングに励んでいる。私も日課のコンボ練を今しがたまでしていたところだった。

 

―――そろそろ帰ろうかしら。

 

私もプロゲーマーの端くれ。家にも当然練習環境自体はあるが、やはり練習するならより良い環境でやりたいものだ。いつもなら終電ギリギリまでこの部屋に籠っているところだが、明日は試合だ。今私がするべきは体調を万全に整えることである。

 

そうと決まれば、私は荷物をまとめて帰り支度を始める。そもそも持ち込んだものが少ないのでそれはすぐに終わり、私は部屋を出た。

 

「……?」

 

部屋を出て、すぐに気づいた。隣の部屋の扉が少し開いていて、中から小さく光が漏れていた。

 

私はつい、その扉を開いた。

 

「……ケイ?」

 

その薄暗い部屋の中では、ケイ(魚臣慧)がモニターとにらめっこをしていた。ケイは何やら同じ動画をずっと繰り返し見ては、唸り声をあげていた。ケイは私の声を認識すると一度モニターを閉じてこちらに向き直った。

 

「メグ、どうしたの」

 

「ケイこそ、何やってるのよ。ケイも明日試合でしょ。早く帰って休みなさいよ」

 

「あぁ、もう少し研究したくて」

 

「研究?」

 

聞き返した私に見せるようにケイは再びモニターを開いた。私はそれを覗き込む。

 

「この選手、明日の相手なんだけどさ」

 

「ふぅん……見たことない選手だけれど」

 

「うん。デビュー戦だってさ。アマ時代の動画も少ないから対策に困っててさ」

 

「ふん。貴方なら対策なんてしなくても勝つんでしょ?」

 

「それは違うよ、メグ」

 

このチームに入ってしばらくが経って、私たちもお互いを『メグ』『ケイ』と呼び合うようになった。私はこの男とそこまで仲良くしているつもりはないし、コイツにメグと呼ばれるのも面白くない。仲が悪く見えるとチームの雰囲気が悪くなると言われてしまえば、それも私の望むところではないので従うが、そもそも私が彼をケイと呼ぶのは当てつけの様な物なのだ。

 

「むっ。どういうことよ」

 

「研究もなしで勝ちを拾えるほどプロ格ゲーの世界は甘くないってことだよ」

 

「こ、このっ……!!」

 

研究なんてしなくても私には勝ち越せる癖に、とは言わない。だってまだ私負けてないし。今負けてる分連勝すればそれで私の勝ちだし。

 

「これ見て」

 

「?」

 

ケイに見せられた動画は一つの対戦動画。ちょっと昔のゲームだけど、私も知っている割とオーソドックスな格闘ゲームだった。私はその動画を見て眉をひそめた。

 

「感想は?」

 

「足、妙に速いわよね」

 

「そう。これ初見で捌ける?」

 

「……初見じゃ厳しいわね」

 

このゲームに限らず、キャラが攻撃を出すときには技ごとに決まった発生時間というものが当然発生する。これは2D格ゲーの頃からの常識であり、VRにその主戦場が映されてからもその仕組みは同様に持ち越されている。そこはプレイヤースキルでは絶対に干渉できない領域なのだ。

 

「本来のこの足払いは発生12F(フレーム)。だけど」

 

「直前のジャブね。足さばきに隠してる(・・・・)

 

「そう。手で技を出している間に既に足技が発生しているんだ。そのせいで見た目4~5F発生が速く見える」

 

VR格ゲーにおいて、左手でジャブ(小パン)を打とうとすれば縛られるのは上半身だけであって、下半身は縛られない。だから、その間に下半身で別の技をだそうとすることは()()()は可能なのだ。

 

だけど、こんな戦い方にも当然リスクはある。

 

「よくバランス保ってるわね。こんなの、すぐ倒れちゃいそうなものだけど」

 

「相当練習したんだろうね」

 

本来同時使用が想定されていない2つの技に全身のコントロールを奪われてしまえば、当然転んでしまう。だから、緻密なタイミング管理や技の知識(コンボ練習)が必要になる。

 

逆に、そのコンボを体得してしまえば、一気に戦術の幅が広がる。だまし討ちの手札が増え、駆け引きに()が出る。そうやって、VR格ゲーは多彩に進化してきたのだ。

 

「彼は多分、体内時計が強いんだよ。だから主観頼みのコンボ管理でほとんどミスがない」

 

「本当に、ここまでミスなく戦えるとなると、むしろ呆れるというか」

 

「いるんだよ、たまに。この手の天才型が」

 

「そうそういてたまるかって感じだけれど」

 

「少なくとも、僕は一人(サンラク)だけ知ってる」

 

「えぇ……」

 

考えたくもない。こんなコマンド外スキルに長けたゲーマーがホイホイいるなんて。

 

「この手の相手には、相応の研究がないと絶対に勝てない」

 

「ふーん、ケイでも?」

 

「当然」

 

ケイは動画を閉じた。そして何か(・・)を思い出すように仰ぐ。

 

「何も知らない状態から5Fで飛んでくる攻撃なんて人間には絶対に防げない。たとえキャラが1Fで攻撃できるような設定を持っていたとしても、人間の脳が体を1Fで動かす術を知らない。本当に1Fで攻撃やガードができるようなのがいるのなら、そいつは文字通り()()()()()()()

 

「だから、僕たち()()がフレーム単位の世界で戦うなら、知らなきゃいけないんだよ。相手がどういうゲーマーで、どういった戦いを繰り広げることができるのか」

 

天を仰ぐケイの表情が少し歪んだ。この手のゲーマーに酷い負け方をしたことでもあるのだろうか。

 

あのケイがそんな負け方をしているところが想像できなくて、少しイラっとした。

 

「で、その研究の結果、ケイは明日どうやって勝つつもりなの?」

 

「え?あぁ、この手のタイプはね……」

 

ケイの口元が釣り合がる。

 

その表情は既に勝ちを確信しているかのように私の目に映って。

 

私も既に、ケイは勝てるんだろうなって何故か信じさせられていて。

 

 

 

―――()()()()()のに、めっぽう弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ケイは宣言通り勝利を収めた。

 

相手の用意してきたコンボをすべて捌ききっての、完封勝利だった。

 

「気に入らないわね」

 

「なんで」

 

「なんでもよ!!」

 

その試合運びさえも完全にケイの予言した通りとなった。

 

相手が自信満々に用意してきたコンボを延々と繰り出し、ケイはそれを捌き続け、そして焦りと不審感で余裕のなくなった相手にカウンター一閃。曰く、「経験の浅い新人のメンタルは一度崩せばこっちのもの」らしい。私からすればそれまで耐え抜くケイの集中力が信じられないものだけれど。

 

なんだかそのすべてが手のひらの上とでも言うような余裕がどうしても癪に触ってしまって。

 

「ケイ!今から戻って私と戦いなさい!」

 

「え!?なんで!?」

 

「だから、なんでもだって言ってるでしょ!!」

 

 

ケイは強い。

 

それは、出会ってから今までの間に嫌というほど思い知らされてしまった。

 

それでも私はその強さを認めたくない。

 

 

「……っ」

 

でも、ちょっとずつ理解(ワカ)らされ始めてる自分が心のどこかにいることも確かだから。

 

 

「ほら!はやく!」

 

「め、メグ!?」

 

 

そんな彼に、私に、そこはかとなくムカムカして仕方がなくて。

 

このムカムカを一刻も早く晴らすべく、私はケイの手を引いた




もしかしたら続き書くかも。

書くとしたら多分ナツメグちゃんの気づきのシーンとかかなぁ……


ちなみに恵鰹推しの私は去年の鰹誕に夏目ちゃんの出てくる二次が少なかったことを地味に根に持ってるので、どうか、どうか、この鰹誕に恵鰹の供給を…………

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