というわけで、二人の新たな一年が、二人の歩むこれからの未来が、輝かしいものであることを願って。
一昨日、夏蓮が誕生日を迎えた。
昨日、僕が誕生日を迎えた。
そして今日、少し大人になった僕たちはこれから始まる一年に思いを馳せ、いつもとは違う、薄れゆくお祝いムード余韻を楽しみながら、いつも通りにネフホロをプレイした。
そしてもう少しで今日が終わり、また一日日付が進む。
コンコンと。部屋の窓が音をたてる。
「どうしたの?」
窓を開ければ向かいの家の窓が空いていて、そこに顔を出していたのは、予想通りさっきまで仮想世界で顔を合わせていた僕の幼馴染。
「お菓子。お裾分け。ちょっと高いやつ」
「ありがと。じゃあ、夏蓮にはこれ、お返し」
家族で祝う誕生日、そのお菓子の余りを二人で分けて、二人の誕生日が終わってから纏めてもう一度祝う。数年前から続けている二人だけのささやかな誕生日パーティー。
「おめでとう、夏蓮」
「ありがと。葉も、おめでとう」
「ありがとう」
別の家だけど隣の部屋。そんな異様なようでもう慣れきった二人の空間。今までも何かがある度こうして二人の時間を過ごしてきた。
…カリッ。
二人の菓子を齧る音が響く。
そんな音に耳を預けながら、二人の誕生日のお祝いムードの、その翌日の余韻に浸る。
大した会話もまだしてないけれど、そんな空気がどこか居心地よくて。
「……ふふっ」
「…葉?」
「あぁ、いや、なんでも」
「そう?」
一度笑みが溢れれば、もう口角は下がってくれない。
この窓越しに首を傾げている少女との思い出に、未来に、思いを馳せるだけでこんなにも清々しい気持ちになれるのだから。
実は僕は、二人の誕生日の終わった今日が密かにお気に入りだったりする。
夏蓮の誕生日を全力で祝った一昨日。僕の誕生日を祝ってもらった昨日。そして、また一年間頑張ろうと二人で前を向く今日。
去年も同じように前向きな気持ちで始めた一年間。色々あったけど、どれも楽しいことばかりで、今年はどんな面白いことが待っているのだろうかと胸が踊る。
特に今年は、シャンフロに復帰して、
…そして何より、来る。ネフホロ2が。
僕と夏蓮の青春の詰まったネフィリムホロウの世界。これが新天地を迎えるのだ。何が起こるかはわからない。どんな戦いが待ってるかもわからない。そんな新しい世界を、
「…葉」
「なに?」
「ネフホロ2、成功すると思う?」
「そりゃするだろうね」
話題に上がるのはやっぱりネフホロだ。夏蓮は相変わらずいつでもネフホロの事が頭にある。まぁ、僕が言えたことじゃないけど。
「なんて言ったってシャンフロシステム搭載だからね。きっと1より売れるし、活気づく。ネフホロの世界にのめり込む人がもっとずっと増えるんだ」
「うん。そして、来る。まだ見ぬ強敵が」
「来るだろうね。でも、負けないんでしょう?」
「当然……!!」
夏蓮の瞳の奥で輝く闘志。
頭の中に思い浮かべてるのは新しい世界の新しいシステムを使った新世代の戦闘。その中で圧倒的な存在感を放つ真紅の翼。そのコックピットには
僕たちは飛べるんだ。どんな世界でも。二人なら。
「全員…返り討ちにしてあげる」
ガリっと奥歯で最後のクッキーを噛み砕いた音が響いてきた。
気が付けば少しずつ食べ進めていたお菓子の袋がもう空で、時計の針も想像よりずっと進んでいた。
…そう。進むんだ。時間も、世界も。
そしたら、僕たちの関係はどう進む?
今の僕たちは、ただの…というには少し仲が良すぎる気もするけど、ただの幼馴染で。ネフホロの世界では唯一にして絶対の頂点、
そんな関係でずっとやってきた。
この二人がまた一つ歳を重ねた今日という日は、僕たちがまた一歩進む日なんじゃないか?
去年も確か同じことを考えた気がする。でも、今の夏蓮との関係がどうしても心地よくて、
「……何難しい顔してるの?」
「……へ?」
不意に夏蓮に顔を覗き込まれる。そうだ。僕は、この少女のことが好……
「…そんな寂しそうな顔しなくても私はどこにも行かないから」
「……ふぇっ?」
寂しそうな顔してた?僕が?
「何考えてたか知らないけどさ、どうせ下らないこと考えてたんじゃないの?」
「そ…そんなことは」
「いや、くだらない。葉のことだもん。どうせ下らない」
「ちょっと酷くない!?」
「別に酷くない。事実。……だから、そんな不安そうな顔をする必要もない」
一体僕はどんな顔をしているんだ。
一旦夏蓮から目を逸らそうとして……するっと伸びてきた夏蓮の手に阻まれた。
隣の家の向かいの窓。手を伸ばそうとすれば届く距離。そんな遠いようで間近な距離の夏蓮に顔を正面からのぞき込まれる。
「私たちが一緒に居て、うまくいかなかったことなんてないでしょ?だから、大丈夫。私がいるから」
……あぁ、そうだ。
何を焦っていたんだろう。夏蓮はもうこんなにも近くにいるじゃないか。
僕の顔を捉える夏蓮の手に自分の手を添え、その温もりを噛みしめる。
「……夏蓮、少し手が大きくなった?」
「そう言う葉はもう全部が大きくなった。昔は私と大差ない大きさだったのに」
「…それいつの話?」
「むかし」
「むかしかぁ…」
「器の大きさはまだ私の方が大きいから」
「そうなの?」
「そう。だからもっと精進して」
夏蓮は本当に大きくなったよ。僕をずっと支えてくれてる。
だから、僕ももっと大きくならなきゃ。体の話じゃないよ?どんどん大きな存在になっていく夏蓮をしっかり支えてあげられるように。
「うん。もう平気」
「…ありがと。夏蓮」
「別に。葉がしっかりしてくれないと。私は葉がいないとダメだから。今までも、これからも」
「……夏蓮」
全く、夏蓮にはいつまでも敵わないだろうな。
だって、夏蓮がこうして居てくれるだけでさっきまでの焦りや不安が全部吹き飛んでしまった。
時が進んで、世界が進んで、そんな新しい環境に僕たちが放り出されても、きっと僕たちは何も進まずにこうやって二人変わらずにいるのだろう。
そうだと思う。そうであり続ける覚悟を決める。
二人が一つ歳をとって、また一つ未来が近づいてきて。
そんなこと僕たちには関係ないと、僕たちの関係性は時間ごときに変えられるものではないのだと、僕のこの夏蓮への気持ちは不変のものであるのだと、確信した。
僕のこの感情は、恋と呼ぶには遅すぎて、愛と呼ぶには深すぎた。
世界の時が進んで、楽玲がくっついたり結婚したりしても、ポテトちゃんや銀金ちゃんが鰹とくっついたりすることがあったとしても、そんな変化が彼らの周りを包んでいたとしても、きっとルスモルだけはルスモルでしかなくて、ルスモルのままなんだろうなと。そういう感情のままに書きなぐりました。
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